StudyMed医師国家試験

いきむと強くなる雑音―Valsalva法が暴く閉塞性肥大型心筋症

第101回医師国家試験 B問題 第73問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第73問

怒責〈Valsalva負荷試験〉で心雑音が増強するのはどれか。

  1. a.肺動脈狭窄症
  2. b.肥大型心筋症
  3. c.鉄欠乏性貧血
  4. d.心室中隔欠損症
  5. e.三尖弁閉鎖不全症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Valsalva法、つまり怒責負荷で心雑音がどう変化するかを問う問題だ。ポイントは、「負荷で心臓に戻る血液量、つまり前負荷がどう変わるか」と「それぞれの雑音が何に依存しているか」を結びつけること。まず、いきむと体の中で何が起こるかな。
医学生医学生
胸腔内圧が上がって、静脈還流が減るんでしたよね。生理学実習で血圧と心拍数の変化を測った記憶があります。
ドクタードクター
そう。胸腔内の大静脈が圧迫されて右心への還流が減り、数拍遅れて左心への流入も減る。結果として両心室の拡張末期容積が小さくなり、1回拍出量も落ちる。では、血流が減ると多くの雑音はどうなると思う?
医学生医学生
雑音は弁や欠損孔を通る血流で生じるので、流れる量が減れば弱くなりそうです。
ドクタードクター
その通り。だからほとんどの心雑音はValsalva負荷の間は減弱する。大事なのは例外のほうで、左室が小さくなると病態そのものが悪化する疾患だけが増強するんだ。
医学生医学生
それが肥大型心筋症ですか。でも、なぜ左室が小さいと悪くなるのかがいまひとつイメージできません。
ドクタードクター
閉塞性肥大型心筋症で考えてみよう。肥厚した心室中隔が左室流出路に張り出していて、さらに収縮期に僧帽弁前尖が中隔側へ引き寄せられる収縮期前方運動、いわゆるSAMが加わって流出路が狭くなる。ここで左室内腔が小さくなると、中隔と僧帽弁前尖の距離がさらに縮まって、狭窄と圧較差が強まるんだ。
医学生医学生
なるほど、器が小さくなるほど出口が詰まるということですね。だから雑音が強くなる。
ドクタードクター
いい表現だね。というわけで、正解は肥大型心筋症だ。ほかの選択肢も確認しよう。肺動脈狭窄症はどうかな。
医学生医学生
右心系の雑音なので吸気で増強するはずです。静脈還流が減るValsalva負荷では弱くなると思います。
ドクタードクター
正しい。駆出性雑音は狭窄部を通る拍出量に比例するから、拍出量が落ちれば減弱する。三尖弁閉鎖不全症も同じく右心系で、吸気で増強するRivero-Carvallo徴候が特徴だから、Valsalva負荷では逆流量が減って弱くなる。
医学生医学生
鉄欠乏性貧血は、雑音が出るというのが少し意外でした。
ドクタードクター
貧血では酸素運搬能の低下を心拍出量の増加で補うから、血流量と流速が増えて、弁に器質的異常のない機能性雑音が聴かれることがある。これも拍出量に依存する雑音なので、Valsalva負荷では減弱するよ。
医学生医学生
心室中隔欠損症も、左室から右室への短絡量が減るので弱くなる、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その通り。逆に、ハンドグリップで後負荷を上げると左右短絡が増えて雑音は増強する。手技ごとに「前負荷」「後負荷」のどちらが動くかを整理しておくといい。
医学生医学生
ということは、Valsalva負荷で増強するのは閉塞性肥大型心筋症と、もう一つ僧帽弁逸脱症も同じ理屈でしたよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。僧帽弁逸脱症も左室が小さくなると逸脱が早く大きくなるので、雑音が増強・延長する。この2つはセットで覚えておこう。さらに閉塞性肥大型心筋症の雑音は、立位や亜硝酸薬でも増強し、蹲踞や下肢挙上、ハンドグリップでは減弱する。同じ収縮期駆出性雑音でも大動脈弁狭窄症とは反応が異なるので、鑑別に役立つんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、肥大型心筋症の患者さんには硝酸薬を使わないように、と指導医の先生に言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
大事な臨床ポイントだね。脱水、利尿薬、硝酸薬、血管拡張薬、強心薬などで前負荷や後負荷が下がったり収縮力が上がったりすると、流出路狭窄が悪化して失神などにつながりうる。治療ではβ遮断薬やベラパミルで収縮力と心拍数を抑えるのが基本だ。聴診所見の変化と薬の使い方が、同じ病態生理で説明できることを意識しておこう。

まとめ

Valsalva法(怒責負荷)では胸腔内圧の上昇により静脈還流が減り、左室容積と1回拍出量が低下するため、血流量に依存するほとんどの心雑音は減弱します。例外は左室が小さくなると病態が悪化する疾患で、閉塞性肥大型心筋症では中隔と僧帽弁前尖の収縮期前方運動による流出路狭窄が強まり、収縮期駆出性雑音が増強します。肺動脈狭窄症や三尖弁閉鎖不全症などの右心系雑音は吸気で増強しValsalva負荷で減弱し、貧血の機能性雑音や心室中隔欠損症の汎収縮期雑音も減弱します。閉塞性肥大型心筋症では立位や亜硝酸薬で雑音が増強し、蹲踞やハンドグリップで減弱するほか、同様の理由で硝酸薬や強心薬は原則として避けます。負荷手技による雑音の変化を前負荷・後負荷の観点で理解することは、聴診での鑑別と安全な薬物療法の両方に直結します。

