被曝直後の血算は「正常」でも安心できない―寿命で読み解く放射線と血球減少
第100回医師国家試験 I問題 第7問
国試問題にチャレンジ
35歳の男性。事業所においてエックス線発生装置使用中に誤操作で全身被曝して3時間後に来院した。被曝線量は1.8Gy程度と推定された。悪心,嘔吐などの自覚症状はない。眼瞼結膜,瞳孔,口腔粘膜および皮膚に異常はみられない。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤血球450万,Hb 14.6g/dL,白血球6,000,血小板25万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,タンパク分画(Alb 68%,α1-グロブリン3%,α2-グロブリン6%,β-グロブリン8%,γ-グロブリン15%),総ビリルビン0.9mg/dL,AST 20U/L,ALT 25U/L,LD 200U/L(基準176~353)。 今後,この患者のエックス線被曝による早期障害を評価するために有用な検査はどれか。2つ選べ。
- a.赤血球数
- b.白血球数
- c.血小板数
- d.血清蛋白分画
- e.水晶体検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
全身被曝の早期障害で問題となるのは骨髄の造血障害で、成熟血球はほとんど直接影響を受けないため、被曝直後の血算が正常でも、各血球の寿命に応じて遅れて減少が現れます。リンパ球は成熟細胞でありながら間期死を起こすほど放射線感受性が高く、数時間〜数日で減少してその程度が線量と相関するため、白血球数は早期障害の評価に有用です。血小板も寿命が約7〜10日と短く、白血球に続いて減少するため重要な指標となる一方、寿命約120日の赤血球や半減期の長い血清蛋白は早期の指標になりません。放射線白内障は晩発障害であり、ICRPのしきい線量は現在0.5Gyとされ、長期的な経過観察の対象となります。障害を「早期か晩発か」「確定的か確率的か」で整理し、血球の寿命と感受性から変化の順序を予測する考え方は、被曝医療の基本として役立ちます。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
35歳男性が、エックス線発生装置の誤操作により全身に約1.8Gyの被曝を受け、3時間後に来院している。悪心・嘔吐などの前駆症状はなく、皮膚・粘膜・眼にも異常はない。被曝3時間後の時点では血算・生化学ともに基準範囲内である。
病態の考え方
1〜2Gy程度の全身被曝は、急性放射線症候群(ARS:acute radiation syndrome)のうち造血器障害型(骨髄型)が問題となる線量域の下端にあたる。この線量域では死亡することはまれだが、骨髄の造血幹細胞・前駆細胞が障害されるため、数日〜数週間かけて末梢血球が減少していく。現時点で検査値が正常なのは、末梢血中にすでに存在する成熟血球が直接にはほとんど影響を受けず、骨髄からの供給が途絶えた影響が各血球の寿命に応じて遅れて現れるためである。
設問へのアプローチ
「早期障害(急性障害)」の評価に有用な検査を選ぶ。したがって、①被曝後早期(数時間〜数週間)に変化が現れ、②その変化が障害の程度を反映する指標を選べばよい。末梢血球の中では、寿命が短く骨髄からの補充に依存する度合いが大きいものほど早く減少する。リンパ球(放射線感受性が極めて高く、成熟リンパ球自体もアポトーシスを起こす)を含む白血球は被曝後数時間〜数日で減少し始め、寿命約7〜10日の血小板がそれに続く。一方、寿命約120日の赤血球は減少が遅く、早期評価の指標には向かない。また、白内障のような数年後に出現する障害は晩発障害であり、早期障害の評価とは区別する必要がある。
選択肢考察
- ×a. 赤血球数
赤血球の寿命は約120日と長く、骨髄での産生が一時的に低下しても、既存の赤血球が長く循環し続けるため、赤血球数はゆっくりとしか低下しない。1.8Gy程度の被曝では早期に明らかな貧血を来すことはまれで、早期障害の指標としては感度が低い。なお、網赤血球(寿命約1日)は骨髄の赤血球造血の低下を早く反映するが、選択肢は赤血球数そのものである。
