縮んだ背丈と曲がった背中―生活習慣病の中から骨粗鬆症の本当のリスクを見抜く
第100回医師国家試験 A問題 第53問
国試問題にチャレンジ
64歳の女性。腰背部痛を主訴に来院した。10年前から体動時に腰背部痛があり,徐々に増悪してきた。若いころより身長が5cm低くなっている。10年前に胃癌で胃亜全摘術を受けた。運動はあまりしていない。喫煙20本/日を40年間。身長148cm,体重52kg。血圧180/110mmHg。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン5.1g/dL,尿素窒素12mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL,総コレステロール240mg/dL,トリグリセリド220mg/dL,AST 40U/L,ALT 46U/L,LD 220U/L(基準176~353),ALP 202U/L(基準260以下),Ca 9.4mg/dL,P 3.2mg/dL。胸椎エックス線単純写真で後弯と圧迫骨折とを認める。 この患者の骨病変のリスク要因はどれか。2つ選べ。
- a.喫煙
- b.脂肪肝
- c.高血圧
- d.運動不足
- e.脂質異常症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
閉経後女性に身長低下・円背・椎体圧迫骨折がみられ、血清Ca・P・ALPが正常であれば、原発性骨粗鬆症が強く考えられます。骨粗鬆症の確立したリスク要因には、喫煙(FRAXの項目にも含まれる)や運動不足(機械的刺激の減少による骨量低下と転倒リスクの増加)などの生活習慣があり、胃切除後やステロイド使用、糖尿病などは続発性骨粗鬆症の原因となります。一方、高血圧・脂質異常症・単純な脂肪肝は骨粗鬆症の確立したリスク要因とはいえず、慢性肝疾患や糖尿病とは区別して理解する必要があります。生活習慣病が並ぶ中から骨と確かな関係をもつ要因を選び分ける力は、禁煙指導や運動療法を通じて骨折の連鎖を防ぐ実際の診療に直結します。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・64歳女性で、閉経後であることはほぼ確実である。閉経によりエストロゲンが低下すると破骨細胞による骨吸収が亢進し、骨量が急速に減少する。 ・10年来徐々に増悪する体動時の腰背部痛、若年時からの5cmの身長低下、胸椎エックス線での後弯と圧迫骨折がある。身長低下と円背(後弯)は、椎体の圧迫骨折が積み重なった結果として典型的な所見である。 ・10年前に胃亜全摘術を受けている。胃切除後はカルシウムやビタミンDの吸収が低下し(胃酸分泌低下によるカルシウムの溶解・吸収低下、脂肪吸収障害に伴う脂溶性ビタミンであるビタミンDの吸収低下など)、骨粗鬆症や骨軟化症の原因となる。 ・運動習慣に乏しく、喫煙は20本/日×40年(ブリンクマン指数800)と重度である。 ・血圧180/110mmHgと高血圧、総コレステロール240mg/dL・トリグリセリド220mg/dLと脂質異常症があり、AST/ALTも軽度高値で脂肪肝も想定される。
鑑別の考え方
椎体圧迫骨折をみたら、原発性骨粗鬆症と、二次性の骨病変(多発性骨髄腫、転移性骨腫瘍、副甲状腺機能亢進症、骨軟化症など)を区別する必要がある。 ・Ca 9.4mg/dL、P 3.2mg/dLはいずれも基準範囲内で、原発性副甲状腺機能亢進症(高Ca・低P)を示唆しない。 ・ALPは基準範囲内であり、骨軟化症(ALP上昇、低P・低Caを伴いやすい)や造骨性骨転移を積極的に疑う所見はない。胃切除後の骨軟化症は鑑別に挙がるが、本例の検査値からは考えにくい。 ・尿素窒素・クレアチニンは正常で、腎性骨異栄養症(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)も考えにくい。 ・総蛋白は正常で、多発性骨髄腫を積極的に疑う蛋白異常の手がかりはない(確定的な除外には蛋白分画などが必要)。 以上から、閉経後骨粗鬆症(胃切除後という続発性の要因も加わっている可能性がある)による椎体圧迫骨折と考えられる。
設問の考え方
問われているのは、選択肢のうち骨粗鬆症のリスク要因として確立しているものである。生活習慣病(高血圧、脂質異常症、脂肪肝)が複数並んでいるが、骨粗鬆症との関係が明確に確立しているのは生活習慣に関わる喫煙と運動不足である。64歳という比較的若い年齢で多発性の圧迫骨折・円背をきたしていることから、閉経に加えて骨量減少を促進する要因が重なっていると読むのが自然である。
