若者の血便、まず何を出す?―潰瘍性大腸炎は「重症度」で治療が決まる
第100回医師国家試験 F問題 第28問
国試問題にチャレンジ
21歳の男性。下痢と血便とを主訴に来院した。2か月前から微熱,軟便および倦怠感があったが,勉強が忙しかったので放置していた。2日前から37℃ 台の発熱があり,1日3,4行の血液を混じた軟便がある。血液所見:赤沈10mm/1時間,赤血球480万,Hb 14.2g/dL,白血球7,900。大腸内視鏡写真を別に示す。 まず行う治療として適切なのはどれか。

- a.酸分泌抑制薬投与
- b.抗菌薬投与
- c.サラゾスルファピリジン投与
- d.副腎皮質ステロイド薬投与
- e.中心静脈栄養
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の持続する粘血便で、内視鏡で直腸から連続する血管透見消失、びらん、浅い潰瘍を認めれば潰瘍性大腸炎を考えます。治療方針は病変範囲と重症度で決まり、重症度は排便回数、顕血便、発熱、頻脈、貧血、赤沈(CRP)の6項目で判定します。軽症〜中等症の寛解導入と寛解維持の第一選択は5-ASA製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン)であり、ステロイドは5-ASA無効例や重症例の寛解導入に限って使い、寛解維持には用いません。抗菌薬や酸分泌抑制薬は病態に合わず、中心静脈栄養は重症・劇症例での手段です。重症度に応じて治療を段階的に強めるという考え方は、炎症性腸疾患の診療全体の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・21歳男性。若年発症である。 ・2か月前から微熱、軟便、倦怠感が続いており、急性ではなく慢性の経過である。 ・2日前から37℃台の発熱と、1日3〜4回の血液が混じった軟便(血便)がある。 ・血液所見は赤沈10mm/1時間(正常)、Hb 14.2g/dL(貧血なし)、白血球7,900/μL(ほぼ正常)であり、全身の炎症反応や貧血は目立たない。 ・大腸内視鏡では、粘膜がびまん性に発赤・浮腫状となり、血管透見像が消失し、びらんや浅い潰瘍がみられる。
診断へのプロセス
若年者で数週間以上続く下痢・血便があり、内視鏡で連続性・びまん性の粘膜炎症(血管透見消失、発赤、びらん・浅い潰瘍)を認めることから、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)と診断できる。鑑別として、感染性腸炎(細菌性赤痢、カンピロバクター腸炎、アメーバ赤痢など)、Crohn病、虚血性大腸炎、薬剤性腸炎などを考える。2か月に及ぶ慢性経過は通常の細菌性腸炎としては長く、Crohn病でみられる縦走潰瘍や敷石像、非連続性(区域性)の病変も示されていない。なお実際の診療では、便培養や病理検査で感染症などを除外したうえで診断を確定する。
重症度の判定
UCの治療方針は、病変の範囲(直腸炎型・左側大腸炎型・全大腸炎型)と重症度によって決まる。重症度は、①排便回数、②顕血便、③発熱、④頻脈、⑤貧血、⑥赤沈(またはCRP)の6項目で判定する。本例は排便1日3〜4回、発熱は37℃台、Hbと赤沈は正常であり、重症の基準(排便6回/日以上など)は満たさない。したがって軽症〜中等症と考えられる。
設問の考え方
「まず行う治療」を問われているので、軽症〜中等症UCの寛解導入の第一選択薬を選べばよい。これは5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤であり、選択肢の中ではサラゾスルファピリジンがこれにあたる。
選択肢考察
- ×a. 酸分泌抑制薬投与
プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬などの酸分泌抑制薬は、胃酸による粘膜傷害が関わる胃・十二指腸潰瘍や逆流性食道炎の治療薬である。大腸の粘膜に起こる免疫学的な炎症であるUCには効果がなく、適応とならない。
- ×b. 抗菌薬投与
抗菌薬は細菌性腸炎などの感染症に用いる。本例は2か月に及ぶ慢性経過で内視鏡所見もUCに典型的であり、白血球数も正常で細菌感染の合併を示す所見はない。UCは感染症ではないので、抗菌薬は初期治療として適切でない。
