その鎮痛薬が命取り―鼻茸と喘息の既往が教える「頭痛に何を出すか」
第119回医師国家試験 D問題 第45問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。頭痛を主訴に来院した。病歴,身体所見から緊張型頭痛と診断された。鼻茸があり,40歳ころに気管支喘息と診断され,血液検査で好酸球増多を認めている。2年前に鎮痛薬を内服して,重篤な発作を起こし,気管挿管されたことがある。現在は定期的に通院しておらず,呼吸困難時のみ気管支拡張薬を吸入している。 この患者の頭痛でまず投与すべき薬剤はどれか。
- a.塩酸モルヒネ
- b.インドメタシン
- c.メトトレキサート
- d.アセトアミノフェン
- e.グルココルチコイド
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人発症の気管支喘息に鼻茸(好酸球性副鼻腔炎)と好酸球増多を伴い、鎮痛薬で重篤な発作を起こした既往があればアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)を考えます。本症はIgEを介したアレルギーではなくCOX-1阻害に対する過敏反応で、ロイコトリエンの過剰産生により気道が収縮するため、インドメタシンを含むCOX-1阻害作用の強いNSAIDsは外用剤も含めて避けなければなりません。鎮痛が必要な場合は、中枢で作用しCOX-1阻害の弱いアセトアミノフェンを少量から用いるのが基本です。発作時のステロイド静注ではコハク酸エステル型の急速静注を避けリン酸エステル型を点滴で用いること、長期管理として吸入ステロイドを導入することも重要です。日常的な鎮痛薬の処方こそ、既往歴の確認が患者の安全を左右することを教えてくれる問題です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・48歳女性。病歴と身体所見から緊張型頭痛と診断されている。 ・鼻茸(鼻ポリープ)があり、40歳ころ(成人発症)に気管支喘息と診断、末梢血の好酸球増多がある。 ・2年前、鎮痛薬を飲んだ後に気管挿管を要するほどの重篤な喘息発作を起こした。 ・現在は定期通院をしておらず、呼吸困難時だけ気管支拡張薬を吸入している。
診断へのプロセス
成人発症の喘息、鼻茸(好酸球性副鼻腔炎)、好酸球増多、そして鎮痛薬内服による重篤な発作という組み合わせは、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、近年はNSAIDs-exacerbated respiratory disease:N-ERDとも呼ばれる)の典型像である。成人喘息の約5〜10%を占め、女性にやや多く、20〜40歳代に発症することが多い。 なお、喘息と好酸球増多からは好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)も鑑別に挙がるが、本例では血管炎を示唆する所見(多発単神経炎、紫斑など)の記載はなく、鎮痛薬で発作を起こしたというエピソードがアスピリン喘息を強く示唆する。
設問への考え方
アスピリン喘息は、アレルギー(IgE抗体)による反応ではなく、シクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用そのものに対する過敏反応である。COX-1が阻害されるとアラキドン酸代謝がロイコトリエン産生側へ偏り、システイニルロイコトリエンの過剰産生によって強い気道収縮が起こる。そのため、アスピリンに限らずCOX-1阻害作用の強いNSAIDsは構造にかかわらずすべて発作の誘因となる(交差過敏性)。 緊張型頭痛の急性期治療はアセトアミノフェンとNSAIDsが中心であるが、本例ではNSAIDsは使えない。COX-1阻害作用が弱く、主に中枢で作用するアセトアミノフェンを、少量から用いるのが最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 塩酸モルヒネ
モルヒネはオピオイド受容体に作用する医療用麻薬で、COXを阻害しないためアスピリン喘息の誘因にはならない。しかし、緊張型頭痛は生命予後に関わらない一次性頭痛であり、便秘・悪心・眠気・依存などの副作用をもつ麻薬を投与する適応はない。さらにモルヒネはヒスタミン遊離作用や呼吸抑制があり、気管支喘息患者には慎重な扱いが必要である。慢性頭痛へのオピオイド使用は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)の原因にもなる。
- ×b. インドメタシン
