StudyMed医師国家試験

ひげ・低い声・無月経―卵巣腫瘍の「性別」は細胞の顔つきで決まる

第99回医師国家試験 E問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第47問

卵巣腫瘍で男性化徴候をきたすのはどれか。

  1. a.明細胞腺癌
  2. b.顆粒膜細胞腫
  3. c.Sertoli・間質細胞腫瘍
  4. d.成熟囊胞性奇形腫
  5. e.未分化胚細胞腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ホルモンを産生する卵巣腫瘍を問う問題だ。着眼点は「その腫瘍がどの細胞に似ているか」。卵巣腫瘍は発生母地で分類すると、産生するホルモンまで自然に見えてくるんだ。まず、卵巣腫瘍の大きな3分類を言えるかな。
医学生医学生
表層上皮性・間質性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍の3つです。病理の講義で何度も出てきました。
ドクタードクター
完璧だね。このうち性ステロイドホルモンを作って症状を起こすのは、主に性索間質性腫瘍だ。では正常の卵巣でホルモンがどう作られるか、復習しておこう。
医学生医学生
二細胞説ですね。莢膜細胞がLHの刺激でアンドロゲンを作って、顆粒膜細胞がFSHの刺激でアロマターゼを使ってエストロゲンに変える、だったと思います。
ドクタードクター
その通り。そして精巣ではSertoli細胞が精子形成を支え、Leydig細胞がテストステロンを分泌する。性索間質性腫瘍は、これら卵巣や精巣の細胞に似た細胞からできているから、腫瘍の種類ごとに作るホルモンがほぼ決まるんだ。
医学生医学生
じゃあ顆粒膜細胞腫は、アロマターゼを持つ細胞に似ているからエストロゲン…つまり女性化ですか。一瞬、莢膜細胞がアンドロゲンを作るなら莢膜細胞腫が男性化かなとも思いました。
ドクタードクター
その迷いはよくあるね。理屈では莢膜細胞はアンドロゲン産生の細胞だけど、莢膜細胞腫は臨床的には顆粒膜細胞腫と同じくエストロゲン産生による女性化症状を示すのが典型だ。ここはセットで「女性化」と覚えておこう。顆粒膜細胞腫では、思春期前なら性早熟、閉経後なら不正性器出血や子宮内膜増殖症・子宮体癌の合併が問題になる。腫瘍マーカーはインヒビンだ。
医学生医学生
では男性化をきたすのは、精巣の細胞に似た腫瘍、つまりSertoli・間質細胞腫瘍ですね。
ドクタードクター
正解。Sertoli・間質細胞腫瘍、いわゆるSertoli-Leydig細胞腫は、主にLeydig様細胞がテストステロンなどのアンドロゲンを産生する。20〜30歳代の若い女性に多く、まず無月経や乳房萎縮といった「脱女性化」が起こり、続いて多毛、痤瘡、声の低音化、陰核肥大、側頭部の脱毛といった男性化徴候が現れる。
医学生医学生
脱女性化が先に来るんですね。良性と考えてよいのでしょうか。
ドクタードクター
高分化型は良性の経過をとるけれど、中分化・低分化型は悪性の性格を示しうる。一律に良性とは言えないので注意してね。片側性で比較的小さいことが多いのも特徴だ。男性化をきたす卵巣腫瘍としては、Leydig細胞腫などのステロイド細胞腫瘍も一緒に覚えておこう。では残りの選択肢を見ていこう。明細胞腺癌はどうかな。
医学生医学生
表層上皮性の悪性腫瘍で、チョコレート囊胞から発生しやすいと習いました。ホルモンは作らないですよね。
ドクタードクター
そう、ホルモン産生は通常みられない。日本で欧米より頻度が高く、化学療法が効きにくいこと、静脈血栓塞栓症や高カルシウム血症を合併しやすいことが臨床上のポイントだ。次に成熟囊胞性奇形腫は?
医学生医学生
卵巣腫瘍で最も多い良性腫瘍で、毛髪や歯、皮脂が入っているものですね。婦人科の実習で、摘出した囊腫から毛の塊が出てきて驚きました。
ドクタードクター
印象に残るよね。性ホルモンは産生しないけれど、甲状腺組織が主体になる卵巣甲状腺腫では甲状腺機能亢進症を起こすことがある。ほかに茎捻転、中高年での扁平上皮癌への悪性転化、抗NMDA受容体脳炎との関連も押さえておきたい。最後に未分化胚細胞腫だ。
医学生医学生
精巣のセミノーマに相当する悪性胚細胞腫瘍で、LDHが上がるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。若年女性に多く、hCGが軽度上昇する例はあるけれど、アンドロゲンは作らないので男性化はきたさない。放射線・化学療法の感受性が高く予後は比較的良好だ。Y染色体をもつ性腺異形成を背景に発生することがある点も大事だよ。
医学生医学生
整理すると、ホルモン産生は性索間質性腫瘍、その中で卵巣の細胞に似たものは女性化、精巣の細胞に似たものは男性化、胚細胞腫瘍はLDH・AFP・hCGといったマーカーで覚える、ということですね。
ドクタードクター
見事なまとめだ。臨床の注意点も加えておこう。女性の男性化をみたら、卵巣腫瘍のほかに多囊胞性卵巣症候群、副腎腫瘍、先天性副腎皮質過形成、Cushing症候群なども鑑別に挙がる。男性化が急速に進む場合や、血清テストステロンが著明に高い場合は腫瘍性を疑う手がかりになるんだ。
医学生医学生
PCOSは緩やかに多毛が出てくるイメージなので、「急に声が低くなった」なら腫瘍を探しに行く、ということですね。
ドクタードクター
その感覚が大切だよ。経過のスピードとホルモン値から腫瘍を疑い、画像で卵巣や副腎を検索する。細胞の由来から症状を推論できると、暗記の量もぐっと減るはずだ。

