病名が答えを語る―HELLP症候群で最初に悲鳴をあげる臓器はどこか
第100回医師国家試験 B問題 第1問
国試問題にチャレンジ
HELLP症候群で最初に異常がみられるのはどれか。
- a.中枢神経機能
- b.心機能
- c.肝機能
- d.膵機能
- e.腎機能
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
HELLP症候群は溶血(Hemolysis)、肝酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelets)を特徴とし、多くは妊娠高血圧症候群を背景に妊娠後期から産褥期に発症します。血管内皮障害による微小血管障害が肝類洞で強く起こり、フィブリン沈着と門脈域周囲の壊死によってAST・ALT・LDHが上昇するため、最初に異常がみられるのは肝機能です。初発症状は心窩部痛・右季肋部痛や悪心・嘔吐で胃腸炎と誤認されやすく、中枢神経・心・腎・膵の障害はDICや多臓器不全に伴って二次的に生じます。早期から精神神経症状が目立てばTTP、腎障害が主体ならHUS、肝不全と低血糖が目立てば急性妊娠脂肪肝と鑑別し、治療の基本は母体を安定させたうえでの妊娠の終結です。妊婦の上腹部痛を見たら血小板数・AST・LDHを確認するという姿勢が、母児の命を守る第一歩になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
HELLP症候群は、妊娠後半期から産褥早期に発症し、溶血(Hemolysis)、肝酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelets)の3つを特徴とする疾患で、病名はそれぞれの頭文字に由来する。多くは妊娠高血圧症候群(HDP)を背景に発症するが、高血圧や蛋白尿が目立たない例もある。
正解を導く考え方
病名そのものに「肝酵素上昇」が含まれていることからわかるように、HELLP症候群の本態は、血管内皮障害による微小血管障害(細小血管での血小板の消費と赤血球の破壊)と、それに伴う肝臓の障害である。肝類洞(肝小葉内の毛細血管)にフィブリンが沈着し、門脈域周囲の出血性壊死が生じることで、AST・ALT・LDHが上昇する。臨床的にも初発症状は心窩部痛・右季肋部痛・悪心・嘔吐といった肝臓の腫大や被膜の伸展による症状であることが多い。 これに対し、中枢神経・心臓・膵臓・腎臓の障害は、病態が進行して播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全を来した段階で二次的に現れるものである。したがって最初に異常がみられる臓器機能は肝機能である。
選択肢考察
- ×a. 中枢神経機能
HELLP症候群では子癇(妊娠20週以降に初めて起こる、他の原因によらない痙攣発作)や脳出血を合併することがあり、中枢神経症状は重篤な合併症となる。しかしこれらは病態の進行に伴って生じるもので、最初に異常を来す機能ではない。なお、血小板減少と溶血に加えて早期から精神神経症状が目立つ疾患としては血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)があり、HELLP症候群との鑑別で重要である。
- ×b. 心機能
重症化すると肺水腫や心不全を来すことはあるが、DICや多臓器不全に伴う二次的な障害であり、初期に異常がみられる機能ではない。
- ○c. 肝機能
HELLP症候群の中心となる臓器障害は肝臓で起こる。血管内皮障害と血管攣縮により肝類洞にフィブリンが沈着し、門脈域周囲の出血性壊死が生じるため、AST・ALTが上昇する(LDHは溶血と肝細胞障害の両方を反映して上昇する)。肝腫大による被膜伸展のため心窩部痛・右季肋部痛が初発症状となりやすい。血小板減少と並んで病初期から現れる異常であり、重症例では肝被膜下血腫や肝破裂を来す。
- ×d. 膵機能
膵炎などの膵障害はHELLP症候群の典型的な初期所見ではない。DICや多臓器不全の一部として生じることはあるが、最初に異常がみられる機能ではない。
- ×e. 腎機能
HELLP症候群でも進行すると急性腎障害を来すことがある(常位胎盤早期剝離やDICの合併時に多い)が、初期からみられる異常ではない。溶血・血小板減少に加えて腎障害が前面に出る疾患としては溶血性尿毒症症候群(HUS)があり、産褥期に発症する非典型HUSはHELLP症候群との鑑別対象となる。
HELLP症候群の概要
・発症時期:妊娠後期(多くは妊娠27〜37週ごろ)に多いが、分娩後(産褥期)に発症する例も少なくない。 ・背景:妊娠高血圧症候群(とくに妊娠高血圧腎症)に合併することが多いが、高血圧が軽度または認められない例もある。 ・病態:胎盤形成不全を起点とした全身の血管内皮障害→血小板の活性化・消費、微小血管症性溶血、肝類洞のフィブリン沈着と門脈域周囲の壊死。 ・症状:心窩部痛・右季肋部痛、悪心・嘔吐、倦怠感。胃腸炎などと誤認されやすい。
診断に用いられる検査所見(Sibaiの基準)
・溶血:LDH 600 IU/L以上、末梢血塗抹での破砕赤血球、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下 ・肝酵素上昇:AST 70 IU/L以上 ・血小板減少:10万/μL以下 妊娠高血圧症候群の妊婦が上腹部痛を訴えた場合は、HELLP症候群を念頭に血液検査(血小板数・AST・LDHなど)を行う。
合併症
DIC、常位胎盤早期剝離、子癇、脳出血、肺水腫、急性腎障害、肝被膜下血腫・肝破裂など。母体・胎児ともに重篤となりうる。
治療
根本治療は妊娠の終結(分娩)である。母体の状態を安定化させ(降圧、子癇予防の硫酸マグネシウム投与、血小板輸血などの凝固異常の補正)、児の成熟度に応じて胎児肺成熟のためのステロイド投与を検討しつつ、速やかに分娩を図る。
鑑別疾患
・急性妊娠脂肪肝(AFLP):肝不全が主体、低血糖・凝固異常が目立つ。 ・TTP:精神神経症状、ADAMTS13活性の著減。 ・HUS:腎障害が主体。 ・ITP:血小板減少のみで、溶血や肝障害は伴わない。
POINT
・HELLP=Hemolysis(溶血)、Elevated Liver enzymes(肝酵素上昇)、Low Platelets(血小板減少)。 ・最初に障害される臓器機能は肝機能。初発症状は心窩部痛・右季肋部痛、悪心・嘔吐。 ・中枢神経・心・腎・膵の障害はDICや多臓器不全に伴う二次的なもの。 ・妊娠高血圧症候群の妊婦が上腹部痛を訴えたら、血小板数・AST・LDHを確認する。 ・治療の基本は妊娠の終結。
