「先生にお任せします」の時代は終わった―患者の自己決定権が医療倫理の中心にある理由
第100回医師国家試験 E問題 第1問
国試問題にチャレンジ
現代医療倫理の基本原則はどれか。
- a.患者に医療情報を与えない。
- b.家族の決定を最優先させる。
- c.患者の自己決定権を尊重する。
- d.医師の決定に従うよう求める。
- e.患者の同意は必ずしも必要でない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクターまとめ
現代医療倫理の基本原則は、医師が患者に代わって決めるパターナリズムから脱却し、判断能力のある患者の自己決定権(自律)を尊重することです。その実現手段がインフォームド・コンセントであり、十分な情報提供、患者の理解、自発的な同意または拒否から成り立ちます。家族の意見や医師の推奨は大切ですが、本人の意思に優先するものではなく、家族の代理判断は本人に判断能力がない場合に限られます。同意なしの医療は緊急救命時や法律に定めのある場合などの限られた例外であり、医療倫理の4原則(自律尊重・善行・無危害・正義)やリスボン宣言とあわせて理解しておくことが、日々の診療で患者と向き合う姿勢の土台になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ:パターナリズムから患者の自律の尊重へ
かつての医療では、医師が患者にとって最善と考える方針を決め、患者はそれに従うという関係が一般的だった。これをパターナリズム(父権主義:父親が子どものために決めるように、専門家が本人に代わって決定する考え方)という。この時代には、病名の告知をしないことや、家族にだけ説明することも珍しくなかった。 第二次世界大戦中の非人道的な人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領(1947年)、世界医師会のヘルシンキ宣言(1964年)やリスボン宣言(1981年、患者の権利に関する宣言)、米国での患者の権利運動などを経て、医療における意思決定の主体は患者本人であるという考え方が確立した。現代医療倫理の中心にあるのは、判断能力のある患者が、十分な説明を受けて理解したうえで、自分の受ける医療を自ら選び決定する権利(自己決定権)の尊重である。
正解を導く考え方
自己決定権を実現するには、①医療者からの十分な情報提供、②患者本人による理解と自発的な選択、③その選択(同意または拒否)の尊重、が必要である。これを具体化した手続きがインフォームド・コンセント(説明に基づく同意)である。選択肢のうち、この原則に沿うのは「患者の自己決定権を尊重する」だけであり、他の選択肢は情報を与えない、家族や医師の決定を優先する、同意を不要とするなど、いずれもパターナリズム的な考え方か、患者の自律を損なうものである。
選択肢考察
- ×a. 患者に医療情報を与えない。
患者が自分で判断するためには、病名、病状、検査や治療の内容・目的、期待される効果、危険性や副作用、他の選択肢、何もしなかった場合の見通しなどの情報が不可欠である。情報を与えなければ自己決定は成り立たない。患者には自分の医療情報を知る権利があり、診療録の開示を求めることもできる。なお、患者が「知りたくない」と望む場合には、その意思(知らないでいる権利)も尊重されるが、それは医師が一方的に情報を隠してよいという意味ではない。
- ×b. 家族の決定を最優先させる。
医療について決定する主体は、判断能力のある限り患者本人である。家族の意見は参考として大切にされ、本人が望めば話し合いに加わってもらうことも多いが、本人の意思に優先するものではない。家族が本人の意思を代わりに推定したり、代理で判断したりするのは、意識障害や認知症などで本人に判断能力がない場合などに限られる。その場合でも、本人ならどう望むか(推定意思)を最大限に尊重することが求められる。
- ○c. 患者の自己決定権を尊重する。
