靴ずれが命取りに?―悪臭を放つ糖尿病足潰瘍に「まずやるべきこと」
第100回医師国家試験 D問題 第24問
国試問題にチャレンジ
44歳の男性。右足の潰瘍の悪化を主訴に来院した。7年前に糖尿病を指摘されている。3年前に靴ずれのあとが潰瘍化し,滲出液が出るようになった。来院3日前から潰瘍が急速に拡大し,痂皮が付着し悪臭を放っている。右足の写真を示す。 まず行う処置はどれか。

- a.湿布
- b.創の縫合
- c.下腿切断
- d.デブリドマン
- e.植皮による創の閉鎖
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
糖尿病患者では、神経障害・血流障害・易感染性が重なるため、靴ずれのような小さな外傷が難治性潰瘍となり、感染や壊疽へと進行しやすくなります。潰瘍が急速に拡大し、痂皮や悪臭を伴う場合は、嫌気性菌を含む感染と組織壊死の進行を考え、まず壊死組織や膿を外科的に除去するデブリドマンを行い、深部組織の培養、抗菌薬投与、血糖コントロールを並行します。感染創の縫合や植皮は細菌を閉じ込めて悪化させるため、感染が制御され良好な肉芽ができてから行い、下腿切断は制御不能な感染や救済困難な虚血肢に対する最終手段と位置づけます。あわせて足関節上腕血圧比などによる血流評価や骨髄炎の検索も欠かせません。治療の順序を理解するとともに、フットケアによる予防が下肢切断を防ぐ鍵であることを押さえておきましょう。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・44歳男性。7年前に糖尿病を指摘されている。 ・3年前、靴ずれの傷が治らずに潰瘍となり、滲出液が続いていた(慢性難治性潰瘍)。 ・来院3日前から潰瘍が急速に拡大し、痂皮が付着して悪臭を放っている。 ・写真では、潰瘍面に褐色〜黒色の痂皮・壊死組織、黄色の付着物(壊死組織や膿)がみられ、深く進行した潰瘍である。
診断へのプロセス
中年男性の足の潰瘍の鑑別には、糖尿病性足潰瘍、閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)、Buerger病(閉塞性血栓血管炎)、皮膚血管炎、感染症、褥瘡などが挙がる。本症例は糖尿病の既往があり、靴ずれという小外傷を契機に潰瘍が生じて長期間治癒しない経過をたどっている。これは、糖尿病性神経障害で痛みを感じにくいため傷が悪化するまで気づかず、さらに血流障害や高血糖による免疫能・創傷治癒能の低下が加わるという、糖尿病足病変の典型的な成り立ちである。最近の急速な拡大と悪臭は、嫌気性菌を含む細菌の二次感染と組織壊死の進行を示しており、糖尿病性足潰瘍(壊疽)に感染を合併した状態と考えられる。
設問への考え方
感染を伴う壊死組織は細菌の温床となり、抗菌薬も届かず、創の治癒を妨げる。したがって最初に行うべきは、壊死組織・痂皮・膿などの感染源を外科的に除去するデブリドマンである。膿瘍があれば切開排膿を行い、深部組織の培養を提出して抗菌薬を投与し、あわせて血糖コントロールを行う。創を閉じる処置(縫合・植皮)は感染が制御され良好な肉芽が形成されてから行う。また糖尿病足病変では下肢血流の評価(足背動脈の触知、足関節上腕血圧比など)や、骨髄炎の有無の評価も並行して行う。
選択肢考察
- ×a. 湿布
湿布(冷湿布・温湿布や消炎鎮痛薬の貼付)は、局所の炎症症状を一時的に和らげる対症療法にすぎず、感染の原因となっている壊死組織を取り除くことはできない。壊死組織を残したまま覆うと、かえって浸軟や感染拡大を招くおそれもあり、まず行う処置としては不適切である。
