カルシウムとリンが「そろって下がる」とき―3つのホルモンで解くミネラル代謝
第118回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
低カルシウム血症と低リン血症を同時にきたす病態はどれか。
- a.腫瘍性骨軟化症
- b.甲状腺機能亢進症
- c.ビタミンD欠乏症
- d.副甲状腺機能低下症
- e.慢性腎臓病に伴うミネラル骨代謝異常
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血清CaとPは主にPTH、活性型ビタミンD、FGF23の3つのホルモンで調節されており、どのホルモンが増減するかでCaとPの動き方が決まります。活性型ビタミンDは腸管からのCaとPの吸収をともに促すため、ビタミンD欠乏症では低Ca血症と低P血症が同時に起こり、二次性副甲状腺機能亢進症によって低P血症はさらに顕著になり、くる病・骨軟化症とALP上昇を伴います。一方、副甲状腺機能低下症は低Ca・高P、慢性腎臓病に伴うミネラル骨代謝異常はP排泄障害による高P、腫瘍性骨軟化症はFGF23過剰によりPのみが低下し、甲状腺機能亢進症は骨吸収亢進でCaがやや上がる傾向です。「PTHは逆向き、ビタミンDは同じ向き」という原則を押さえておけば、電解質異常の鑑別を論理的に進められるようになります。
解答・解説
正解はcです
血清カルシウム(Ca)とリン(P)の濃度は、主に副甲状腺ホルモン(PTH)、活性型ビタミンD〔1,25-ジヒドロキシビタミンD、1,25(OH)2D〕、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)の3つのホルモンによって調節されている。各病態でCaとPがどちらに動くかは、どのホルモンが増減するかを考えると整理しやすい。 ・PTH:骨吸収と腎でのCa再吸収を促し血清Caを上げる。一方、腎近位尿細管でのP再吸収を抑えるので血清Pは下げる。さらに腎で活性型ビタミンDの産生を促す。 ・活性型ビタミンD:腸管からのCaとPの吸収をともに促進し、両者を上げる。 ・FGF23:主に骨細胞が分泌し、腎でのP再吸収を抑えるとともに活性型ビタミンDの産生を抑える。結果として血清Pを下げる。 このうち、CaとPを「同じ方向に」下げるのはビタミンDの作用不足である。PTHの異常ではCaとPは逆方向に動き(PTH低下なら低Ca・高P)、腎機能低下ではPの排泄が落ちて高Pとなる。したがって低Ca血症と低P血症を同時にきたすのはビタミンD欠乏症である。
選択肢考察
- ×a. 腫瘍性骨軟化症
誤り。腫瘍(多くは間葉系由来の小さな良性腫瘍)が過剰なFGF23を分泌する腫瘍随伴症候群である。FGF23により腎尿細管でのP再吸収が低下して尿中P排泄が増え、低P血症となる。活性型ビタミンDの産生も抑えられるため腸管からのP吸収も減る。慢性の低P血症により骨の石灰化が障害され骨軟化症を生じる。血清Caは通常は正常範囲にとどまる(低下しても軽度)ことが多く、本症の主体は低P血症である。原因腫瘍を完全に摘出すれば治癒が期待できる。
- ×b. 甲状腺機能亢進症
誤り。甲状腺ホルモンは骨形成と骨吸収をともに亢進させるが、骨吸収がより優位となるため骨からCaが動員され、血清Caは正常上限〜軽度高値となる。これを受けてPTHは抑制され、活性型ビタミンDも低下し、腸管でのCa吸収低下と尿中Ca排泄の増加が起こる。長期的には骨量が減少し骨粗鬆症の原因となる。血清Pは正常〜やや高値を示すことが多く、低Ca血症・低P血症の組み合わせにはならない。
- ○c. ビタミンD欠乏症
正しい。活性型ビタミンDは腸管からのCaとPの吸収を促進するため、その不足により両者の吸収が低下し、低Ca血症と低P血症を同時にきたす。さらに低Ca血症に反応してPTHが上昇する(二次性副甲状腺機能亢進症)と、腎でのP再吸収が抑えられて尿中へPが失われ、低P血症はより顕著になる(このPTH上昇によりCaはある程度補正され、正常下限にとどまることもある)。CaとPの積が低下して骨の石灰化が障害され、小児ではくる病、成人では骨軟化症を生じる。血清アルカリホスファターゼ(ALP)は上昇する。原因は日光照射不足、摂取不足、脂肪吸収障害などである。
- ×d. 副甲状腺機能低下症
誤り。PTHの分泌が低下すると、骨からのCa動員と腎でのCa再吸収が減り、活性型ビタミンDの産生も低下するため低Ca血症となる。一方、PTHによる腎でのP排泄促進作用が失われるため、P再吸収が増えて高P血症となる。すなわち「低Ca血症・高P血症」の組み合わせであり、テタニー、Trousseau徴候・Chvostek徴候、大脳基底核石灰化などがみられる。
- ×e. 慢性腎臓病に伴うミネラル骨代謝異常
誤り。慢性腎臓病に伴うミネラル骨代謝異常(CKD-MBD:chronic kidney disease-mineral and bone disorder)では、糸球体濾過量の低下によりPの排泄が障害され、高P血症となる。また腎での活性型ビタミンDの産生が低下するため腸管からのCa吸収が減り、低Ca血症となる。高P血症・低Ca血症・活性型ビタミンD低下はいずれもPTH分泌を刺激し、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こす。初期にはFGF23やPTHの上昇によりPは代償的に正常に保たれるが、進行すると高P血症が顕在化する。低P血症にはならない。
主な病態とCa・P・ホルモンの動き
・原発性副甲状腺機能亢進症:Ca↑、P↓、PTH↑ ・副甲状腺機能低下症:Ca↓、P↑、PTH↓ ・偽性副甲状腺機能低下症(PTH不応):Ca↓、P↑、PTH↑ ・ビタミンD欠乏症:Ca↓(〜正常下限)、P↓、PTH↑(二次性)、ALP↑ ・FGF23関連低P血症性くる病・骨軟化症(腫瘍性骨軟化症、X連鎖性低P血症性くる病):Ca正常、P↓、1,25(OH)2D低値〜不適切に正常、FGF23↑ ・慢性腎臓病(進行期):Ca↓、P↑、PTH↑、1,25(OH)2D↓、FGF23↑ ・悪性腫瘍に伴う高Ca血症(PTHrP産生):Ca↑、P↓、PTH↓
考え方のコツ
PTHが主役の病態ではCaとPは逆向きに動く。ビタミンDが主役の病態(欠乏または過剰)ではCaとPは同じ向きに動く(ビタミンD中毒では高Ca・高P)。腎不全ではPの排泄低下が前面に出る。FGF23過剰ではPだけが選択的に下がる。
くる病・骨軟化症
骨基質(類骨)の石灰化障害であり、成長板が閉鎖する前の小児に起こるとくる病、閉鎖後の成人では骨軟化症と呼ぶ。原因はビタミンD欠乏・代謝異常、FGF23過剰などによる低P血症、腎尿細管障害(Fanconi症候群など)が代表的である。
POINT
・活性型ビタミンDは腸管からのCaとPの吸収をともに促進する → 欠乏で低Ca血症+低P血症。 ・PTHはCaを上げPを下げる → 副甲状腺機能低下症は低Ca血症+高P血症。 ・FGF23過剰(腫瘍性骨軟化症など)は低P血症が主体でCaは通常正常。 ・CKD-MBDはP排泄障害による高P血症と活性型ビタミンD低下による低Ca血症。 ・甲状腺機能亢進症は骨吸収亢進により軽度高Ca血症傾向。
