「消える反射」と「現れる反射」―10か月児の発達を正しく測る物差し
第100回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
10か月の乳児。母親が発達の遅れを心配して来院した。在胎38週,自然分娩で出生。 母乳栄養である。定頸5か月,坐位9か月,寝返りはするが這い這いはできない。 この児に対する発達の評価に適しているのはどれか。2つ選べ。
- a.Moro反射
- b.Landau反射
- c.Babinski反射
- d.手掌把握反射
- e.パラシュート反射
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳児の神経発達は、生後数か月で消失すべき原始反射と、生後数か月以降に出現すべき姿勢反応の両面から評価します。Moro反射や手掌把握反射は3〜6か月頃までに消失するため10か月児の評価の主軸にはならず、Babinski反射は1〜2歳まで陽性でも正常なため発達評価に用いにくい反射です。一方、Landau反射は6か月頃に完成し、パラシュート反射は7〜9か月頃に出現して生涯持続するため、10か月では陽性であるべきで、陰性や左右差は運動発達の遅れや片麻痺の手がかりとなります。定頸3〜4か月、坐位7か月、這い這い8〜9か月といった運動発達の目安と反射の時期を結びつけて理解することが、乳児健診や発達遅滞の初期評価で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・10か月の乳児。在胎38週の正期産、自然分娩で、周産期の異常は記載されていない。 ・運動発達:定頸5か月、坐位9か月、寝返りは可能だが這い這いはできない。
発達の評価
粗大運動発達の標準的な目安は、定頸3〜4か月、寝返り5〜6か月、一人座り(坐位保持)7か月前後、這い這い8〜9か月前後、つかまり立ち9〜10か月前後である。本児は定頸・坐位の獲得がいずれも遅く、10か月で這い這いもできないため、粗大運動発達の遅れが疑われる。
反射による発達評価の考え方
乳児の神経発達は反射の「消失」と「出現」の両面から評価する。 ・原始反射(Moro反射、手掌把握反射など):新生児期から存在し、脳の成熟に伴い上位中枢に抑制されて生後数か月で消失する。消失すべき時期を過ぎても残存していれば発達の遅れや中枢神経障害を疑う。 ・姿勢反応(Landau反射、パラシュート反射など):生後数か月以降に新たに出現し、座る・這う・立つといった運動獲得の土台となる。出現すべき時期になっても出現しなければ発達の遅れを疑う。 10か月の児では、原始反射はすでに消失しているのが正常であり、一方でLandau反射(6か月頃までに完成)とパラシュート反射(8〜9か月頃までに出現)は出現していなければならない時期にあたる。したがって、この児の発達評価に適しているのは、10か月で陽性であるべき姿勢反応のLandau反射とパラシュート反射である。
選択肢考察
- ×a. Moro反射
Moro反射は、仰臥位の児の頭部を急に後方へ落とす(または大きな音を立てる)と、両上肢を伸展・外転させてから抱きつくように屈曲・内転させる原始反射である。新生児期から存在し、生後3〜4か月頃、遅くとも6か月頃までには消失する。10か月の児では消失しているのが当然であり、本児の現在の発達段階を評価する指標としては適さない(残存していれば異常所見ではあるが、評価の主眼とはならない)。
- ○b. Landau反射
Landau反射は、児を腹臥位のまま胸腹部を手で支えて水平に持ち上げると、頭部を挙上し、体幹と下肢を伸展させて弓なりの姿勢をとる反応である。生後3〜4か月頃から頭部挙上がみられ、6か月頃に完成し、1〜2歳頃まで観察される。頭部・体幹の抗重力伸展の発達を反映し、這い這いなど腹臥位での運動獲得と関連が深い。10か月では陽性であるべき反射であり、陰性であれば運動発達の遅れや筋緊張低下を示唆するため、本児の評価に適している。
- ×c. Babinski反射
Babinski反射は足底の外側を踵から趾の付け根に向けてこすると母趾が背屈する反射で、成人では錐体路障害を示す病的反射である。乳児では錐体路の髄鞘化が未完成のため、1〜2歳頃までは陽性でも正常とされる。10か月の児では陽性・陰性いずれでも正常範囲に含まれうるため、発達段階の評価には役立たない。
- ×d. 手掌把握反射
手掌把握反射は、児の手のひらに指などを当てると強く握りしめる原始反射である。新生児期から存在し、生後2か月頃から弱まり、おおむね3〜6か月頃までに消失して、随意的な把握へと置き換わる。10か月の児ではすでに消失しているのが正常であり、現在の発達段階を評価する指標としては適さない。
- ○e. パラシュート反射
パラシュート反射は、児の体幹を支えて空中で腹臥位(または立位)に保ち、急に頭部を下方へ傾けると、両上肢を前方に伸ばし手を開いて体を支えようとする保護伸展反応である。生後7〜9か月頃に出現し、その後生涯持続する。転倒時に身を守る反応であり、座位の安定や這い這い・つかまり立ちの獲得に先立って現れる。10か月では出現しているべき反応で、陰性または左右差があれば運動発達の遅れや片麻痺などを疑う手がかりとなるため、本児の評価に適している。
主な原始反射と消失時期(目安)
・Moro反射:生後3〜4か月頃に消失(遅くとも6か月) ・手掌把握反射:3〜6か月頃に消失 ・足底把握反射:10〜12か月頃に消失(独歩の獲得と関連) ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):4〜6か月頃に消失 ・吸啜反射・探索反射:4〜6か月頃に消失 ・自動歩行:生後1〜2か月頃に消失 ・Babinski反射:1〜2歳頃まで陽性でも正常
主な姿勢反応と出現時期(目安)
・Landau反射:3〜6か月頃に出現(6か月頃に完成)、1〜2歳頃まで ・パラシュート反射:7〜9か月頃に出現、生涯持続 ・座位での側方保護伸展反応:6〜7か月頃に出現 ・立位での平衡反応:1歳前後以降
粗大運動発達の目安
定頸3〜4か月、寝返り5〜6か月、坐位7か月、這い這い8〜9か月、つかまり立ち9〜10か月、伝い歩き10〜11か月、独歩1歳〜1歳3か月。定頸が4か月、坐位が10か月、独歩が1歳6か月を過ぎても獲得されない場合は遅れを疑う目安とされる。
運動発達遅滞の原因
脳性麻痺、染色体異常(Down症候群など)、先天性筋疾患・脊髄性筋萎縮症などの神経筋疾患、甲状腺機能低下症、環境要因などがある。筋緊張の評価(低緊張か過緊張か)、原始反射の残存、姿勢反応の欠如をあわせて評価し、原因を探る。
POINT
・発達評価は「消失すべき原始反射が消えているか」「出現すべき姿勢反応が出ているか」の両面で行う。 ・Moro反射・手掌把握反射は生後数か月で消失するため、10か月児の評価指標にはならない。 ・Landau反射は6か月頃に完成、パラシュート反射は7〜9か月頃に出現し、10か月では陽性であるべき。 ・Babinski反射は1〜2歳まで陽性でも正常であり、乳児の発達評価には用いにくい。 ・粗大運動の目安:定頸3〜4か月、坐位7か月、這い這い8〜9か月、独歩1歳〜1歳3か月。