インドメタシンはCOX-1阻害作用の強い酸性NSAIDsの代表であり、アスピリン喘息患者に投与すると交差過敏性により重篤な喘息発作を誘発する危険が高い。添付文書上もアスピリン喘息は禁忌であり、気管挿管歴のある本例への投与は致死的になりうる。
- ×c. メトトレキサート
メトトレキサートは葉酸代謝拮抗薬で、高用量で抗悪性腫瘍薬、少量で関節リウマチなどの免疫抑制・抗リウマチ薬として用いられる。鎮痛作用はなく、緊張型頭痛にも気管支喘息にも適応はない。
- ○d. アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは末梢のCOX-1阻害作用が弱く、主に中枢神経系で鎮痛・解熱作用を示すため、アスピリン喘息でも発作を起こしにくい。緊張型頭痛の急性期治療薬としても有効性が確立しており、本例でまず選ぶべき薬剤である。ただし高用量ではCOX-1阻害作用が現れ発作を誘発しうるとの報告があるため、1回量を少なめ(1回300mg以下が目安とされる)にして慎重に用いる。
- ×e. グルココルチコイド
グルココルチコイドは喘息の長期管理(吸入ステロイド)や発作治療(全身投与)に用いるが、緊張型頭痛には効果がなく、頭痛に対してまず投与する薬ではない。また、アスピリン喘息ではコハク酸エステル型ステロイド(ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロンなど)の急速静注で発作が誘発・増悪することが知られており、静注で用いる場合はリン酸エステル型を選び、時間をかけて点滴するなどの注意が必要である。
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の特徴
・成人発症の喘息に多く、男女比はやや女性に多い。小児にはまれ。 ・鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎をほぼ全例に合併し、嗅覚低下を起こしやすい。 ・好酸球性中耳炎、皮膚症状(瘙痒を伴う紅斑)、消化器症状、胸痛などを伴うこともある。 ・NSAIDs内服後、通常1時間以内に鼻閉・鼻汁に続いて強い喘息発作を起こし、重症化しやすい。注射薬・坐薬では内服より早く、より重篤になりやすい。湿布・塗り薬などの外用NSAIDsでも誘発されうる。 ・食品・医薬品中の添加物(パラベン、安息香酸ナトリウム、黄色4号〈タートラジン〉など)や、香料・ミント、亜硫酸塩などで症状が悪化する患者もいる。
使用できる鎮痛薬の目安
・比較的安全:アセトアミノフェン少量、COX-2選択的阻害薬(セレコキシブなど、ただし添付文書上は注意が必要)、塩基性消炎鎮痛薬の一部、オピオイド ・避けるべき:アスピリン、インドメタシン、ジクロフェナク、ロキソプロフェン、イブプロフェン、メフェナム酸などCOX-1阻害作用の強いNSAIDs全般(外用剤を含む)
発作時対応での注意
・基本は通常の喘息発作と同じだが、アドレナリンの筋注・皮下注が特に有効である。 ・ステロイドを静注する場合は、コハク酸エステル型を避けてリン酸エステル型(デキサメタゾン、ベタメタゾン)を選び、急速静注ではなく1〜2時間かけて点滴する。リン酸エステル型でも防腐剤(パラベン)や亜硫酸塩を含む製剤では症状悪化例がある。経口ステロイドはこうした危険が少ない。
長期管理
・通常の喘息と同様に吸入ステロイドを基本とする。本例のように発作時の気管支拡張薬のみで済ませている状態は、気管挿管歴のある患者として好ましくなく、長期管理薬の導入が望ましい。 ・ロイコトリエン受容体拮抗薬は病態から有効性が期待される。難治例では抗IgE抗体(オマリズマブ)などの生物学的製剤が用いられ、NSAIDs過敏性が軽減する例も報告されている。 ・鼻茸・副鼻腔炎の治療(内視鏡下副鼻腔手術、鼻噴霧用ステロイド)は喘息のコントロール改善にもつながる。
緊張型頭痛の治療
・最も頻度の高い一次性頭痛で、両側性・圧迫感または締めつけ感・軽度〜中等度で、日常動作で増悪しないことが特徴。 ・急性期はアセトアミノフェンやNSAIDsを用いる。頻発型・慢性型の予防には三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)などを用いる。鎮痛薬の連用は薬剤の使用過多による頭痛を招くので注意する。
POINT
・成人発症喘息+鼻茸(好酸球性副鼻腔炎)+鎮痛薬で重篤な発作=アスピリン喘息を想起する。 ・アスピリン喘息はCOX-1阻害に対する過敏反応で、ほぼすべてのNSAIDs(外用剤を含む)で誘発されうる。インドメタシンは禁忌。 ・鎮痛が必要な場合はアセトアミノフェンを少量で用いる。 ・発作時のステロイド静注ではコハク酸エステル型の急速静注を避ける。アドレナリン筋注が有効。
