StudyMed医師国家試験

解熱薬のあとに全身が剝がれる―中毒性表皮壊死症の本質は「表皮細胞の死」

第100回医師国家試験 A問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第100回 A問題 第7問

31歳の女性。全身の紅斑と水疱とを主訴に来院した。1週前からの感冒症状のため近医でスルピリンを投与された。しかし,熱はさらに高くなり,昨日から顔面,上肢および軀幹に紅斑と水疱とが出現し,急速に拡大してきた。体温39.5℃。眼瞼,口唇,口腔粘膜,外陰部および肛門部がびらん化し,一部に痂皮を付着する。全身皮膚のびまん性紅斑と広範囲の水疱および表皮剝離を認める。軀幹の写真を別に示す。 正しいのはどれか。

第100回 A問題 第7問の問題画像
  1. a.脱毛を伴うことが多い。
  2. b.表皮細胞の壊死を認める。
  3. c.Köbner現象が陽性である。
  4. d.血中抗基底膜部抗体を検出する。
  5. e.通常量の被疑薬を再投与して原因を究明する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、薬を使ったあとに高熱と全身の皮疹、粘膜のただれが急速に広がった症例だ。テーマは重症薬疹。注目してほしいのは「何がきっかけか」「どこが障害されているか」「どのくらいの範囲か」の3点だよ。まず、どんな病気を思い浮かべるかな。
医学生医学生
感冒に対して解熱薬を使った後なので薬疹だと思います。口唇や眼、外陰部まで粘膜がやられているので、Stevens-Johnson症候群でしょうか。
ドクタードクター
いい線だね。皮膚と粘膜の境目、いわゆる皮膚粘膜移行部に多発するびらんは、SJSとTENに共通する重要なサインなんだ。では、SJSと中毒性表皮壊死症(TEN)はどう区別する?
医学生医学生
確か皮膚科の講義で、剝がれた面積で分けると習いました。でも何%だったか自信がありません。
ドクタードクター
わが国の診断基準では、水疱やびらんなど表皮が剝がれた面積が体表面積の10%未満ならSJS、10%以上ならTEN。両者は一続きの病気で、TENはSJSがさらに進んだ状態と考えられている。今回は全身のびまん性紅斑に広範囲の表皮剝離があって、写真でも体幹に大きな水疱とびらんが広がっているから、TENと判断できるね。
医学生医学生
まるで熱傷のような見た目ですね。そもそも、どうしてこんなに広く皮膚が剝がれるんですか。
ドクタードクター
そこが今回の設問の核心だ。TENでは、薬に反応した細胞傷害性T細胞、つまりCD8陽性T細胞やNK細胞が、グラニュライシンやFas/Fasリガンドの経路を介して表皮のケラチノサイトを大量に細胞死させる。病理では、初期に表皮内に散らばる単細胞壊死がみられ、進むと表皮の全層が壊死して、表皮と真皮の境目で剝がれるんだ。
医学生医学生
だから「表皮細胞の壊死を認める」が正解なんですね。病名そのままだ。
ドクタードクター
その通り。もう一つ覚えておきたいのは、表皮がこれだけ壊れているのに、真皮の炎症細胞浸潤は比較的少ないこと。病理実習で見るとしたら、このアンバランスが特徴になる。では残りの選択肢も見ていこう。脱毛を伴うことが多い、というのはどうかな。
医学生医学生
皮膚全体がやられるなら毛も抜けそうな気がしますが……。
ドクタードクター
直感的にはそう思うよね。でもTENで障害されるのは表皮と粘膜の上皮で、脱毛は特徴ではない。重い発熱のあとに一時的な休止期脱毛が起こったり、回復期に爪がはがれたりすることはあるけれど、「多い」とはいえない。急性期に本当に問題になるのは、皮膚のバリアが失われることによる脱水、電解質異常、敗血症、体温低下、そして眼の障害なんだ。
医学生医学生
Köbner現象はTENではなく乾癬ですよね。TENで陽性になるのはNikolsky現象だったと思います。
ドクタードクター
よく区別できているね。Köbner現象は、健常にみえる皮膚を刺激するとそこに元の病気と同じ皮疹が出る現象で、尋常性乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑などでみられる。Nikolsky現象は一見正常な皮膚をこすると表皮がずれて剝がれる現象で、TENのほか尋常性天疱瘡やブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群でも陽性になる。名前が似ているから、CBTの前に混乱した人も多いんじゃないかな。
医学生医学生
はい、まさに混同していました。抗基底膜部抗体は水疱性類天疱瘡の検査ですね。
ドクタードクター
そう。BP180やBP230に対する自己抗体が水疱性類天疱瘡でみられる。天疱瘡ならデスモグレインに対する抗体だね。TENは自己抗体ではなくT細胞が細胞を傷害する病気だから、抗基底膜部抗体は出てこない。最後の、被疑薬を通常量で再投与して原因を確かめる、というのはどう思う?
医学生医学生
原因を確定させたい気持ちはわかりますが、また同じことが起きたら命に関わりそうです。
ドクタードクター
まさにそこ。SJSやTENでの再投与は、より早く、より重く再発させるおそれがあるから、通常量はもちろん少量でも原則禁忌だ。原因薬の推定には、服薬歴と発症までの時間の検討や、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)などの体外検査を使う。推定した薬はアレルギー歴として記録し、患者さんにも伝えて二度と使わないようにする。
医学生医学生
今回のスルピリンのような解熱鎮痛薬も原因になるんですね。抗てんかん薬や抗菌薬のイメージが強かったです。
ドクタードクター
代表はサルファ剤などの抗菌薬、カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アロプリノールだけれど、NSAIDsやピラゾロン系も原因になる。しかも前ぶれとして発熱や感冒様症状が出るから、それに対して使った薬が疑われることも多い。飲み始めて数日から4週ほどで発症することが多く、カルバマゼピンとHLA型の関連のように、遺伝的な素因も知られているよ。
医学生医学生
治療はまず薬の中止、そのうえでステロイドでしょうか。
ドクタードクター
まず疑わしい薬をすべて中止することが最も重要だ。そのうえで、輸液、電解質補正、保温、感染対策といった熱傷に準じた全身管理を行い、ステロイドのパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法などを組み合わせる。死亡率は20〜30%前後と高い。そして忘れてはいけないのが眼。早くから眼科と連携しないと、瞼球癒着や視力障害が後遺症として残ることがある。
医学生医学生
臨床実習で皮膚科を回ったとき、眼科の先生が毎日病棟に来ていた理由がわかりました。
ドクタードクター
まさにチーム医療が必要な病気なんだ。鑑別では、乳幼児で粘膜病変がなく、角層の下の浅い層で剝がれるSSSSとの区別が大事で、表皮全層の壊死を病理で確かめることが役立つ。薬を使ったあとの高熱と粘膜病変をみたら、早い段階で重症薬疹を疑って原因薬を止める、この判断が予後を左右すると覚えておこう。

