18歳の高血圧に潜む「お腹の雑音」―腎血管性高血圧を形と機能で確かめる
第99回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
18歳の男子。近医で高血圧を指摘されたため来院した。血圧は3年前まで正常であった。両親と兄弟とに高血圧はない。脈拍76/分,整。血圧184/104mmHg,左右差はない。心雑音なく,肺野にラ音を認めない。腹部に血管雑音を聴取する。血漿レニン活性4.6ng/mL/時間(基準1.2~2.5)。尿中カテコラミン正常。 診断の確定に有用なのはどれか。2つ選べ。
- a.心エコー検査
- b.レノグラフィ
- c.腎動脈造影
- d.MIBGシンチグラフィ
- e.グルカゴン負荷試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
若年発症・家族歴なし・最近の発症の高度高血圧は二次性高血圧を疑う手がかりで、腹部血管雑音と血漿レニン活性高値がそろえば腎血管性高血圧が考えられます。腎動脈狭窄で腎血流が低下すると、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化して血圧が上昇します。診断の確定には、狭窄を直接描出する腎動脈造影(形態)と、患側腎の血流・機能低下を示すレノグラフィ(機能、カプトプリル負荷で感度向上)が有用です。心エコーは高血圧の結果を、MIBGシンチグラフィは褐色細胞腫を、グルカゴン負荷試験は内分泌機能を評価する検査であり原因検索には向きません。若年者では線維筋性異形成や高安動脈炎が原因となり、血行再建で治癒も望めるため、二次性高血圧を見逃さない姿勢が重要です。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・18歳という若年で、3年前までは血圧正常であった。家族歴に高血圧がない。 ・血圧184/104mmHgと高度の高血圧(Ⅲ度相当)で、左右差はない。 ・腹部に血管雑音を聴取する。 ・血漿レニン活性が4.6ng/mL/時間と基準値より高い。 ・尿中カテコラミンは正常。
診断のプロセス
若年発症、家族歴なし、比較的最近の発症、高度の高血圧は、いずれも本態性高血圧よりも二次性高血圧(原因となる疾患があって生じる高血圧)を強く疑わせる特徴である。 腹部の血管雑音は、狭窄した腎動脈を血液が乱流となって通過する音と考えられる。腎動脈が狭窄すると腎臓に届く血流が低下し、傍糸球体細胞が「血圧が低い」と感知してレニンを過剰に分泌する。レニン→アンジオテンシンⅡ→アルドステロンの系(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)が活性化し、血管収縮とナトリウム・水の貯留によって血圧が上昇する。したがって、腹部血管雑音と高レニン血症の組み合わせから腎血管性高血圧が最も考えられる。 レニン高値の二次性高血圧としてはレニン産生腫瘍や悪性高血圧も挙がるが、腹部血管雑音は腎動脈狭窄を示唆する。また尿中カテコラミンが正常であることから褐色細胞腫は否定的である。 若年者の腎動脈狭窄の原因としては、線維筋性異形成や高安動脈炎(大動脈炎症候群)が代表的である。本例は上肢血圧に左右差がなく、高安動脈炎を示唆する所見はとくに記載されていない。
設問の考え方
診断を確定するには、①腎動脈に狭窄が存在することを形態的に証明する検査、②狭窄によって患側の腎血流・腎機能が低下していることを機能的に示す検査が有用である。前者の代表が腎動脈造影、後者の代表がレノグラフィである。
選択肢考察
- ×a. 心エコー検査
心エコー検査では、長期間の高血圧による左室肥大や心機能を評価できるが、高血圧の原因である腎動脈狭窄を見つける検査ではない。腎血管性高血圧の検査として超音波を使う場合は、腹部(腎)エコーで左右の腎の大きさの差(患側腎の萎縮)をみたり、腎動脈ドプラ法で狭窄部の血流速度の上昇をとらえたりする。
- ○b. レノグラフィ
