StudyMed医師国家試験

汗ばむ手、速い脈、やせていく体―思春期の体重減少でまず測るべき1項目

第118回医師国家試験 D問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第118回 D問題 第36問

15歳の女子。体重減少を心配した母親に伴われて来院した。3か月前から体重が5kg減少した。意識は清明。身長157cm,体重38kg。体温36.8℃。脈拍120/分,整。血圧126/68mmHg。呼吸数24/分。SpO2 99%(room air)。皮膚は湿潤。前頸部の腫脹を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。軽度の手指振戦を認める。血液所見:赤血球450万,Hb 12.7g/dL,Ht 38%,白血球6,800,血小板26万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.6g/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 26U/L,ALT 27U/L,LD 220U/L(基準124~222),尿素窒素16mg/dL,クレアチニン0.4mg/dL,尿酸4.5mg/dL,空腹時血糖96mg/dL,HbA1c 5.0%(基準4.9~6.0),総コレステロール122mg/dL,トリグリセリド140mg/dL,Na 140mEq/L,K 4.0mEq/L,Cl 99mEq/L。CRP 0.3mg/dL。  診断に必要な検査はどれか。

  1. a.頭部MRI
  2. b.抗GAD抗体
  3. c.アルギニン負荷試験
  4. d.手根骨エックス線撮影
  5. e.遊離サイロキシン〈FT4〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、思春期女子の体重減少から原因を絞り込み、診断に必要な検査を選ぶ問題だ。体重減少の鑑別は幅広いけれど、ポイントは「代謝が上がっているのか、下がっているのか」を身体所見から読み取ること。脈、皮膚、手の震え、そして首の所見に注目してみよう。
医学生医学生
15歳の女の子でやせているとなると、真っ先に神経性やせ症が浮かんでしまいました。
ドクタードクター
思春期女子の体重減少で神経性やせ症を考えるのは大切な発想だよ。ただ、神経性やせ症は低栄養に適応して体が省エネモードになるから、典型的には徐脈、低体温、皮膚の乾燥が出る。今回の安静時頻脈や湿った皮膚は、その逆を向いているんだ。
医学生医学生
精神科の講義で、神経性やせ症の徐脈や産毛の増加を習いました。確かに方向が真逆ですね。
ドクタードクター
そう。頻脈、発汗、手指振戦は交感神経が過剰に働いているサインで、そこに前頸部の腫脹、つまり甲状腺腫が加わる。さらに総コレステロールが低めなのも見逃せない。甲状腺ホルモンは肝臓のLDL受容体を増やしてコレステロールの処理を促すから、甲状腺中毒症では低下しやすいんだ。
医学生医学生
食べていても体重が減って、脈が速くて汗っかき……甲状腺中毒症、特に若い女性ならBasedow病ですね。
ドクタードクター
その推論でいい。では診断を確定させるには何を調べる?
医学生医学生
Basedow病ならTRAbでしょうか。
ドクタードクター
原因の鑑別ではTRAbがとても重要だね。でも順番がある。まずは本当に血中の甲状腺ホルモンが過剰なのかを証明しなければならない。だから最初に測るのは、蛋白に結合していない活性型ホルモンである遊離サイロキシン、FT4だ。実際にはTSH・FT3と一緒に測り、FT4高値とTSH抑制がそろえば甲状腺自体からのホルモン過剰と判断できる。
医学生医学生
ホルモン過剰を確認してから、TRAbや摂取率でBasedow病か破壊性甲状腺炎かを分けていく流れですね。
ドクタードクター
その通り。ほかの選択肢も確認しよう。抗GAD抗体はどうかな。
医学生医学生
1型糖尿病の自己抗体ですよね。体重減少は起こしますが、血糖もHbA1cも正常なので考えにくいと思います。
ドクタードクター
正解。1型糖尿病なら口渇・多飲・多尿と高血糖を伴うはずだ。次にアルギニン負荷試験と手根骨のエックス線撮影は?
医学生医学生
小児科の実習で低身長の子の精査に立ち会ったとき、GH分泌刺激試験と骨年齢の評価をしていました。でもこの子は身長157cmで低身長ではないですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。アルギニン負荷試験は成長ホルモン分泌不全の診断、手根骨エックス線は骨年齢の評価で、どちらも成長や成熟の異常を調べる検査だ。主訴が体重減少で成長障害のない今回には役立たない。では頭部MRIは?
医学生医学生
下垂体や視床下部の腫瘍でやせることもありそうですが……。
ドクタードクター
頭痛、嘔吐、視野障害、尿崩症のような中枢神経症状があれば考えるけれど、今回はない。TSH産生下垂体腫瘍という甲状腺中毒症のまれな原因もあるが、それを疑うのはFT4が高いのにTSHが抑制されていないときだ。つまり、ここでもまずはFT4とTSHを測ることが出発点になる。
医学生医学生
どの方向に進むにしても、ホルモン値がスタート地点なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。最後に臨床の注意点をまとめよう。小児・思春期の甲状腺中毒症の大部分はBasedow病で、成績低下や落ち着きのなさといった行動の変化で気づかれることもある。体重減少だけに目を奪われず、脈拍や皮膚、首を必ず診ること。治療は抗甲状腺薬が中心で、チアマゾールが第一選択になる。
医学生医学生
内分泌の先生に「やせた子を見たら首を触れ」と言われたのを思い出しました。OSCEの頸部診察も、こういう場面で生きるんですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。身体所見から仮説を立て、それを証明する最小限の検査を選ぶ。これが内分泌診療の基本の型だよ。

