StudyMed医師国家試験

胎盤を越える唯一の抗体―5つの免疫グロブリンを「量・大きさ・場所・働き」で整理する

第100回医師国家試験 G問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第51問

免疫グロブリンについて正しいのはどれか。

  1. a.IgE量は最も多い。
  2. b.IgGは胎盤を通過する。
  3. c.IgDは分泌液中に存在する。
  4. d.IgMは分子量が最も小さい。
  5. e.IgAは即時型アレルギーに関与する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、5種類の免疫グロブリンの特徴を横断的に問う知識問題だ。個別に丸暗記するより、「血中量」「分子量」「存在する場所」「担う機能」という4つの軸で表にしておくと、どの選択肢もすっきり判定できる。まずは基本から確認しよう。免疫グロブリンはどの細胞が作っているかな。
医学生医学生
B細胞が分化した形質細胞です。クラスはIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つで、H鎖の定常部の違いで分かれると基礎免疫学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。では1つ目の軸、血中量から。一番多いのはどれだろう。
医学生医学生
IgGです。でもIgEってアレルギー検査でよく測るので、つい多いイメージを持ってしまいます。
ドクタードクター
よく測るから多い、というのはありがちな誤解だね。実際にはIgEは5つの中で血中濃度が最も低く、全体のごく一部にすぎない。IgEの多くは血液中を漂うのではなく、肥満細胞や好塩基球の表面にある高親和性受容体FcεRIに結合した状態で存在しているんだ。順番はIgG>IgA>IgM>IgD>IgEで、IgGが全体の約70〜75%を占める。
医学生医学生
なるほど、だから「IgEが最も多い」は誤りなんですね。次の分子量はどうでしょう。IgMは最初に出てくる抗体だから、小さくて身軽なのかと思っていました。
ドクタードクター
実は逆なんだ。分泌されるIgMは基本単位が5つJ鎖でつながった五量体で、分子量は約90万と最大。抗原結合部位が10個もあるから、病原体をまとめて凝集させたり補体を活性化させたりする力が強い。感染初期の「とりあえずの大きな網」というイメージだね。一方、最小クラスは単量体のIgGで約15万だ。
医学生医学生
大きいIgMは胎盤を通れない、というのも同じ理屈ですか。
ドクタードクター
大きさも一因だけれど、本質は輸送の仕組みにある。胎盤の合胞体栄養膜細胞には新生児Fc受容体(FcRn)があって、母体のIgGをFc部分で捉えて胎児側へ能動的に運ぶ。これに乗れるのはIgGだけなので、胎盤を通過する唯一の免疫グロブリンはIgG。これが今回の正解だ。
医学生医学生
小児科実習で、生後数か月の赤ちゃんは母親からもらった抗体で守られていると聞きました。それがIgGなんですね。
ドクタードクター
そう。新生児の受動免疫の正体だ。ただし裏返すと、母体の病的なIgGも胎児に移る。抗アセチルコリン受容体抗体なら新生児一過性重症筋無力症、抗TSH受容体抗体なら新生児バセドウ病、抗SS-A抗体なら新生児ループスによる先天性完全房室ブロック、Rh不適合なら抗D抗体による胎児・新生児溶血性疾患が起こりうる。
医学生医学生
CBTでも出た組み合わせです。次に分泌液ですが、唾液や母乳に多いのはIgDではなくIgAですよね。
ドクタードクター
正解。粘膜免疫の主役は分泌型IgAで、二量体にJ鎖と分泌成分が結合した形をとる。分泌成分が消化酵素から抗体を守ってくれるから、腸管や気道の表面でも働けるんだ。初乳にたっぷり含まれて乳児の腸を守るのも有名だね。IgDは主にナイーブB細胞の表面でIgMと一緒に抗原受容体として働くと考えられていて、分泌液中の主な抗体とはいえない。
医学生医学生
最後に即時型アレルギーは、IgAではなくIgEですね。肥満細胞上のIgEにアレルゲンがくっつくと脱顆粒する。
ドクタードクター
その通り。FcεRIに結合したIgEがアレルゲンで架橋されると、ヒスタミンやロイコトリエンが放出され、数分〜数十分で蕁麻疹や喘息発作、アナフィラキシーが起こる。IgEは寄生虫に対する防御にも関わっているよ。IgAは粘膜で病原体や毒素を中和して付着・侵入を防ぐのが仕事だ。
医学生医学生
4つの軸で並べると、量はIgG最多でIgE最少、大きさはIgM最大でIgG最小、胎盤はIgGだけ、分泌液はIgA、即時型アレルギーはIgE。頭の中の表が完成しました。
ドクタードクター
いいまとめだ。最後に臨床での使い方も押さえよう。感染症の血清診断では、特異的IgMの上昇は初感染や急性期を、IgGはそれ以降の感染や既往を示唆する。さらに臍帯血で病原体特異的IgMが高ければ、IgMは胎盤を通らないから胎児自身が作ったもの、つまり先天感染を疑う根拠になる。
医学生医学生
胎盤を通るかどうかが、そのまま検査の解釈につながるんですね。ABO不適合がRh不適合より軽いのも、抗A・抗B抗体の多くがIgMだからでしたっけ。
ドクタードクター
よく結びつけたね。そのとおりで、自然抗体の多くがIgMで胎盤を通りにくいことが一因とされる。もう一つ、母体由来のIgGは生後3〜6か月ごろに減って最低になり、生理的な低γグロブリン血症の時期を迎える。乳児期に感染しやすくなる時期と重なるから、小児科ではよく話題になるよ。

