白い三日月が語るもの―頭部CTで見抜く急性硬膜下血腫
第101回医師国家試験 C問題 第33問
国試問題にチャレンジ
頭部単純CTを示す。 診断はどれか。

- a.脳出血
- b.脳梗塞
- c.くも膜下出血
- d.急性硬膜外血腫
- e.急性硬膜下血腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
頭部単純CTでは急性期の出血が高吸収域、脳梗塞が低吸収域として描出されるため、まず白か黒かで出血か梗塞かを分け、次に部位と形で出血の種類を鑑別します。脳実質内の塊状影は脳出血、脳槽や脳溝に沿う分布はくも膜下出血、頭蓋骨に接する凸レンズ形は急性硬膜外血腫、頭蓋骨内面に沿って広がる三日月形は急性硬膜下血腫です。形の違いは、硬膜が頭蓋縫合で骨に強く付着しているかどうかという解剖学的な理由によるもので、硬膜外血腫は縫合線を越えず、硬膜下血腫は越えて半球全体に広がります。急性硬膜下血腫は架橋静脈や脳挫傷部の血管の破綻で生じ、受傷直後からの意識障害と強い圧迫効果を伴いやすく、硬膜外血腫より予後不良です。経時的に吸収値が変化する慢性硬膜下血腫も含めて、形と濃度から病態を読み解く力は、頭部外傷の初期診療で欠かせない基本となります。
解答・解説
正解はeです
画像所見の整理
頭部単純CT(造影剤を使わないCT)の水平断像である。CTでは、慣例として画像の左側が患者の右側にあたる。 画像の左側、すなわち患者の右大脳半球の外側では、頭蓋骨の内側に沿って前頭部から側頭・頭頂部にかけて広い範囲に広がる高吸収域(白く写る領域)を認める。この高吸収域は頭蓋骨の内面に沿って薄く長く延び、脳表側の縁がくぼんだ三日月形(凹レンズ形)を呈している。病変は脳実質の外にあり、脳実質そのものの内部には出血を示す高吸収域はみられない。また、血腫の圧迫により右側の脳が内側へ押され、右側脳室の圧排と正中構造(大脳鎌・透明中隔)の患者左側への偏位(正中偏位、midline shift)がみられる。
診断へのプロセス
急性期の出血は、血液中のヘモグロビン(タンパク質)の濃度が高いため、単純CTで高吸収域として描出される。したがってまず、本画像の高吸収域は急性の出血と考えられ、低吸収域として写る脳梗塞は否定的である。 次に、出血の部位と形で鑑別する。 ・脳実質内の塊状の高吸収域 → 脳出血 ・脳溝・脳槽(くも膜下腔)に沿って広がる高吸収域 → くも膜下出血 ・頭蓋骨の内側に接した、脳側に凸の凸レンズ形の高吸収域 → 急性硬膜外血腫 ・頭蓋骨の内側に沿って広く広がる三日月形の高吸収域 → 急性硬膜下血腫 本画像は脳実質外で、大脳半球の表面に沿って広範囲に三日月形に広がっているので、急性硬膜下血腫と診断できる。硬膜下腔には頭蓋縫合のような付着部の制限がないため、血腫は縫合線を越えて半球全体に沿って広がりうる。これが縫合線を越えにくい硬膜外血腫との重要な違いである。
選択肢考察
- ×a. 脳出血
誤り。脳出血(脳内出血)は脳実質内の血管が破綻して起こる出血で、高血圧性のものは被殻、視床、皮質下、小脳、橋に好発する。CTでは脳実質内部に境界明瞭な塊状の高吸収域として描出される。本画像の高吸収域は脳実質の外側で頭蓋骨内面に沿っており、脳実質内に出血巣はみられない。
- ×b. 脳梗塞
誤り。脳梗塞は脳動脈の閉塞による虚血で脳組織が壊死する病態であり、CTでは閉塞血管の支配領域に一致した低吸収域(黒っぽく写る領域)として描出される。発症直後の超急性期にはCTで変化が乏しいことも多い。なお、閉塞血管が再開通すると梗塞巣内に出血(出血性梗塞)を生じ、低吸収域内に高吸収域が混じることがあるが、その場合も病変は脳実質内の血管支配領域に一致する。本画像の所見は脳実質外の高吸収域であり、脳梗塞には合致しない。
