StudyMed医師国家試験

ホルモン過剰は「作用の延長線上」にある―コルチゾールと白血球増多の意外なつながり

第100回医師国家試験 G問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第62問

ホルモンとその過剰による病態の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.エストロゲン ―― 多血症
  2. b.ガストリン ―― 萎縮性胃炎
  3. c.グルカゴン ―― 低血糖
  4. d.コルチゾール ―― 白血球増多
  5. e.サイロキシン ―― 脂質異常症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ホルモンと、その過剰で起こる病態の組合せを選ぶ問題だ。丸暗記で挑むと迷いやすいけれど、コツは「そのホルモンが本来何をするか」から考えること。過剰時の変化は、作用の延長として推測できる。もう一つの注意点は、欠乏したときの病態や、ホルモンが二次的に増える状況と取り違えないことだ。
医学生医学生
組合せ問題って、どれも聞いたことのある言葉ばかりで迷うんですよね。まずエストロゲンと多血症は、なんとなくありそうな気がしました。
ドクタードクター
そう感じる人は多い。でもエストロゲン過剰で問題になるのは、血球が増えることではなく凝固能の亢進なんだ。肝臓でフィブリノゲンや第Ⅶ・Ⅷ・Ⅹ因子などの凝固因子を増やし、アンチトロンビンやプロテインSを減らす。だから深部静脈血栓症や肺塞栓症が起こりやすくなる。
医学生医学生
薬理学の講義で、経口避妊薬の副作用として血栓症を習いました。赤血球を増やすのは別のホルモンでしたよね。
ドクタードクター
そう、アンドロゲンとエリスロポエチンだ。テストステロン補充療法や蛋白同化ステロイドの乱用で多血症になることがあるし、腎癌などがエリスロポエチンを異所性に産生する場合もある。では次、ガストリンと萎縮性胃炎はどうかな。
医学生医学生
萎縮性胃炎ではガストリンが高くなると習ったので、正しい組合せのようにも見えます。
ドクタードクター
そこが落とし穴。ガストリンは壁細胞からの胃酸分泌を促すホルモンで、過剰になれば胃酸が増え、難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢が起こる。ガストリノーマによるZollinger-Ellison症候群がその代表だ。一方、萎縮性胃炎では壁細胞が減って酸が出なくなるから、酸によるネガティブフィードバックが外れてガストリンが二次的に上がる。つまり萎縮性胃炎は高ガストリン血症の「原因」であって、「結果」ではないんだ。
医学生医学生
因果が逆なんですね。プロトンポンプ阻害薬を長く飲んでいる人でガストリンが高くなるのも、同じ理屈でしょうか。
ドクタードクター
その通り。酸が減ればガストリンは上がる。次はグルカゴンと低血糖だ。
医学生医学生
グルカゴンは血糖を上げるホルモンなので、過剰なら高血糖のはずです。低血糖を起こすのはインスリノーマですよね。
ドクタードクター
完璧。グルカゴンは肝臓でグリコーゲン分解と糖新生を促す。グルカゴノーマでは糖尿病に加えて、壊死性遊走性紅斑や体重減少がみられる。血糖を上げる作用があるからこそ、重症低血糖の治療薬として注射や点鼻で使われているんだ。
医学生医学生
サイロキシンと脂質異常症はどうでしょう。代謝が上がるなら脂質にも何か変化がありそうですが。
ドクタードクター
甲状腺ホルモンは肝臓のLDL受容体を増やし、コレステロールの胆汁への排泄も促す。だからBasedow病などの機能亢進症では、血清コレステロールはむしろ下がる。脂質異常症、つまり高LDLコレステロール血症を起こすのは機能低下症のほうだ。原因のはっきりしない高コレステロール血症をみたら甲状腺機能低下症を除外する、というのが臨床の定石だよ。
医学生医学生
となると、残るのはコルチゾールと白血球増多ですね。ステロイドは免疫を抑えるのに白血球が増えるというのは、少し不思議です。
ドクタードクター
いい疑問だね。コルチゾールは骨髄から好中球を動員し、血管壁に付着して待機している辺縁プールの好中球を血流中へ遊離させ、さらに好中球が血管外へ出ていくのを抑える。その結果、末梢血の好中球が増えて白血球増多になる。一方で好酸球とリンパ球は、組織への再分布やアポトーシスの促進で減少する。これが正しい組合せだ。
医学生医学生
数は増えても、病変の組織へ出ていきにくいなら感染防御には役立ちにくい。だから易感染性にもなる、ということですね。
ドクタードクター
鋭いね。臨床実習で膠原病内科や呼吸器内科を回ると、ステロイド投与中の患者さんによく出会うはずだ。白血球数が上がっていても、それだけで感染と決めつけないこと。分画を見て、好中球が主体で好酸球やリンパ球が減っていればステロイドの影響を考える。もちろん感染の否定は、症状や他の検査とあわせて慎重に行う必要がある。
医学生医学生
内科の病棟で、ステロイドパルスの後に白血球がかなり増えて、研修医の先生が感染かどうか悩んでいたのを思い出しました。
ドクタードクター
よくある場面だね。Cushing症候群全体としては、満月様顔貌、中心性肥満、赤色皮膚線条、近位筋の筋力低下、高血糖、高血圧、骨粗鬆症、低カリウム血症なども押さえておこう。血球の変化は「好中球増多・好酸球減少・リンパ球減少」の3点セットで覚えるといい。
医学生医学生
ホルモンごとに過剰と欠乏をセットで並べておけば、今回のような組合せ問題にも対応できそうです。
ドクタードクター
その整理が一番強い。作用から考え、因果の向きを確かめる。この2つを習慣にすれば、初めて見る組合せでも落ち着いて判断できるよ。

