妊娠に気づく前が勝負―二分脊椎を防ぐ葉酸と「1か月前」の意味
第100回医師国家試験 G問題 第68問
国試問題にチャレンジ
二分脊椎の発生予防に効果があるのはどれか。
- a.葉酸
- b.ビタミンA
- c.ビタミンC
- d.ビタミンE
- e.α-リノレン酸
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
二分脊椎は無脳症や脳瘤と同じ神経管閉鎖障害の一つで、神経管が閉じる妊娠6週ごろまでの母体の葉酸不足が最も確立した環境要因です。妊娠を計画する女性は、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4mgの葉酸を摂取することが推奨され、発生を半数から7割程度減らせるとされます。一方、ビタミンA(レチノール)やレチノイド製剤は過剰摂取で催奇形性を示し、ビタミンC・ビタミンE・α-リノレン酸には予防効果は示されていません。抗てんかん薬や母体の糖尿病などの危険因子、開放性病変でのAFP上昇もあわせて押さえておくと、妊娠前からの指導や出生前診断の場面で役立ちます。「妊娠に気づく前から始める」という時間軸の理解が、先天異常の一次予防を考える基本になります。
解答・解説
正解はaです
二分脊椎は、胎生期に神経板が管状に閉じて神経管となる過程(神経管閉鎖)がうまく進まずに起こる神経管閉鎖障害(neural tube defect: NTD)の一つである。同じ群には無脳症や脳瘤も含まれる。神経管は受精後およそ28日(最終月経から数えて妊娠6週ごろ)までに閉じるため、原因となる要因も予防策も、妊娠に気づく前後のごく早い時期に作用することになる。 NTDの発生には遺伝的素因と環境要因の両方が関わるが、環境要因として最も確立しているのが母体の葉酸不足である。葉酸はDNA合成やメチル化反応に必要なビタミンB群の一つで、細胞分裂が盛んな神経管形成期に不足すると閉鎖障害が起こりやすくなる。複数の大規模な介入研究で、妊娠前から妊娠初期にかけての葉酸補給によりNTDの発生が大きく減ることが示され、多くの国で妊娠可能年齢の女性への葉酸摂取推奨や穀類への葉酸添加が行われている。 本問は「予防に効果があるもの」を問うており、エビデンスに基づいて予防効果が確立している栄養素を選べばよい。逆に、ビタミンAのように過剰摂取がかえって催奇形性をもつ栄養素との区別も押さえておきたい。
選択肢考察
- ○a. 葉酸
妊娠前から妊娠初期に葉酸を補うと、二分脊椎・無脳症などの神経管閉鎖障害の発生リスクが大きく下がることが疫学研究・介入研究で確かめられている。予防できる割合は研究によって異なるが、おおむね半数から7割程度とされる。日本では厚生労働省が、妊娠を計画している女性に対し、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、通常の食事に加えて栄養補助食品などから葉酸を1日0.4mg摂取するよう勧めている。過去にNTDの児を出産した女性など高リスクの場合は、医師の管理のもとでより多い量を用いる。神経管は妊娠に気づく前に閉じてしまうため、妊娠が判明してから飲み始めるのでは遅いという点が重要である。
- ×b. ビタミンA
ビタミンAにはNTDの予防効果は認められていない。むしろ、妊娠初期にレチノール(動物性のビタミンA)を大量にとると催奇形性が問題となる。脂溶性ビタミンであるため体内に蓄積しやすく、過剰摂取では頭蓋顔面や心臓など頭部神経堤細胞に由来する組織の奇形、泌尿生殖器系の奇形などが増えると報告されている。ビタミンA誘導体であるイソトレチノインやエトレチナートなどのレチノイド製剤も強い催奇形性をもつ。なお、植物に含まれるβ-カロテン(プロビタミンA)は必要な分だけビタミンAに変換されるため、過剰症の心配は小さい。妊婦ではレバーやサプリメントによるビタミンAのとりすぎに注意するよう指導される。
- ×c. ビタミンC
ビタミンC(アスコルビン酸)は水溶性の抗酸化ビタミンで、コラーゲン合成や鉄の吸収促進に関わるが、二分脊椎の予防効果は示されていない。妊娠中にサプリメントで大量に摂取することの有益性も確立しておらず、とりすぎは推奨されない。
- ×d. ビタミンE
ビタミンE(トコフェロール)は脂溶性の抗酸化ビタミンで、細胞膜脂質の過酸化を防ぐ働きをもつ。しかし、摂取によって二分脊椎の発生が減るという因果関係は明らかになっておらず、予防法として推奨されていない。
- ×e. α-リノレン酸
α-リノレン酸はn-3系(ω3系)の必須脂肪酸で、体内でエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の前駆体となる。胎児の脳や網膜の発達に関わる脂肪酸の供給源として注目されることはあるが、二分脊椎の発生予防との因果関係は示されていない。
神経管閉鎖障害(NTD)の概要
神経管の頭側の閉鎖不全では無脳症や脳瘤、尾側の閉鎖不全では二分脊椎が生じる。二分脊椎は、皮膚に覆われず髄膜や脊髄が外に露出・脱出する開放性二分脊椎(脊髄髄膜瘤など)と、皮膚に覆われた潜在性二分脊椎に分けられる。脊髄髄膜瘤では下肢の運動・感覚障害、膀胱直腸障害(神経因性膀胱など)が生じ、キアリⅡ型奇形や水頭症を合併することが多い。
NTDの危険因子
・母体の葉酸不足 ・葉酸代謝に影響する薬剤(バルプロ酸、カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、メトトレキサートなどの葉酸拮抗薬) ・母体の糖尿病、肥満 ・妊娠初期の高体温 ・NTD児の出産歴(再発リスクが上がる)
出生前診断の手がかり
開放性NTDでは胎児由来のα-フェトプロテイン(AFP)が羊水中へ漏れ出すため、母体血清や羊水のAFPが高値となる。現在は超音波検査による形態評価が中心である。
葉酸を多く含む食品
葉物野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)、豆類、レバーなどに多い。ただし食品中の葉酸は調理で失われやすく吸収率も一定しないため、妊娠を計画する女性には食事に加えて吸収効率のよいサプリメントでの補給が勧められる。レバーは葉酸とともにビタミンAも多く含むため、妊婦が大量にとることは避ける。
POINT
・二分脊椎・無脳症などの神経管閉鎖障害の予防には葉酸が有効である。 ・推奨は妊娠1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4mg。神経管は妊娠6週ごろまでに閉じるため、妊娠前から始めることが大切である。 ・ビタミンA(レチノール)やレチノイド製剤は、過剰に摂取すると催奇形性を示す。 ・抗てんかん薬(バルプロ酸など)や母体の糖尿病もNTDの危険因子である。