まとめ

卵巣腫瘍のうち性ステロイドホルモンを産生して症状を起こすのは主に性索間質性腫瘍であり、どの細胞に類似しているかで産生ホルモンが決まります。顆粒膜細胞腫と莢膜細胞腫はエストロゲンを産生して女性化をきたし、精巣のSertoli細胞・Leydig細胞に似たSertoli・間質細胞腫瘍やステロイド細胞腫瘍はアンドロゲンを産生して無月経・乳房萎縮に続く多毛・声の低音化・陰核肥大などの男性化をきたします。明細胞癌、成熟囊胞性奇形腫、未分化胚細胞腫は通常性ホルモンを産生せず、胚細胞腫瘍はLDH・AFP・hCGなどのマーカーと組み合わせて整理すると覚えやすくなります。女性の男性化ではPCOSや副腎疾患との鑑別が必要で、急速な進行やテストステロン著明高値は腫瘍性を疑う手がかりです。発生母地から内分泌症状を推論する考え方は、卵巣腫瘍全体を体系的に理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

卵巣腫瘍のうち、ホルモンを産生して内分泌症状を起こすものを問う問題である。

考え方

卵巣腫瘍は発生母地により、表層上皮性・間質性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍に大別される。性ステロイドホルモンを産生して症状を起こすのは主として性索間質性腫瘍である。正常の卵巣では、莢膜細胞がアンドロゲンを作り、顆粒膜細胞がそれを芳香化(アロマターゼ)してエストロゲンに変える。精巣ではSertoli細胞が精子形成を支え、Leydig細胞がテストステロンを分泌する。性索間質性腫瘍はこれらの細胞に類似した細胞から成るため、腫瘍の種類ごとに産生ホルモンが決まってくる。 ・女性化(エストロゲン産生): 顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫 ・男性化(アンドロゲン産生): Sertoli・間質細胞腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫)、ステロイド細胞腫瘍(Leydig細胞腫など) したがって、男性化徴候(多毛、声の低音化、陰核肥大、無月経、乳房萎縮など)をきたすのはSertoli・間質細胞腫瘍である。

選択肢考察

  1. ×a.  明細胞腺癌

    誤り。明細胞癌は表層上皮性・間質性腫瘍に属する悪性腫瘍で、ホルモン産生は通常みられない(性ホルモン産生例の報告はあるが例外的)。子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)を背景に発生しやすく、わが国では欧米より頻度が高い。抗癌化学療法が効きにくいこと、静脈血栓塞栓症や高カルシウム血症を合併しやすいことが臨床上の特徴である。

