元気だった赤ちゃんの緑色の嘔吐―数時間が勝負の中腸軸捻転
第99回医師国家試験 A問題 第25問
国試問題にチャレンジ
生後7日の新生児。嘔吐を主訴に来院した。在胎40週,3,800gで出生。胎便排泄は順調で母乳の飲みも良好であった。8時間前からミルクを嘔吐するようになり,吐物に胆汁が混じるようになった。2時間前から次第に腹部が膨満し,30分前からあえぐような呼吸になっている。体温37.2℃。呼吸数50/分。心拍数132/分,整。顔色は不良。腹部は膨満し,上腹部を触れると嫌がって顔をしかめる。 最も考えられるのはどれか。
- a.肥厚性幽門狭窄症
- b.腸回転異常症
- c.腸重積症
- d.新生児壊死性腸炎
- e.Hirschsprung病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児の胆汁性嘔吐は、Vater乳頭より肛門側の閉塞を意味する外科的緊急疾患のサインであり、まず腸回転異常症に伴う中腸軸捻転を考えます。中腸軸捻転は、胎生期の中腸の回転・固定不全で腸間膜根部が狭いために生じ、それまで元気だった児が突然の胆汁性嘔吐で発症し、上腸間膜動脈の血流障害から短時間で腹部膨満、腹膜刺激症状、ショックへ進行します。肥厚性幽門狭窄症は非胆汁性嘔吐、腸重積症は乳児期以降、新生児壊死性腸炎は早産・低出生体重児、Hirschsprung病は胎便排泄遅延が手がかりとなり鑑別できます。診断には上部消化管造影や超音波のwhirlpool signが有用で、疑えば緊急のLadd手術を行い、遅れれば広範な腸管壊死から短腸症候群に至ります。嘔吐の性状、発症時期、経過の速さを組み合わせて判断する考え方は、新生児・乳児の嘔吐診療全般の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・生後7日の新生児。在胎40週、3,800gで出生した正期産・成熟児である(低出生体重児ではない)。 ・胎便排泄は順調で、哺乳(母乳)も良好だった。すなわち生後しばらくは消化管の通過に問題がなかった。 ・8時間前から突然嘔吐が始まり、吐物に胆汁が混じるようになった(胆汁性嘔吐)。 ・2時間前から腹部膨満が進行し、30分前からあえぐような呼吸(全身状態の急速な悪化)。顔色不良。 ・上腹部を触ると嫌がって顔をしかめる:腹部の圧痛、腹膜刺激症状を示唆する。
診断へのプロセス
新生児の胆汁性嘔吐は、Vater乳頭より肛門側での腸閉塞を意味し、外科的緊急疾患を最優先に考えなければならない危険信号である。特に、それまで元気だった児が急に胆汁性嘔吐を起こし、短時間のうちに腹部膨満、腹膜刺激症状、顔色不良や呼吸の異常といったショックに向かう経過をたどる場合、腸管の血流障害(絞扼・壊死)が進行していると考えられる。 この経過に最もよく合うのが、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転である。腸回転異常症では腸間膜の付着部(根部)が短く狭いため、上腸間膜動脈を軸に小腸全体(中腸)がねじれやすい。捻転が起こると十二指腸レベルでの閉塞による胆汁性嘔吐が初発症状となり、続いて上腸間膜動脈の血流が途絶えて広範囲の腸管虚血・壊死に至る。発症は生後1か月以内、特に生後1週前後が多い。
除外のポイント
・胆汁を含まない嘔吐が特徴の疾患(肥厚性幽門狭窄症)は合わない。 ・胎便排泄が順調であることは、胎便排泄遅延を特徴とする疾患(Hirschsprung病)に合わない。 ・好発年齢が乳児期中期以降の疾患(腸重積症)は合わない。 ・低出生体重児に多く、授乳開始後の未熟な腸に生じる疾患(新生児壊死性腸炎)は、本症例の正期産・母乳栄養という背景に合わない。 以上から、腸回転異常症(中腸軸捻転)が最も考えられる。本症は数時間の遅れで小腸の広範な壊死に至るため、上部消化管造影や超音波で速やかに診断し、緊急手術(Ladd手術)を行う必要がある。
選択肢考察
- ×a. 肥厚性幽門狭窄症
肥厚性幽門狭窄症は幽門筋の肥厚により胃の出口が狭くなる疾患で、生後2〜3週ごろから噴水状嘔吐で発症することが多く、男児・第1子に多い。閉塞部位が十二指腸乳頭より口側の幽門であるため、吐物に胆汁は混じらない(非胆汁性嘔吐)。嘔吐後も哺乳意欲は保たれ、右上腹部にオリーブ状の腫瘤を触れる。腹膜刺激症状はなく、低Cl性代謝性アルカローシスを伴う脱水が進むまでショックには陥りにくい。本症例の胆汁性嘔吐、急速な腹部膨満と全身状態悪化とは合致しない。
- ○b. 腸回転異常症
