TSHは高いのにFT4は正常―新生児スクリーニング陽性で「まず」すべきこと
第100回医師国家試験 I問題 第2問
国試問題にチャレンジ
生後20日の新生児。甲状腺機能異常を指摘され来院した。在胎41週,出生体重3,320g,Apgarスコア9点(1分)。母親は生来健康である。生後5日の新生児マススクリーニングで異常を指摘され,生後12日に産科で再検査を受けた。TSH 12.0μU/mL(基準0.2~4.0),FT4 1.5ng/dL(基準0.8~2.2)であったため小児科を紹介された。臍ヘルニアは認めず,便秘もない。四肢の運動は活発である。 まず行うのはどれか。
- a.甲状腺機能検査
- b.甲状腺超音波検査
- c.甲状腺シンチグラフィ
- d.母親の甲状腺機能検査
- e.サイロキシンの投与開始
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニングはTSH高値を指標に先天性甲状腺機能低下症を早期発見する仕組みで、異常を指摘された児は小児科で精密検査を受けます。TSHが軽度高値でもFT4が正常で症状がない場合は、先天性甲状腺機能低下症の軽症例と、周産期のヨード過剰などによる一過性高TSH血症とを鑑別するため、まず児の甲状腺機能を再検査して推移を確認します。甲状腺超音波検査やシンチグラフィは病型診断のための検査であり、機能評価の代わりにはなりません。TSH高値の持続やFT4低下が確認されれば、不可逆的な知的発達障害を防ぐため速やかにレボチロキシンを開始します。TSHを指標とするスクリーニングでは中枢性の機能低下症を見逃しうる点も含め、検査値の意味と経時的変化を読み解く力が、新生児の甲状腺疾患の適切な管理につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・生後20日の新生児。在胎41週、出生体重3,320g、Apgarスコア9点(1分)で、周産期に大きな問題はない。 ・生後5日の新生児マススクリーニングで異常(TSH高値)を指摘された。 ・生後12日の再検査では TSH 12.0μU/mL と軽度高値だが、FT4(遊離サイロキシン)は 1.5ng/dL と基準範囲内である。 ・臍ヘルニア、便秘がなく、四肢の運動も活発で、甲状腺機能低下症を思わせる臨床症状はみられない。 ・母親は生来健康であり、母体の甲状腺疾患や抗甲状腺薬の服用をうかがわせる情報はない。
どう考えるか
TSH(甲状腺刺激ホルモン)が上昇していてもFT4が正常である状態は、潜在性(代償性)の甲状腺機能低下を意味する。新生児期にこの状態をとるものとして、主に次の二つを区別する必要がある。 ・先天性甲状腺機能低下症(いわゆるクレチン症)の軽症例:甲状腺の形成異常やホルモン合成障害があり、TSH高値が持続し、やがてFT4も低下しうる。 ・一過性高TSH血症:周産期のヨード過剰(ポビドンヨード消毒、母体の海藻の過剰摂取など)や母体由来の要因による一時的な変化で、自然にTSHが正常化する。 この鑑別には、時間をおいて児の甲状腺機能(TSH、FT4)を再測定し、推移をみることが最も基本的かつ重要である。また、再検査では血清で TSH・FT4 に加えサイログロブリンなどを測定し、病態の手がかりを得る。 本例はFT4正常で症状もないため、直ちに治療を開始しなければならない状況ではない。一方で、TSH高値が持続・悪化したりFT4が低下したりすれば、神経発達への影響を防ぐため速やかにサイロキシン補充を開始する。したがって、まず行うべきは児の甲状腺機能の再検査である。
選択肢考察
- ○a. 甲状腺機能検査
TSH軽度高値・FT4正常という境界的な結果であり、先天性甲状腺機能低下症か一過性高TSH血症かを判断するには、児のTSHとFT4を再度測定して経時的変化を確認することが第一歩となる。TSHが低下傾向なら一過性の可能性が高く、TSHの上昇持続やFT4の低下があれば治療開始の判断材料となる。精密検査を担う小児科として最初に行うべき検査である。