レノグラフィは、腎臓に集まる放射性医薬品(99mTc-MAG3など)を静注し、左右の腎の放射能の変化を時間経過で記録する検査で、左右別の腎血流と腎機能(分腎機能)を評価できる。曲線は血管相(腎への流入)、分泌相(腎実質への集積)、排泄相に分けられ、狭窄側の腎では血管相の立ち上がりが低く遅れ、ピークが遅延・低下して排泄も遅れる。アンジオテンシン変換酵素阻害薬であるカプトプリルを投与して検査すると、狭窄側腎で糸球体濾過を支えていたアンジオテンシンⅡの作用が消え、左右差がよりはっきりするため診断精度が上がる(カプトプリル負荷レノグラフィ)。
- ○c. 腎動脈造影
カテーテルを用いて腎動脈に造影剤を注入し、狭窄の部位・程度・形態を直接描出する検査で、腎動脈狭窄の確定診断のゴールドスタンダードである。線維筋性異形成では中〜遠位部の数珠状の狭窄(string of beads)、動脈硬化では起始部の狭窄が典型である。狭窄を確認したうえで、そのまま経皮的腎動脈形成術(PTRA)による治療に移ることもできる。左右の腎静脈からの採血によるレニン活性の比較(腎静脈レニン比)を同時に行えば、狭窄が高血圧の原因となっているかの判断にも役立つ。
- ×d. MIBGシンチグラフィ
MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)はノルアドレナリンに似た構造をもち、交感神経系の細胞やクロム親和性細胞に取り込まれる。そのため褐色細胞腫・パラガングリオーマや神経芽腫の局在診断に用いられる。本例では尿中カテコラミンが正常で褐色細胞腫は否定的であり、腎動脈狭窄の診断にも役立たない。
- ×e. グルカゴン負荷試験
グルカゴン負荷試験は、インスリン分泌能(Cペプチドの反応)の評価や成長ホルモン分泌刺激試験などに用いられる。かつては褐色細胞腫の誘発試験としても行われたが、高血圧クリーゼを起こす危険があるため現在は用いられない。いずれにしても腎血管性高血圧の診断には関係しない。
腎血管性高血圧の概要
腎動脈の狭窄・閉塞によって腎血流が低下し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化して生じる二次性高血圧である。 ・原因:中高年では粥状動脈硬化が最多(腎動脈起始部の狭窄が多い)。若年者では線維筋性異形成(若年女性に多い)や高安動脈炎(若年女性に多い)が重要である。 ・疑うべき臨床像:30歳未満や55歳以上での発症、急に発症・悪化した高血圧、治療抵抗性高血圧、腹部血管雑音、ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)投与後の急激な腎機能悪化、左右の腎臓の大きさの差(1.5cm以上)、原因不明の再発性肺水腫など。 ・検査所見:血漿レニン活性高値、二次性アルドステロン症による低カリウム血症を伴うことがある。
検査の位置づけ
・スクリーニング:腎動脈ドプラ超音波、造影CT血管撮影(CTA)、MR血管撮影(MRA)。 ・機能評価:レノグラフィ(カプトプリル負荷で感度が向上)、分腎静脈レニン比の測定。 ・確定診断:腎動脈造影。
治療
・線維筋性異形成では経皮的腎動脈形成術(バルーン拡張)の効果が高く、高血圧の治癒も期待できる。 ・動脈硬化性狭窄ではまず降圧薬などの内科的治療が基本となり、適応を選んで血行再建術を行う。 ・降圧薬としてACE阻害薬やARBが有効だが、両側腎動脈狭窄や単腎の狭窄では腎機能を急激に悪化させるおそれがあるため原則禁忌である。
主な二次性高血圧と特徴
・原発性アルドステロン症:低レニン、アルドステロン高値、低カリウム血症。 ・褐色細胞腫:発作性の高血圧、頭痛・動悸・発汗、カテコラミンとその代謝産物(メタネフリン)の高値、MIBGシンチグラフィ陽性。 ・Cushing症候群:中心性肥満、満月様顔貌、コルチゾール高値。 ・大動脈縮窄症:上肢高血圧と下肢血圧の低下。 ・腎実質性高血圧:慢性腎臓病、蛋白尿。
POINT
・若年・家族歴なし・急な発症の高度高血圧 → 二次性高血圧を疑う。 ・腹部血管雑音+血漿レニン活性高値 → 腎血管性高血圧。 ・確定診断:腎動脈造影(形態)、レノグラフィ(患側腎の血流・機能低下。カプトプリル負荷で感度向上)。 ・若年者の原因:線維筋性異形成、高安動脈炎。中高年:動脈硬化。 ・MIBGシンチグラフィは褐色細胞腫、グルカゴン負荷試験はインスリン・成長ホルモン分泌能の評価。