腸回転異常症は胎生期の中腸の回転・固定が不完全なまま出生する疾患で、腸間膜根部が狭いため中腸軸捻転を起こしやすい。多くは新生児期、特に生後1週前後に、それまで元気だった児の突然の胆汁性嘔吐で発症する。捻転により上腸間膜動脈の血流が障害されると、腹部膨満、腹膜刺激症状、血便、ショックが急速に進行する。正期産で胎便排泄・哺乳が順調だった児に生後7日で胆汁性嘔吐が出現し、数時間で腹部膨満、腹部の圧痛、顔色不良、あえぎ呼吸へ進行した本症例の経過は、中腸軸捻転に最もよく一致する。
- ×c. 腸重積症
腸重積症は口側の腸管が肛門側の腸管に入り込む疾患で、好発年齢は生後3か月〜2歳(特に生後6か月〜1歳前後)であり、新生児期にはまれである。典型的な症状は間欠的な不機嫌・啼泣(腹痛)、嘔吐、いちごゼリー状の血便の3徴で、右上腹部にソーセージ様の腫瘤を触れる。初期の嘔吐は反射性で非胆汁性のことが多く、胆汁性嘔吐が初発症状となることは少ない。発症年齢、症状の両面から本症例には合わない。
- ×d. 新生児壊死性腸炎
新生児壊死性腸炎(NEC)は、腸管の未熟性、虚血、経腸栄養(特に人工乳)、細菌感染などが重なって腸管が壊死する疾患で、患者の大部分は早産・極低出生体重児である。成熟児にも起こりうるが、その場合はチアノーゼ性心疾患、新生児仮死、多血症などの基礎疾患を伴うことが多い。症状は腹部膨満、胃内容の残留増加、血便などで、腹部X線では腸管壁内ガス(pneumatosis intestinalis)や門脈内ガスが特徴的である。本症例は在胎40週、3,800gの成熟児で、母乳栄養であり、明らかな危険因子もないため考えにくい。
- ×e. Hirschsprung病
Hirschsprung病は腸管壁内神経叢の神経節細胞が遠位腸管で欠如し、その部分が正常に蠕動しないため機能的な腸閉塞を来す疾患である。新生児期には胎便排泄遅延(生後24〜48時間以内に胎便が出ない)、腹部膨満、胆汁性嘔吐で発症することが多い。本症例は胎便排泄が順調であった点で合わない。また、本症は腸炎(Hirschsprung病関連腸炎)を合併しない限り、短時間で腹膜刺激症状やショックに至ることは少ない。
腸回転異常症と中腸軸捻転
・発生:胎生期に体外へ脱出していた中腸が腹腔内に戻る際、上腸間膜動脈を軸に反時計回りに計270°回転し、十二指腸空腸移行部は左上腹部に、盲腸は右下腹部に固定される。この回転・固定が不完全なものが腸回転異常症である。 ・病態:十二指腸空腸移行部と盲腸が近接し、腸間膜根部が短く狭いため、中腸全体が上腸間膜動脈を軸に捻れやすい(中腸軸捻転)。また盲腸から右後腹膜へ走る異常な索状物(Ladd靱帯)が十二指腸を圧迫して閉塞を起こす。 ・症状:新生児期(生後1か月以内、多くは生後1週前後)の突然の胆汁性嘔吐。捻転による血流障害が進むと腹部膨満、腹膜刺激症状、血便、ショックに至る。年長児では反復する腹痛・嘔吐として現れることもある。 ・検査:腹部単純X線で胃・十二指腸の拡張と小腸ガスの減少(double bubble様所見を示すことがある)。上部消化管造影では十二指腸空腸移行部の位置異常、捻転部のコークスクリュー様所見。超音波やカラードプラで上腸間膜静脈が上腸間膜動脈の周囲を渦巻くwhirlpool sign。 ・治療:捻転を疑えば緊急開腹術(Ladd手術:捻転の整復、Ladd靱帯の切離、腸間膜根部の開大、虫垂切除、小腸を右・大腸を左に置く)。広範な小腸壊死に陥ると短腸症候群となり、生命予後や長期の栄養管理に大きく影響する。
新生児の嘔吐の考え方
・非胆汁性嘔吐:閉塞部位が十二指腸乳頭より口側(肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流、哺乳過多など)。 ・胆汁性嘔吐:乳頭より肛門側の閉塞(腸回転異常症・中腸軸捻転、十二指腸閉鎖・狭窄、小腸閉鎖、Hirschsprung病、胎便性イレウスなど)。新生児の胆汁性嘔吐は、否定されるまで中腸軸捻転を念頭に置いて緊急に評価する。 ・生後の時期:出生直後から嘔吐する先天的閉鎖症と異なり、中腸軸捻転は健康にみえた児に突然起こりうる。
POINT
・新生児の胆汁性嘔吐は外科的緊急疾患のサインであり、まず腸回転異常症に伴う中腸軸捻転を考える。 ・中腸軸捻転は健康だった児に突然の胆汁性嘔吐で始まり、短時間で腹部膨満・腹膜刺激症状・ショック(腸管壊死)へ進行する。治療は緊急のLadd手術。 ・肥厚性幽門狭窄症:生後2〜3週、非胆汁性噴水状嘔吐、オリーブ様腫瘤、低Cl性代謝性アルカローシス。 ・腸重積症:好発は生後3か月〜2歳、間欠的啼泣・嘔吐・いちごゼリー状血便。 ・新生児壊死性腸炎:早産・極低出生体重児に多い、腸管壁内ガス。 ・Hirschsprung病:胎便排泄遅延、腹部膨満。
