StudyMed医師国家試験

リンが尿から漏れていく―近位尿細管の「総崩れ」Fanconi症候群

第100回医師国家試験 B問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第42問

低リン血症をきたすのはどれか。

  1. a.腎性糖尿
  2. b.腎性尿崩症
  3. c.副甲状腺機能低下症
  4. d.シスチン尿症
  5. e.Fanconi症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低リン血症をきたす病態を選ぶ問題だ。選択肢には腎臓の病気がずらりと並んでいるけれど、カギは「リンは腎臓のどこで、何によって再吸収されているか」という一点。そこから考えると、答えは自然に絞れるよ。
医学生医学生
リンの再吸収って、生理学の講義でやった気がしますが、遠位尿細管でしたっけ。
ドクタードクター
惜しい、そこがよくある勘違いなんだ。糸球体で濾過されたリンの大部分、通常80〜90%程度は近位尿細管で再吸収される。担っているのはナトリウム依存性リン酸共輸送体で、NaPi-IIaやIIcと呼ばれるものだ。そしてこの再吸収を調節する主なホルモンが、PTHとFGF23。どちらもリンの再吸収を抑えて、尿への排泄を増やす方向に働く。
医学生医学生
ということは、腎臓のせいで低リン血症になるのは、近位尿細管が壊れているか、PTHやFGF23が多すぎるか、のどちらかということですね。
ドクタードクター
見事な整理だね。その2本柱で選択肢を見ていこう。近位尿細管の輸送機能が全般的にダメになる病気といえば何だろう。
医学生医学生
Fanconi症候群です。CBTの問題集で、尿糖とアミノ酸尿とアシドーシスがセットで出てきました。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。Fanconi症候群では、本来近位尿細管で回収されるはずのリン、ブドウ糖、アミノ酸、重炭酸、尿酸、低分子蛋白などがまとめて尿に失われる。リン酸尿、腎性糖尿、汎アミノ酸尿、近位尿細管性アシドーシス、つまり2型RTA、そして低尿酸血症が並ぶ。リンが漏れ続けるので低リン血症になり、小児ではくる病や成長障害、成人では骨軟化症につながるんだ。
医学生医学生
でも、腎性糖尿も近位尿細管の病気ですよね。Fanconiの一部症状でもあるのに、なぜ違うんでしょう。
ドクタードクター
良い疑問だ。単独の腎性糖尿は、ブドウ糖を再吸収するSGLT2の異常などで、ブドウ糖の輸送だけが落ちている状態なんだ。血糖は正常なのに尿糖が出るけれど、ほかの輸送系は保たれているからリン代謝には影響しない。「近位尿細管のうちどの輸送体が壊れているか」で考えるのがポイントだね。
医学生医学生
シスチン尿症も同じ理屈で、二塩基性アミノ酸の輸送体だけが壊れているから、リンは関係ない、ということですか。
ドクタードクター
そう。シスチン、オルニチン、リジン、アルギニンの再吸収が障害され、溶けにくいシスチンが結石をつくる常染色体潜性遺伝の病気だ。障害は特定のアミノ酸輸送系に限られるので、低リン血症にはならない。ちなみに名前の似たシスチン症、シスチノーシスは別物で、こちらはリソソームにシスチンが蓄積する病気で、小児Fanconi症候群の代表的な原因なんだ。
医学生医学生
紛らわしいですね……。腎性尿崩症はどうでしょう。多尿でいろいろ失われそうな気がします。
ドクタードクター
腎性尿崩症で問題になるのは集合管で、バソプレシンに反応できず水を再吸収できない状態だ。失われるのは主に水で、むしろ高ナトリウム血症が問題になる。部位も違えば失うものも違うから、近位のリン再吸収には関係しない。
医学生医学生
副甲状腺機能低下症は、カルシウムが下がる病気なのでリンも下がりそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。PTHは近位尿細管でのリン再吸収を抑えるホルモンだから、PTHが足りないとリンは尿に捨てられにくくなり、高リン血症になる。低カルシウム血症と高リン血症の組み合わせ、テタニーで受診する、というのが典型像だ。低リン血症をきたすのは逆の副甲状腺機能亢進症のほうだよ。
医学生医学生
カルシウムとリンは同じ向きに動くとは限らない、ということですね。PTHの作用を一つずつ追えば迷わない気がしてきました。
ドクタードクター
その感覚が大事だ。最後に発展知識。成人のFanconi症候群の原因として、多発性骨髄腫の軽鎖による尿細管障害、Wilson病、カドミウムなどの重金属、そして薬剤が重要だ。薬剤ではテノフォビルやイホスファミドが知られている。
医学生医学生
感染症内科を回ったとき、HIVの患者さんで定期的に尿検査や腎機能をチェックしていたのは、そういう理由もあったんですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。それから、腎以外の低リン血症の原因も押さえておこう。臨床で特に怖いのが再栄養症候群で、低栄養の人に急に栄養を入れるとリンが細胞内に取り込まれて急激に下がる。高度になると筋力低下や呼吸筋障害、心機能低下、溶血などを起こしうるから、栄養再開時はリンをこまめに測ることが大切だ。
医学生医学生
原因を腎からの喪失、細胞内への移動、腸管からの吸収低下に分けて考えれば整理しやすそうです。
ドクタードクター
その枠組みで覚えておけば、国試でも臨床でも応用が利くよ。

