空腹時の痛みと色の変わる試薬―十二指腸潰瘍を「治す」から「再発させない」へ
第99回医師国家試験 G問題 第24問
国試問題にチャレンジ
28歳の男性。空腹時の上腹部痛のため来院した。数年前から同様の症状が出現していたが,市販薬を適宜服用していた。体重減少はみられない。右上腹部に圧痛を認める。便潜血反応は陰性。血液所見と血液生化学所見とに異常を認めない。十二指腸内視鏡写真を別に示す。迅速ウレアーゼ試験を行ったところ陽性であった。 治療薬として適切なのはどれか。3つ選べ。

- a.抗コリン薬
- b.プロトンポンプ阻害薬
- c.アモキシシリン
- d.クラリスロマイシン
- e.バンコマイシン
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
空腹時に増悪する上腹部痛を若年者が繰り返す場合は十二指腸潰瘍が典型的で、迅速ウレアーゼ試験陽性はHelicobacter pylori感染を示します。H. pylori陽性の消化性潰瘍では、潰瘍の治癒に加えて除菌療法が再発予防の根幹となり、わが国の一次除菌は酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬またはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの7日間内服です。酸分泌抑制薬は胃内pHを上げて抗菌薬の効果を高める役割も担い、一次除菌失敗時はクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えて二次除菌を行います。抗コリン薬は酸分泌抑制が弱く除菌効果もなく、バンコマイシンはMRSAやC. difficile感染症の薬であって除菌には用いません。除菌は潰瘍再発だけでなく胃癌などのリスク低減にもつながるため、感染診断・除菌・除菌判定の流れを一連で理解しておくことが重要です。
解答・解説
正解はb, c, dです
所見の整理
・28歳と若年の男性 ・空腹時に増悪する上腹部痛が数年前から反復(市販薬でしのいでいた) ・体重減少なし、便潜血陰性、血液検査異常なし(貧血や出血を示唆する所見はない) ・右上腹部(心窩部よりやや右)の圧痛 ・十二指腸内視鏡で球部に白苔を伴う潰瘍 ・迅速ウレアーゼ試験陽性
診断へのプロセス
空腹時痛は十二指腸潰瘍に特徴的な症状で、食事により胃酸が緩衝されると痛みが軽くなる。若年者に多く、再発を繰り返す経過をとりやすい点も本例に合う。内視鏡所見から十二指腸球部の潰瘍と確定できる。体重減少がなく血液検査も正常であることは、悪性疾患や活動性出血を積極的に疑う状況ではないことを示す。 迅速ウレアーゼ試験は、内視鏡で採取した粘膜をウレア(尿素)を含む試薬に入れ、Helicobacter pylori(ピロリ菌)が産生するウレアーゼで尿素がアンモニアに分解されてpHが上がり試薬の色が変わるかをみる検査である。陽性であれば、ピロリ菌感染があると判断できる。 以上から、H. pylori陽性の十二指腸潰瘍と診断される。
設問の考え方
H. pylori陽性の消化性潰瘍では、酸分泌抑制薬による潰瘍の治癒に加え、除菌療法が再発防止の根幹となる。除菌に成功すると潰瘍の再発率は大きく低下する。わが国の一次除菌は、強力な酸分泌抑制薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を1週間内服する方法であり、選択肢の中でこれに該当する3つを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 抗コリン薬
抗コリン薬はムスカリン受容体を遮断して消化管の運動(蠕動)や攣縮を抑え、胃酸分泌も一定程度抑制する。かつては潰瘍治療にも用いられたが、酸分泌抑制効果はプロトンポンプ阻害薬に比べはるかに弱く、除菌効果もない。口渇・尿閉・眼圧上昇などの副作用もあり、現在の消化性潰瘍治療や除菌療法の構成薬ではない。
- ○b. プロトンポンプ阻害薬
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は壁細胞のH+/K+-ATPaseを阻害し、強力に胃酸分泌を抑える。潰瘍そのものの治癒を促すとともに、胃内pHを上げることで酸に弱いアモキシシリンやクラリスロマイシンの安定性と抗菌活性を高め、除菌率を向上させる。除菌療法の3剤のうち酸分泌抑制薬の役割を担う。なお現在では、より強力で速効性のあるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB、ボノプラザン)がPPIの代わりに用いられることが多い。
- ○c. アモキシシリン
アモキシシリンはペニシリン系抗菌薬で、H. pyloriに対する耐性がほとんどみられないため除菌療法の中心となる抗菌薬である。一次除菌・二次除菌のいずれにも用いられる。ペニシリンアレルギーがある場合は使用できず、別の組み合わせを検討する。
- ○d. クラリスロマイシン
クラリスロマイシンはマクロライド系抗菌薬で、酸分泌抑制薬およびアモキシシリンと組み合わせて一次除菌に用いる。ただし、わが国ではクラリスロマイシン耐性菌が増えており、PPIを用いた3剤療法の除菌成功率は70〜80%程度にとどまる。一次除菌が失敗した場合は、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えた3剤で二次除菌を行う。
- ×e. バンコマイシン
バンコマイシンはグリコペプチド系抗菌薬で、主にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の注射治療や、Clostridioides difficile感染症(偽膜性腸炎)の経口治療に用いられる。H. pyloriの除菌療法には用いない。
H. pylori感染と疾患
H. pyloriはグラム陰性らせん菌で、ウレアーゼによって産生したアンモニアで周囲の胃酸を中和し、胃粘膜に長期間定着する。慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌、特発性血小板減少性紫斑病(免疫性血小板減少症)などと関連する。わが国では、H. pylori感染胃炎と診断されれば除菌療法が保険適用となっている。
感染診断法
・内視鏡を用いる方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織染色)、培養法 ・内視鏡を用いない方法:尿素呼気試験、抗体測定(血清・尿)、便中抗原測定 除菌判定には尿素呼気試験や便中抗原測定が推奨され、PPIやP-CABはこれらの検査を偽陰性にしうるため、判定時は一定期間休薬する。
除菌療法(わが国)
・一次除菌:酸分泌抑制薬(PPIまたはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシン、1日2回・7日間 ・二次除菌:酸分泌抑制薬+アモキシシリン+メトロニダゾール、7日間 ・主な副作用:下痢・軟便、味覚異常、皮疹など。メトロニダゾール内服中は飲酒を避ける(ジスルフィラム様作用)。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の比較
十二指腸潰瘍は若年者に多く、空腹時・夜間の痛みが典型で、胃酸分泌は亢進していることが多い。胃潰瘍は中高年に多く、食後痛が比較的多い。胃潰瘍では悪性(胃癌)との鑑別のため生検が重要となる。
POINT
・空腹時上腹部痛+若年+十二指腸球部潰瘍 → 十二指腸潰瘍 ・迅速ウレアーゼ試験陽性 → H. pylori感染あり → 除菌療法の適応 ・一次除菌:酸分泌抑制薬(PPIまたはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシン、7日間 ・二次除菌:クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更 ・バンコマイシンはMRSAやC. difficile感染症の薬、抗コリン薬は除菌に使わない