自己決定権は、患者が自分の生き方や価値観に基づいて医療を選ぶことを保障する、患者の自律(オートノミー)の根幹となる権利である。医療倫理の4原則(自律尊重、善行、無危害、正義)の第一に挙げられ、インフォームド・コンセントの理論的な基盤でもある。医師は患者を保護して代わりに決める立場ではなく、十分な情報と専門的な助言を提供して、患者の決定を支援する立場にある。これが現代医療倫理の基本原則である。
- ×d. 医師の決定に従うよう求める。
医師が決定して患者に従わせるのは、パターナリズムの典型である。医師は専門家として最善と考える選択肢を示し、推奨することはできるが、最終的な決定は患者本人に委ねられる。医学的に勧められる治療を患者が拒否した場合でも、判断能力のある患者が十分な説明を受けたうえで決めたのであれば、その意思は尊重されなければならない。
- ×e. 患者の同意は必ずしも必要でない。
医療行為は、原則として患者本人の同意(インフォームド・コンセント)を得て行う。身体に侵襲を加える行為は、同意がなければ違法となりうる。例外として、意識障害などで同意が得られない状況での生命に関わる緊急救命処置や、感染症法・精神保健福祉法に基づく入院措置など、法律に定められた場合には同意なしで医療が行われることがある。しかしこれらは限られた例外であり、「同意は必ずしも必要でない」ことを基本原則とする考え方は誤りである。
医療倫理の4原則(ビーチャムとチルドレスによる)
・自律尊重原則:判断能力のある人の自己決定を尊重する。インフォームド・コンセント、守秘義務、真実を告げることなどの根拠となる。 ・善行原則:患者の利益(最善)のために行動する。 ・無危害原則:患者に害を与えない、あるいは害を最小限にする。 ・正義原則:医療資源を公平・公正に配分し、患者を平等に扱う。
インフォームド・コンセントの構成要素
・患者に判断能力(同意能力)があること。 ・医療者から十分な情報が提供されること(病名・病状、検査や治療の目的と内容、利益と危険性、代替手段、治療しない場合の見通しなど)。 ・患者が説明を理解していること。 ・強制されず自発的に決定すること。 ・同意または拒否の意思を表明すること(一度同意しても撤回できる)。
同意が得られない場合・例外
・本人に判断能力がない場合:家族などの代諾者が、本人の推定意思や最善の利益を考慮して判断する。 ・小児:保護者が代諾するが、年齢や理解度に応じて本人にもわかるように説明し、本人の賛意(アセント)を得ることが望ましい。 ・緊急時:生命に関わる緊急事態で同意を得る余裕がなく、本人の意思も確認できない場合は、同意なしに救命処置を行うことが認められる。 ・法律による例外:感染症法に基づく入院勧告・措置、精神保健福祉法に基づく措置入院・医療保護入院など。
関連する国際的文書
・ニュルンベルク綱領(1947年):人体実験における被験者の自発的な同意が絶対に必要であるとした。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会):人を対象とする医学研究の倫理原則。 ・リスボン宣言(1981年、世界医師会):患者の権利に関する宣言。良質な医療を受ける権利、選択の自由、自己決定の権利、情報を得る権利、守秘義務、尊厳への権利などを掲げている。
関連概念
・セカンドオピニオン:主治医以外の医師に意見を求めること。患者の選択を支える手段である。 ・アドバンス・ケア・プランニング(ACP):将来の医療やケアについて、本人・家族・医療者があらかじめ繰り返し話し合っておくプロセス。本人の意思を尊重する取り組みである。 ・共同意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング):医療者の専門知識と患者の価値観を持ち寄り、話し合いながら方針を決めていく方法。
POINT
・現代医療倫理の基本は、パターナリズムから脱却し、患者の自己決定権(自律)を尊重することである。 ・医療倫理の4原則は、自律尊重・善行・無危害・正義である。 ・自己決定を実現する手続きがインフォームド・コンセントであり、十分な情報提供・理解・自発的な同意(または拒否)からなる。 ・判断能力のある患者の決定は、家族の意向や医師の判断より優先される。 ・同意なしの医療は、緊急救命時や法律に定めのある場合など、限られた例外に限られる。 ・リスボン宣言は患者の権利に関する宣言である。
