走って痛めた膝、のはずが―思春期の膝痛に潜む骨肉腫を見抜く4つの軸
第100回医師国家試験 H問題 第35問
国試問題にチャレンジ
15歳の男子。右膝痛を主訴に来院した。3週前,走っていた際に突然右膝痛が出現した。安静によって一時軽快したが,1週前から痛みが再発し増悪傾向にある。初診時の右膝エックス線単純写真(A)と大腿骨遠位部の骨生検H-E染色標本(B)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.骨巨細胞腫
- b.骨肉腫
- c.軟骨肉腫
- d.Ewing肉腫
- e.悪性線維性組織球腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
10歳代の膝周囲の痛みが安静でも改善せず増悪する場合は、外傷や成長痛と決めつけず悪性骨腫瘍を疑う必要があります。大腿骨遠位の骨幹端に骨破壊と骨形成が混在し、Codman三角やspicula(sunburst)を伴い、組織で腫瘍細胞が類骨を直接形成していれば骨肉腫と診断できます。骨巨細胞腫は成人の骨端のsoap bubble像、軟骨肉腫は中高年で点状・輪状石灰化、Ewing肉腫は骨幹部の小円形細胞腫瘍でonion peel像と、年齢・部位・画像・組織の4軸で鑑別するのが基本です。骨肉腫ではALP上昇と肺転移に注意し、術前化学療法・患肢温存の広範切除・術後化学療法で予後が大きく改善しました。骨腫瘍を4つの軸で整理する考え方は、国家試験だけでなく思春期の運動器疾患を診る日常診療でも見逃しを防ぐ土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・患者: 15歳の男子。骨の成長が盛んな思春期である。 ・経過: 3週前に走っていて右膝痛が突然出現し、安静でいったん軽快したが、1週前から再発・増悪している。発症のきっかけだけみるとスポーツ外傷のようだが、安静にしても痛みが持続・増悪する点は外傷だけでは説明しにくい。運動時痛から始まり、次第に安静時痛・夜間痛へ進むのは悪性骨腫瘍の典型的な経過である。 ・エックス線写真(A): 大腿骨遠位の骨幹端(成長板のすぐ骨幹側)に、境界不明瞭な骨破壊と骨硬化が混在した病変がある。骨膜が腫瘍に押し上げられてできる三角形の骨膜反応(Codman三角)と、骨表面から外側へ放射状にのびる針状の骨形成(spicula、sunburst appearance)がみられる。いずれも骨膜を破って急速に増大する悪性腫瘍を示す所見である。 ・骨生検(B): 核が大きく不整な異型細胞が密に増殖し、その細胞の間に未熟な骨(類骨)が形成されている。
診断へのプロセス
骨腫瘍の鑑別では「年齢」「発生部位(骨端・骨幹端・骨幹)」「画像所見」「組織所見」の4点を組み合わせる。10歳代、膝周囲(大腿骨遠位)の骨幹端、Codman三角とspiculaを伴う骨破壊・骨形成像という組合せは骨肉腫に最も典型的である。さらに組織で「腫瘍細胞そのものが類骨・骨を直接つくっている」ことが確認できれば骨肉腫と確定できる。これは骨肉腫の定義そのもので、他の肉腫との決定的な違いである。 以上から診断は骨肉腫である。
選択肢考察
- ×a. 骨巨細胞腫
骨巨細胞腫は20〜40歳前後の成長板が閉じた後の成人に多く、長管骨の骨端(関節面の直下)に発生する。エックス線では骨硬化を伴わない偏在性の溶骨像で、骨皮質が膨らみ薄くなり、内部が石けんの泡のように見える(soap bubble appearance)。Codman三角やspiculaのような強い骨膜反応は通常みられず、組織でも多核巨細胞が目立ち腫瘍性の類骨形成はない。年齢・部位・画像のいずれも本例と合わない。
- ○b. 骨肉腫