- ○c. サラゾスルファピリジン投与
サラゾスルファピリジンは、5-ASA(メサラジン)とスルファピリジンがアゾ結合した薬剤で、大腸の腸内細菌によって結合が切断されて5-ASAが遊離し、大腸粘膜で局所的に抗炎症作用を発揮する。軽症〜中等症UCの寛解導入および寛解維持の第一選択は5-ASA製剤(メサラジンまたはサラゾスルファピリジン)であり、本例は重症の基準を満たさないため、まずこれを投与する。副作用はスルファピリジン部分によるものが多く、発疹、頭痛、悪心、男性の可逆的な精子数減少による不妊などがある。そのため現在は副作用の少ないメサラジンが選ばれることが多いが、いずれも5-ASA製剤として第一選択に位置づけられる。
- ×d. 副腎皮質ステロイド薬投与
副腎皮質ステロイドはUCの寛解導入に有効な薬剤であるが、5-ASA製剤で効果が不十分な中等症例や、重症例に用いるものである。寛解維持の効果はなく、長期に使うと骨粗鬆症、糖尿病、感染症などの副作用が問題となる。本例は軽症〜中等症と考えられるので、最初に投与する薬剤ではない。
- ×e. 中心静脈栄養
中心静脈栄養は、重症例や劇症例で絶食による腸管安静が必要な場合や、経口摂取が十分にできない場合に行われる。本例は重症ではなく経口摂取も可能と考えられ、侵襲の大きい中心静脈栄養を最初に行う必要はない。
潰瘍性大腸炎の概要
大腸粘膜にびらんや潰瘍をつくる原因不明のびまん性・非特異性炎症であり、指定難病である。10〜30歳代の若年者に好発する。病変は直腸から口側へ連続性に広がり、原則として粘膜層にとどまる。症状は持続・反復する粘血便、下痢、腹痛であり、発熱・体重減少を伴うこともある。腸管外合併症として、関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎、原発性硬化性胆管炎などがある。長期の経過例では大腸癌のリスクが高まる。
内視鏡所見
血管透見像の消失、粘膜の粗糙・細顆粒状変化、易出血性(接触出血)、膿性粘液の付着、びらん・多発する浅い潰瘍、偽ポリポーシスなどがみられ、これらが直腸から連続性・びまん性に分布する。
重症度分類(厚生労働省研究班)
・重症の目安: 排便6回/日以上、顕血便(+++)、発熱37.5℃以上、頻脈90/分以上、Hb 10g/dL以下、赤沈30mm/時以上またはCRP 3.0mg/dL以上。①排便回数と②顕血便に加え、③発熱または④頻脈のいずれかを満たし、かつ6項目中4項目以上を満たすものを重症とする。 ・軽症: 排便4回/日以下、血便は軽度、発熱・頻脈なし、貧血なし、赤沈正常。 ・中等症: 重症と軽症の中間。 ・劇症: 重症の中でも特に症状が激しく、15回/日以上の血性下痢が続き、38℃以上の持続する高熱、白血球増多などを伴い、急速に悪化するもの。
重症度別の治療の流れ(寛解導入)
・軽症〜中等症: 5-ASA製剤(経口、直腸炎型・左側大腸炎型では坐剤・注腸も併用)。効果不十分なら副腎皮質ステロイドを追加する。 ・重症: 入院し、全身管理のうえで副腎皮質ステロイドを経静脈的に投与する。 ・ステロイド抵抗性・依存性: 血球成分除去療法、カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)、抗TNF-α抗体などの生物学的製剤、JAK阻害薬、チオプリン製剤(アザチオプリンなど)を用いる。 ・劇症、大量出血、穿孔、中毒性巨大結腸症、内科治療抵抗例、大腸癌合併例: 外科手術(大腸全摘術)の適応となる。 ・寛解維持: 5-ASA製剤が基本で、必要に応じてチオプリン製剤などを用いる。ステロイドは寛解維持には用いない。
POINT
・若年者の慢性の粘血便と、直腸から連続する血管透見消失・びらん・浅い潰瘍 → 潰瘍性大腸炎。 ・重症度は排便回数、顕血便、発熱、頻脈、貧血、赤沈(CRP)の6項目で判定する。 ・軽症〜中等症の第一選択は5-ASA製剤(メサラジン、サラゾスルファピリジン)。 ・ステロイドは5-ASA無効例や重症例の寛解導入に用い、寛解維持には用いない。 ・サラゾスルファピリジンでは男性不妊(精子減少)などスルファピリジン由来の副作用に注意する。
