「胎動がない」は眠っているだけ?―nonreactive NSTから始める段階的な胎児評価
第100回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
32歳の1回経産婦。胎動が少なくなってきたことを心配して来院した。1週前,妊娠36週の妊婦健康診査で異常を認めなかった。ノンストレステスト〈NST〉を20分間行ったが,胎動がみられず,胎児心拍数図にも一過性頻脈がみられないのでnonreactiveと判定した。 次に行う対応として適切でないのはどれか。
- a.緊急帝王切開
- b.NSTの再検査
- c.胎児への音響振動刺激
- d.BPS〈biophysical profile score〉検査
- e.コントラクションストレステスト〈CST〉
対話形式の解説
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医学生まとめ
NSTでreactiveなら胎児は健常と判断できますが、nonreactiveは偽陽性が多く、それだけで胎児機能不全とは診断できません。最も多い原因は胎児の睡眠であり、まず記録時間の延長やNSTの再検査、振動音響刺激(VAST)で胎児の覚醒を図ります。それでも反応がなければ、NST・呼吸様運動・胎動・筋緊張・羊水量を各2点で評価するBPSや、子宮収縮下で遅発一過性徐脈の有無をみるCSTで胎児の予備能を確認します。こうした追加評価で胎児機能不全と判断されてはじめて帝王切開などの急速遂娩を検討するため、nonreactiveのみを根拠とした緊急帝王切開は適切ではありません。偽陽性の多い検査を段階的な評価で補う考え方は、胎動減少を訴える妊婦さんに安全かつ過不足なく対応するための基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
32歳の1回経産婦で、妊娠37週前後(1週前の妊娠36週の健診では異常なし)である。胎動の減少を自覚して来院した。ノンストレステスト(NST: 子宮収縮などのストレスがない状態で胎児心拍数と胎動を記録する検査)を20分間行ったところ、胎動がなく、一過性頻脈(胎児心拍数の一時的な上昇)もみられず、nonreactive(非反応型)と判定された。
評価のプロセス
NSTでは、健康な胎児は胎動に伴って心拍数が一過性に上昇する。妊娠32週以降では、20分間に15bpm以上・15秒以上持続する一過性頻脈が2回以上あればreactive(反応型)とし、胎児が健常である(胎児well-being)と判断できる。reactiveであれば胎児の状態が良好である可能性はきわめて高い。 一方でnonreactiveは、胎児低酸素・胎児機能不全(NRFS: non-reassuring fetal status)の可能性を示すが、それ以外の原因でも起こる。最も多いのは胎児の睡眠周期(静睡眠期は20〜40分程度続く)であり、ほかに母体への鎮静薬投与や早産期の未熟性などもある。つまりNSTは偽陽性が多い検査であり、胎動減少やnonreactive NSTのみを根拠にNRFSと診断することはできない。
設問の考え方
nonreactive NSTに対しては、まず検査時間の延長やNSTの再検査、音響振動刺激による胎児の覚醒を試み、それでも反応がなければbiophysical profile score(BPS)やコントラクションストレステスト(CST)で胎児の状態をさらに評価する、という段階的な対応をとる。これらの追加評価でNRFSが確認されてから、分娩方法(急速遂娩としての帝王切開を含む)を判断する。追加評価をせずにいきなり緊急帝王切開を行うことは適切でない。
選択肢考察
- ○a. 緊急帝王切開
適切でない対応であり、これが正解である。nonreactive NSTや胎動減少は、胎児の異常を見逃しにくい(感度が高い)反面、正常な胎児でもしばしば陽性となる(特異度が低い)検査所見であり、偽陽性が多い。胎児の睡眠などの可能性を除外し、BPSやCSTなどで胎児の状態を確認しないまま緊急帝王切開を行うと、不要な手術による母体の負担・合併症や、次回妊娠への影響(子宮瘢痕)を招く。追加検査でNRFSと判断された場合や、高度の徐脈など明らかな異常心拍パターンがみられた場合にはじめて急速遂娩が検討される。
- ×b. NSTの再検査
