硬くて動かない首のしこり―答えは首ではなく「のどの奥」にある
第100回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。頸部の腫脹を主訴に来院した。2か月前から左頸部に硬い腫脹が生じ,次第に増大した。現在は約4 cm大で可動性はなく,圧痛,自発痛もない。頸部の写真を示す。 最も重要なのはどれか。

- a.咽喉頭視診
- b.耳鏡検査
- c.聴力検査
- d.嗅覚検査
- e.頭部エックス線単純撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中高年の硬く、可動性がなく、無痛性で増大する頸部腫瘤は、頭頸部癌(多くは扁平上皮癌)の頸部リンパ節転移をまず疑います。顎下部から上内深頸部のリンパ節には口腔・中咽頭・上咽頭・下咽頭・喉頭からリンパが流入するため、最初に行うべき最も重要な検査は、舌圧子・喉頭鏡・内視鏡による咽喉頭の視診です。耳鏡検査や聴力検査は上咽頭癌の間接的な手がかりにとどまり、嗅覚検査や頭部単純エックス線撮影は原発巣の検索に役立たず、CT・MRI・PET-CTは原発巣確認後の進展度評価に用います。原発巣の検索前に安易な切開生検を行うと播種のおそれがあるため、まず視診、必要なら穿刺吸引細胞診を行います。リンパ節の部位から原発巣を推定する考え方は、頭頸部癌を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
55歳の男性に、2か月の経過で増大する左頸部の腫瘤がみられる。大きさは約4 cm、硬く、周囲組織に固定されて可動性がなく、圧痛や自発痛を伴わない。写真では左の下顎角の下方、胸鎖乳突筋の前縁付近(顎下部から上内深頸部にかけて)が膨隆している。
鑑別の考え方
頸部リンパ節腫脹の性状は、原因を推定する重要な手がかりである。 ・炎症性(反応性)リンパ節炎:急性に出現し、軟らかく、圧痛・自発痛を伴い、可動性は保たれることが多い。 ・悪性リンパ腫:弾性硬(ゴム様)で無痛性、複数の領域に及ぶことがある。 ・癌の転移:石様に硬く、無痛性で、周囲への浸潤により可動性が失われる。 本例は中高年男性で、硬く可動性のない無痛性腫瘤が1 cmを大きく超え、2か月で増大していることから、頭頸部癌(大部分は扁平上皮癌)の頸部リンパ節転移をまず疑う。頭頸部癌は、原発巣が小さく自覚症状に乏しいまま、頸部腫瘤を初発症状として受診することが少なくない。
設問の考え方
頸部リンパ節転移を疑ったら、次に行うべきはリンパ流の上流にある原発巣の検索である。上〜中内深頸部(レベルII〜III)や顎下部のリンパ節は、口腔・中咽頭(口蓋扁桃、舌根)・下咽頭・喉頭・上咽頭などからのリンパ流を受ける。これらの部位は、舌圧子や間接喉頭鏡、喉頭内視鏡(ファイバースコープ)を用いた咽頭・喉頭の視診によって直接観察できる。したがって、最初に行うべき最も重要な検査は咽喉頭視診である。視診で疑わしい病変を見つけたら生検で組織診断を確定し、CT・MRI・PET などで進展範囲を評価する。
選択肢考察
- ○a. 咽喉頭視診
無痛性で硬く可動性のない頸部リンパ節腫脹は、頭頸部癌の転移を強く疑わせる。この領域のリンパ節へ流入するのは口腔、中咽頭(扁桃・舌根)、下咽頭、喉頭、上咽頭などであり、これらはいずれも咽喉頭の視診(舌圧子・間接喉頭鏡・内視鏡による観察)で直接確認できる。原発巣を見つけて生検につなげることが診断の要であり、非侵襲的かつ外来ですぐ行えるこの検査が最も重要である。
