StudyMed医師国家試験

すり減るのは水とプロテオグリカン―関節軟骨の加齢変化を成分から読み解く

第100回医師国家試験 G問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第48問

関節軟骨の加齢変化はどれか。

  1. a.硝子様軟骨の菲薄化
  2. b.細胞数の増加
  3. c.弾性線維の減少
  4. d.Ⅱ型コラーゲンの増加
  5. e.プロテオグリカンの増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、関節軟骨が年をとるとどう変わるかを問う問題だ。ポイントは、関節軟骨が「何でできているか」を押さえたうえで、それぞれの成分が増えるのか減るのか、そもそも存在するのかを一つずつ確かめること。まず、関節軟骨はどの種類の軟骨だったかな。
医学生医学生
硝子軟骨です。組織学の実習で、肋軟骨や気管軟骨と同じ仲間だと習いました。
ドクタードクター
その通り。硝子軟骨には血管も神経もリンパ管もなく、栄養は関節液からの拡散に頼っている。細胞は軟骨細胞だけで、組織全体のごく一部しか占めない。大部分は細胞外基質で、その中身は水分、Ⅱ型コラーゲン、そしてプロテオグリカンだ。
医学生医学生
コラーゲンとプロテオグリカンは、それぞれどんな役割をしているんですか。
ドクタードクター
Ⅱ型コラーゲンは網目構造をつくって引っ張る力に抵抗する。その網の中に、アグリカンなどのプロテオグリカンがヒアルロン酸に結合した巨大な凝集体として詰まっている。プロテオグリカンは負に荷電したグリコサミノグリカンをたくさん持っていて、大量の水を引きつける。この膨らもうとする力が、圧縮に対するクッションになるんだ。
医学生医学生
スポンジが水を含んで弾むようなイメージですね。では年をとると、そのスポンジが乾いていく感じでしょうか。
ドクタードクター
いいたとえだね。軟骨細胞は成人以降ほとんど増殖せず、加齢で数も代謝活性も落ちていく。そのため基質の産生が減り、特にプロテオグリカンと水分が減少する。結果として弾力と衝撃吸収能が失われ、硝子軟骨は菲薄化していく。だから正解は硝子様軟骨の菲薄化だ。
医学生医学生
X線で軟骨は写らないので、菲薄化は関節裂隙の狭小化として見えるんですよね。
ドクタードクター
その通り。整形外科の外来でよく見る所見だね。では残りの選択肢も確認しよう。細胞数の増加はどうかな。
医学生医学生
軟骨細胞はほとんど増殖しないので、増えることはないと思います。でも、変形性関節症の病理で細胞が集まっている像を見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。変形性関節症の病変部では軟骨細胞がクラスターをつくることがあるけれど、それは損傷への反応であって、加齢で細胞数が増えるわけではない。全体としては減っていく方向だ。次に弾性線維の減少はどうだろう。
医学生医学生
弾力が落ちるなら、弾性線維が減るのは正しそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこがひっかけなんだ。硝子軟骨にはもともと弾性線維がほとんど含まれていない。弾性線維に富むのは耳介や喉頭蓋の弾性軟骨だよ。「弾力が落ちる」という性質の変化と、「弾性線維」という成分を混同しないことが大切だ。
医学生医学生
Ⅱ型コラーゲンとプロテオグリカンの増加は、どちらも減るか変わらない成分なので誤りですね。
ドクタードクター
その通り。プロテオグリカンは加齢で減り、アグリカン分子が小型化したり、コンドロイチン硫酸が減ってケラタン硫酸の割合が相対的に増えたりする。Ⅱ型コラーゲンは量としては大きく変わらず、むしろ質が変わる。分子間の架橋や終末糖化産物(AGEs)がたまって、硬く脆くなるんだ。軟骨が黄色っぽくなるのもこのためと考えられている。
医学生医学生
量ではなく質が変わるのがコラーゲン、量が減るのがプロテオグリカンと水、と整理できました。
ドクタードクター
完璧だね。最後に臨床的な視点を加えておこう。加齢変化は変形性関節症の素地になるけれど、両者は同じではない。変形性関節症では、力学的負荷やIL-1などの炎症性サイトカインを背景に、MMP-13やADAMTSといった酵素が基質を分解する。初期にはむしろ軟骨の水分が増えて膨潤することもあり、そこが純粋な加齢変化との違いだ。
医学生医学生
進行すると、軟骨下骨の硬化や骨棘、骨嚢胞が出てくるんでしたね。
ドクタードクター
そう。そして関節軟骨は血流がないので、一度傷つくと自己修復がとても難しい。だからこそ体重管理や筋力訓練で関節への負担を減らすことが、予防として重視されるんだ。