まとめ

免疫グロブリンは形質細胞が産生する抗体で、IgG・IgA・IgM・IgD・IgEの5クラスに分かれ、血中量・分子量・存在部位・機能の4軸で整理すると理解しやすくなります。血中量はIgGが最多でIgEが最少、分子量は五量体のIgMが最大で単量体のIgGが最小であり、胎盤を通過できるのはFcRnを介して能動輸送されるIgGだけです。分泌液中の主な抗体は分泌型IgA、即時型(Ⅰ型)アレルギーを担うのはIgEで、IgDは主にナイーブB細胞表面の抗原受容体として働きます。IgGの胎盤通過は新生児の受動免疫を支える一方、母体自己抗体による新生児疾患の原因にもなり、IgMが胎盤を通らない性質は先天感染の診断に応用されます。各クラスの性質を構造と結びつけて理解しておくことが、感染症の血清診断や周産期医療を考える土台になります。

解答・解説

正解はbです

免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)は B 細胞が分化した形質細胞が産生する抗体で、IgG・IgA・IgM・IgD・IgE の 5 つのクラス(アイソタイプ)に分かれる。クラスは重鎖(H 鎖)の定常部の違いで決まり、それぞれ構造(単量体か多量体か)、分子量、血中濃度、分布する場所、担う機能が異なる。 本問は各クラスの基本的な特徴を横断的に問う知識問題である。整理の軸として次の 4 点を押さえておけば、選択肢を一つずつ判定できる。 1. 血中量:IgG が最も多く、IgE が最も少ない(IgG > IgA > IgM > IgD > IgE)。 2. 分子量:五量体の IgM が最大で、単量体の IgG が最小クラスである。 3. 存在部位:粘膜の分泌液に多いのは分泌型 IgA、胎盤を通って胎児へ移行できるのは IgG のみである。 4. 機能:即時型(Ⅰ型)アレルギーは IgE が肥満細胞・好塩基球に結合して起こる。 この枠組みに照らすと、胎盤通過性を IgG の性質として正しく述べている b が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  IgE量は最も多い。

    誤り。IgE は 5 クラスのうち血中濃度が最も低い。健常成人の血清中では数百 IU/mL 以下(ng/mL オーダー)で、全免疫グロブリンのごく一部を占めるにすぎない。IgE の多くは血中を漂うのではなく、肥満細胞や好塩基球の表面にある高親和性 IgE 受容体(FcεRI)に結合した状態で存在する。血中で最も多いのは IgG で、総免疫グロブリンの約 70〜75% を占める。