- ×b. 創の縫合
感染と壊死組織を伴う創を縫合して閉じると、内部に細菌と滲出液・膿が閉じ込められ、膿瘍形成や感染の深部への拡大(蜂窩織炎、骨髄炎など)を招く。感染創の一次縫合は行ってはならない。
- ×c. 下腿切断
下腿切断は、デブリドマンや抗菌薬などの治療で制御できない広範な壊疽・深部感染、救済不能な虚血肢などに対して行う最終的な手段である。感染が急速に全身に波及する場合(重症の湿性壊疽、壊死性筋膜炎など)には救命のため緊急に切断が必要となることもあるが、本症例は潰瘍局所の感染・壊死の段階であり、まず患肢温存を目指したデブリドマンと感染制御を行うべきである。
- ○d. デブリドマン
デブリドマンとは、壊死組織・痂皮・異物・膿など創傷治癒を妨げる組織を除去し、健常な組織を露出させる処置である。感染源を取り除くことで細菌量が減少し、抗菌薬も効きやすくなり、その後の肉芽形成と創閉鎖が可能になる。感染を伴う糖尿病性足潰瘍の治療の出発点であり、まず行う処置として最も適切である。除去した深部組織は培養検査に提出し、原因菌に応じた抗菌薬治療に役立てる。
- ×e. 植皮による創の閉鎖
植皮は移植床(受け手側の創面)の血流が良好で、感染がなく、健康な肉芽で覆われていることが生着の条件である。壊死組織と感染が残る創に植皮しても生着せず、縫合と同様に感染を閉じ込めて悪化させる。植皮はデブリドマンと感染制御の後、創面が整ってから検討する段階的治療の後半の選択肢である。
糖尿病足病変の成り立ち
①神経障害:感覚神経障害で痛みを感じにくく、靴ずれ・熱傷・胼胝(たこ)などに気づかない。運動神経障害で足の変形(槌趾など)が生じ圧が集中する。自律神経障害で発汗が減り皮膚が乾燥・亀裂を生じる。 ②血流障害:末梢動脈疾患(下腿の動脈に多い)を合併しやすく、創が治りにくい。 ③易感染性:高血糖により好中球機能などが低下し、感染が重症化・深部化しやすい。 これらが重なり、小外傷→潰瘍→感染→壊疽へと進行する。糖尿病は非外傷性の下肢切断の最大の原因である。
評価
・潰瘍の深さ、骨・腱の露出、骨髄炎の有無(プローブで骨に触れるか、エックス線・MRI)。 ・感染の重症度(局所の発赤・腫脹・熱感・排膿、全身の発熱・炎症反応)。 ・血流評価:足背動脈・後脛骨動脈の触知、足関節上腕血圧比(ABI、0.9以下で末梢動脈疾患を疑う。ただし糖尿病では動脈の石灰化で見かけ上高値になることがあり、足趾上腕血圧比や皮膚灌流圧も用いる)。 ・壊疽の型:乾燥して黒色化した乾性壊疽(主に虚血による)と、感染を伴い腫脹・悪臭・排膿を伴う湿性壊疽がある。湿性壊疽は急速に進行しやすく、緊急の対応を要する。
治療の流れ
①デブリドマン・切開排膿による感染源の除去 ②抗菌薬投与(培養結果に基づき調整)、血糖コントロール ③血流障害があれば血行再建(血管内治療・バイパス術) ④免荷(除圧用の装具・履物)、創傷管理(湿潤環境の維持、陰圧閉鎖療法など) ⑤良好な肉芽形成後に植皮・皮弁などで創を閉鎖 ⑥救済困難な場合は趾・足部・下腿などの切断
予防
毎日の足の観察(フットケア)、適切な靴の選択、爪・胼胝の処置、禁煙、血糖・血圧・脂質の管理が重要である。
POINT
・糖尿病患者の靴ずれなど小外傷から生じた潰瘍が、悪臭・痂皮を伴って急速に拡大 → 感染を伴う糖尿病性足潰瘍(壊疽)。 ・まず行うのは壊死組織・膿を取り除くデブリドマン(+培養、抗菌薬、血糖管理)。 ・感染創の縫合・植皮は禁忌。創閉鎖は感染制御と肉芽形成の後。 ・切断は保存的治療で制御できない場合や生命に関わる重症感染に対する最終手段。 ・神経障害・血流障害・易感染性の3要素を評価する。