まとめ

ホルモン過剰による病態は、そのホルモン本来の作用の延長として考えると整理しやすくなります。コルチゾールは骨髄からの動員や辺縁プールからの遊離、血管外への遊走抑制によって好中球を増やし、白血球増多をきたす一方、好酸球とリンパ球は減少させます。エストロゲン過剰は凝固因子増加による血栓症(多血症はアンドロゲンやエリスロポエチン)、ガストリン過剰は消化性潰瘍(萎縮性胃炎は高ガストリン血症の原因側)、グルカゴン過剰は高血糖、甲状腺ホルモン過剰はコレステロール低下(脂質異常症は機能低下症)をきたします。ステロイド投与中の白血球増多を感染と短絡しないことは臨床上も重要で、過剰と欠乏、原因と結果を区別する視点は内分泌疾患全般の理解の土台になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、代表的なホルモンが過剰になったときに生じる変化を正しく対応させられるかを問う。一つ一つのホルモンについて「本来どのような作用をもつか」から考えると、過剰時の病態は作用の延長として推測できる。逆に、そのホルモンが欠乏したときの病態や、別の病態の結果としてそのホルモンが二次的に増える状況と混同しないことが大切である。 ・エストロゲン:肝臓での凝固因子産生を増やし、血栓をつくりやすくする。赤血球を増やす作用はない(赤血球を増やすのはアンドロゲン)。 ・ガストリン:胃酸分泌を促進する。過剰なら消化性潰瘍が起こる。萎縮性胃炎はむしろガストリンが増える「原因」側である。 ・グルカゴン:肝臓での糖新生とグリコーゲン分解を促し、血糖を上げる。 ・コルチゾール:好中球を増やし、好酸球とリンパ球を減らす。 ・サイロキシン:代謝を亢進させ、コレステロールを低下させる。脂質異常症(高コレステロール血症)は甲状腺機能低下症で起こる。 このうち、ホルモン作用と過剰時の変化の方向が一致しているのはコルチゾールと白血球増多の組合せであり、d が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  エストロゲン ―― 多血症

    誤り。エストロゲンは肝臓でのフィブリノゲンや第Ⅶ・第Ⅷ・第Ⅹ因子などの凝固因子の産生を増やし、アンチトロンビンやプロテイン S を減らすため、凝固能が亢進する。そのため過剰時に問題となるのは深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症であり、経口避妊薬(エストロゲン・プロゲスチン配合薬)の重要な副作用としても知られる。赤血球を増やして多血症をきたすのはアンドロゲン(テストステロン)やエリスロポエチンであり、エストロゲンにはそのような作用はない。なお、長期のエストロゲン過剰は子宮内膜増殖症・子宮体癌や乳癌のリスクも高める。