まとめ

思春期女子の体重減少では、甲状腺中毒症、1型糖尿病、神経性やせ症、脳腫瘍などが鑑別に挙がります。安静時頻脈、皮膚湿潤、手指振戦、甲状腺腫、低コレステロール血症がそろえば甲状腺中毒症、若年女性では特にBasedow病が最も考えられ、徐脈・低体温・皮膚乾燥をきたす神経性やせ症とは所見が逆になります。診断の第一歩は、FT4(およびFT3)高値とTSH抑制を確認してホルモン過剰を証明することで、そのうえでTRAb、放射性ヨウ素摂取率、超音波検査で原因を鑑別します。抗GAD抗体は1型糖尿病、アルギニン負荷試験はGH分泌不全、手根骨エックス線は骨年齢評価に用いる検査であり、検査ごとの目的を整理しておくことが適切な検査選択につながります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・15歳の女子で、3か月間に5kgの体重減少がある。身長157cm、体重38kgで BMI は約15.4kg/m2 とやせが目立つ。身長は同年代女子の平均程度であり、低身長はない。 ・脈拍120/分と安静時頻脈、呼吸数24/分とやや多呼吸である。体温は36.8℃で発熱はない。 ・皮膚は湿潤(発汗過多)しており、軽度の手指振戦がある。いずれも交感神経活動が高まった状態を示し、甲状腺ホルモン過剰の典型的な症候である。 ・前頸部の腫脹は甲状腺腫を示唆する。 ・総コレステロール 122mg/dL と低値である。甲状腺ホルモンは肝臓の LDL 受容体を増やしコレステロールの代謝を促進するため、甲状腺中毒症では血清コレステロールが低下する。 ・白血球数・CRP は正常で炎症所見はなく、空腹時血糖・HbA1c も正常である。

鑑別の考え方

思春期女子の体重減少では、甲状腺中毒症、糖尿病(特に1型)、神経性やせ症(神経性食欲不振症)、炎症性腸疾患、悪性腫瘍、脳腫瘍(視床下部・下垂体病変)などが鑑別に挙がる。 ・糖尿病:血糖・HbA1c が正常であり否定的である。 ・神経性やせ症:低栄養による代謝の抑制から徐脈・低体温・皮膚乾燥をきたすのが典型であり、本例の頻脈・皮膚湿潤とは逆である。 ・炎症性腸疾患・悪性腫瘍:腹部症状や炎症所見がなく、可能性は低い。 ・脳腫瘍:頭痛・嘔吐・視野障害などの神経症状がなく、成長障害もない。 頻脈、発汗、手指振戦、甲状腺腫、体重減少、低コレステロール血症がそろっており、甲状腺中毒症(若年女性であることから最も多いのは Basedow 病)が最も考えられる。

設問の考え方

甲状腺中毒症の診断の第一歩は、血中甲状腺ホルモン(FT4、FT3)の上昇と TSH の抑制を確認することである。ホルモン過剰が確認できたら、TSH 受容体抗体(TRAb)や甲状腺シンチグラフィ(放射性ヨウ素またはテクネチウムの摂取率)、甲状腺超音波検査で、Basedow 病か、無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎などの破壊性甲状腺炎かを鑑別していく。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部MRI