まとめ

薬剤投与後に高熱、全身の紅斑・水疱・表皮剝離、皮膚粘膜移行部の多発びらんが急速に出現した場合は、Stevens-Johnson症候群または中毒性表皮壊死症(TEN)を疑い、わが国では表皮剝離が体表面積の10%以上ならTENとします。TENの本態は、薬剤に反応したCD8陽性T細胞などがグラニュライシンやFas/Fasリガンドを介してケラチノサイトを細胞死させることで、病理では表皮全層の壊死と表皮下の剝離を認め、真皮の炎症は比較的軽度です。陽性になるのはNikolsky現象であり、Köbner現象は乾癬など、抗基底膜部抗体は水疱性類天疱瘡の所見です。原因薬の再投与は禁忌で、原因の推定にはDLSTなどを用い、治療は被疑薬の中止、熱傷に準じた全身管理、ステロイド・IVIG・血漿交換、早期からの眼科管理が柱となります。日常的な解熱鎮痛薬でも起こりうる致死的な薬疹として、早期に気づいて原因薬を止める判断力は、どの診療科に進んでも欠かせません。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・31歳の女性。感冒症状に対してスルピリン(ピラゾロン系の解熱鎮痛薬)を投与された後に発症している。 ・高熱(39.5℃)が続き、顔面・上肢・体幹に紅斑と水疱が出て急速に広がった。 ・眼瞼、口唇、口腔粘膜、外陰部、肛門部など、皮膚と粘膜の境目(皮膚粘膜移行部)に広くびらんと痂皮がある。 ・全身の皮膚がびまん性に赤く、広い範囲に水疱ができ、表皮がはがれている(写真でも体幹に広い水疱・びらんを認める)。