まとめ

関節軟骨は硝子軟骨で、血管・神経をもたず、水分、Ⅱ型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン)を主成分とします。加齢により軟骨細胞の数と活性が低下し、保水性を担うプロテオグリカンと水分が減少するため、軟骨は弾力を失って菲薄化し、X線では関節裂隙の狭小化として現れます。軟骨細胞は増えず、Ⅱ型コラーゲンは量ではなく架橋やAGEs蓄積という質的変化を示し、弾性線維は耳介や喉頭蓋の弾性軟骨の成分で硝子軟骨にはほとんど含まれません。加齢変化は変形性関節症の素地となりますが、変形性関節症では蛋白分解酵素による基質分解や初期の膨潤など独自の変化が加わります。軟骨の構成成分と役割を理解しておくことは、関節疾患の病態や予防を考える基礎になります。

解答・解説

正解はaです

関節軟骨の構成成分と、それが加齢によってどう変化するかを問う問題である。

関節軟骨の構成

関節面を覆う軟骨は硝子軟骨(硝子様軟骨)であり、血管・神経・リンパ管をもたない。構成は次のとおりである。 ・細胞: 軟骨細胞のみで、組織全体に占める体積はごくわずか(数%程度)である。細胞は基質を産生・維持する。 ・細胞外基質: 水分が湿重量の大部分(約70〜80%)を占める。固形成分の主体はⅡ型コラーゲンで、網目構造をつくって引っ張りに抵抗する。その網目の中に、アグリカンなどのプロテオグリカンがヒアルロン酸に結合した巨大な凝集体として存在する。プロテオグリカンは負に荷電したグリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸)を多数もち、大量の水を引きつけて圧縮に抵抗する弾力を生む。 ・弾性線維は硝子軟骨にはほとんど含まれない(弾性線維に富むのは耳介や喉頭蓋の弾性軟骨である)。

加齢変化

軟骨細胞は成人以降ほとんど増殖せず、加齢とともに数・代謝活性ともに低下する。その結果、基質の産生が落ち、特にプロテオグリカン(とくにコンドロイチン硫酸)と水分が減少する。コラーゲンは量としては大きく変わらないが、架橋の増加や終末糖化産物(AGEs)の蓄積により硬く脆くなり、軟骨は黄色調を帯びる。こうして軟骨の弾力と衝撃吸収能が低下し、硝子軟骨は菲薄化し、表面の粗糙化・細線維化(fibrillation)・びらんが生じうる。これが変形性関節症の素地となる。 以上から、「減少する(または変わらない)もの」が「増加する」とされている選択肢や、もともとほとんど存在しない成分の変化を述べた選択肢は誤りとなり、加齢変化として正しいのは硝子様軟骨の菲薄化である。

選択肢考察

  1. ○a.  硝子様軟骨の菲薄化

    正解。加齢により軟骨細胞の基質産生能が低下し、保水性を担うプロテオグリカンと水分が減少するため、硝子軟骨は弾力を失い、摩耗に対する抵抗性が落ちて菲薄化する。進行すると表面の粗糙化、細線維化、亀裂、びらんがみられ、変形性関節症に移行しうる。単純X線写真では軟骨そのものは写らないため、軟骨の菲薄化は関節裂隙の狭小化として観察される。