適切な対応である。nonreactiveの原因として最も多いのは胎児が静睡眠期にあることであり、胎児の睡眠周期は20〜40分程度続く。そのため、記録時間を40分程度まで延長したり、時間をおいてNSTを再検査したりすると、胎児が覚醒してreactiveとなることが多い。再検査でreactiveとなれば胎児の状態は良好と判断できる。
- ×c. 胎児への音響振動刺激
適切な対応である。母体腹壁上から音と振動を与える刺激装置(人工喉頭など)を当てて胎児を覚醒させ、胎動と一過性頻脈が誘発されるかを確認する方法を、振動音響刺激試験(VAST: vibroacoustic stimulation test)という。睡眠による偽陽性を減らし、検査時間を短縮できる。刺激後にreactiveとなれば胎児は健常と判断できる。
- ×d. BPS〈biophysical profile score〉検査
適切な対応である。BPSは、NSTに加え、超音波で観察する胎児呼吸様運動、胎動(体幹・四肢の運動)、筋緊張(四肢の屈曲・伸展)、羊水量の計5項目をそれぞれ0点か2点で評価し(合計10点満点)、胎児の状態を総合的に判定する検査である。一般に8〜10点は正常、6点は境界、4点以下は胎児低酸素が疑われる異常と判断する。NST単独より偽陽性が少なく、nonreactive NST後の追加評価として有用である。NSTと羊水量の2項目で簡便に評価する方法は、modified BPSと呼ばれる。
- ×e. コントラクションストレステスト〈CST〉
適切な対応である。CSTは、オキシトシンの点滴投与や乳頭刺激で子宮収縮(10分間に3回程度)を誘発し、そのストレス下で胎児心拍数の変化をみる検査である。子宮収縮時には胎盤への血流が一時的に減るため、胎盤機能が低下した胎児では遅発一過性徐脈が出現する。収縮の半数以上で遅発一過性徐脈がみられれば陽性とし、胎児の予備能の低下(NRFS)を示唆するため急速遂娩を検討する。陰性であれば胎児の状態は良好と判断できる。ただし、前置胎盤、帝王切開既往など子宮収縮の誘発が危険な場合は禁忌である。
胎児well-beingの評価法
1) NST(ノンストレステスト) ・子宮収縮のない状態で胎児心拍数と胎動を記録する。 ・reactive(反応型): 妊娠32週以降では、20分間に15bpm以上・15秒以上持続する一過性頻脈が2回以上ある(32週未満では10bpm以上・10秒以上)。 ・nonreactive: 40分程度観察しても基準を満たさない場合。偽陽性が多い。 2) VAST(振動音響刺激試験) ・胎児を覚醒させて一過性頻脈を誘発する。睡眠による偽陽性の除外に有用。 3) BPS(biophysical profile score) ・NST、胎児呼吸様運動、胎動、筋緊張、羊水量の5項目(各0または2点、計10点)。 ・急性の低酸素を反映する指標(NST、呼吸様運動、胎動、筋緊張)と、慢性の低酸素を反映する指標(羊水量: 胎盤機能不全による腎血流低下で減少)を組み合わせて評価する。 ・modified BPS: NSTと羊水量(AFI)の組み合わせ。 4) CST(コントラクションストレステスト) ・子宮収縮を誘発し、遅発一過性徐脈の有無で胎盤の予備能を評価する。 ・禁忌: 前置胎盤、帝王切開既往・子宮筋腫核出術後、切迫早産、前期破水など。 5) 胎児血流ドプラ検査 ・臍帯動脈、中大脳動脈などの血流波形で胎児の循環状態を評価する(特に胎児発育不全で有用)。
胎動減少への対応
胎動減少の自覚は胎児の状態悪化の徴候である場合があり、受診した妊婦にはNSTや超音波検査による評価を行う。異常所見が得られた場合に段階的な追加検査を行い、胎児機能不全と判断されれば妊娠週数や子宮頸管の状態を考慮して急速遂娩(経腟分娩の誘発・吸引分娩・帝王切開など)を選択する。
用語
かつては「胎児仮死(fetal distress)」という用語が使われたが、実際の胎児の状態を正確に反映しないことから、現在は「胎児機能不全(NRFS: non-reassuring fetal status)」という用語が用いられる。
POINT
・NSTでreactiveなら胎児は健常と判断できるが、nonreactiveは偽陽性が多く、それだけでは胎児機能不全と診断できない。 ・nonreactiveの主な原因は胎児の睡眠 → NSTの延長・再検査、振動音響刺激(VAST)で覚醒を図る。 ・さらにBPS、CSTで評価し、胎児機能不全と判断して初めて急速遂娩(帝王切開など)を検討する。 ・CST陽性 = 子宮収縮の半数以上で遅発一過性徐脈。 ・BPSは5項目×2点の10点満点。8〜10点正常、4点以下は異常。