  2. ○b.  IgGは胎盤を通過する。

    IgG は胎盤を通過できる唯一の免疫グロブリンである。胎盤の合胞体栄養膜細胞には新生児 Fc 受容体(FcRn)が発現しており、母体の IgG を Fc 部分で捉えて胎児側へ能動的に輸送する。分子量が約 15 万の単量体であることも通過に有利である。この仕組みにより、新生児は生後数か月間、母親由来の IgG による受動免疫で感染から守られる。一方で、母体の自己抗体(抗アセチルコリン受容体抗体、抗 TSH 受容体抗体、抗 SS-A 抗体など)や、Rh 不適合妊娠での抗 D 抗体も IgG であれば胎児に移行し、新生児一過性重症筋無力症、新生児バセドウ病、新生児ループス(先天性完全房室ブロック)、胎児・新生児溶血性疾患の原因となる。

  3. ×c.  IgDは分泌液中に存在する。

    誤り。唾液・涙液・母乳(初乳)・気道や腸管の粘液などの分泌液に多量に含まれ、粘膜免疫の主役となるのは分泌型 IgA である。分泌型 IgA は IgA 二量体に J 鎖と分泌成分(secretory component)が結合したもので、分泌成分により消化酵素から守られる。IgD は主に成熟したナイーブ B 細胞の表面に IgM とともに発現し、抗原受容体(B 細胞受容体)として働くと考えられている。血中にもわずかに存在するが、その生理的な役割はまだ十分に解明されていない。

  4. ×d.  IgMは分子量が最も小さい。

    誤り。分泌型の IgM は、基本単位(H 鎖 2 本と L 鎖 2 本)が 5 つ J 鎖でつながった五量体で、分子量は約 90 万と免疫グロブリンの中で最も大きい。大きすぎるため胎盤は通過しない。抗原結合部位を 10 個もつため凝集能や補体活性化能が高く、感染初期に最初に産生される抗体として働く。分子量が最も小さいのは単量体の IgG(約 15 万)である。なお B 細胞表面の膜型 IgM は単量体である。

  5. ×e.  IgAは即時型アレルギーに関与する。

    誤り。即時型(Ⅰ型)アレルギーに関与するのは IgE である。肥満細胞や好塩基球の FcεRI に結合した IgE にアレルゲンが結合して架橋が起こると、細胞が脱顆粒し、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出される。その結果、数分〜数十分以内に蕁麻疹、気管支喘息発作、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシーなどの症状が現れる。IgA は主に粘膜表面で病原体や毒素の付着・侵入を防ぐ(中和する)役割を担う。

免疫グロブリン 5 クラスの比較

IgG:単量体、分子量約 15 万。血中で最多(約 70〜75%)。胎盤通過性あり。二次免疫応答の主体で、オプソニン化・補体活性化・中和・抗体依存性細胞傷害(ADCC)を担う。IgG1〜IgG4 のサブクラスがある。半減期は約 3 週間と最も長い。 IgA:血中では主に単量体、分泌液中では二量体(分泌型 IgA、分子量約 40 万)。血中で 2 番目に多い。粘膜免疫の中心で、初乳に多く含まれ乳児の腸管を守る。 IgM:五量体(分子量約 90 万)で最大。初回感染時に最初に産生される。補体活性化能が高い。ABO 血液型の自然抗体(抗 A・抗 B)の多くは IgM であるため、ABO 不適合妊娠は Rh 不適合に比べて重症化しにくい。 IgD:単量体。主にナイーブ B 細胞表面に抗原受容体として存在する。血中濃度はごく低い。 IgE:単量体(分子量約 19 万)。血中濃度が最も低い。Ⅰ型アレルギーと寄生虫(蠕虫)に対する防御に関与する。

臨床での応用

・特異的 IgM 抗体の上昇は初感染・急性期感染を示唆し、IgG 抗体はそれ以降の感染や既往を示す。 ・臍帯血で病原体特異的 IgM が高値なら、IgM は胎盤を通らないため胎児自身が作ったもの、すなわち先天感染を示唆する。 ・新生児期の IgG は母体由来で、生後 3〜6 か月ごろに最低となる(生理的低 γ グロブリン血症)。

POINT

・血中量:IgG > IgA > IgM > IgD > IgE ・分子量最大は五量体の IgM、最小は単量体の IgG ・胎盤を通過するのは IgG のみ(FcRn を介した能動輸送) ・分泌液中の主な抗体は分泌型 IgA(二量体+J 鎖+分泌成分) ・即時型(Ⅰ型)アレルギーは IgE、初期免疫応答は IgM

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。