StudyMed医師国家試験

聞く器官か、傾きを感じる器官か―内耳の構造を「蝸牛」と「前庭」に仕分ける

第101回医師国家試験 B問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第28問

蝸牛に含まれるのはどれか。

  1. a.耳石
  2. b.基底板
  3. c.クプラ
  4. d.平衡斑
  5. e.膨大部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は内耳の構造物が、聴覚を担う蝸牛と平衡覚を担う前庭器のどちらに属するかを仕分ける問題だ。選択肢はどれも内耳にあるものばかりなので、「何を感知する装置か」で考えると整理しやすい。まず内耳の全体像から確認しよう。
医学生医学生
生理学の講義で、内耳は骨迷路の中に膜迷路が入った二重構造だと習いました。
ドクタードクター
その通り。骨迷路の中は外リンパ、膜迷路の中は内リンパで満たされている。機能的には、聴覚の蝸牛と、平衡覚の前庭器に分かれる。前庭器はさらに、卵形嚢・球形嚢からなる耳石器と、3本の半規管に分けられるんだ。
医学生医学生
耳石器と半規管は、感じるものが違うんでしたよね。
ドクタードクター
そう。耳石器は直線加速度や重力、つまり頭の傾きを感じ、半規管は頭の回転、すなわち回転角加速度を感じる。それぞれの受容装置の名前をセットで覚えておくと、この問題は一気に解ける。まず耳石器から見てみよう。
医学生医学生
耳石器なら、名前のとおり耳石がありますね。平衡斑というのもここでしょうか。
ドクタードクター
正解。卵形嚢と球形嚢の内面には平衡斑という感覚上皮があり、有毛細胞と支持細胞が並んでいる。その上をゼラチン状の耳石膜が覆い、表面に炭酸カルシウムの結晶である耳石が載っている。頭が傾いたり直線的に加速したりすると、重い耳石膜がずれて感覚毛が曲がり、刺激が生じるんだ。卵形嚢斑は主に水平方向、球形嚢斑は主に垂直方向の動きを担当する。
医学生医学生
では膨大部とクプラは半規管側ですか。
ドクタードクター
そうだね。膨大部は各半規管が前庭に開口する端のうち、太くふくらんだ側のことで、中に膨大部稜という感覚装置がある。その有毛細胞の感覚毛を包み込むゼラチン状の帽子がクプラだ。頭が回転すると内リンパが慣性で流れてクプラが傾き、回転が感知される。
医学生医学生
ということは、耳石・平衡斑・膨大部・クプラは全部平衡覚の構造で、蝸牛に含まれるのは基底板ですね。
ドクタードクター
その通り。基底板は蝸牛の断面で、内リンパを含む蝸牛管(中央階)と、外リンパを含む鼓室階を隔てる膜だ。その上に聴覚の受容装置であるラセン器、いわゆるCorti器が載っている。
医学生医学生
音で基底板が揺れると、有毛細胞が刺激されるという仕組みでしたか。
ドクタードクター
そう。音の振動が外リンパに進行波を起こして基底板が振動すると、有毛細胞の感覚毛が上にある蓋膜との間でずれて興奮し、蝸牛神経へ信号が伝わる。ここで大事なのが周波数局在だ。基底板は蝸牛の基部ほど幅が狭く硬く、頂部ほど幅が広く柔らかい。どちらが高音を担当すると思う?
医学生医学生
硬いほうが速く振動しそうなので、基部が高音、頂部が低音でしょうか。
ドクタードクター
正解。だから騒音性難聴や加齢性難聴では、基部側の障害を反映して高音域から聴力が落ちやすい。オージオグラムで4kHz付近が落ち込むc5ディップは騒音性難聴の特徴として有名だね。
医学生医学生
耳鼻科の実習で聴力検査を見学したとき、そのくぼみを見せてもらいました。基底板の場所と結びつくんですね。
ドクタードクター
もう少し深掘りしよう。Corti器には内有毛細胞が1列、外有毛細胞が3列ある。聴覚情報の大部分を脳へ伝えるのは内有毛細胞で、外有毛細胞は伸縮して基底板の振動を増幅する役目を持つ。新生児聴覚スクリーニングにも使われる耳音響放射は、この外有毛細胞の働きを反映しているんだ。また蝸牛管外側壁の血管条が、高K⁺の内リンパと約+80mVの内リンパ電位を維持している。
医学生医学生
平衡覚側の構造も臨床につながりますか。
ドクタードクター
大いにつながる。代表が良性発作性頭位めまい症だ。耳石がはがれて半規管内に迷入することが主な原因と考えられていて、頭を動かすたびに短時間の回転性めまいが起こる。後半規管型が多く、Dix-Hallpike法で眼振を誘発して診断し、Epley法などの頭位治療で耳石を卵形嚢へ戻すんだ。
医学生医学生
耳石器の耳石が、半規管のクプラ側で悪さをするわけですね。構造の区別がそのまま病態の理解になると実感しました。
ドクタードクター
その通り。最後に、蝸牛神経と前庭神経は合流して内耳神経、つまり第VIII脳神経になる。聴覚と平衡覚の両方の症状が出るときは、内耳神経や内耳全体の病変も考えるといい。

まとめ

内耳は聴覚を担う蝸牛と、平衡覚を担う前庭器(耳石器である卵形嚢・球形嚢と3本の半規管)に分けられ、蝸牛に含まれるのは基底板です。基底板は蝸牛管と鼓室階を隔てる膜で、その上のCorti器の有毛細胞が振動を電気信号に変え、基部で高音・頂部で低音に応答する周波数局在をもちます。一方、平衡斑・耳石膜・耳石は直線加速度や頭の傾きを感じる耳石器、膨大部・膨大部稜・クプラは回転角加速度を感じる半規管の構造です。この区別は、高音域から始まる騒音性・加齢性難聴や、耳石の半規管迷入による良性発作性頭位めまい症の理解に直結します。受容装置と感知する刺激をセットで整理することが、聴覚・平衡覚の検査や疾患を学ぶ土台になります。