選択肢考察
- ○a. 喫煙
喫煙は骨粗鬆症および骨折の確立したリスク要因であり、WHOの骨折リスク評価ツールであるFRAX(Fracture Risk Assessment Tool)にも「現在の喫煙」が危険因子として組み込まれている。機序として、ニコチンなどによる骨芽細胞機能の抑制、エストロゲンの肝代謝促進と抗エストロゲン作用、腸管からのカルシウム吸収低下、低体重化などが考えられている。本例は20本/日×40年と長期・多量の喫煙歴があり、骨病変に寄与したと考えられる。
- ×b. 脂肪肝
本例はAST 40U/L、ALT 46U/Lと軽度高値で脂質異常症もあることから脂肪肝が疑われるが、単純な脂肪肝が骨粗鬆症のリスク要因であるとは確立していない。肝疾患のうち骨粗鬆症の原因として知られるのは、肝硬変や原発性胆汁性胆管炎などの慢性肝疾患で、胆汁うっ滞によるビタミンD吸収障害や活性化障害が関わる。脂肪肝はこれに当たらず、本例の骨病変のリスク要因とはいえない。
- ×c. 高血圧
本例は180/110mmHgとⅡ度以上の高血圧があるが、高血圧そのものは骨粗鬆症の確立したリスク要因ではない。尿中カルシウム排泄の増加などを介して骨量低下と関連するとの報告もあるが評価は定まっていない。なお、降圧薬のうちサイアザイド系利尿薬は尿中カルシウム排泄を減らすため、骨にはむしろ保護的に働くとされる。
- ○d. 運動不足
骨は荷重や筋収縮による機械的刺激を受けることで骨形成が促され、骨量が維持される。運動不足や長期臥床ではこの刺激が減り、骨吸収が骨形成を上回って骨量が減少する(廃用性骨萎縮)。また、運動不足は筋力・バランス能力の低下を招いて転倒しやすくなり、骨折リスクをさらに高める。本例は運動をあまりしておらず、骨病変のリスク要因に当たる。
- ×e. 脂質異常症
本例は総コレステロール240mg/dL、トリグリセリド220mg/dLと脂質異常症を認めるが、脂質異常症と骨粗鬆症の関連については促進的とする報告と否定的な報告があり、確立したリスク要因とはいえない。同じ代謝性疾患でも、糖尿病(特に骨質の劣化を伴う)は骨折リスクを高めることが知られており、区別して覚えておくとよい。
骨粗鬆症の主なリスク要因
・変えられない要因: 高齢、女性、閉経(早期閉経を含む)、骨折の既往、両親の大腿骨近位部骨折歴、やせ(低体重) ・生活習慣要因: 喫煙、過度の飲酒(1日3単位以上)、運動不足、カルシウム摂取不足、ビタミンD不足(日照不足を含む)、過度のダイエット、多量のカフェイン摂取、食塩やリンの過剰摂取 ・続発性骨粗鬆症の原因: ステロイド(糖質コルチコイド)長期使用、関節リウマチ、糖尿病、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、性腺機能低下症、胃切除後・吸収不良症候群、慢性腎臓病、慢性肝疾患(肝硬変など)、長期臥床など
FRAX
WHOが開発した10年以内の骨折発生確率を推定するツールで、年齢、性別、体重、身長、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、ステロイド使用、関節リウマチ、続発性骨粗鬆症、アルコール摂取(1日3単位以上)、大腿骨頸部骨密度を入力項目とする。
胃切除後の骨代謝障害
胃切除後にはカルシウム・ビタミンDの吸収低下により骨粗鬆症や骨軟化症をきたしやすい。術後長期経過例では骨密度の評価が推奨される。骨軟化症では骨基質の石灰化障害によりALPが上昇し、血清P・Caが低下しやすい点が骨粗鬆症との違いである。
骨粗鬆症の検査所見
原発性骨粗鬆症では血清Ca、P、ALPは原則として正常範囲にある。これらに異常があれば続発性骨粗鬆症やほかの代謝性骨疾患を考える。診断は、脆弱性骨折(椎体骨折または大腿骨近位部骨折)があるか、骨密度が若年成人平均値(YAM)の70%以下または-2.5SD以下であることなどに基づく。
POINT
・閉経後女性の身長低下・円背・椎体圧迫骨折は骨粗鬆症を示唆する。 ・原発性骨粗鬆症では血清Ca・P・ALPは正常である。 ・喫煙、運動不足、過度の飲酒、やせ、カルシウム・ビタミンD不足は骨粗鬆症の生活習慣上のリスク要因である。 ・胃切除後、ステロイド使用、糖尿病、関節リウマチなどは続発性骨粗鬆症の原因となる。 ・高血圧、脂質異常症、脂肪肝は骨粗鬆症の確立したリスク要因ではない。