診断への考え方

薬を使った後に高熱が出て、全身の紅斑・水疱・表皮剥離が急速に広がり、複数の部位の粘膜にもびらんがある。重症の薬疹である中毒性表皮壊死症(TEN)と診断できる。TENはスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と一続きの病気と考えられており、表皮剥離の面積で区別する。わが国の診断基準では、水疱・びらんなど表皮が剥がれた面積が体表面積の10%未満ならSJS、10%以上ならTENとする。本例は「広範囲の表皮剝離」であり、TENに当たる。

病態と設問の考え方

TENは、薬に反応した細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞)が表皮細胞(ケラチノサイト)を大量に細胞死させる病気である。その仲立ちをするのがグラニュライシンやFas/Fasリガンドなどの分子である。病理組織では表皮の全層が壊死し、表皮と真皮の境目で表皮がはがれる。したがって「表皮細胞の壊死を認める」が正しい。そのほかの選択肢は、別の皮膚疾患の特徴(Köbner現象は乾癬など、抗基底膜部抗体は水疱性類天疱瘡)や、行ってはならない対応(原因薬の再投与)である。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛を伴うことが多い。

    TENで障害されるのは表皮と粘膜の上皮であり、脱毛はTENの特徴的な症状ではない。回復期に爪がはがれることや、重い発熱の後に一時的に毛が抜けること(休止期脱毛)はありうるが、「脱毛を伴うことが多い」とはいえない。急性期に問題になるのは皮膚のバリア機能が失われることによる脱水、電解質異常、感染症(敗血症)、体温の低下であり、また眼や粘膜の障害である。

  2. ○b.  表皮細胞の壊死を認める。

    TENの病名のとおり、病理組織の基本は表皮細胞(ケラチノサイト)の壊死である。初期には表皮のあちこちに単独の細胞壊死が散らばってみられ、進むと表皮の全層が壊死して、表皮と真皮の境目で表皮下の水疱や剥離ができる。一方、真皮の炎症細胞浸潤は比較的少ないのが特徴である。この壊死は、薬に反応したCD8陽性T細胞やNK細胞が出すグラニュライシン、Fas/Fasリガンドの経路などによって起こる細胞死(アポトーシス)である。凍結切片で表皮全層の壊死を早く確かめることは、SSSSとの区別にも役立つ。

  3. ×c.  Köbner現象が陽性である。

    Köbner現象とは、健康にみえる皮膚をこすったり傷つけたりすると、その部分に元の病気と同じ皮疹が出てくる現象である。尋常性乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑などでみられる。TENで陽性になるのはNikolsky現象(一見正常な皮膚を指でこすると表皮が簡単にずれてはがれる現象)である。Nikolsky現象は尋常性天疱瘡やブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)でも陽性になる。

  4. ×d.  血中抗基底膜部抗体を検出する。

    血中の抗基底膜部抗体(BP180〈XVII型コラーゲン〉やBP230に対する自己抗体)は、自己免疫性の水疱症である水疱性類天疱瘡でみられる。後天性表皮水疱症ではVII型コラーゲンに対する抗体が検出される。TENは自己抗体による病気ではなく、薬に反応したT細胞が細胞を傷害する病気なので、抗基底膜部抗体は検出されない。なお尋常性天疱瘡では、表皮細胞どうしをつなぐデスモグレイン3(落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1)に対する抗体がみられる。

