リンが尿から漏れていく―近位尿細管の「総崩れ」Fanconi症候群
第100回医師国家試験 B問題 第42問
国試問題にチャレンジ
低リン血症をきたすのはどれか。
- a.腎性糖尿
- b.腎性尿崩症
- c.副甲状腺機能低下症
- d.シスチン尿症
- e.Fanconi症候群
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
血清リンは主に近位尿細管のNa依存性リン酸共輸送体で再吸収され、PTHとFGF23がこの再吸収を抑制して尿中排泄を増やします。そのため腎性の低リン血症は、近位尿細管の障害かPTH・FGF23の過剰で生じ、近位尿細管の再吸収が全般的に障害されるFanconi症候群では、リン酸尿・腎性糖尿・汎アミノ酸尿・近位RTA・低尿酸血症を呈し、くる病や骨軟化症をきたします。単独の腎性糖尿やシスチン尿症は特定の輸送系のみの障害、腎性尿崩症は集合管での水再吸収障害、副甲状腺機能低下症はPTH作用不足でむしろ高リン血症となるため、いずれも低リン血症の原因にはなりません。成人のFanconi症候群では多発性骨髄腫、重金属、テノフォビルなどの薬剤が原因となり、また臨床では再栄養症候群による急激な低リン血症にも注意が必要です。リンの再吸収部位と調節ホルモンを押さえることは、電解質異常や骨代謝疾患を理解する基盤になります。
解答・解説
正解はeです
低リン血症の原因を問う一般問題である。血清リン濃度は、腸管からの吸収、骨との出入り、腎臓からの排泄のバランスで決まる。糸球体で濾過されたリンの大部分(通常80〜90%程度)は近位尿細管のナトリウム依存性リン酸共輸送体(NaPi-IIa・IIc)で再吸収されており、この再吸収量を調節する主な因子が副甲状腺ホルモン(PTH)と線維芽細胞増殖因子23(FGF23)である。どちらもリンの再吸収を抑えて尿中排泄を増やす方向に働く。 したがって腎臓が原因で低リン血症が起こるのは、(1) 近位尿細管そのものの障害でリンを再吸収できない場合、(2) PTHやFGF23が過剰でリン再吸収が抑えられる場合、のいずれかと整理できる。選択肢のなかで近位尿細管の輸送機能が全般的に障害されるのはFanconi症候群であり、リン酸尿によって低リン血症をきたす。 他の選択肢は、同じ尿細管の病気でも障害される輸送系が限られている(腎性糖尿はブドウ糖のみ、シスチン尿症は二塩基性アミノ酸のみ)か、障害部位が集合管である(腎性尿崩症)か、あるいはPTHの作用が不足してリン排泄がむしろ低下する(副甲状腺機能低下症)ものであり、低リン血症の原因にはならない。
選択肢考察
- ×a. 腎性糖尿
腎性糖尿は、血糖値が正常であるにもかかわらず尿糖が陽性になる状態である。通常、糸球体で濾過されたブドウ糖は近位尿細管のナトリウム・グルコース共輸送体(主にSGLT2)でほぼ全量が再吸収されるが、腎性糖尿ではその再吸収能(ブドウ糖の排泄閾値)が低下している。SGLT2をコードするSLC5A2遺伝子の異常による孤立性のものが典型で、ブドウ糖以外の輸送は保たれるため、リン代謝には影響しない。なお、広い意味ではFanconi症候群のような近位尿細管障害に伴う尿糖を含めて呼ぶこともあるが、単独の腎性糖尿は低リン血症をきたさない。
- ×b. 腎性尿崩症
腎性尿崩症は、集合管がバソプレシン(抗利尿ホルモン)に反応しないために水の再吸収ができず、低張尿による多尿をきたす病態である。原因はバソプレシン2型受容体やアクアポリン2の遺伝子異常、あるいはリチウム製剤・高カルシウム血症・低カリウム血症などである。障害されるのは水の再吸収であり、近位尿細管のリン再吸収には関係しないため、低リン血症の原因とはならない。水が失われるため、むしろ高ナトリウム血症が問題となる。
- ×c. 副甲状腺機能低下症
