StudyMed医師国家試験

「何を比べるか」で決まる統計手法―症状消失率の比較はχ2検定

第119回医師国家試験 F問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第9問

治療薬Aの疾患Bに対する治療効果を調べるための臨床試験を行った。疾患B患者を対象として,治療薬A投与群〈介入群〉とプラセボ投与群〈対照群〉にランダムに割り付けた。対象者数は240人で,治療効果を3日目症状消失率で比較検討した。得られた結果を表に示す。 介入群 対照群 P値 対象者数 120人 120人 3日目症状消失率 28% 15% 0.02 この臨床試験の統計解析手法はどれか。

  1. a.t検定
  2. b.χ2検定
  3. c.生存分析
  4. d.線形回帰
  5. e.比例ハザードモデル

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は臨床試験の結果表から、どの統計解析手法が使われたかを見抜く問題だ。統計手法を選ぶときの出発点は2つ。「アウトカムがどんな種類のデータか」と「何群を比べているか」。この2つを順に確認していこう。
医学生医学生
P値が出ているので、とりあえずt検定かなと思ってしまいました。CBTの勉強でもまずt検定を覚えたので。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でもt検定は「平均値」を比べる手法なんだ。今回のアウトカムは何だろう?
医学生医学生
3日目に症状が消えたかどうか、です。平均ではなく割合ですね。
ドクタードクター
その通り。消えた・消えないという2値のカテゴリーデータで、それを群ごとの割合として示している。表は%で書かれているけれど、人数に直すとどうなるかな。
医学生医学生
120人の28%で約34人、120人の15%で18人が消失…。あ、群2つ×結果2つの四分表になります。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題の核心。割合で示された表も、人数に戻せば2×2分割表になる。そして分割表の度数から「群とアウトカムが無関係か」を調べるのがχ2検定、つまり独立性の検定だ。だから正解はχ2検定になる。
医学生医学生
具体的にはどうやって計算するんでしたっけ。衛生学の講義で式を見た気はするんですが。
ドクタードクター
まず「群と結果が無関係だったらこうなるはず」という期待度数を、行の合計×列の合計÷総数で求める。今回は消失者が合計約52人だから、各群の期待消失数は26人。実際の観察度数とのずれを(観察−期待)²÷期待で各セルごとに計算して合計したものがχ2値だ。2×2表の自由度は1で、χ2値が約3.84を超えれば5%水準で有意になる。実際にこの表で計算すると、補正をかけたχ2値は約5.5で、P値はおよそ0.02と表の値とよく合うんだ。
医学生医学生
数字まで一致すると納得感がありますね。期待度数が小さいときは別の方法でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。期待度数が5未満のセルがあるような小さなデータではFisherの直接確率法を使う。今回は期待度数が最小でも26程度あるから、χ2検定で問題ない。では、ほかの選択肢も確認しよう。生存分析はどうかな。
医学生医学生
症状消失もイベントなので、生存分析でもよさそうに思えたんですが…。
ドクタードクター
いい疑問だ。生存分析は「イベントが起こるまでの時間」を扱う手法で、打ち切りを考慮しながらKaplan-Meier曲線を描き、ログランク検定で群間比較をする。もし「症状消失までの日数」を比べていたら候補になる。でも今回は3日目という一時点での有無だけを見ているから、時間の要素がないんだ。
医学生医学生
なるほど。比例ハザードモデルも同じ理由で外れますね。
ドクタードクター
そう。比例ハザードモデル、いわゆるCox回帰は生存分析の多変量版で、複数の因子がイベント発生の速さに与える影響をハザード比として推定する。時間を扱わない今回の比較には使わない。線形回帰はどうだろう。
医学生医学生
線形回帰はyとxの直線関係を見るものなので、目的変数が連続量でないと使えない、ですか。
ドクタードクター
正解。2値アウトカムに複数の因子の影響を見たいならロジスティック回帰を使う。今回は単純な2群の割合比較だから、回帰モデルの出番はない。
医学生医学生
まとめると、平均ならt検定、割合ならχ2検定、時間ならKaplan-MeierやCox、ということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。少し発展させると、正規分布を仮定できない連続量や順序尺度ならMann-Whitney U検定、3群以上の平均比較なら分散分析、対応のある2値データならMcNemar検定、と枝分かれしていく。それからもう一つ大事なのが、P値は「差が偶然では説明しにくいか」を示すだけで、効果の大きさは示さないこと。今回なら消失率の差は13%で、その逆数から、1人の症状消失を追加で得るのに必要な治療人数、NNTは約8人と見積もれる。
医学生医学生
臨床実習の抄読会で、P値だけ見て「効く薬」と言ったら、指導医に効果の大きさも見なさいと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
それは本当に大切な指摘だよ。論文を読むときは、データの種類から手法が妥当かを確かめ、P値と効果量の両方を見る習慣をつけよう。

まとめ

統計手法の選択は、アウトカムのデータの種類と比較する群の数で決まります。本問は独立した2群で「3日目の症状消失の有無」という2値データの割合を比べており、人数に直すと2×2分割表になるため、χ2検定(独立性の検定)が該当し、期待度数が小さい場合はFisherの直接確率法を用います。平均値の比較ならt検定、イベントまでの時間ならKaplan-Meier法・ログランク検定やCox比例ハザードモデル、連続量の目的変数の関係なら線形回帰、2値アウトカムの多変量解析ならロジスティック回帰と使い分けます。またP値は効果の大きさを示さないため、絶対リスク差やNNTもあわせて評価することが大切です。この整理は、国試だけでなく臨床論文を批判的に読む力の土台になります。

