ひげ・低い声・無月経―卵巣腫瘍の「性別」は細胞の顔つきで決まる
第99回医師国家試験 E問題 第47問
国試問題にチャレンジ
卵巣腫瘍で男性化徴候をきたすのはどれか。
- a.明細胞腺癌
- b.顆粒膜細胞腫
- c.Sertoli・間質細胞腫瘍
- d.成熟囊胞性奇形腫
- e.未分化胚細胞腫
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
卵巣腫瘍のうち性ステロイドホルモンを産生して症状を起こすのは主に性索間質性腫瘍であり、どの細胞に類似しているかで産生ホルモンが決まります。顆粒膜細胞腫と莢膜細胞腫はエストロゲンを産生して女性化をきたし、精巣のSertoli細胞・Leydig細胞に似たSertoli・間質細胞腫瘍やステロイド細胞腫瘍はアンドロゲンを産生して無月経・乳房萎縮に続く多毛・声の低音化・陰核肥大などの男性化をきたします。明細胞癌、成熟囊胞性奇形腫、未分化胚細胞腫は通常性ホルモンを産生せず、胚細胞腫瘍はLDH・AFP・hCGなどのマーカーと組み合わせて整理すると覚えやすくなります。女性の男性化ではPCOSや副腎疾患との鑑別が必要で、急速な進行やテストステロン著明高値は腫瘍性を疑う手がかりです。発生母地から内分泌症状を推論する考え方は、卵巣腫瘍全体を体系的に理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
卵巣腫瘍のうち、ホルモンを産生して内分泌症状を起こすものを問う問題である。
考え方
卵巣腫瘍は発生母地により、表層上皮性・間質性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍に大別される。性ステロイドホルモンを産生して症状を起こすのは主として性索間質性腫瘍である。正常の卵巣では、莢膜細胞がアンドロゲンを作り、顆粒膜細胞がそれを芳香化(アロマターゼ)してエストロゲンに変える。精巣ではSertoli細胞が精子形成を支え、Leydig細胞がテストステロンを分泌する。性索間質性腫瘍はこれらの細胞に類似した細胞から成るため、腫瘍の種類ごとに産生ホルモンが決まってくる。 ・女性化(エストロゲン産生): 顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫 ・男性化(アンドロゲン産生): Sertoli・間質細胞腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫)、ステロイド細胞腫瘍(Leydig細胞腫など) したがって、男性化徴候(多毛、声の低音化、陰核肥大、無月経、乳房萎縮など)をきたすのはSertoli・間質細胞腫瘍である。
選択肢考察
- ×a. 明細胞腺癌
誤り。明細胞癌は表層上皮性・間質性腫瘍に属する悪性腫瘍で、ホルモン産生は通常みられない(性ホルモン産生例の報告はあるが例外的)。子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)を背景に発生しやすく、わが国では欧米より頻度が高い。抗癌化学療法が効きにくいこと、静脈血栓塞栓症や高カルシウム血症を合併しやすいことが臨床上の特徴である。
- ×b. 顆粒膜細胞腫
誤り。顆粒膜細胞腫は性索間質性腫瘍で、アンドロゲンをエストロゲンへ変換する顆粒膜細胞の性質を受け継ぎ、エストロゲンを産生する。男性化ではなく女性化症状を起こし、思春期前では性早熟(乳房発育、性器出血)、生殖年齢では月経異常、閉経後では不正性器出血や子宮内膜増殖症・子宮体癌の合併をきたす。わが国では以前は境界悪性に分類されていたが、現在のWHO分類では成人型顆粒膜細胞腫は悪性腫瘍に含められ、晩期再発が多いことが特徴である。腫瘍マーカーとしてインヒビンが用いられる。
- ○c. Sertoli・間質細胞腫瘍
Sertoli・間質細胞腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫、かつての男性胚腫 arrhenoblastoma)は、精巣のSertoli細胞とLeydig細胞に類似した細胞から成る性索間質性腫瘍で、主にLeydig様細胞がテストステロンなどのアンドロゲンを産生する。20〜30歳代の若年女性に多く、まず無月経・乳房萎縮などの脱女性化が起こり、続いて多毛、痤瘡、声の低音化、陰核肥大、側頭部の脱毛などの男性化徴候が現れる。高分化型は良性の経過をとるが、中分化・低分化型は悪性の性格を示しうる。片側性で比較的小さいことが多い。
- ×d. 成熟囊胞性奇形腫
誤り。成熟囊胞性奇形腫(皮様囊腫、デルモイド囊腫)は胚細胞腫瘍に属する良性腫瘍で、卵巣腫瘍の中で最も頻度が高い。外・中・内胚葉由来の成熟組織から成り、皮脂、毛髪、歯、骨などを含む。性ホルモンは産生しない。まれに甲状腺組織が主体となる卵巣甲状腺腫(甲状腺機能亢進症を起こしうる)や、中高年での扁平上皮癌への悪性転化がみられる。茎捻転を起こしやすい点や、抗NMDA受容体脳炎との関連も押さえておきたい。
- ×e. 未分化胚細胞腫
誤り。未分化胚細胞腫(ディスジャーミノーマ)は悪性の胚細胞腫瘍で、精巣のセミノーマに相当する。10〜20歳代の若年女性に多く、腹部腫瘤で気づかれることが多い。血清LDHが上昇しやすく、合胞体栄養膜細胞を含む例ではhCGが軽度上昇することがあるが、アンドロゲンは産生せず男性化はきたさない。放射線と化学療法の感受性が高く予後は比較的良好である。性腺異形成(Y染色体をもつ性分化疾患)を背景に発生することがある。
卵巣腫瘍の主な分類とホルモン・マーカー
1. 表層上皮性・間質性腫瘍(最多、悪性は卵巣癌の大部分) ・漿液性癌、粘液性癌、類内膜癌、明細胞癌など。CA125が代表的マーカー(粘液性癌ではCA19-9、CEAも)。 2. 性索間質性腫瘍 ・顆粒膜細胞腫: エストロゲン産生(女性化)、インヒビン上昇。 ・莢膜細胞腫: エストロゲン産生、良性。 ・線維腫: ホルモン非産生、Meigs症候群(胸水・腹水を伴う)の原因。 ・Sertoli・間質細胞腫瘍: アンドロゲン産生(男性化)。 ・ステロイド細胞腫瘍(Leydig細胞腫など): アンドロゲン産生。 3. 胚細胞腫瘍(若年者に多い) ・成熟囊胞性奇形腫: 良性、最多の卵巣腫瘍。 ・未分化胚細胞腫: LDH上昇。 ・卵黄囊腫瘍: AFP上昇。 ・絨毛癌: hCG上昇。 ・未熟奇形腫: 悪性。
女性の男性化の鑑別
アンドロゲン産生卵巣腫瘍のほか、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)、副腎腫瘍、先天性副腎皮質過形成、Cushing症候群などが挙がる。急速に進行する男性化や血清テストステロンの著明高値は腫瘍性を疑う手がかりとなる。
POINT
・男性化をきたす卵巣腫瘍: Sertoli・間質細胞腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫)、ステロイド細胞腫瘍(Leydig細胞腫など)。 ・女性化(エストロゲン産生): 顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫。 ・ホルモン産生卵巣腫瘍の多くは性索間質性腫瘍である。 ・胚細胞腫瘍はマーカー(LDH、AFP、hCG)と組み合わせて覚える。
