噴水のように吐く生後4週の男児―Vater乳頭の位置で解く肥厚性幽門狭窄症
第101回医師国家試験 A問題 第24問
国試問題にチャレンジ
生後4週の男児。嘔吐を主訴に来院した。生後10日ごろから時々哺乳時に溢乳を認めていたが,次第に噴水状の嘔吐となった。右上腹部に示指頭大の腫瘤を触れる。 正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.無胆汁性嘔吐である。
- b.代謝性アシドーシスを伴う。
- c.腹部エックス線単純写真でdouble bubble signを認める。
- d.注腸造影で結腸は全般に細い。
- e.幽門筋切開術が有効である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生後2〜8週の男児に、次第に増悪する噴水状嘔吐と右上腹部のオリーブ状腫瘤を認めたら肥厚性幽門狭窄症を考えます。閉塞部位が胆汁の流入するVater乳頭より口側にあるため嘔吐は無胆汁性で、塩酸に富む胃液を失うことで低クロール性・低カリウム性の代謝性アルカローシスとなり、進行すると奇異性酸性尿がみられます。診断は腹部超音波による幽門筋肥厚の確認が第一選択で、単純写真ではsingle bubbleを示し、double bubble(十二指腸閉鎖症)やmicrocolon(下部小腸閉鎖・胎便性イレウス)とは区別されます。治療は輸液で脱水と電解質異常を補正したうえでの幽門筋切開術(Ramstedt手術)が基本です。閉塞部位と胆汁の流入点の関係から吐物の性状や画像所見を導く考え方は、新生児・乳児の嘔吐全般の鑑別、とくに緊急性の高い胆汁性嘔吐を見逃さないための土台になります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・生後4週の男児。 ・生後10日ごろから哺乳時に時々溢乳(口から少量あふれ出る)があり、徐々に噴水状の嘔吐(勢いよく噴き出す嘔吐)に変化した。 ・右上腹部に示指頭大(人差し指の先ほど)の腫瘤を触れる。
診断へのプロセス
生後2〜3週ごろから始まり、次第に増悪する噴水状嘔吐と、右上腹部(心窩部のやや右)に触れるオリーブ状の腫瘤は、肥厚性幽門狭窄症の典型像である。胃の出口である幽門部の輪状筋が生後に進行性に肥厚し、胃内容の十二指腸への通過が妨げられる。触知される腫瘤は肥厚した幽門筋そのもの(olive sign)である。好発は生後2〜8週、男児に多く(男女比はおよそ4〜5:1)、第1子に多いとされる。 先天性の十二指腸閉鎖症や腸閉鎖症は通常、出生直後〜数日以内に嘔吐で発症するため、生後しばらく経ってから嘔吐が出現・増悪する経過とは異なる。また胃食道逆流による溢乳は勢いがなく、腫瘤も触れない。
設問の考え方
肥厚性幽門狭窄症の病態から、①嘔吐物の性状(狭窄部位と十二指腸乳頭との位置関係)、②電解質・酸塩基平衡の異常(胃液喪失の影響)、③画像所見、④治療を整理して判断する。狭窄は幽門にあるので、胆汁が流入するVater乳頭(十二指腸下行部)より口側の閉塞であり、吐物に胆汁は混じらない。胃液(塩酸)を繰り返し失うことで低クロール性・低カリウム性の代謝性アルカローシスとなる。根治治療は、肥厚した幽門筋を切開して通過を回復させる幽門筋切開術(Ramstedt手術)である。
選択肢考察
- ○a. 無胆汁性嘔吐である。
胆汁は総胆管から十二指腸下行部のVater乳頭を通って腸管内に流入する。肥厚性幽門狭窄症の閉塞部位は幽門であり、Vater乳頭より口側にあるため、吐物は胃内容(乳汁や胃液)のみで胆汁を含まない。吐物は白色〜乳白色で、凝乳(酸で固まった乳)を含むことが多い。逆に新生児・乳児の胆汁性(緑色)嘔吐は、Vater乳頭より肛門側の閉塞(十二指腸閉鎖症の多く、腸回転異常症・中腸軸捻転、腸閉鎖症など)を示し、緊急性が高いサインである。
- ×b. 代謝性アシドーシスを伴う。
嘔吐で塩酸(H+とCl-)に富む胃液を失うため、血中HCO3-が相対的に増加し、低クロール性の代謝性アルカローシスとなる。さらに脱水によるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進で腎からのK+排泄が増え、低カリウム血症を伴う。進行すると、体液量維持のためNa+再吸収と引き換えにH+が尿中に排泄され、アルカローシスにもかかわらず尿が酸性になる(奇異性酸性尿)。したがってアシドーシスではない。
