StudyMed医師国家試験

かゆい高齢者の張りつめた水疱―自己抗体は「どこ」に沈着するのか

第99回医師国家試験 F問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第99回 F問題 第36問

78歳の女性。1週前から体幹に痒みとともに水疱が出現し,次第に増加してきたため来院した。発熱と体重減少とはない。口腔内病変を認めない。体幹部の写真(A)と皮膚生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。 蛍光抗体法で免疫グロブリンの沈着を認める部位はどれか。

第99回 F問題 第36問の問題画像
  1. a.血管壁
  2. b.表皮細胞間
  3. c.表皮細胞核
  4. d.表皮基底膜部
  5. e.真皮乳頭部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者に出てきた水疱から自己免疫性水疱症を診断し、蛍光抗体法で抗体がどこに沈着するかを答える問題だ。着眼点は「水疱がどの層で裂けているか」と「自己抗体の標的がどこにあるか」。この2つは表裏一体なんだ。まず臨床像から、どんな水疱症を考えるかな。
医学生医学生
水疱症というと、まず天疱瘡が浮かびます。皮膚科の講義でも最初に習いました。
ドクタードクター
候補として挙げるのは大事だね。ただ、天疱瘡と類天疱瘡は臨床像がかなり違う。今回の患者さんは高齢で、強いかゆみがあり、口の中に病変がない。写真では体幹に大小の張りつめた水疱が多発し、破れた後のびらんや痂皮、紅斑も混じっている。これらはどちらに近いと思う?
医学生医学生
尋常性天疱瘡は口腔粘膜病変がほぼ必発と習ったので、口の中がきれいなのは合わない気がします。
ドクタードクター
その通り。天疱瘡の水疱は弛緩性で破れやすく、びらんが主体になりやすい。一方、高齢者・強い瘙痒・緊満性で破れにくい水疱・粘膜病変が少ない、という組み合わせは水疱性類天疱瘡の典型なんだ。決め手は組織像。H-E染色では、表皮がほぼ全層保たれたまま基底層の直下で真皮から剥がれ、表皮下水疱をつくっている。水疱内や真皮上層には好酸球を主体とした炎症細胞が浸潤していて、表皮細胞がばらばらになる棘融解はみられない。
医学生医学生
病理実習で天疱瘡の標本を見たとき、表皮の中に裂け目があって、基底細胞が墓石みたいに並んでいました。今回はそれとは違って、表皮の下で丸ごと剥がれているんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。その「墓石状配列」は表皮内水疱の天疱瘡の所見だ。今回は表皮下水疱なので水疱性類天疱瘡と診断できる。では本題。自己抗体はどこに沈着するだろう。
医学生医学生
表皮の下で剥がれているので……真皮側でしょうか。真皮乳頭部かなと一瞬思いました。
ドクタードクター
惜しいけれど、そこがひっかけだ。水疱性類天疱瘡の自己抗原は、基底細胞を基底膜につなぎとめるヘミデスモソームの構成蛋白、BP180(XVII型コラーゲン)とBP230なんだ。だから蛍光抗体直接法では、表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。自己抗体が補体を活性化し、集まった好酸球などが蛋白分解酵素を放出して、表皮と真皮の接着が壊れる。それが表皮下水疱の正体だ。
医学生医学生
なるほど、抗原の場所=沈着部位=裂ける場所、という関係なんですね。では真皮乳頭部に沈着する病気は何ですか。
ドクタードクター
疱疹状皮膚炎(Duhring病)だ。真皮乳頭部にIgAが顆粒状に沈着し、組織では乳頭部に好中球の微小膿瘍を伴う。セリアック病との関連が知られ、肘や膝、臀部に強い瘙痒を伴う小水疱が集簇するけれど、日本人ではまれだね。
医学生医学生
表皮細胞間に沈着するのが天疱瘡ですね。デスモグレインが標的だから網目状に光る、と。
ドクタードクター
正解。尋常性天疱瘡はDsg3(粘膜皮膚型ではDsg1も)、落葉状天疱瘡はDsg1に対する抗体で、細胞同士の接着が外れて表皮内水疱になる。残りの2つも確認しよう。血管壁への沈着は、免疫複合体による皮膚血管炎、代表はIgA血管炎で、触れる紫斑が主体だ。表皮細胞核への沈着は生体内抗核抗体と呼ばれ、混合性結合組織病などの膠原病でみられる所見で、水疱症の診断とは関係ない。
医学生医学生
CBTの勉強では疾患名と沈着部位を丸暗記していましたが、抗原の場所から考えれば整理しやすいですね。
ドクタードクター
そう、それが一番の近道だ。発展知識として、同じ基底膜部に線状沈着するものに後天性表皮水疱症(VII型コラーゲンが標的)や線状IgA水疱性皮膚症がある。類天疱瘡と後天性表皮水疱症の鑑別には、1M食塩水で表皮と真皮を人工的に剥離した皮膚を使い、抗体が表皮側に付けば類天疱瘡、真皮側なら後天性表皮水疱症と判断する。
医学生医学生
血液検査で診断に使えるものはありますか。
ドクタードクター
血清の抗BP180抗体をELISA法で測ることができ、病勢の指標にもなる。末梢血の好酸球増多やIgE高値を伴うこともあるね。それから臨床で必ず確認したいのが服薬歴。糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬に関連して発症する例が知られているんだ。
医学生医学生
高齢者は糖尿病の方も多いので、お薬手帳の確認が大事ですね。治療はステロイドですか。
ドクタードクター
中等症以上ではステロイド内服が基本で、軽症なら強力なステロイド外用や、テトラサイクリン系抗菌薬とニコチン酸アミドの併用も選択肢になる。難治例では免疫抑制薬や大量γグロブリン療法、血漿交換を考える。高齢者が多いので、ステロイドの副作用や感染症にも十分注意して治療を組み立てることが大切だよ。