まとめ

血清リンは主に近位尿細管のNa依存性リン酸共輸送体で再吸収され、PTHとFGF23がこの再吸収を抑制して尿中排泄を増やします。そのため腎性の低リン血症は、近位尿細管の障害かPTH・FGF23の過剰で生じ、近位尿細管の再吸収が全般的に障害されるFanconi症候群では、リン酸尿・腎性糖尿・汎アミノ酸尿・近位RTA・低尿酸血症を呈し、くる病や骨軟化症をきたします。単独の腎性糖尿やシスチン尿症は特定の輸送系のみの障害、腎性尿崩症は集合管での水再吸収障害、副甲状腺機能低下症はPTH作用不足でむしろ高リン血症となるため、いずれも低リン血症の原因にはなりません。成人のFanconi症候群では多発性骨髄腫、重金属、テノフォビルなどの薬剤が原因となり、また臨床では再栄養症候群による急激な低リン血症にも注意が必要です。リンの再吸収部位と調節ホルモンを押さえることは、電解質異常や骨代謝疾患を理解する基盤になります。

解答・解説

正解はeです

低リン血症の原因を問う一般問題である。血清リン濃度は、腸管からの吸収、骨との出入り、腎臓からの排泄のバランスで決まる。糸球体で濾過されたリンの大部分(通常80〜90%程度)は近位尿細管のナトリウム依存性リン酸共輸送体(NaPi-IIa・IIc)で再吸収されており、この再吸収量を調節する主な因子が副甲状腺ホルモン(PTH)と線維芽細胞増殖因子23(FGF23)である。どちらもリンの再吸収を抑えて尿中排泄を増やす方向に働く。 したがって腎臓が原因で低リン血症が起こるのは、(1) 近位尿細管そのものの障害でリンを再吸収できない場合、(2) PTHやFGF23が過剰でリン再吸収が抑えられる場合、のいずれかと整理できる。選択肢のなかで近位尿細管の輸送機能が全般的に障害されるのはFanconi症候群であり、リン酸尿によって低リン血症をきたす。 他の選択肢は、同じ尿細管の病気でも障害される輸送系が限られている(腎性糖尿はブドウ糖のみ、シスチン尿症は二塩基性アミノ酸のみ)か、障害部位が集合管である(腎性尿崩症)か、あるいはPTHの作用が不足してリン排泄がむしろ低下する(副甲状腺機能低下症)ものであり、低リン血症の原因にはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  腎性糖尿

    腎性糖尿は、血糖値が正常であるにもかかわらず尿糖が陽性になる状態である。通常、糸球体で濾過されたブドウ糖は近位尿細管のナトリウム・グルコース共輸送体(主にSGLT2)でほぼ全量が再吸収されるが、腎性糖尿ではその再吸収能(ブドウ糖の排泄閾値)が低下している。SGLT2をコードするSLC5A2遺伝子の異常による孤立性のものが典型で、ブドウ糖以外の輸送は保たれるため、リン代謝には影響しない。なお、広い意味ではFanconi症候群のような近位尿細管障害に伴う尿糖を含めて呼ぶこともあるが、単独の腎性糖尿は低リン血症をきたさない。

  2. ×b.  腎性尿崩症

    腎性尿崩症は、集合管がバソプレシン(抗利尿ホルモン)に反応しないために水の再吸収ができず、低張尿による多尿をきたす病態である。原因はバソプレシン2型受容体やアクアポリン2の遺伝子異常、あるいはリチウム製剤・高カルシウム血症・低カリウム血症などである。障害されるのは水の再吸収であり、近位尿細管のリン再吸収には関係しないため、低リン血症の原因とはならない。水が失われるため、むしろ高ナトリウム血症が問題となる。