解答・解説

正解はbです

Valsalva法(怒責負荷)による心雑音の変化を問う一般問題である。雑音の変化は「負荷によって心臓の前負荷・左室容積がどう変わるか」を考えれば導ける。

Valsalva法で起こること

口と鼻を閉じたまま強くいきむと胸腔内圧が上昇する。胸腔内の大静脈が圧迫されて右心への静脈還流が減り、数拍遅れて左心への流入も減る。その結果、右室・左室ともに拡張末期容積(前負荷)が小さくなり、1回拍出量も低下する。

雑音への影響

・ほとんどの心雑音は、弁や短絡部を通る血流量・流速に依存するため、前負荷と拍出量が減るValsalva負荷の間は減弱する(大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、弁逆流、短絡疾患、機能性雑音など)。 ・例外は、左室が小さくなることで病態そのものが悪化する疾患である。代表が閉塞性肥大型心筋症(左室流出路狭窄が強まる)と僧帽弁逸脱症(逸脱が早く大きくなる)で、この2つはValsalva負荷で雑音が増強・延長する。 選択肢のうち、前負荷の減少で雑音が増強するのは肥大型心筋症(閉塞性)である。

選択肢考察

  1. ×a.  肺動脈狭窄症

    誤り。肺動脈(弁)狭窄症の収縮期駆出性雑音は、狭窄部を通過する右室拍出量に比例して強くなる。右心系の雑音は、静脈還流が増える吸気時に増強し、静脈還流が減るValsalva負荷では減弱する。

  2. ○b.  肥大型心筋症

    正しい。閉塞性肥大型心筋症では、肥厚した心室中隔が左室流出路に張り出しており、収縮期に僧帽弁前尖が中隔側へ引き寄せられる現象(収縮期前方運動、SAM)が加わって流出路が狭くなる。Valsalva負荷で静脈還流が減ると左室内腔が小さくなり、中隔と僧帽弁前尖がさらに近づいて流出路狭窄と圧較差が増大するため、胸骨左縁下部〜心尖部の収縮期駆出性雑音は増強する。同じ理由で、立位、亜硝酸薬(前負荷・後負荷の低下)、強心薬や頻脈(収縮力増強)でも雑音は増強し、蹲踞(しゃがみ込み)、下肢挙上、ハンドグリップ(後負荷増大)では減弱する。大動脈弁狭窄症との鑑別に有用な所見である。

  3. ×c.  鉄欠乏性貧血

    誤り。貧血では酸素運搬能の低下を心拍出量の増加で代償するため、血流量・流速が増して収縮期駆出性の機能性雑音(器質的な弁病変のない雑音)が聴かれることがある。この雑音は拍出量に依存するので、静脈還流と拍出量が減るValsalva負荷では減弱する。

  4. ×d.  心室中隔欠損症

    誤り。心室中隔欠損症では、収縮期に左室から右室へ欠損孔を通る短絡血流が生じ、胸骨左縁第3〜4肋間に汎収縮期雑音が聴かれる。Valsalva負荷で左室への流入量と左室圧が低下すると短絡量も減るため、雑音は減弱する。逆に、ハンドグリップなどで後負荷を増やすと左→右短絡が増えて雑音は増強する。

  5. ×e.  三尖弁閉鎖不全症

    誤り。三尖弁閉鎖不全症の汎収縮期雑音は右心系の雑音であり、吸気で静脈還流が増えると増強する(Rivero-Carvallo徴候)。Valsalva負荷では静脈還流が減って右室容積と逆流量が減るため、雑音は減弱する。

心雑音を変化させる主な手技と作用

・吸気:右心への静脈還流増加 → 右心系の雑音が増強 ・Valsalva法(負荷中)・立位:前負荷減少 → 多くの雑音は減弱。閉塞性肥大型心筋症と僧帽弁逸脱症は増強 ・蹲踞(しゃがみ込み)・下肢挙上:前負荷増加(蹲踞では後負荷も増加) → 多くの雑音は増強。閉塞性肥大型心筋症は減弱、僧帽弁逸脱症のクリックは遅れる ・ハンドグリップ(等尺性運動):後負荷増大 → 僧帽弁閉鎖不全症・大動脈弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症の雑音は増強。閉塞性肥大型心筋症・大動脈弁狭窄症の雑音は減弱 ・亜硝酸アミル吸入:血管拡張で前負荷・後負荷が低下 → 閉塞性肥大型心筋症は増強、逆流性雑音は減弱

閉塞性肥大型心筋症の流出路狭窄を悪化させる因子

前負荷の減少(脱水、Valsalva法、立位、利尿薬、硝酸薬)、後負荷の減少(血管拡張薬)、収縮力の増強(ジギタリス、β刺激薬)。治療ではβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル)で収縮力と心拍数を抑え、硝酸薬やジギタリスは原則として避ける。

POINT

・Valsalva法(怒責)は静脈還流を減らし、左室容積を小さくする ・ほとんどの心雑音はValsalva法で減弱する ・例外的に増強するのは閉塞性肥大型心筋症と僧帽弁逸脱症 ・閉塞性肥大型心筋症の雑音は蹲踞・ハンドグリップで減弱し、立位・Valsalva法・亜硝酸薬で増強する ・右心系の雑音は吸気で増強する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。