まとめ

高齢者に強い瘙痒を伴う緊満性水疱が多発し、口腔粘膜病変を欠き、組織で好酸球浸潤を伴う表皮下水疱を認めれば水疱性類天疱瘡を考えます。自己抗原はヘミデスモソームのBP180(XVII型コラーゲン)とBP230であり、蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着します。これに対し、天疱瘡はデスモグレインを標的として表皮細胞間に、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部に顆粒状IgAが、IgA血管炎は血管壁に沈着し、表皮細胞核への沈着は膠原病でみられる所見です。血清抗BP180抗体は診断と病勢評価に役立ち、DPP-4阻害薬との関連もあるため服薬歴の確認が欠かせません。「自己抗原の局在が沈着部位と水疱の裂ける層を決める」という原則を押さえれば、自己免疫性水疱症全体を一貫して理解できます。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・78歳という高齢の女性 ・1週間前から体幹に瘙痒(かゆみ)を伴う水疱が出現し、増えてきている ・発熱や体重減少はなく、全身状態は保たれている ・口腔内病変(粘膜疹)はない ・写真A:胸部から体幹にかけて、大小さまざまな緊満性(張りのある)水疱が多発し、水疱が破れた後のびらんや痂皮(かさぶた)、紅斑も混在している。 ・写真B(H-E染色):表皮はほぼ全層が保たれたまま、基底層の直下で表皮と真皮が離れて裂隙(表皮下水疱)を形成している。水疱内や真皮上層には好酸球を主体とする炎症細胞の浸潤がみられ、表皮細胞どうしがばらばらになる棘融解(きょくゆうかい)の像はない。

診断へのプロセス

水疱症をみたら、まず水疱が表皮内にできているのか(天疱瘡群)、表皮下にできているのか(類天疱瘡群など)を考える。本例は ①高齢者に好発する、②瘙痒の強い、③緊満性で破れにくい水疱、④口腔粘膜病変を欠く、⑤組織学的に表皮下水疱で好酸球浸潤を伴う、という特徴をそろえており、水疱性類天疱瘡と診断できる。尋常性天疱瘡は口腔粘膜病変がほぼ必発で、水疱は弛緩性で破れやすく、組織では表皮内水疱(棘融解)を示すため否定的である。

設問の考え方

自己免疫性水疱症の確定診断には、病変周囲の皮膚を採取して行う蛍光抗体直接法(患者皮膚に沈着している免疫グロブリンや補体を蛍光標識抗体で可視化する方法)が重要である。どの部位に沈着するかは、自己抗体が標的とする抗原の局在に対応する。水疱性類天疱瘡の自己抗原は、表皮基底細胞と基底膜をつなぐヘミデスモソーム(半接着斑)の構成蛋白であるBP180(XVII型コラーゲン)とBP230であるため、IgGとC3が表皮基底膜部に線状に沈着する。

選択肢考察

  1. ×a.  血管壁

    誤り。真皮血管壁への免疫グロブリン・補体の沈着は、免疫複合体が血管に沈着して生じる皮膚血管炎でみられる。代表例はIgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)で、血管壁にIgAとC3が沈着する。臨床的には触知可能な紫斑が主体であり、本例のような緊満性水疱とは異なる。

  2. ×b.  表皮細胞間

    誤り。表皮細胞間(網目状)へのIgG沈着は天疱瘡群の特徴である。天疱瘡では表皮細胞同士を接着するデスモソームの構成蛋白であるデスモグレイン(尋常性天疱瘡ではDsg3±Dsg1、落葉状天疱瘡ではDsg1)に対する自己抗体により細胞間の接着が失われ、表皮内水疱(棘融解)が生じる。本例は口腔病変を欠き、組織も表皮下水疱であるため該当しない。

