感染が全身を壊すとき―敗血症で倒れやすい3つの臓器
第99回医師国家試験 D問題 第118問
国試問題にチャレンジ
敗血症で機能不全をきたしやすいのはどれか。3つ選べ。
- a.脳
- b.肺
- c.肝
- d.腎
- e.膵
対話形式の解説
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ドクターまとめ
敗血症は、感染症に対する制御不能な宿主反応によって生命を脅かす臓器障害をきたした状態で、Sepsis-3ではSOFAスコア2点以上の上昇で臓器障害を判定します。炎症性サイトカインの過剰産生により血管内皮障害、血管透過性亢進、血圧低下、DICなどが生じ、特に肺(ARDS)、肝(肝機能障害・黄疸)、腎(急性腎障害)が機能不全に陥りやすい代表臓器です。肺は全身の静脈血が通過すること、肝は門脈から細菌や毒素を受けること、腎は心拍出量の2割以上の血流を受け循環障害の影響を強く受けることが、障害されやすさの背景にあります。脳の敗血症性脳症も起こりえますが代表臓器としては扱われず、膵はむしろ重症急性膵炎として多臓器不全の原因となる臓器です。各臓器の血流や役割の特徴と結びつけて理解することで、多臓器不全の早期発見とSOFAに基づく全身評価に役立ちます。
解答・解説
正解はb, c, dです
敗血症(sepsis)は、感染症に対する生体の反応が制御不能となり、生命を脅かす臓器障害をきたした状態である。病原体の成分(グラム陰性桿菌のリポ多糖〔LPS、エンドトキシン〕など)が免疫細胞を刺激し、TNF-α、IL-1、IL-6 などの炎症性サイトカインが大量に放出される。これにより血管内皮障害、血管透過性亢進、末梢血管の拡張による血圧低下、微小血栓形成(播種性血管内凝固〔DIC〕)、組織の酸素利用障害が生じ、全身の臓器に血流障害と細胞障害が及ぶ。 理論上は全身のどの臓器にも障害が起こりうるが、臨床的・疫学的にとくに高頻度に機能不全に陥るのは、肺・肝・腎の3臓器である。肺は全身の静脈血がすべて通過する毛細血管網をもち、活性化した好中球やメディエーターが集積しやすい。肝は門脈と肝動脈から大量の血流を受け、細菌や毒素の処理・代謝を担う。腎は心拍出量の約20〜25%もの血流を受ける一方、血圧低下や微小循環障害の影響を強く受ける。これらの臓器が次々と障害される状態を多臓器不全(multiple organ failure: MOF)あるいは多臓器機能障害症候群(MODS)とよぶ。 本問では、機能不全の「起こりやすさ」を問うているため、肺(急性呼吸窮迫症候群)、肝(肝機能障害・黄疸)、腎(急性腎障害)の3つを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 脳
敗血症では意識障害やせん妄を呈する敗血症性脳症(sepsis-associated encephalopathy)が起こりうる。また、髄膜炎が敗血症の原因や合併症となることもある。しかし、古典的に「敗血症で機能不全をきたしやすい臓器」として挙げられる肺・肝・腎と比べると、脳は臓器不全の代表としては扱われない。本問の出題意図では選ばない。
- ○b. 肺
肺は敗血症で最も早期から障害されやすい臓器の一つである。全身の静脈血が肺毛細血管を通過するため、活性化した好中球やサイトカインが集積しやすく、肺胞上皮や血管内皮が障害されて透過性が亢進する。その結果、非心原性肺水腫である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)をきたし、低酸素血症が生じる。敗血症はARDSの最も多い原因である。
- ○c. 肝
肝は門脈を通じて腸管由来の細菌や毒素にさらされ、クッパー細胞(肝臓のマクロファージ)がこれらを処理する際に大量のメディエーターを放出する。さらに循環不全による虚血も加わり、肝細胞障害、胆汁うっ滞による黄疸(高ビリルビン血症)、凝固因子の合成低下などが起こる。敗血症の臓器障害評価(SOFAスコア)でも、肝機能は血清ビリルビン値で評価される。
- ○d. 腎
腎は心拍出量の約20〜25%の血流を受ける臓器であり、敗血症性ショックによる血圧低下や微小循環障害、炎症性メディエーターによる尿細管障害の影響を強く受ける。その結果、尿量減少や血清クレアチニン上昇を伴う急性腎障害(AKI)をきたす。敗血症はICUにおけるAKIの最大の原因である。
- ×e. 膵
膵は敗血症によって機能不全に陥ることはまれである。むしろ重症急性膵炎が原因となってSIRS(全身性炎症反応症候群)や敗血症、多臓器不全を引き起こすという、逆向きの関係で問われることが多い。
敗血症の定義(Sepsis-3、2016年)
感染症に対する制御不能な宿主反応によって生じる、生命を脅かす臓器障害と定義される。臓器障害は SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアが感染前の基準から2点以上上昇したことで判定する。敗血症性ショックは、十分な輸液を行っても平均動脈圧65mmHg以上を保つために血管収縮薬を要し、かつ血清乳酸値が2mmol/Lを超える状態である。 かつては SIRS(全身性炎症反応症候群)の基準を満たす感染症を敗血症と定義していたが、現在は臓器障害の有無が重視されている。
SOFAスコアで評価する6系統
呼吸(PaO2/FiO2比)、凝固(血小板数)、肝(ビリルビン)、循環(平均動脈圧・血管作動薬)、中枢神経(Glasgow Coma Scale)、腎(クレアチニン・尿量)。
敗血症で起こりやすい主な臓器障害
・肺: ARDS(急性呼吸窮迫症候群) ・肝: 肝機能障害、黄疸 ・腎: 急性腎障害(AKI) ・血液: DIC(播種性血管内凝固)、血小板減少 ・循環: 血圧低下、敗血症性ショック ・中枢神経: 敗血症性脳症(意識障害、せん妄)
多臓器不全(MOF/MODS)
重症感染症、外傷、熱傷、急性膵炎などを契機として、2つ以上の臓器が同時または連続して機能不全に陥る状態である。障害臓器の数が増えるほど死亡率は高くなる。
POINT
・敗血症で機能不全をきたしやすい代表的な臓器は、肺(ARDS)・肝(黄疸)・腎(AKI)である。 ・機序はサイトカイン過剰産生による血管内皮障害、微小循環障害、DICである。 ・膵は敗血症の標的臓器というより、重症急性膵炎が多臓器不全の原因となる臓器として押さえる。 ・現在の敗血症の定義(Sepsis-3)は、感染症+臓器障害(SOFAスコア2点以上の上昇)である。
