お腹だけは「聴く」が先―腹部診察の順番に隠された理由
第100回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
腹部の診察で視診に続く順番として最も適切なのはどれか。
- a.聴診 → 打診 → 触診
- b.触診 → 打診 → 聴診
- c.触診 → 聴診 → 打診
- d.打診 → 聴診 → 触診
- e.打診 → 触診 → 聴診
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
身体診察は一般に視診→触診→打診→聴診の順で行いますが、腹部は例外で、視診→聴診→打診→触診の順に進めます。打診や触診の刺激で腸管運動が変化すると腸蠕動音を正しく評価できないため、刺激の少ない聴診を視診の直後に行い、腸蠕動音の亢進・金属音・減弱や消失、血管雑音を確認します。続く打診と触診は、患者への刺激・苦痛の少ないものから多いものへ進める原則に従い、打診で鼓音・濁音の分布や腹水を評価したのち、最後に触診で圧痛、反跳痛、筋性防御、腫瘤や臓器腫大を調べ、痛む部位から離れたところから始めます。順番の根拠を理解しておくことは、正確な所見をとるだけでなく、患者の苦痛を減らし協力を得る診察技術の基本にもなります。
解答・解説
正解はaです
身体診察は一般に「視診→触診→打診→聴診」の順で進めるが、腹部だけは例外であり、「視診→聴診→打診→触診」の順で行う。本問はこの例外を理解しているかを問うている。 理由は二つある。第一に、腸蠕動音は腹壁への刺激で変化しやすい。先に打診や触診で腹部を叩いたり押したりすると腸管運動が誘発・変化し、本来の蠕動音(亢進・減弱・消失、金属音など)を正しく評価できなくなる。そこで、腹部に触れる刺激が最も少ない聴診を視診の直後に行う。第二に、診察は患者への刺激や苦痛の少ないものから多いものへ進めるのが原則である。打診は軽く叩くだけだが、触診は腹壁を圧迫し、圧痛部位を押せば痛みや筋性防御を誘発する。痛みを先に与えると患者が緊張して腹壁が硬くなり、その後の所見がとりにくくなる。したがって打診を先に、触診を最後に行う。 以上から、視診に続く順番は聴診→打診→触診となる。
選択肢考察
- ○a. 聴診 → 打診 → 触診
腹部に物理的な刺激を加えない聴診を最初に行うことで、打診や触診によって変化する前の腸蠕動音や血管雑音を評価できる。続いて刺激の軽い打診で鼓音・濁音の分布(ガス、腹水、臓器腫大など)を確認し、最後に圧迫を伴い苦痛を生じうる触診で圧痛、筋性防御、腫瘤、臓器の大きさなどを調べる。腸管運動への影響と刺激の強さの両面から理にかなった順番であり、正解である。
- ×b. 触診 → 打診 → 聴診
最初に触診で腹部を圧迫すると腸管運動が変化し、あとで聴取する腸蠕動音が本来の状態を反映しなくなる。また、圧痛のある部位を先に押すと患者が痛みで身構え、腹壁が緊張して以後の診察が難しくなる。腹部診察の順番としては不適切である。
- ×c. 触診 → 聴診 → 打診
最も刺激の強い触診を最初に行っている点で不適切である。触診後に聴診しても腸蠕動音は触診による刺激の影響を受けており、正確な評価ができない。さらに痛みを先に与えることで患者の協力も得にくくなる。
- ×d. 打診 → 聴診 → 触診
触診を最後にしている点は正しいが、打診で腹壁を叩く刺激が腸管運動に影響しうるため、打診を聴診より先に行うのは適切でない。腸蠕動音を刺激のない状態で評価するため、聴診を打診より先に行う。
- ×e. 打診 → 触診 → 聴診
これは胸部など他の部位での一般的な順番(打診・触診の後に聴診)に近いが、腹部では打診・触診による刺激で腸蠕動音が変化してしまうため、聴診を最後にすると正確な評価ができない。腹部診察の順番としては不適切である。
腹部診察の実際
・準備: 患者を仰臥位とし、膝を軽く曲げて腹壁の緊張をゆるめる。検者は通常患者の右側に立ち、手を温めておく。 ・視診: 腹部の膨隆・陥凹、手術痕、皮膚線条、静脈怒張(メドゥーサの頭など)、蠕動不穏、ヘルニアの有無などを観察する。 ・聴診: 腸蠕動音を聴取する。亢進(下痢、機械的腸閉塞の初期)、金属音(機械的腸閉塞)、減弱・消失(麻痺性イレウス、汎発性腹膜炎)などを評価する。蠕動音がないと判断するには一定時間(成書により1〜数分程度)聴取を続ける必要がある。腹部大動脈や腎動脈の血管雑音も確認する。 ・打診: 鼓音(腸管ガス)と濁音(実質臓器、腹水、腫瘤)の分布をみる。肝濁音界の測定、腹水の検出(濁音界の移動、波動)などを行う。 ・触診: 痛みを訴える部位から離れたところから始め、浅い触診から深い触診へと進める。圧痛、反跳痛(Blumberg 徴候)、筋性防御、腫瘤、肝・脾・腎の触知などを評価する。
診察順序の一般原則
・多くの部位(胸部など): 視診→触診→打診→聴診 ・腹部: 視診→聴診→打診→触診 ・いずれの場合も、患者への刺激・苦痛の少ないものから多いものへ進めるのが原則である。小児では一度泣き出すとその後の診察が困難になるため、特にこの原則を意識し、泣かれる前に聴診を済ませるなどの工夫をする。
POINT
・腹部診察の順番は、視診→聴診→打診→触診である。 ・聴診を先にするのは、打診・触診の刺激で腸蠕動音が変化するのを避けるため。 ・打診→触診の順は、刺激・苦痛の少ないものから多いものへ進めるという原則による。触診は痛い部位から離れたところから始める。 ・一般的な部位の順番(視診→触診→打診→聴診)と区別して覚える。
