声帯に咲いたカリフラワー―非喫煙者の長引く嗄声と喉頭乳頭腫
第100回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。嗄声を主訴に来院した。2年前から誘因なく嗄声が出現し,咽喉異物感と慢性的な咳とが続いている。喫煙歴と飲酒歴とはない。喉頭内視鏡写真を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.喉頭癌
- b.声帯結節
- c.喉頭乳頭腫
- d.慢性喉頭炎
- e.ポリープ様声帯
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喉頭に乳頭状(カリフラワー状)の腫瘤が多発していれば、HPV 6型・11型による良性腫瘍である喉頭乳頭腫を考えます。嗄声が最も多い症状で、増大すると異物感や咳、喘鳴、呼吸困難を来し、非喫煙・長期経過は悪性より良性を支持しますが、成人型はまれに癌化するため生検での確認が必要です。鑑別として、喉頭癌は喫煙する高齢男性の不整な片側性病変、声帯結節は声の酷使による両側対称の小隆起、ポリープ様声帯は重喫煙者の両側性の浮腫状腫脹、慢性喉頭炎はびまん性の発赤・肥厚と整理できます。治療は内視鏡下切除が基本ですが再発しやすく、気管切開は気管への播種のおそれがあるため避けるとされます。腫瘤の表面性状・分布・背景因子の3点で嗄声の原因を絞り込む考え方は、喉頭疾患の診断全般に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳男性、主訴は嗄声(させい:声のかすれ)。 ・2年前から明らかなきっかけなく嗄声が始まり、咽喉頭の異物感と慢性の咳を伴っている。経過は年単位と長い。 ・喫煙歴・飲酒歴はない。 ・喉頭内視鏡写真では、喉頭(声帯周囲)に表面が細かい凹凸を示す乳頭状(カリフラワー状・ブドウの房状)の腫瘤が多発している。
診断へのプロセス
嗄声の原因は大きく、①声帯そのものの病変(結節、ポリープ、ポリープ様声帯、腫瘍、炎症)、②声帯の運動障害(反回神経麻痺など)に分けられる。本例は内視鏡で明らかな腫瘤性病変が見えているので、①の中でも「腫瘤の形」から考えるのが近道である。 腫瘤を見たときは次の点を確認する。 ・表面の性状:細かい乳頭状の突起が集まった形か、平滑か、潰瘍・壊死を伴う不整な形か。 ・分布:多発性か単発か、両側対称か片側か。 ・背景:喫煙・飲酒の有無、年齢、声の酷使の有無。 本例は「乳頭状の腫瘤が多発」しており、これは喉頭乳頭腫(ヒトパピローマウイルス〔HPV〕6型・11型の感染による良性上皮性腫瘍)に典型的な像である。また、喉頭癌の最大の危険因子である喫煙がなく、2年という長い経過で進行性の呼吸困難や頸部リンパ節腫脹などの記載もないことは、悪性腫瘍よりも良性病変を支持する。一方、乳頭腫は気道内で増大すると咽喉異物感や咳の原因となり、本例の症状と矛盾しない。
設問の考え方
「最も考えられる」疾患を選ぶ問題である。内視鏡所見の「多発する乳頭状腫瘤」というキーワードと、非喫煙者で長期経過という病歴を組み合わせれば、喉頭乳頭腫に到達できる。
選択肢考察
- ×a. 喉頭癌
喉頭癌の大部分は扁平上皮癌で、最大の危険因子は喫煙(次いで飲酒)であり、患者の多くは高齢の喫煙男性である。内視鏡では表面が不整で、白色の角化(白斑)や潰瘍・易出血性を伴う片側性の病変として見えることが多く、進行すれば声帯の運動制限・固定を伴う。本例は喫煙・飲酒歴がなく、所見も多発する乳頭状腫瘤であり、喉頭癌よりも乳頭腫が考えやすい。ただし成人型の喉頭乳頭腫はまれに癌化しうるため、実臨床では生検による組織確認が必要である。
- ×b. 声帯結節