- ×c. 腹部エックス線単純写真でdouble bubble signを認める。
double bubble signは、拡張した胃と、閉塞部より口側で拡張した十二指腸球部の2つのガス像が並んで見える所見で、十二指腸閉鎖症・狭窄症や輪状膵などで認められる。肥厚性幽門狭窄症では幽門で閉塞するため、拡張した胃泡が1つだけ目立ち、それより先の腸管ガスが少ない像(single bubble sign)を呈する。
- ×d. 注腸造影で結腸は全般に細い。
結腸が全体に細い所見(microcolon)は、胎生期に結腸内を腸内容が通過しなかったために結腸が発育しない状態(使われなかった結腸、unused colon)を示す。回腸閉鎖症など下部小腸の閉鎖や胎便性イレウスで典型的にみられる。肥厚性幽門狭窄症は生後に進行する幽門の病変で、胎生期の腸管の通過は保たれているため結腸は正常であり、診断に注腸造影は用いない。
- ○e. 幽門筋切開術が有効である。
根治術は幽門筋切開術(Ramstedt手術)である。幽門の漿膜と肥厚した筋層を縦に切開し、粘膜は切らずに膨隆させることで幽門管を広げ、通過障害を解除する。開腹のほか臍部切開や腹腔鏡下でも行われる。術前に輸液で脱水と電解質異常(低クロール・低カリウム・代謝性アルカローシス)を補正してから手術を行うことが重要である。なお、わが国では硫酸アトロピン静注・経口による内科的治療が選択されることもある。
肥厚性幽門狭窄症の概要
・病態:幽門輪状筋が生後に進行性に肥厚し、胃出口の通過障害をきたす。原因は完全には解明されていないが、遺伝的素因や、生後早期のマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシンなど)投与との関連が知られている。 ・疫学:生後2〜8週(特に2〜4週)に発症。男児に多く、第1子に多い。 ・症状:哺乳後の非胆汁性・噴水状嘔吐。嘔吐後もすぐに哺乳を欲しがる。進行すると脱水、体重増加不良、便秘、胃の蠕動波の可視化がみられる。 ・身体所見:右上腹部〜心窩部にオリーブ大の腫瘤(olive sign、肥厚した幽門筋)を触れる。
検査所見
・血液ガス・電解質:低クロール性・低カリウム性の代謝性アルカローシス。進行例では奇異性酸性尿。 ・腹部超音波検査(診断の第一選択):幽門筋の肥厚と幽門管の延長を確認する。一般的な目安は筋層の厚さ4mm以上、幽門管の長さ15〜16mm以上。横断像でターゲット状(doughnut sign)にみえる。 ・上部消化管造影:細く延長した幽門管(string sign)、肥厚筋が胃前庭部へ突出して見える所見(shoulder sign、umbrella sign)。 ・腹部単純エックス線:拡張した胃泡(single bubble)と少ない腸管ガス。
治療
・まず輸液で脱水・電解質異常とアルカローシスを補正する(アルカローシスが残ったまま全身麻酔をかけると、術後の無呼吸などのリスクがある)。 ・根治術:幽門筋切開術(Ramstedt手術)。開腹・臍部切開・腹腔鏡下で行う。 ・内科的治療:硫酸アトロピン療法(主にわが国で行われる選択肢)。
新生児・乳児嘔吐の鑑別の整理
・無胆汁性嘔吐:肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流、胃軸捻転、Vater乳頭より口側の十二指腸狭窄など。 ・胆汁性嘔吐:十二指腸閉鎖症(多くは乳頭より肛門側)、腸回転異常症(中腸軸捻転)、空腸・回腸閉鎖症、Hirschsprung病、胎便性イレウスなど。 ・単純エックス線:single bubble(幽門狭窄)、double bubble(十二指腸閉鎖・輪状膵)、triple bubble(空腸閉鎖)。 ・microcolon:回腸閉鎖症、胎便性イレウスなど下部小腸閉塞で典型的。
POINT
・生後2〜8週の男児、次第に増悪する非胆汁性の噴水状嘔吐、右上腹部のオリーブ状腫瘤 → 肥厚性幽門狭窄症。 ・閉塞はVater乳頭より口側なので無胆汁性嘔吐。 ・胃液(HCl)喪失により低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシス、進行すると奇異性酸性尿。 ・診断は腹部超音波(幽門筋厚4mm以上など)。造影でstring sign、単純写真でsingle bubble。 ・double bubbleは十二指腸閉鎖症、microcolonは下部小腸閉鎖・胎便性イレウス。 ・治療は電解質補正後の幽門筋切開術(Ramstedt手術)。