- ×c. くも膜下出血
誤り。くも膜下出血は、多くが脳動脈瘤の破裂によって生じ、くも膜下腔に血液が広がる。CTでは脳底部の脳槽(鞍上槽、迂回槽、シルビウス裂など)に高吸収域が広がり、鞍上槽を中心とした五角形(ペンタゴン)や星形の高吸収域が典型的である。出血は脳溝に入り込む形で分布する。本画像は脳表を覆うように三日月形に広がる塊状の血腫であり、脳底槽や脳溝に沿った分布ではない。
- ×d. 急性硬膜外血腫
誤り。急性硬膜外血腫は、頭部外傷による頭蓋骨骨折などで主に中硬膜動脈が損傷し、頭蓋骨と硬膜の間に血液がたまる病態である。硬膜は頭蓋縫合部で頭蓋骨に強く付着しているため、血腫は縫合線を越えにくく、限局して厚みを増し、CTでは脳側に凸の凸レンズ形(両凸レンズ形)の高吸収域となる。本画像の血腫は半球表面に沿って広く薄く広がる三日月形であり、凸レンズ形ではない。
- ○e. 急性硬膜下血腫
正解。急性硬膜下血腫は、頭部外傷により脳表の動静脈や、脳表と静脈洞をつなぐ架橋静脈が破綻し、硬膜とくも膜の間(硬膜下腔)に血液がたまる病態である。硬膜下腔には縫合線による制限がないため、血腫は大脳半球の表面に沿って広範囲に広がり、CTでは頭蓋骨内面に沿った三日月形(凹レンズ形)の高吸収域となる。本画像では患者右側の前頭部から側頭・頭頂部にかけて三日月形の高吸収域があり、側脳室の圧排と正中偏位を伴っており、急性硬膜下血腫に典型的な所見である。
頭蓋内出血のCT所見のまとめ
急性期の出血は単純CTで高吸収域となる。時間の経過とともにヘモグロビンが分解されて吸収値が低下し、亜急性期には脳と等吸収、慢性期には低吸収となる。
急性硬膜外血腫と急性硬膜下血腫の比較
急性硬膜外血腫 ・部位: 頭蓋骨と硬膜の間 ・主な出血源: 中硬膜動脈(側頭骨骨折に伴うことが多い)、静脈洞、板間静脈 ・CT: 凸レンズ形の高吸収域。縫合線を越えにくい。 ・臨床: 受傷直後に一時的に意識が回復する意識清明期(lucid interval)がみられることがある。脳実質損傷が軽いことが多く、速やかな開頭血腫除去術で予後は比較的良好である。 急性硬膜下血腫 ・部位: 硬膜とくも膜の間 ・主な出血源: 脳挫傷部の皮質動静脈、架橋静脈 ・CT: 三日月形の高吸収域。縫合線を越えて広がるが、大脳鎌・小脳テントは越えない。 ・臨床: 脳挫傷を伴うことが多く、受傷直後から意識障害を示すことが多い。強い脳の腫脹と正中偏位をきたしやすく、硬膜外血腫より予後不良である。高齢者や抗凝固薬内服者では軽微な外傷でも起こりうる。 ・治療: 厚い血腫や正中偏位が大きい場合、意識障害が進行する場合には、緊急の開頭血腫除去術を行う。
慢性硬膜下血腫との違い
慢性硬膜下血腫は高齢者やアルコール多飲者に多く、軽微な頭部外傷の数週~数か月後に頭痛、片麻痺、認知機能低下などで発症する。CTでは三日月形の低吸収~等吸収~混合吸収域となり、穿頭血腫洗浄術が行われる。
POINT
・急性期の頭蓋内出血は単純CTで高吸収域、脳梗塞は低吸収域として描出される。 ・三日月形(凹レンズ形)の脳実質外高吸収域 → 急性硬膜下血腫(架橋静脈・脳表血管の破綻、縫合線を越える)。 ・凸レンズ形 → 急性硬膜外血腫(中硬膜動脈、縫合線を越えない、意識清明期)。 ・脳槽の五角形・星形の高吸収域 → くも膜下出血。 ・CTは画像の左側が患者の右側である。