  3. ×c.  表皮細胞核

    誤り。表皮細胞の核に免疫グロブリンが沈着する所見(生体内抗核抗体、in vivo ANA)は、抗U1-RNP抗体が高値となる混合性結合組織病(MCTD)などの膠原病でみられ、斑紋状の核染色として観察される。水疱症の診断所見ではない。

  4. ○d.  表皮基底膜部

    正解。水疱性類天疱瘡では、ヘミデスモソームの構成蛋白BP180(XVII型コラーゲン)・BP230に対する自己抗体(主にIgG)が産生され、蛍光抗体直接法で表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。自己抗体が補体を活性化し、好酸球などの炎症細胞が集まって蛋白分解酵素を放出することで、表皮と真皮の接着が破綻し表皮下水疱が形成される。本例の臨床像と組織像(表皮下水疱、好酸球浸潤)に合致する。

  5. ×e.  真皮乳頭部

    誤り。真皮乳頭部へのIgAの顆粒状沈着は、疱疹状皮膚炎(Duhring病)に特徴的である。疱疹状皮膚炎はグルテン過敏性腸症(セリアック病)と関連し、抗トランスグルタミナーゼ抗体が関与する。臨床的には肘・膝・臀部などに強い瘙痒を伴う小水疱が集簇してみられ、組織では真皮乳頭部に好中球が集まる微小膿瘍を伴う表皮下水疱を示す。日本人ではまれである。

自己免疫性水疱症と蛍光抗体直接法の沈着部位

・尋常性天疱瘡:表皮細胞間にIgG(C3)。抗原はDsg3(粘膜優位型)、Dsg3+Dsg1(粘膜皮膚型)。 ・落葉状天疱瘡:表皮細胞間にIgG。抗原はDsg1。口腔粘膜病変を欠き、表皮上層で裂ける。 ・水疱性類天疱瘡:表皮基底膜部に線状のIgG・C3。抗原はBP180・BP230。 ・後天性表皮水疱症:表皮基底膜部に線状のIgG。抗原はVII型コラーゲン(係留線維)。 ・線状IgA水疱性皮膚症:表皮基底膜部に線状のIgA。 ・疱疹状皮膚炎:真皮乳頭部に顆粒状のIgA。 ※水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症の鑑別には、1M食塩水で表皮と真皮を人工的に剥離した皮膚を用いる蛍光抗体法(食塩水剥離皮膚法)が用いられ、前者は表皮側、後者は真皮側に抗体が結合する。

水疱性類天疱瘡の要点

・自己免疫性水疱症の中で最も頻度が高く、70歳以上の高齢者に多い。 ・強い瘙痒を伴う浮腫性紅斑と、その上や正常皮膚上に生じる緊満性水疱が特徴。水疱は破れにくく、Nikolsky現象は通常陰性。粘膜病変は少ない。 ・病理:表皮下水疱、好酸球浸潤。 ・検査:蛍光抗体直接法で基底膜部にIgG・C3の線状沈着。血清抗BP180抗体(ELISA法)が陽性となり、病勢の指標にもなる。末梢血好酸球増多や血清IgE高値を伴うことがある。 ・誘因:DPP-4阻害薬(糖尿病治療薬)の内服に関連して発症する例が知られており、服薬歴の確認が重要である。 ・治療:軽症では強力なステロイド外用やテトラサイクリン系抗菌薬とニコチン酸アミドの併用、中等症以上ではステロイド内服が基本。難治例では免疫抑制薬、大量γグロブリン療法、血漿交換療法などを用いる。

天疱瘡との対比

・天疱瘡:中年に多い、弛緩性水疱・びらん、口腔粘膜病変が高頻度、Nikolsky現象陽性、表皮内水疱(棘融解)、細胞間IgG。 ・類天疱瘡:高齢者に多い、緊満性水疱、強い瘙痒、粘膜病変は少ない、表皮下水疱、基底膜部IgG・C3。

POINT

・高齢者+瘙痒+緊満性水疱+口腔病変なし+表皮下水疱(好酸球浸潤)→水疱性類天疱瘡。 ・蛍光抗体直接法:水疱性類天疱瘡は表皮基底膜部にIgG・C3が線状沈着。 ・天疱瘡は表皮細胞間IgG、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部IgA、IgA血管炎は血管壁IgA、MCTDは表皮細胞核(in vivo ANA)。 ・自己抗原:類天疱瘡=BP180(XVII型コラーゲン)・BP230、天疱瘡=デスモグレイン1・3。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。