- ○b. 白血球数
白血球、とくにリンパ球は放射線感受性が最も高い細胞の一つで、1〜2Gyの全身被曝では被曝後数時間〜48時間のうちにリンパ球数が減少し始める。被曝後早期のリンパ球数の低下の程度は被曝線量とよく相関するため、線量推定や重症度判定に用いられる。好中球は被曝直後に骨髄からの動員で一過性に増加することがあるが、その後は産生低下により数日〜数週間かけて減少し、感染リスクの評価に重要となる。以上から、白血球数(とその分画)は早期障害の評価に有用である。
- ○c. 血小板数
血小板の寿命は約7〜10日と短く、骨髄の巨核球系の障害により供給が途絶えると、白血球に続いて減少が始まる。減少は被曝後1週間前後から明らかとなり、最低値に達するのは数週間後で、回復も白血球より遅れる傾向がある。高度の血小板減少は出血傾向の原因となるため、造血器障害の程度を評価する早期障害の指標として有用である。
- ×d. 血清蛋白分画
血清蛋白の主体であるアルブミンは肝臓で、γ-グロブリンは形質細胞で産生され、いずれも半減期が長い(アルブミン約3週間、IgG約3週間)。1.8Gy程度の被曝で血清蛋白分画に特異的な変化は生じず、早期障害の評価には役立たない。本症例の蛋白分画も正常範囲内である。
- ×e. 水晶体検査
水晶体は放射線感受性の高い組織であるが、放射線白内障は被曝後数年(潜伏期はおおむね数年以上)を経て出現する晩発障害である。したがって被曝直後〜数週間の早期障害の評価には用いない。なお、白内障のしきい線量は、かつては急性被曝で数Gy(視力障害を伴うもので約5Gy)とされていたが、2011年に国際放射線防護委員会(ICRP)が0.5Gyに引き下げたため、本症例の線量でも将来の発症リスクはあり、長期的な経過観察の対象にはなる。
放射線障害の分類
・確定的影響(組織反応):しきい線量が存在し、それを超えると線量に応じて重症度が増す。脱毛、皮膚紅斑、不妊、骨髄障害、白内障など。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が増す。発癌、遺伝的影響。 ・時期による分類:早期(急性)障害は被曝後数週間以内に現れるもの(骨髄障害、消化管障害、皮膚障害など)、晩発障害は数か月〜数年以上経過して現れるもの(白内障、発癌、寿命短縮など)。
急性放射線症候群(ARS)の線量と病型の目安
・約1Gy以上:前駆症状(悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感)が出現しうる。線量が高いほど早く出現する。 ・約1〜10Gy:造血器障害型(骨髄型)。数週間後に血球減少による感染・出血が問題となる。 ・約10Gy以上:消化管障害型。腸上皮の脱落による下痢・脱水・敗血症。 ・数十Gy以上:中枢神経・心血管障害型。意識障害、ショック。 ・全身被曝の半致死線量(LD50/60)は、治療なしで約3〜5Gyとされる。
細胞の放射線感受性(ベルゴニー・トリボンドーの法則)
細胞分裂が盛んで、将来行う分裂回数が多く、形態・機能が未分化な細胞ほど放射線感受性が高い。例外として、リンパ球は分裂を終えた成熟細胞でありながら極めて感受性が高い(間期死を起こす)。
末梢血球の減少の順序
リンパ球(数時間〜数日)→ 好中球(数日〜数週、直後に一過性増加あり)→ 血小板(1〜数週)→ 赤血球(数週以降、軽度)。
被曝線量の推定法
被曝後のリンパ球数の推移、前駆症状(嘔吐)の出現までの時間、末梢血リンパ球の染色体異常(二動原体染色体)の頻度などが用いられる。
POINT
・全身被曝後の早期障害の指標は、白血球(特にリンパ球)数と血小板数である。 ・リンパ球は最も早く減少し、その減少度は被曝線量と相関する。 ・赤血球は寿命が約120日と長いため、早期の指標にならない。 ・白内障は晩発障害であり、早期障害の評価には用いない(ICRPのしきい線量は現在0.5Gy)。 ・約1〜10Gyの全身被曝は造血器障害型ARSを来す。