- ×b. 甲状腺超音波検査
超音波検査は甲状腺の有無・位置・大きさ(無形成、低形成、腫大など)を評価でき、先天性甲状腺機能低下症の病型診断に役立つ。しかし甲状腺の機能そのものは評価できないため、まず機能異常が真に持続しているかを確認することが優先される。
- ×c. 甲状腺シンチグラフィ
シンチグラフィは異所性甲状腺や無形成の診断、ヨード摂取能の評価に有用で、病型診断に用いられる。しかし放射線被曝を伴い、新生児では実施できる施設も限られる。機能低下の有無が確定していない段階で最初に行う検査ではない。
- ×d. 母親の甲状腺機能検査
母体のバセドウ病に対する抗甲状腺薬の服用や、TSH受容体阻害型抗体の移行などは児の一過性甲状腺機能低下の原因になりうるため、病歴聴取や必要に応じた母体の評価は鑑別に役立つ。しかし本例の母親は生来健康であり、まず確認すべきは児自身の甲状腺機能の推移である。
- ×e. サイロキシンの投与開始
現時点ではFT4が基準範囲内で症状もなく、一過性高TSH血症の可能性も残るため、直ちに投与を開始する段階ではない。再検査でTSH高値の持続やFT4低下が確認されれば、発達への影響を防ぐため速やかにレボチロキシン(合成サイロキシン)の内服を開始する。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
・生まれつき甲状腺ホルモンの分泌が不足する疾患で、新生児マススクリーニングの対象疾患である。かつては「クレチン症」と呼ばれたが、現在は先天性甲状腺機能低下症と呼ぶのが一般的である。 ・原因の多くは甲状腺の形成異常(無形成、低形成、異所性甲状腺)で、ほかにホルモン合成障害などがある。中枢性(視床下部・下垂体性)のものはTSHが上昇しないため、TSHを指標とするスクリーニングでは見逃されうる。 ・症状:遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、哺乳不良、不活発、巨舌、嗄声、皮膚乾燥、小泉門開大など。ただし新生児期には症状に乏しいことが多く、スクリーニングの意義が大きい。 ・治療が遅れると不可逆的な知的障害や成長障害をきたすため、診断されたら速やかにレボチロキシンの補充を行う。
新生児マススクリーニングの流れ
生後4〜6日頃に足底から採血した乾燥ろ紙血でTSH(施設によりFT4も)を測定する。異常値の場合は再採血または精密検査となり、小児科(専門医療機関)で血清のTSH・FT4の測定、臨床症状の評価、必要に応じて画像検査(超音波、X線での大腿骨遠位骨端核の評価など)を行って治療の要否を判断する。
一過性高TSH血症の主な原因
・周産期のヨード過剰(母体の海藻類の過剰摂取、ヨード含有消毒薬・造影剤の使用) ・母体からのTSH受容体阻害型抗体の移行 ・母体の抗甲状腺薬内服 ・早産児の視床下部-下垂体-甲状腺系の未熟性 一過性の場合、甲状腺ホルモンが常に年齢相応の範囲にあり、乳児期のうちにTSHが正常化し、甲状腺の画像検査にも異常がないことが特徴である。治療を開始した症例でも、後に(一般に3歳以降)いったん休薬して再評価し、永続性か一過性かを判定することがある。
POINT
・新生児マススクリーニングは TSH 高値を指標に先天性甲状腺機能低下症を発見する。 ・TSH軽度高値かつFT4正常では、先天性甲状腺機能低下症と一過性高TSH血症の鑑別のため、まず児の甲状腺機能を再検査して推移をみる。 ・超音波・シンチグラフィは病型診断の検査であり、機能評価の代わりにはならない。 ・機能低下が確認されたら、知的発達障害を防ぐため速やかにレボチロキシンを開始する。