- ×b. 耳鏡検査
外耳道や鼓膜を観察する検査である。外耳・中耳の悪性腫瘍が頸部リンパ節転移で発見されることはまれで、原発巣の候補としての優先度は低い。なお、上咽頭癌が耳管咽頭口を閉塞すると滲出性中耳炎を起こすため、耳鏡所見が上咽頭癌の手がかりになることはある。しかしその場合でも、上咽頭そのものを内視鏡で観察する方が直接的であり、本例で最優先となる検査ではない。
- ×c. 聴力検査
聴覚機能を評価する検査であり、頸部腫瘤の原因となる原発巣を直接見つけることはできない。上咽頭癌に伴う滲出性中耳炎で伝音難聴を認めることはあるが、それは間接的な所見にすぎず、原発巣の検索手段として咽喉頭視診に及ばない。
- ×d. 嗅覚検査
嗅覚障害の有無や程度をみる検査である。鼻腔・副鼻腔の腫瘍で嗅覚が低下することはあるが、本例の頸部リンパ節の部位から第一に疑うべき原発巣(口腔・咽頭・喉頭)の検索には役立たない。嗅覚検査の結果から腫瘍の存在や部位を特定することもできない。
- ×e. 頭部エックス線単純撮影
頭部単純エックス線撮影は骨の評価には用いられるが、咽頭・喉頭粘膜に生じる小さな癌の検出能は低い。頭頸部癌の画像評価には CT、MRI、PET-CT などが用いられ、しかもそれらは原則として視診・内視鏡で原発巣を確認した後、進展範囲の評価として行う。最初に行う検査として重要度は低い。
頸部リンパ節の主な領域とリンパ流の源泉
・オトガイ下(レベルIA):下口唇、口腔底前部、舌尖 ・顎下(レベルIB):口腔(口唇、頬粘膜、舌、口腔底)、顎下腺、鼻腔前部 ・上内深頸(レベルII):中咽頭(扁桃、舌根)、上咽頭、口腔、喉頭声門上部、耳下腺 ・中内深頸(レベルIII):喉頭、下咽頭、中咽頭 ・下内深頸(レベルIV):下咽頭、喉頭、甲状腺、頸部食道 ・副神経リンパ節(後頸部、レベルV):上咽頭(特徴的)、頭皮後部 ・鎖骨上窩(左の Virchow リンパ節):胃癌など腹部臓器、肺癌、乳癌などの遠隔転移
頸部腫瘤の性状による鑑別
・炎症性:急性発症、有痛性、軟らかい、可動性良好 ・悪性リンパ腫:弾性硬、無痛性、多発・癒合しうる ・癌の転移:石様硬、無痛性、可動性不良(周囲への浸潤・固定) ・先天性嚢胞(正中頸嚢胞、側頸嚢胞):若年者に多く、軟らかく波動を触れる
原発不明頸部転移癌
頸部リンパ節転移が見つかっても原発巣がはっきりしない場合を原発不明癌という。視診・内視鏡で見つからなくても、扁桃・舌根・上咽頭に微小な原発巣が潜んでいることが多く、狭帯域光観察(NBI)を用いた内視鏡、PET-CT、扁桃摘出や盲目的生検などで検索する。転移リンパ節の HPV(ヒトパピローマウイルス)や EBV(エプスタイン・バーウイルス)の検出は、それぞれ中咽頭癌・上咽頭癌を示唆する。
注意点
癌の転移が疑われる頸部リンパ節に対し、原発巣検索の前に安易に切開生検を行うと、腫瘍の播種を招き治療成績を悪化させうる。まず原発巣の視診と、必要なら穿刺吸引細胞診を行う。
POINT
・中高年の硬く、無痛性で可動性のない頸部リンパ節腫脹は、頭頸部癌の転移をまず疑う。 ・転移リンパ節を見つけたら、リンパ流の上流にある原発巣を探す。 ・上頸部リンパ節の原発巣は口腔・咽頭・喉頭に多く、最初に行うべきは咽喉頭の視診(内視鏡を含む)。 ・リンパ節の部位(レベル)と原発巣の対応を覚えておく。 ・原発巣の検索前に安易な切開生検は行わない。