    頭部MRIは下垂体腺腫(先端巨大症やプロラクチノーマなど)や、視床下部・下垂体近傍の脳腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫など)の評価に用いる。本例では頭痛・嘔吐・視野障害・尿崩症症状などの中枢神経症状がなく、成長障害もない。TSH 産生下垂体腫瘍は甲状腺中毒症のまれな原因であるが、それを疑うのは FT4 高値にもかかわらず TSH が抑制されていない場合であり、まず行うべき検査ではない。

  2. ×b.  抗GAD抗体

    抗GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)抗体は膵島に対する自己抗体で、1型糖尿病(自己免疫性)の診断に用いる。1型糖尿病でも体重減少はきたすが、口渇・多飲・多尿を伴い高血糖を示すはずである。本例は空腹時血糖 96mg/dL、HbA1c 5.0% と正常であり、糖尿病は否定的なので測定の必要はない。

  3. ×c.  アルギニン負荷試験

    アルギニン負荷試験は成長ホルモン(GH)分泌刺激試験の一つで、成長ホルモン分泌不全性低身長症を診断する際に行う。本例の身長157cmは15歳女子の平均程度で低身長はなく、主訴も体重減少であるため、GH 分泌能を調べる意義はない。

  4. ×d.  手根骨エックス線撮影

    手根骨(手部)エックス線撮影は骨年齢の評価に用い、低身長や思春期早発症・遅発症などの成長・成熟の異常を調べる際に行う。本例は成長障害を認めず、体重減少の原因検索には役立たない。

  5. ○e.  遊離サイロキシン〈FT4〉

    頻脈、発汗、手指振戦、甲状腺腫、体重減少、低コレステロール血症から甲状腺中毒症が強く疑われる。その診断には血中甲状腺ホルモンが過剰であることを証明する必要があり、蛋白に結合していない活性型の甲状腺ホルモンである FT4(遊離サイロキシン)の測定が必須である。通常は TSH・FT3 と同時に測定し、FT4(および FT3)高値と TSH 低値(抑制)がそろえば、甲状腺自体からのホルモン過剰(原発性の甲状腺中毒症)と判断できる。

甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症

甲状腺中毒症は血中甲状腺ホルモンが過剰で、その作用が過剰に現れている状態の総称である。このうち甲状腺でのホルモン合成・分泌そのものが亢進しているものを甲状腺機能亢進症(代表は Basedow 病)とよぶ。一方、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎は、甲状腺組織の破壊により貯蔵ホルモンが漏れ出す破壊性甲状腺中毒症であり、合成は亢進していない。

甲状腺中毒症の主な症候

・代謝亢進:体重減少(食欲は保たれるか亢進)、暑がり、発汗過多、微熱 ・循環器:頻脈、動悸、収縮期高血圧と脈圧の拡大、心房細動(高齢者で多い) ・神経・筋:手指振戦、いらいら感、筋力低下、周期性四肢麻痺(アジア人男性に多い) ・消化器:排便回数の増加 ・検査:総コレステロール低値、ALP 上昇、血糖上昇傾向など ・Basedow 病に特徴的:びまん性甲状腺腫、眼症状(眼球突出など)、前脛骨粘液水腫

診断の流れ

1. TSH・FT4(・FT3)を測定し、甲状腺ホルモン高値・TSH 低値を確認する。 2. 原因鑑別として TRAb(TSH 受容体抗体)を測定する。Basedow 病では陽性となる。 3. 必要に応じて甲状腺の放射性ヨウ素(またはテクネチウム)摂取率を測定する。Basedow 病では高値、破壊性甲状腺炎では低値となる。 4. 甲状腺超音波検査では Basedow 病でびまん性腫大と血流増加を認める。

小児・思春期の Basedow 病

小児の甲状腺中毒症の大部分は Basedow 病で、思春期の女子に多い。成績低下、落ち着きのなさ、多動などの行動変化で気づかれることもある。治療は抗甲状腺薬(チアマゾール〈MMI〉が第一選択)が中心となる。

POINT

・頻脈+発汗(皮膚湿潤)+手指振戦+甲状腺腫+体重減少 → 甲状腺中毒症を考える。 ・低コレステロール血症も甲状腺中毒症を示唆する所見である。 ・診断の第一歩は FT4(FT3)高値と TSH 低値の確認である。原因鑑別には TRAb、放射性ヨウ素摂取率、超音波検査を用いる。 ・神経性やせ症は徐脈・低体温・皮膚乾燥をきたし、甲状腺中毒症とは循環・皮膚所見が逆になる。 ・抗GAD抗体は1型糖尿病、アルギニン負荷試験は GH 分泌不全、手根骨エックス線は骨年齢評価に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。