  5. ×e.  通常量の被疑薬を再投与して原因を究明する。

    原因と疑われる薬を再投与すると、TENがより早く、より重く再発し、命にかかわるおそれがある。そのため、SJSやTENでは原因薬の再投与による確認(誘発試験)は、通常量はもちろん少量でも原則として行ってはならない。原因薬を確かめるには、服薬歴と発症までの時間の検討、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)などの体外(in vitro)検査を用いる。原因と推定された薬は薬剤アレルギーとして記録し、患者にも伝えて、二度と使わないようにする。

重症薬疹の代表

・SJS(スティーブンス・ジョンソン症候群):発熱、皮膚粘膜移行部(眼・口唇・外陰部など)の重いびらん、多形紅斑様の皮疹。表皮剥離の面積は体表面積の10%未満(わが国の基準)。 ・TEN(中毒性表皮壊死症):SJSがさらに進んだ状態と考えられ、表皮剥離が10%以上。死亡率は20〜30%前後と高い。 国際的には、10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%を超えるものをTENとする分類も使われる。 ・薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS):抗てんかん薬などを飲み始めて2〜6週後に発症する。発熱、リンパ節腫脹、肝障害、好酸球増多、異型リンパ球の出現がみられ、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の再活性化を伴う。

TENの主な原因薬

抗菌薬(サルファ剤、βラクタム系など)、抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ラモトリギン)、アロプリノール、解熱鎮痛薬(NSAIDs、スルピリンなどのピラゾロン系、アセトアミノフェン)など。原因薬を飲み始めてから4〜28日程度で発症することが多い。特定のHLA型を持つ人で危険が高いことが知られている(例:カルバマゼピンとHLA-B*15:02、アロプリノールとHLA-B*58:01。わが国ではカルバマゼピンとHLA-A*31:01の関連が報告されている)。マイコプラズマなどの感染症がSJSの誘因になることもある。

臨床像

前ぶれとして発熱やかぜのような症状が出るため、それに対して使った解熱鎮痛薬や抗菌薬が原因と疑われることも多い。紅斑が急速に広がって融合し、表皮が大きなシート状にはがれて、熱傷のような外観になる。Nikolsky現象は陽性である。眼では偽膜形成や角膜上皮の欠損が起こり、治った後にもドライアイや視力障害、瞼球癒着などの後遺症が残ることがある。

鑑別

・SSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群):乳幼児に多い。黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素がデスモグレイン1を切断し、表皮の浅い層(角層の下)で剥離が起こる。通常は粘膜病変を伴わない。 ・天疱瘡、水疱性類天疱瘡などの自己免疫性水疱症:蛍光抗体法や血中自己抗体で区別する。

治療

・疑わしい薬をすべて中止する(最も重要)。 ・熱傷に準じた全身管理:輸液、電解質の補正、体温の保持、栄養管理、感染の予防と治療、局所のびらんの処置。 ・全身療法:副腎皮質ステロイド(大量投与やパルス療法)、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)、血漿交換療法などを組み合わせる。 ・眼科医と連携し、早い時期から眼の局所治療を行って後遺症を防ぐ。 ・重症度と予後の評価にはSCORTEN(年齢、悪性腫瘍、心拍数、表皮剥離の面積、血清尿素窒素、血糖、重炭酸などで評価する)が用いられる。

POINT

・薬を使った後の高熱、全身の紅斑・水疱・表皮剥離、複数の粘膜のびらんはTEN(またはSJS)を疑う。 ・わが国の基準では表皮剥離が体表面積の10%未満ならSJS、10%以上ならTENとする。 ・病理組織は表皮全層の壊死(ケラチノサイトの細胞死)と表皮下の剥離で、真皮の炎症は軽い。 ・TENで陽性になるのはNikolsky現象である(天疱瘡、SSSSでも陽性)。Köbner現象は乾癬、扁平苔癬、白斑などでみられる。 ・抗基底膜部抗体は水疱性類天疱瘡でみられ、TENでは検出されない。 ・原因薬の再投与による誘発試験は禁忌である。原因薬の推定にはDLSTなどを使う。 ・治療は原因薬の中止、熱傷に準じた全身管理、ステロイド・IVIG・血漿交換、眼の管理である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。