胎盤を越える唯一の抗体―5つの免疫グロブリンを「量・大きさ・場所・働き」で整理する
第100回医師国家試験 G問題 第51問
国試問題にチャレンジ
免疫グロブリンについて正しいのはどれか。
- a.IgE量は最も多い。
- b.IgGは胎盤を通過する。
- c.IgDは分泌液中に存在する。
- d.IgMは分子量が最も小さい。
- e.IgAは即時型アレルギーに関与する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
免疫グロブリンは形質細胞が産生する抗体で、IgG・IgA・IgM・IgD・IgEの5クラスに分かれ、血中量・分子量・存在部位・機能の4軸で整理すると理解しやすくなります。血中量はIgGが最多でIgEが最少、分子量は五量体のIgMが最大で単量体のIgGが最小であり、胎盤を通過できるのはFcRnを介して能動輸送されるIgGだけです。分泌液中の主な抗体は分泌型IgA、即時型(Ⅰ型)アレルギーを担うのはIgEで、IgDは主にナイーブB細胞表面の抗原受容体として働きます。IgGの胎盤通過は新生児の受動免疫を支える一方、母体自己抗体による新生児疾患の原因にもなり、IgMが胎盤を通らない性質は先天感染の診断に応用されます。各クラスの性質を構造と結びつけて理解しておくことが、感染症の血清診断や周産期医療を考える土台になります。
解答・解説
正解はbです
免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)は B 細胞が分化した形質細胞が産生する抗体で、IgG・IgA・IgM・IgD・IgE の 5 つのクラス(アイソタイプ)に分かれる。クラスは重鎖(H 鎖)の定常部の違いで決まり、それぞれ構造(単量体か多量体か)、分子量、血中濃度、分布する場所、担う機能が異なる。 本問は各クラスの基本的な特徴を横断的に問う知識問題である。整理の軸として次の 4 点を押さえておけば、選択肢を一つずつ判定できる。 1. 血中量:IgG が最も多く、IgE が最も少ない(IgG > IgA > IgM > IgD > IgE)。 2. 分子量:五量体の IgM が最大で、単量体の IgG が最小クラスである。 3. 存在部位:粘膜の分泌液に多いのは分泌型 IgA、胎盤を通って胎児へ移行できるのは IgG のみである。 4. 機能:即時型(Ⅰ型)アレルギーは IgE が肥満細胞・好塩基球に結合して起こる。 この枠組みに照らすと、胎盤通過性を IgG の性質として正しく述べている b が正解となる。
選択肢考察
- ×a. IgE量は最も多い。
誤り。IgE は 5 クラスのうち血中濃度が最も低い。健常成人の血清中では数百 IU/mL 以下(ng/mL オーダー)で、全免疫グロブリンのごく一部を占めるにすぎない。IgE の多くは血中を漂うのではなく、肥満細胞や好塩基球の表面にある高親和性 IgE 受容体(FcεRI)に結合した状態で存在する。血中で最も多いのは IgG で、総免疫グロブリンの約 70〜75% を占める。
- ○b. IgGは胎盤を通過する。
IgG は胎盤を通過できる唯一の免疫グロブリンである。胎盤の合胞体栄養膜細胞には新生児 Fc 受容体(FcRn)が発現しており、母体の IgG を Fc 部分で捉えて胎児側へ能動的に輸送する。分子量が約 15 万の単量体であることも通過に有利である。この仕組みにより、新生児は生後数か月間、母親由来の IgG による受動免疫で感染から守られる。一方で、母体の自己抗体(抗アセチルコリン受容体抗体、抗 TSH 受容体抗体、抗 SS-A 抗体など)や、Rh 不適合妊娠での抗 D 抗体も IgG であれば胎児に移行し、新生児一過性重症筋無力症、新生児バセドウ病、新生児ループス(先天性完全房室ブロック)、胎児・新生児溶血性疾患の原因となる。
- ×c. IgDは分泌液中に存在する。
誤り。唾液・涙液・母乳(初乳)・気道や腸管の粘液などの分泌液に多量に含まれ、粘膜免疫の主役となるのは分泌型 IgA である。分泌型 IgA は IgA 二量体に J 鎖と分泌成分(secretory component)が結合したもので、分泌成分により消化酵素から守られる。IgD は主に成熟したナイーブ B 細胞の表面に IgM とともに発現し、抗原受容体(B 細胞受容体)として働くと考えられている。血中にもわずかに存在するが、その生理的な役割はまだ十分に解明されていない。
- ×d. IgMは分子量が最も小さい。
誤り。分泌型の IgM は、基本単位(H 鎖 2 本と L 鎖 2 本)が 5 つ J 鎖でつながった五量体で、分子量は約 90 万と免疫グロブリンの中で最も大きい。大きすぎるため胎盤は通過しない。抗原結合部位を 10 個もつため凝集能や補体活性化能が高く、感染初期に最初に産生される抗体として働く。分子量が最も小さいのは単量体の IgG(約 15 万)である。なお B 細胞表面の膜型 IgM は単量体である。
- ×e. IgAは即時型アレルギーに関与する。
誤り。即時型(Ⅰ型)アレルギーに関与するのは IgE である。肥満細胞や好塩基球の FcεRI に結合した IgE にアレルゲンが結合して架橋が起こると、細胞が脱顆粒し、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出される。その結果、数分〜数十分以内に蕁麻疹、気管支喘息発作、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシーなどの症状が現れる。IgA は主に粘膜表面で病原体や毒素の付着・侵入を防ぐ(中和する)役割を担う。
免疫グロブリン 5 クラスの比較
IgG:単量体、分子量約 15 万。血中で最多(約 70〜75%)。胎盤通過性あり。二次免疫応答の主体で、オプソニン化・補体活性化・中和・抗体依存性細胞傷害(ADCC)を担う。IgG1〜IgG4 のサブクラスがある。半減期は約 3 週間と最も長い。 IgA:血中では主に単量体、分泌液中では二量体(分泌型 IgA、分子量約 40 万)。血中で 2 番目に多い。粘膜免疫の中心で、初乳に多く含まれ乳児の腸管を守る。 IgM:五量体(分子量約 90 万)で最大。初回感染時に最初に産生される。補体活性化能が高い。ABO 血液型の自然抗体(抗 A・抗 B)の多くは IgM であるため、ABO 不適合妊娠は Rh 不適合に比べて重症化しにくい。 IgD:単量体。主にナイーブ B 細胞表面に抗原受容体として存在する。血中濃度はごく低い。 IgE:単量体(分子量約 19 万)。血中濃度が最も低い。Ⅰ型アレルギーと寄生虫(蠕虫)に対する防御に関与する。
臨床での応用
・特異的 IgM 抗体の上昇は初感染・急性期感染を示唆し、IgG 抗体はそれ以降の感染や既往を示す。 ・臍帯血で病原体特異的 IgM が高値なら、IgM は胎盤を通らないため胎児自身が作ったもの、すなわち先天感染を示唆する。 ・新生児期の IgG は母体由来で、生後 3〜6 か月ごろに最低となる(生理的低 γ グロブリン血症)。
POINT
・血中量:IgG > IgA > IgM > IgD > IgE ・分子量最大は五量体の IgM、最小は単量体の IgG ・胎盤を通過するのは IgG のみ(FcRn を介した能動輸送) ・分泌液中の主な抗体は分泌型 IgA(二量体+J 鎖+分泌成分) ・即時型(Ⅰ型)アレルギーは IgE、初期免疫応答は IgM