骨肉腫は原発性悪性骨腫瘍で最も多く、10歳代に好発する。約半数以上が大腿骨遠位や脛骨近位など膝関節周囲の長管骨骨幹端に生じる。初発症状は運動時の痛みが多く、外傷や成長痛と誤られやすい。エックス線では骨破壊と骨形成の混在、Codman三角、spiculaなどの骨膜反応を示し、組織では異型の強い腫瘍細胞が類骨・骨を直接形成する。本例は年齢、部位、臨床経過、画像、組織のすべてが合致する。
- ×c. 軟骨肉腫
軟骨肉腫は中高年(おおむね40歳以降)に多く、骨盤、大腿骨近位、上腕骨近位、肋骨などに好発する。エックス線では骨透亮像の内部に、軟骨基質の石灰化による点状・輪状(ポップコーン状)の石灰化がみられるのが特徴である。組織は異型を示す軟骨細胞と軟骨基質からなり、腫瘍性の類骨はつくらない。15歳という年齢や本例の画像・組織とは一致しない。
- ×d. Ewing肉腫
Ewing肉腫は骨肉腫と同様に10歳代(骨肉腫よりやや若年)に多いが、長管骨の骨幹部や骨盤に好発する。エックス線では虫食い状の骨破壊と、骨膜が層状に重なった玉ねぎの皮様(onion peel appearance)の骨膜反応が典型である。発熱、白血球増多、CRP上昇、赤沈亢進などの炎症所見を伴い骨髄炎と紛らわしいことがある。組織は小型円形細胞が一様に増殖し(小円形細胞腫瘍)、類骨形成はない。多くでEWSR1-FLI1融合遺伝子(t(11;22)転座)を認める。好発部位と組織像が本例と異なる。
- ×e. 悪性線維性組織球腫
悪性線維性組織球腫(MFH)は中高年に多い肉腫で、骨では長管骨の骨幹端に溶骨性の骨透亮像をつくる。骨形成や目立つ骨膜反応は乏しく、組織は紡錘形細胞と多形性の強い細胞が花むしろ状に配列し、腫瘍性類骨はみられない。現在の分類ではMFHという名称は用いられず、未分化多形肉腫(undifferentiated pleomorphic sarcoma:UPS)と呼ばれる。年齢・画像・組織のいずれも本例とは合わない。
骨肉腫の概要
・原発性悪性骨腫瘍で最も頻度が高い。10歳代(特に思春期の身長が伸びる時期)に多く、やや男性に多い。高齢者ではPaget病や放射線照射後の二次性骨肉腫がみられることがある。 ・好発部位: 大腿骨遠位>脛骨近位>上腕骨近位。いずれも骨の成長が盛んな長管骨の骨幹端である。 ・症状: 運動時痛から始まり安静時痛・夜間痛へ進む。腫脹、局所熱感を伴う。病的骨折で見つかることもある。 ・検査: 血清ALP(アルカリホスファターゼ)上昇は骨形成の活発さを反映し、病勢の指標となる。転移は血行性で肺転移が最も多く、診断時に胸部CTで肺転移の有無を確認する。局所の広がりはMRIで評価する。 ・確定診断: 生検で腫瘍細胞による類骨形成を確認する。 ・治療: 術前化学療法(メトトレキサート大量療法、ドキソルビシン、シスプラチン、イホスファミドなど)→広範切除(現在は多くで患肢温存手術)→術後化学療法。化学療法の導入により、転移のない例の5年生存率は約70%にまで改善した。
骨腫瘍の年齢・部位による整理
・骨端: 骨巨細胞腫(20〜40歳)、軟骨芽細胞腫(10歳代、成長板閉鎖前) ・骨幹端: 骨肉腫(10歳代)、軟骨肉腫(中高年)、骨軟骨腫、非骨化性線維腫、単発性骨嚢腫 ・骨幹: Ewing肉腫(10歳前後〜10歳代)、類骨骨腫、骨髄腫
悪性骨腫瘍を示唆する骨膜反応
・Codman三角: 骨膜が持ち上げられ、その端に三角形の反応性骨ができたもの。 ・spicula(sunburst): 骨膜に対して垂直・放射状にのびる針状陰影。骨肉腫に特徴的。 ・onion peel: 層状の骨膜反応。Ewing肉腫に特徴的(骨髄炎でもみられる)。
POINT
・10歳代、膝周囲の長管骨骨幹端、Codman三角・spicula → 骨肉腫 ・骨肉腫の組織学的定義は「腫瘍細胞が類骨・骨を直接形成する」こと ・骨巨細胞腫は成人の骨端、軟骨肉腫は中高年で輪状・点状石灰化、Ewing肉腫は小児の骨幹で玉ねぎの皮様骨膜反応 ・運動をきっかけに発症した膝痛でも、安静で改善せず増悪する若年者では骨腫瘍を疑う ・骨肉腫はALP上昇、肺転移が多い。治療は術前化学療法+広範切除(患肢温存)+術後化学療法