解答・解説

正解はbです

内耳は側頭骨の錐体内にあり、骨でできた管腔(骨迷路)の中に膜でできた管腔(膜迷路)が収まる二重構造をとる。機能的には、聴覚を担う蝸牛と、平衡覚を担う前庭器(耳石器である卵形嚢・球形嚢と、3本の半規管)に大別される。 本問は、選択肢の構造物がそれぞれ内耳のどの部分に属するかを区別できるかを問うている。 ・蝸牛(聴覚):蝸牛管、基底板、ラセン器(Corti器)、蓋膜、血管条など ・耳石器(直線加速度・重力の感知):卵形嚢・球形嚢、平衡斑、耳石膜、耳石 ・半規管(回転角加速度の感知):膨大部、膨大部稜、クプラ この整理に当てはめると、蝸牛に含まれるのは基底板である。残りの4つはいずれも前庭器(平衡覚)側の構造である。

選択肢考察

  1. ×a.  耳石

    耳石(平衡砂)は炭酸カルシウムの微小な結晶で、卵形嚢と球形嚢の平衡斑を覆うゼラチン状の耳石膜の表面に載っている。頭部の傾きや直線加速度で耳石膜がずれ、その下の有毛細胞の感覚毛が曲がることで刺激が生じる。耳石器に属し、蝸牛には含まれない。なお耳石がはがれて半規管内に迷入することが良性発作性頭位めまい症(BPPV)の主な原因と考えられている。

  2. ○b.  基底板

    基底板は蝸牛管(中央階)と鼓室階とを隔てる膜で、その上に聴覚の受容装置であるラセン器(Corti器)が載っている。音によって生じたリンパ液の進行波で基底板が振動すると、有毛細胞の感覚毛が上方の蓋膜との間でずれて興奮し、蝸牛神経へ信号が伝わる。基底板は蝸牛の基部(卵円窓側)ほど幅が狭く硬いため高音で、頂部ほど幅が広く柔らかいため低音で最大振幅を示す(周波数局在)。したがって蝸牛に含まれる構造である。

  3. ×c.  クプラ

    クプラ(小帽)は半規管膨大部の膨大部稜を覆うゼラチン状の構造物で、有毛細胞の感覚毛がこの中に埋まっている。頭部が回転すると内リンパの流れによってクプラが傾き、有毛細胞が刺激されて回転角加速度が感知される。半規管に属し、蝸牛には含まれない。

  4. ×d.  平衡斑

    平衡斑は卵形嚢と球形嚢の内面にある感覚上皮(卵形嚢斑・球形嚢斑)で、有毛細胞と支持細胞からなり、その上を耳石膜と耳石が覆う。卵形嚢斑はおもに水平方向、球形嚢斑はおもに垂直方向の直線加速度を感知する。耳石器の受容装置であり、蝸牛には含まれない。

  5. ×e.  膨大部

    膨大部は各半規管が前庭(卵形嚢)に開口する2か所のうち、太くふくらんだ側の端である。骨迷路・膜迷路のいずれにも用いられる名称で、膜迷路の膨大部には感覚装置である膨大部稜とクプラがある。半規管の一部であり、蝸牛には含まれない。

内耳の構造

・骨迷路:蝸牛、前庭、骨半規管からなる骨の管で、中を外リンパが満たす。 ・膜迷路:骨迷路の中にある膜の管で、中を内リンパが満たす。蝸牛管、卵形嚢、球形嚢、膜半規管からなり、互いに連続している。

蝸牛の断面

蝸牛は約2回転半(2と3/4回転)のらせん状の管で、断面は3つの腔に分かれる。 ・前庭階(外リンパ):上方。前庭膜(Reissner膜)で蝸牛管と隔てられる。 ・蝸牛管=中央階(内リンパ):中央。外側壁の血管条が内リンパを産生し、高K+の組成と約+80mVの内リンパ電位を維持する。 ・鼓室階(外リンパ):下方。基底板で蝸牛管と隔てられ、正円窓に終わる。 前庭階と鼓室階は蝸牛頂の蝸牛孔(ヘリコトレマ)でつながる。 ラセン器(Corti器)は基底板上にあり、内有毛細胞(1列)と外有毛細胞(3列)、支持細胞、蓋膜からなる。求心性の聴覚情報の大部分は内有毛細胞が伝え、外有毛細胞は伸縮運動によって基底板の振動を増幅する(蝸牛増幅器)。耳音響放射(OAE)はこの外有毛細胞の機能を反映する。

前庭器(平衡覚)

・耳石器(卵形嚢・球形嚢):受容器は平衡斑。耳石膜上の耳石の慣性・重力で直線加速度と頭部の傾きを感知する。 ・半規管(前・後・外側の3本、互いにほぼ直交):受容器は膨大部稜とクプラ。内リンパの流れで回転角加速度を感知する。 前庭器からの情報は前庭神経を、蝸牛からの情報は蝸牛神経を通り、両者は合流して内耳神経(第VIII脳神経)となる。

POINT

・蝸牛(聴覚):蝸牛管、基底板、ラセン器(Corti器)、蓋膜、血管条 ・耳石器(卵形嚢・球形嚢/直線加速度):平衡斑、耳石膜、耳石 ・半規管(回転角加速度):膨大部、膨大部稜、クプラ ・基底板は基部で高音、頂部で低音に反応する(周波数局在)。 ・蝸牛管・卵形嚢・球形嚢・膜半規管の中は内リンパ(高K+)、その外側は外リンパ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。