  2. ×b.  細胞数の増加

    誤り。関節軟骨の軟骨細胞は密度がもともと低く、成長期に減少したのち成人ではほぼ一定かゆるやかに減少していく。成熟した軟骨細胞は増殖能に乏しく、加齢で細胞数が増えることはない。なお変形性関節症の病変部では軟骨細胞が集簇(クラスター形成)することがあるが、これは損傷に対する反応であり、加齢による細胞数の増加ではない。

  3. ×c.  弾性線維の減少

    誤り。関節軟骨(硝子軟骨)の線維成分の主体はⅡ型コラーゲンであり、弾性線維はほとんど含まれない。したがって弾性線維の減少は関節軟骨の加齢変化の特徴とはいえない。弾性線維に富むのは耳介・喉頭蓋・外耳道などの弾性軟骨である。「弾力が低下する」という性質の変化と「弾性線維」という成分とを混同しないことが重要である。

  4. ×d.  Ⅱ型コラーゲンの増加

    誤り。Ⅱ型コラーゲンは軟骨細胞が産生し、成長期には増加するが、成長完了後の量は大きく変わらない。加齢で目立つのは量ではなく質の変化で、コラーゲン分子間の架橋や終末糖化産物(AGEs)が増えてコラーゲン網が硬く脆くなり、進行すると線維の断裂や網目構造の崩壊が生じる。Ⅱ型コラーゲンが増加するわけではない。

  5. ×e.  プロテオグリカンの増加

    誤り。プロテオグリカンは加齢により減少する。質的にもアグリカン分子が小型化し、グリコサミノグリカン組成が変化する(コンドロイチン硫酸が減り、ケラタン硫酸の割合が相対的に増える)。プロテオグリカン凝集体が減ると保水能が落ち、圧縮力に対する抵抗性が低下して、力学的ストレスに弱くなる。これが軟骨菲薄化の主因の一つである。

軟骨の3種類

・硝子軟骨: 関節軟骨、肋軟骨、気管軟骨、成長板など。線維はⅡ型コラーゲン。 ・弾性軟骨: 耳介、喉頭蓋、外耳道など。弾性線維に富む。 ・線維軟骨: 椎間板の線維輪、恥骨結合、関節半月(半月板)など。Ⅰ型コラーゲンが多い。

関節軟骨の特徴

・血管、神経、リンパ管をもたず、栄養は関節液からの拡散に依存する。このため損傷後の自己修復能が乏しい。 ・Ⅱ型コラーゲンの網目が引っ張り力に、プロテオグリカンの保水による膨潤圧が圧縮力に抵抗する。

加齢変化と変形性関節症の違い

・加齢変化: 軟骨細胞の数と活性の低下、プロテオグリカン・水分の減少、コラーゲン架橋・AGEsの増加、黄色化、菲薄化。 ・変形性関節症(OA): 加齢変化を背景に、力学的負荷や炎症性サイトカイン(IL-1など)の関与で蛋白分解酵素(MMP-13などのマトリックスメタロプロテアーゼ、ADAMTS)が基質を分解する。初期には軟骨の水分がむしろ増えて膨潤することがあり、純粋な加齢変化とは異なる。進行すると軟骨下骨の硬化、骨棘形成、骨嚢胞がみられ、X線では関節裂隙の狭小化として現れる。

POINT

・関節軟骨は硝子軟骨で、主成分は水、Ⅱ型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン) ・硝子軟骨には弾性線維はほとんどない(弾性軟骨は耳介・喉頭蓋) ・加齢変化: プロテオグリカンと水分が減少 → 弾力低下 → 軟骨の菲薄化・表面の細線維化 ・軟骨細胞は増えない(むしろ減少)、Ⅱ型コラーゲンの量は増えない(質的変化=架橋増加)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。