  2. ×b.  顆粒膜細胞腫

    誤り。顆粒膜細胞腫は性索間質性腫瘍で、アンドロゲンをエストロゲンへ変換する顆粒膜細胞の性質を受け継ぎ、エストロゲンを産生する。男性化ではなく女性化症状を起こし、思春期前では性早熟(乳房発育、性器出血)、生殖年齢では月経異常、閉経後では不正性器出血や子宮内膜増殖症・子宮体癌の合併をきたす。わが国では以前は境界悪性に分類されていたが、現在のWHO分類では成人型顆粒膜細胞腫は悪性腫瘍に含められ、晩期再発が多いことが特徴である。腫瘍マーカーとしてインヒビンが用いられる。

  3. ○c.  Sertoli・間質細胞腫瘍

    Sertoli・間質細胞腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫、かつての男性胚腫 arrhenoblastoma)は、精巣のSertoli細胞とLeydig細胞に類似した細胞から成る性索間質性腫瘍で、主にLeydig様細胞がテストステロンなどのアンドロゲンを産生する。20〜30歳代の若年女性に多く、まず無月経・乳房萎縮などの脱女性化が起こり、続いて多毛、痤瘡、声の低音化、陰核肥大、側頭部の脱毛などの男性化徴候が現れる。高分化型は良性の経過をとるが、中分化・低分化型は悪性の性格を示しうる。片側性で比較的小さいことが多い。

  4. ×d.  成熟囊胞性奇形腫

    誤り。成熟囊胞性奇形腫(皮様囊腫、デルモイド囊腫)は胚細胞腫瘍に属する良性腫瘍で、卵巣腫瘍の中で最も頻度が高い。外・中・内胚葉由来の成熟組織から成り、皮脂、毛髪、歯、骨などを含む。性ホルモンは産生しない。まれに甲状腺組織が主体となる卵巣甲状腺腫(甲状腺機能亢進症を起こしうる)や、中高年での扁平上皮癌への悪性転化がみられる。茎捻転を起こしやすい点や、抗NMDA受容体脳炎との関連も押さえておきたい。

  5. ×e.  未分化胚細胞腫

    誤り。未分化胚細胞腫(ディスジャーミノーマ)は悪性の胚細胞腫瘍で、精巣のセミノーマに相当する。10〜20歳代の若年女性に多く、腹部腫瘤で気づかれることが多い。血清LDHが上昇しやすく、合胞体栄養膜細胞を含む例ではhCGが軽度上昇することがあるが、アンドロゲンは産生せず男性化はきたさない。放射線と化学療法の感受性が高く予後は比較的良好である。性腺異形成(Y染色体をもつ性分化疾患)を背景に発生することがある。

卵巣腫瘍の主な分類とホルモン・マーカー

1. 表層上皮性・間質性腫瘍(最多、悪性は卵巣癌の大部分) ・漿液性癌、粘液性癌、類内膜癌、明細胞癌など。CA125が代表的マーカー(粘液性癌ではCA19-9、CEAも)。 2. 性索間質性腫瘍 ・顆粒膜細胞腫: エストロゲン産生(女性化)、インヒビン上昇。 ・莢膜細胞腫: エストロゲン産生、良性。 ・線維腫: ホルモン非産生、Meigs症候群(胸水・腹水を伴う)の原因。 ・Sertoli・間質細胞腫瘍: アンドロゲン産生(男性化)。 ・ステロイド細胞腫瘍(Leydig細胞腫など): アンドロゲン産生。 3. 胚細胞腫瘍(若年者に多い) ・成熟囊胞性奇形腫: 良性、最多の卵巣腫瘍。 ・未分化胚細胞腫: LDH上昇。 ・卵黄囊腫瘍: AFP上昇。 ・絨毛癌: hCG上昇。 ・未熟奇形腫: 悪性。

女性の男性化の鑑別

アンドロゲン産生卵巣腫瘍のほか、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)、副腎腫瘍、先天性副腎皮質過形成、Cushing症候群などが挙がる。急速に進行する男性化や血清テストステロンの著明高値は腫瘍性を疑う手がかりとなる。

POINT

・男性化をきたす卵巣腫瘍: Sertoli・間質細胞腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫)、ステロイド細胞腫瘍(Leydig細胞腫など)。 ・女性化(エストロゲン産生): 顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫。 ・ホルモン産生卵巣腫瘍の多くは性索間質性腫瘍である。 ・胚細胞腫瘍はマーカー(LDH、AFP、hCG)と組み合わせて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。