声帯結節は、声の酷使(歌手、教師、よく叫ぶ小児など)により、声帯膜様部の中央付近(前1/3と中1/3の境界)に両側対称性に生じる小さな隆起である。「ペンだこ」のように粘膜上皮が肥厚した硬い小結節で、表面は比較的平滑である。本例のように多発する乳頭状腫瘤とはならないため誤り。
- ○c. 喉頭乳頭腫
喉頭乳頭腫はHPV(主に6型・11型)感染による良性腫瘍で、喉頭、特に声帯周囲に乳頭状(カリフラワー状)の腫瘤が多発するのが特徴である。症状は嗄声が最も多く、増大すると咽喉異物感、咳、さらには喘鳴や呼吸困難を来す。本例は、長期の嗄声・異物感・咳という症状、非喫煙者であること、そして内視鏡で多発する乳頭状腫瘤を認めることがすべて合致し、最も考えられる。
- ×d. 慢性喉頭炎
慢性喉頭炎は喫煙、声の酷使、胃食道逆流、慢性的な上気道炎症などを背景に、喉頭粘膜のびまん性の発赤・腫脹・肥厚や粘稠な分泌物の付着を示す状態である。嗄声や咳、異物感は起こりうるが、内視鏡所見は粘膜の広範な炎症性変化であり、限局した乳頭状腫瘤が多発する像ではない。
- ×e. ポリープ様声帯
ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)は、声帯粘膜直下の粘膜固有層浅層(ラインケ腔)に浮腫が生じ、声帯全長にわたって水っぽく膨らむ病態である。ほとんどが両側性で、重喫煙者、特に中年以降の女性に多く、声が低くなる(男性様の低音声)のが特徴である。表面は平滑で半透明の浮腫状を呈し、乳頭状の腫瘤ではない。本例は喫煙歴もなく合致しない。
喉頭乳頭腫(再発性呼吸器乳頭腫症)の概要
・原因:HPV 6型・11型(低リスク型)の感染。尖圭コンジローマと同じ型である。 ・病型: 若年型(小児型)…主に5歳未満で発症。分娩時の産道感染(母親の尖圭コンジローマ)が主な感染経路とされる。多発しやすく再発を繰り返し、気道狭窄による呼吸困難を来すことがある。 成人型…20〜40歳代以降の男性に多い。単発〜多発。まれに悪性化(扁平上皮癌)することがある。 ・好発部位:声帯を中心とした喉頭。気管・気管支、まれに肺へ広がることもある。 ・症状:嗄声が最多。増大により咽喉異物感、咳、喘鳴、呼吸困難。 ・診断:喉頭内視鏡で乳頭状(カリフラワー状)腫瘤を確認し、生検で病理診断(HPVによる細胞変化としてコイロサイトーシスを伴うことがある)。 ・治療:内視鏡下の喉頭微細手術(CO2レーザー、マイクロデブリッダーなど)による切除が基本。再発を繰り返すことが多く、複数回の手術を要する。難治例には補助療法(抗ウイルス薬のシドフォビル局所注射、ベバシズマブなど)が試みられる。HPVワクチンによる予防や再発抑制の効果も期待されている。 ・気道確保のための気管切開は、気管への病変の播種を招くおそれがあるため、可能な限り避けるとされる。
嗄声を来す主な声帯病変の鑑別
・声帯結節:両側対称、声帯前1/3と中1/3の境界、小さく硬い隆起。声の酷使。 ・声帯ポリープ:多くは片側性、同じく声帯前〜中部の遊離縁に有茎性または広基性の平滑な腫瘤。声の酷使・喫煙。 ・ポリープ様声帯:両側性で声帯全長にわたる浮腫状腫脹。重喫煙者、中年女性に多く、声が低くなる。 ・喉頭乳頭腫:乳頭状(カリフラワー状)腫瘤の多発。HPV。再発しやすい。 ・喉頭癌:不整な腫瘤、白斑、潰瘍。高齢の喫煙男性。声門癌が最多。 ・慢性喉頭炎:びまん性の発赤・肥厚。
POINT
・喉頭に乳頭状(カリフラワー状)の腫瘤が多発していれば喉頭乳頭腫を考える。 ・原因はHPV 6型・11型。若年型(産道感染)と成人型があり、成人型はまれに癌化する。 ・治療は内視鏡下切除(レーザーなど)だが再発を繰り返しやすい。 ・喫煙歴なし・長期経過は悪性よりも良性病変を支持するが、確定には生検が必要。 ・声帯結節=両側対称・声の酷使、ポリープ様声帯=両側浮腫状・重喫煙、喉頭癌=不整・喫煙高齢男性、と要点で鑑別する。