  2. ×b.  ガストリン ―― 萎縮性胃炎

    誤り。ガストリンは胃前庭部の G 細胞から分泌され、壁細胞からの胃酸分泌を促進し、胃粘膜の増殖を促す。過剰になると胃酸分泌が亢進し、難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢をきたす。その代表がガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)による Zollinger-Ellison 症候群である。一方、萎縮性胃炎(特に自己免疫性胃炎)では壁細胞が減って胃酸が出なくなるため、酸によるネガティブフィードバックが外れてガストリンが二次的に高値となる。つまり萎縮性胃炎は高ガストリン血症の「原因」であって、ガストリン過剰の「結果」ではない。因果関係が逆である。

  3. ×c.  グルカゴン ―― 低血糖

    誤り。グルカゴンは膵ランゲルハンス島の α 細胞から分泌され、肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生を促進して血糖を上昇させる。過剰時には高血糖(耐糖能異常・糖尿病)をきたす。グルカゴン産生腫瘍(グルカゴノーマ)では、糖尿病に加え、壊死性遊走性紅斑、体重減少、貧血、血栓症などがみられる。血糖を上げる作用をもつため、グルカゴンは重症低血糖の治療薬(注射・点鼻)として用いられる。低血糖をきたすのはインスリンの過剰(インスリノーマなど)である。

  4. ○d.  コルチゾール ―― 白血球増多

    コルチゾール(糖質コルチコイド)は、骨髄からの好中球の動員を促すとともに、血管壁に付着して待機している好中球(辺縁プール)を血流中へ遊離させ、さらに好中球が血管外へ出ていくのを抑える。これらにより末梢血の好中球が増え、白血球増多となる。一方で、好酸球とリンパ球はリンパ組織などへの再分布やアポトーシスの促進によって減少する。このため Cushing 症候群やステロイド薬の投与中には、好中球増多を主体とする白血球増多、好酸球減少、リンパ球減少がみられる。ステロイド投与中の患者で白血球数が増えていても、必ずしも感染を意味しないという臨床上の注意点にもつながる。

  5. ×e.  サイロキシン ―― 脂質異常症

    誤り。サイロキシン(T4)などの甲状腺ホルモンは、肝臓の LDL 受容体の発現を増やして血中から LDL コレステロールを取り込ませ、コレステロールの胆汁への排泄も促す。このため甲状腺機能亢進症(Basedow 病など)では血清コレステロールは低下する。反対に甲状腺機能低下症では LDL 受容体が減り、高 LDL コレステロール血症(脂質異常症)をきたす。原因不明の高コレステロール血症をみたら甲状腺機能低下症を除外する、というのが臨床上の定石である。

コルチゾール過剰(Cushing 症候群)の主な所見

・身体所見:満月様顔貌、中心性肥満、野牛肩(buffalo hump)、赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化と易出血性、近位筋の筋力低下 ・代謝:高血糖(耐糖能異常)、高血圧、骨粗鬆症、低カリウム血症(特に異所性 ACTH 産生腫瘍) ・血球:好中球増多による白血球増多、好酸球減少、リンパ球減少 ・その他:易感染性、精神症状、月経異常

ホルモンの過剰と欠乏の対比

・甲状腺ホルモン:過剰→コレステロール低下・頻脈・体重減少、欠乏→高コレステロール血症・徐脈・粘液水腫 ・ガストリン:過剰(ガストリノーマ)→消化性潰瘍・下痢、萎縮性胃炎や酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)の長期使用→二次的な高ガストリン血症 ・グルカゴン:過剰(グルカゴノーマ)→高血糖・壊死性遊走性紅斑 ・インスリン:過剰(インスリノーマ)→低血糖 ・性ホルモン:エストロゲン過剰→血栓症、アンドロゲン過剰→多血症・男性化

多血症をきたすホルモン

エリスロポエチン(腎癌・肝癌・小脳血管芽腫などによる異所性産生)やアンドロゲン(テストステロン補充療法、蛋白同化ステロイドの乱用)が代表的である。

POINT

・コルチゾール過剰:好中球増多(白血球増多)、好酸球減少、リンパ球減少 ・エストロゲン過剰:血栓症(凝固因子増加)。多血症はアンドロゲンやエリスロポエチン ・ガストリン過剰:消化性潰瘍(Zollinger-Ellison 症候群)。萎縮性胃炎は高ガストリン血症の原因側 ・グルカゴン過剰:高血糖(低血糖の治療薬にもなる) ・甲状腺ホルモン過剰:コレステロール低下。脂質異常症は機能低下症で起こる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。