PTHは、骨吸収を促してカルシウムとリンを血中に動員する一方、近位尿細管でのリン再吸収を抑制して尿中へのリン排泄を増やす。さらに遠位尿細管でのカルシウム再吸収促進や、活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)の産生促進を介して血清カルシウムを上げる。副甲状腺機能低下症ではPTH作用が不足するため、リンの尿中排泄が減って高リン血症となり、同時に低カルシウム血症(テタニーなど)をきたす。低リン血症をきたすのは逆の副甲状腺機能亢進症であり、この場合は腎でのリン排泄増加の影響が骨からの動員を上回るため血清リンが低下する。
- ×d. シスチン尿症
シスチン尿症は、近位尿細管と小腸の刷子縁膜にある二塩基性アミノ酸輸送体(SLC3A1・SLC7A9遺伝子がコード)の先天異常による常染色体潜性遺伝の疾患である。シスチン・オルニチン・リジン・アルギニンの再吸収が障害され、特に溶解度の低いシスチンが尿中で析出してシスチン結石を繰り返す。障害は特定のアミノ酸輸送系に限られ、リンの再吸収は保たれるので、低リン血症はきたさない。
- ○e. Fanconi症候群
Fanconi症候群は、近位尿細管の再吸収機能が全般的に障害される病態である。本来近位尿細管で再吸収されるべきリン、ブドウ糖、アミノ酸、重炭酸、尿酸、低分子蛋白などが尿中に失われ、リン酸尿・腎性糖尿・汎アミノ酸尿・近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)・低尿酸血症を呈する。ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどの排泄も増え、低カリウム血症による筋力低下や、多尿・多飲もみられる。リンが尿中に失われ続ける結果、低リン血症となり、小児ではくる病・成長障害、成人では骨軟化症をきたす。原因は、小児ではシスチン症(シスチノーシス)などの先天代謝異常、成人では多発性骨髄腫(軽鎖による尿細管障害)、Wilson病、重金属(カドミウム、鉛など)、薬剤(テノフォビル、イホスファミド、期限切れのテトラサイクリンなど)が知られる。
低リン血症の主な原因
・腎からの喪失:Fanconi症候群、原発性副甲状腺機能亢進症、FGF23過剰(X連鎖性低リン血症性くる病、腫瘍性骨軟化症)、利尿薬、浸透圧利尿など ・細胞内への移動:再栄養症候群(refeeding syndrome)、糖尿病性ケトアシドーシスのインスリン治療中、呼吸性アルカローシス ・腸管からの吸収低下:ビタミンD欠乏、吸収不良症候群、リン吸着薬(アルミニウム・マグネシウム含有制酸薬)の過剰使用 ・その他:アルコール依存症など
高リン血症の主な原因
慢性腎臓病(腎排泄低下)、副甲状腺機能低下症・偽性副甲状腺機能低下症(PTH作用不足)、腫瘍崩壊症候群・横紋筋融解症(細胞内からの放出)、ビタミンD中毒など。
シスチン尿症とシスチン症の区別
シスチン尿症は二塩基性アミノ酸の輸送障害でシスチン結石をきたす。一方、シスチン症(シスチノーシス)はリソソームからのシスチン搬出障害によりシスチンが全身の細胞内に蓄積する疾患で、小児Fanconi症候群の代表的原因である。名前が似ているが別の疾患である。
低リン血症の症状
軽度では無症状が多い。高度になるとATP産生低下により筋力低下、呼吸筋障害、横紋筋融解、心機能低下、溶血、意識障害をきたしうる。慢性的には骨軟化症・くる病となる。
POINT
・Fanconi症候群は近位尿細管の全般的な再吸収障害で、リン酸尿による低リン血症をきたす(ほかに腎性糖尿、汎アミノ酸尿、近位RTA、低尿酸血症)。 ・PTHは近位尿細管のリン再吸収を抑える:副甲状腺機能亢進症で低リン血症、機能低下症で高リン血症。 ・腎性糖尿はブドウ糖のみ、シスチン尿症は二塩基性アミノ酸のみの輸送障害で、リンには影響しない。 ・腎性尿崩症は集合管でのバソプレシン不応による水の再吸収障害である。