解答・解説

正解はbです

統計手法を選ぶときは、まず「何を比べているのか(アウトカムのデータの種類)」と「何群を比べているのか」を確認する。

本試験のデータの性質

・比較する群:治療薬A投与群(介入群)とプラセボ投与群(対照群)の独立した2群(ランダム割付け)。 ・アウトカム:「3日目に症状が消失したか、しなかったか」という2値のカテゴリーデータ(名義尺度)。結果は各群の症状消失率(割合)として示されている。 ・時間の要素:3日目という一時点での有無のみを評価しており、症状消失までの日数(イベント発生までの時間)は扱っていない。

分割表への置き換え

表は割合の形で示されているが、人数に直すと2×2の分割表(四分表)になる。介入群120人の28%は約34人、対照群120人の15%は18人が症状消失したことになる。 消失 非消失 計 介入群 約34 約86 120 対照群 18 102 120 このように「2群×2つの結果」の度数を比較し、群とアウトカムが独立か(=消失率に群間差があるか)を調べる手法がχ2(カイ二乗)検定である。実際にこの表で計算すると、イェーツの連続性補正を行ったχ2値はおよそ5.5となり、自由度1でP値は約0.02となって、表のP値とよく一致する。したがって、本試験の解析手法はχ2検定と判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  t検定

    t検定は、2群の平均値の差を検定する手法である。血圧値や体重、検査値のような連続量(間隔尺度・比尺度)で、おおむね正規分布に従うデータが対象となる(対応のない2群ならStudentのt検定やWelchのt検定、同一対象の前後比較なら対応のあるt検定)。本問のアウトカムは「症状消失の有無」という2値データで、比べているのは平均値ではなく割合であるため、t検定は用いない。

  2. ○b.  χ2検定

    χ2検定(独立性の検定)は、カテゴリーデータを分割表にまとめ、実際に観察された度数と「群とアウトカムが無関係(独立)である」と仮定したときの期待度数とのずれの大きさから、2つの変数の関連を検定する手法である。本問は介入群と対照群の2群で症状消失の有無(2値)を比べており、2×2分割表で表せるため、χ2検定が適している。期待度数はいずれも十分大きい(最小でも26程度)ので、χ2近似の条件も満たす。なお、期待度数が5未満のセルがあるような小規模データではFisherの直接確率法を用いる。

  3. ×c.  生存分析

    生存分析は、死亡・再発・症状消失などのイベントが起こるまでの時間を扱う解析手法の総称である。観察打ち切り(追跡不能や観察期間の終了)を考慮でき、Kaplan-Meier法で累積生存率(イベント非発生率)曲線を描き、ログランク検定で群間比較を行うのが代表例である。本問は「3日目時点での消失率」という一時点の割合を比べており、消失までの日数は評価していないので該当しない。

  4. ×d.  線形回帰

    線形回帰は、目的変数(従属変数)yが説明変数(独立変数)xの一次式(y=a+bx)で表されると仮定し、その関係を推定する手法である。目的変数は連続量であることが前提で、説明変数が複数あれば重回帰分析となる。本問のように2値のアウトカムに複数の因子の影響を調べたい場合は、線形回帰ではなくロジスティック回帰分析を用いる。本問は単純な2群間の割合の比較なので、回帰モデルは用いられていない。

  5. ×e.  比例ハザードモデル

    比例ハザードモデル(Cox回帰)は生存分析の多変量解析手法で、イベント発生までの時間をアウトカムとし、年齢や治療などの複数の因子がイベント発生の速さ(ハザード)に与える影響をハザード比として推定する。群間のハザード比が観察期間を通じて一定であること(比例ハザード性)を前提とする。本問は時間の要素を含まない一時点の割合比較であり、該当しない。

データの種類と代表的な検定手法

・連続量(正規分布)を2群で比較:t検定(対応なし/対応あり) ・連続量を3群以上で比較:分散分析(ANOVA) ・連続量で正規分布を仮定できない、または順序尺度:Mann-Whitney U検定(2群・対応なし)、Wilcoxon符号付順位検定(対応あり)、Kruskal-Wallis検定(3群以上) ・カテゴリーデータ(割合)の比較:χ2検定(期待度数が小さいときはFisherの直接確率法、対応のある2値データはMcNemar検定) ・イベント発生までの時間:Kaplan-Meier法+ログランク検定、多変量ではCox比例ハザードモデル ・2変数の関連の強さ:Pearsonの相関係数(連続量)、Spearmanの順位相関係数(順序尺度) ・多変量解析:連続量のアウトカムは重回帰分析、2値のアウトカムはロジスティック回帰分析

χ2検定の考え方

各セルの(観察度数-期待度数)²÷期待度数を合計した値がχ2値である。期待度数は「行の合計×列の合計÷総数」で求める。本問なら、症状消失者の合計が約52人なので、各群の期待消失数は52×120÷240=26人となる。2×2表の自由度は(行数-1)×(列数-1)=1で、χ2値が約3.84を超えると有意水準5%で有意となる。

効果の大きさの指標(参考)

本試験の絶対リスク差(消失率の差)は28%-15%=13%であり、その逆数から、1人の症状消失を追加で得るために必要な治療人数(NNT)は約8人と見積もられる。P値は差が偶然で生じる確からしさを示すだけで、効果の大きさは示さないことにも注意する。

POINT

・アウトカムが「あり/なし」の2値で、群間の割合(率)を比較する → χ2検定(小標本ではFisherの直接確率法)。 ・平均値の比較 → t検定、イベントまでの時間 → 生存分析(Kaplan-Meier法、ログランク検定、Cox比例ハザードモデル)。 ・線形回帰は連続量の目的変数と説明変数の直線関係を扱う。2値アウトカムの多変量解析はロジスティック回帰。 ・割合で示された表も、人数に直せば2×2分割表になることを見抜く。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。