膀胱は満タンか空っぽか―「尿閉」と「無尿」を分ける一本の線
第101回医師国家試験 B問題 第77問
国試問題にチャレンジ
尿閉の原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.ショック
- b.異型輸血
- c.脊髄損傷
- d.急性腎不全
- e.子宮脱
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿閉は「尿は作られているが膀胱から出せない」状態で、膀胱は充満しており、尿が作られない無尿・乏尿とは区別されます。尿閉の原因は、脊髄損傷などによる排尿筋の収縮障害(神経因性膀胱)と、前立腺肥大症や子宮脱・膀胱瘤などによる下部尿路の閉塞に大別されます。ショック、異型輸血、急性腎不全はいずれも尿の生成が低下する乏尿・無尿の原因であり、尿閉の原因ではありません。鑑別には超音波などで膀胱内の尿貯留を確認するのが簡便で、薬剤性尿閉や長期の尿閉による腎後性腎障害にも注意が必要です。「膀胱より上流か下流か」という視点は、尿量異常を診る際の基本的な考え方になります。
解答・解説
正解はc, eです
本問の鍵は「尿閉」と「無尿」を区別することである。
尿閉と無尿の違い
尿閉とは、腎臓では尿が作られて膀胱にたまっているのに、それを排出できない状態である。膀胱は充満して下腹部が膨隆し、導尿(カテーテルで膀胱から尿を出すこと)をすると多量の尿が得られる。一方、無尿(1日尿量100 mL未満)・乏尿(1日尿量400 mL未満)は、腎臓で作られる尿そのものが減少している状態で、膀胱は空であり導尿しても尿はほとんど出ない。
尿閉の原因の考え方
排尿が成立するには、①膀胱の排尿筋が十分に収縮すること、②尿道が開いて通り道が確保されていることが必要である。したがって尿閉の原因は大きく二つに分けられる。 ・排尿筋の収縮障害(神経因性膀胱など):脊髄損傷、糖尿病性末梢神経障害、骨盤内手術後、抗コリン薬の副作用など ・膀胱出口〜尿道の閉塞(下部尿路閉塞):前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、骨盤臓器脱、骨盤内腫瘤による圧迫など 選択肢のうち、ショック・異型輸血・急性腎不全はいずれも「尿が作られない(乏尿・無尿)」側の病態であり、尿閉とは機序がまったく異なる。膀胱より上流の問題か、膀胱から下流の問題かを整理すれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. ショック
出血性ショックなどで血圧が低下すると腎血流量と糸球体濾過量が減少し、尿の生成が減って乏尿・無尿となる(腎前性の尿量減少)。膀胱には尿がたまらないので、尿閉ではない。ショック時の尿量は循環動態の指標として用いられ、成人ではおおむね0.5 mL/kg/時以上の維持が目標とされる。
- ×b. 異型輸血
ABO不適合輸血では急性の血管内溶血が起こり、遊離ヘモグロビンによる尿細管障害、低血圧、播種性血管内凝固(DIC)などが重なって急性腎障害を生じる。その結果として乏尿・無尿(初期にはヘモグロビン尿)を呈するが、これは尿の生成障害であり、排出障害である尿閉とは異なる。
- ○c. 脊髄損傷
脊髄損傷では排尿を制御する神経路が障害され、神経因性膀胱をきたす。受傷直後の脊髄ショック期(数日〜数週間)には損傷部以下の反射が消失し、膀胱排尿筋が弛緩して収縮できないため尿閉となる。そのため急性期には間欠導尿や留置カテーテルによる尿路管理が必要である。仙髄(S2〜S4、排尿中枢)より上位の損傷では、脊髄ショックからの回復後に排尿筋過活動と排尿筋・括約筋協調不全を呈することが多く、仙髄や馬尾の損傷では排尿筋低活動(弛緩性膀胱)による尿閉が持続しやすい。
- ×d. 急性腎不全
急性腎不全(現在は急性腎障害、AKIと呼ぶ)は、腎前性・腎性・腎後性のいずれの原因でも尿の生成が低下し、乏尿・無尿を呈する。腎で尿が作られないので膀胱は空であり、尿閉ではない。なお逆の関係として、尿閉などの下部尿路閉塞が長く続くと両側水腎症から腎後性急性腎障害を起こすことがある。つまり尿閉は急性腎不全の原因になり得るが、急性腎不全が尿閉の原因になるわけではない。
- ○e. 子宮脱
子宮脱は骨盤底の支持組織が弱くなり子宮が腟内から腟外へ下垂する状態で、多くは膀胱瘤(膀胱脱)を合併する。高度になると下垂した膀胱や子宮によって尿道が屈曲・圧迫され、膀胱尿道角が変化して尿の通り道が狭くなるため、排尿困難や残尿、さらには尿閉をきたす(膀胱出口の機械的閉塞)。脱出した臓器を用手的に戻すと排尿できるようになることが多いのが特徴である。
尿量異常の用語
・多尿:1日尿量が2,500〜3,000 mL以上 ・乏尿:1日尿量400 mL未満 ・無尿:1日尿量100 mL未満 ・尿閉:尿は生成されているが膀胱から排出できない状態。完全尿閉(全く出ない)と、一部は出るが多量の残尿がある不完全尿閉がある。
尿閉と無尿の鑑別
下腹部の膨隆・圧痛や尿意の有無、腹部超音波で膀胱内の尿貯留を確認するのが簡便である。膀胱に尿が充満していれば尿閉、空であれば無尿・乏尿と判断する。無尿の場合はさらに、腎前性(脱水・ショック)、腎性(急性尿細管壊死・糸球体腎炎など)、腎後性(両側尿管閉塞など)に分けて原因を探す。
尿閉の主な原因
・閉塞性:前立腺肥大症(高齢男性で最多)、前立腺癌、尿道狭窄、尿道結石、骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤)、妊娠後屈子宮の嵌頓、巨大子宮筋腫など骨盤内腫瘤による圧迫 ・神経因性:脊髄損傷、二分脊椎、腰部脊柱管狭窄症、糖尿病性神経障害、子宮癌・直腸癌根治術後の骨盤神経損傷、多発性硬化症など ・薬剤性:抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、総合感冒薬など(特に前立腺肥大症患者で誘発されやすい) ・その他:術後・分娩後の一過性尿閉、心因性など
治療の基本
急性尿閉ではまず導尿で膀胱を減圧し、原因疾患を治療する。長期管理では清潔間欠導尿が第一選択となることが多い。
POINT
・尿閉=尿は作られているが出せない(膀胱は充満)。無尿・乏尿=尿が作られない(膀胱は空)。 ・尿閉の原因は、排尿筋収縮障害(神経因性膀胱:脊髄損傷など)と下部尿路閉塞(前立腺肥大症、子宮脱・膀胱瘤など)に大別される。 ・ショック、異型輸血、急性腎不全は乏尿・無尿の原因であって尿閉の原因ではない。 ・脊髄損傷急性期(脊髄ショック期)は弛緩性膀胱で尿閉となり、導尿管理が必要である。