  3. ×c.  副甲状腺機能低下症

    PTHは、骨吸収を促してカルシウムとリンを血中に動員する一方、近位尿細管でのリン再吸収を抑制して尿中へのリン排泄を増やす。さらに遠位尿細管でのカルシウム再吸収促進や、活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)の産生促進を介して血清カルシウムを上げる。副甲状腺機能低下症ではPTH作用が不足するため、リンの尿中排泄が減って高リン血症となり、同時に低カルシウム血症(テタニーなど)をきたす。低リン血症をきたすのは逆の副甲状腺機能亢進症であり、この場合は腎でのリン排泄増加の影響が骨からの動員を上回るため血清リンが低下する。

  4. ×d.  シスチン尿症

    シスチン尿症は、近位尿細管と小腸の刷子縁膜にある二塩基性アミノ酸輸送体(SLC3A1・SLC7A9遺伝子がコード)の先天異常による常染色体潜性遺伝の疾患である。シスチン・オルニチン・リジン・アルギニンの再吸収が障害され、特に溶解度の低いシスチンが尿中で析出してシスチン結石を繰り返す。障害は特定のアミノ酸輸送系に限られ、リンの再吸収は保たれるので、低リン血症はきたさない。

  5. ○e.  Fanconi症候群

    Fanconi症候群は、近位尿細管の再吸収機能が全般的に障害される病態である。本来近位尿細管で再吸収されるべきリン、ブドウ糖、アミノ酸、重炭酸、尿酸、低分子蛋白などが尿中に失われ、リン酸尿・腎性糖尿・汎アミノ酸尿・近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)・低尿酸血症を呈する。ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどの排泄も増え、低カリウム血症による筋力低下や、多尿・多飲もみられる。リンが尿中に失われ続ける結果、低リン血症となり、小児ではくる病・成長障害、成人では骨軟化症をきたす。原因は、小児ではシスチン症(シスチノーシス)などの先天代謝異常、成人では多発性骨髄腫(軽鎖による尿細管障害)、Wilson病、重金属(カドミウム、鉛など)、薬剤(テノフォビル、イホスファミド、期限切れのテトラサイクリンなど)が知られる。

低リン血症の主な原因

・腎からの喪失:Fanconi症候群、原発性副甲状腺機能亢進症、FGF23過剰(X連鎖性低リン血症性くる病、腫瘍性骨軟化症)、利尿薬、浸透圧利尿など ・細胞内への移動:再栄養症候群(refeeding syndrome)、糖尿病性ケトアシドーシスのインスリン治療中、呼吸性アルカローシス ・腸管からの吸収低下:ビタミンD欠乏、吸収不良症候群、リン吸着薬(アルミニウム・マグネシウム含有制酸薬)の過剰使用 ・その他:アルコール依存症など

高リン血症の主な原因

慢性腎臓病(腎排泄低下)、副甲状腺機能低下症・偽性副甲状腺機能低下症(PTH作用不足)、腫瘍崩壊症候群・横紋筋融解症(細胞内からの放出)、ビタミンD中毒など。

シスチン尿症とシスチン症の区別

シスチン尿症は二塩基性アミノ酸の輸送障害でシスチン結石をきたす。一方、シスチン症(シスチノーシス)はリソソームからのシスチン搬出障害によりシスチンが全身の細胞内に蓄積する疾患で、小児Fanconi症候群の代表的原因である。名前が似ているが別の疾患である。

低リン血症の症状

軽度では無症状が多い。高度になるとATP産生低下により筋力低下、呼吸筋障害、横紋筋融解、心機能低下、溶血、意識障害をきたしうる。慢性的には骨軟化症・くる病となる。

POINT

・Fanconi症候群は近位尿細管の全般的な再吸収障害で、リン酸尿による低リン血症をきたす(ほかに腎性糖尿、汎アミノ酸尿、近位RTA、低尿酸血症)。 ・PTHは近位尿細管のリン再吸収を抑える:副甲状腺機能亢進症で低リン血症、機能低下症で高リン血症。 ・腎性糖尿はブドウ糖のみ、シスチン尿症は二塩基性アミノ酸のみの輸送障害で、リンには影響しない。 ・腎性尿崩症は集合管でのバソプレシン不応による水の再吸収障害である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。