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右肩上がりの小さな曲線―「人口×就業率」で読み解く高齢者就業のグラフ

第117回医師国家試験 C問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第30問

2012年から2021年までの15~24歳,25~34歳,35~44歳,45~54歳,55~64歳,65歳以上の6階級における年齢階級別就業者数の推移を示す。  65歳以上の就業者数はどれか。

第117回 C問題 第30問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、年齢階級別の就業者数の推移グラフから65歳以上の曲線を選ぶ問題だ。数値を丸暗記していなくても解ける。カギは「就業者数=人口×就業率」という式と、日本の人口ピラミッドにある2つの山をイメージできるかどうかだよ。
医学生医学生
統計の数字は苦手で……。65歳以上は高齢化で人口が多いので、一番上の曲線かなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだね。確かに65歳以上の人口は多いけれど、働いている人の割合、つまり就業率は現役世代よりずっと低い。だから絶対数で見ると、65歳以上の就業者数は現役世代の各階級より少なくなるんだ。
医学生医学生
なるほど、人口ではなく「働いている人の数」なんですね。式に当てはめると、人口は多くても就業率が低いので掛け算の結果は小さくなる、と。
ドクタードクター
その通り。では、もう一つの視点。この10年間で65歳以上の就業者数は増えたと思う?減ったと思う?
医学生医学生
公衆衛生の講義で、定年後も働き続ける人が増えていると聞きました。だから増えているはずです。
ドクタードクター
正解。理由は2つある。1つは団塊の世代、つまり1947〜1949年生まれの人口の多い世代が2012〜2014年ごろに65歳に到達して、高齢者人口そのものが増えたこと。もう1つは、高年齢者雇用安定法による継続雇用の推進や健康寿命の延伸で、高齢者の就業率が上がったことだ。
医学生医学生
人口も就業率も両方増えているなら、掛け算の結果ははっきり増えますね。
ドクタードクター
そう。だから「絶対数は少なめなのに、一貫して増えている曲線」を探せばいい。グラフでは約600万人から右肩上がりに増え、2019年ごろに約900万人に達して、その後はほぼ横ばいになっている曲線がそれに当たる。これが正解だ。
医学生医学生
2020年以降に伸びが止まっているのはどうしてでしょうか。
ドクタードクター
新型コロナウイルス感染症の流行の影響や、団塊の世代が70歳代に入って引退が進んだことなどが考えられる。ここは断定しにくい部分だけど、流れとして押さえておくといい。では、残りの曲線も確認しておこう。2021年に約1,600万人と最多になる、右肩上がりの曲線は何歳代だと思う?
医学生医学生
増えているので、これも高齢者かと思ったんですが……数が多すぎますね。
ドクタードクター
いい気づきだ。ここで2つ目の人口の山、団塊ジュニア世代が登場する。1971〜1974年生まれの彼らは、2012年ごろは35〜44歳にいて、2016年以降は45〜54歳に移っていく。だから右肩上がりで最多になる曲線が45〜54歳、逆に約1,500万人から減っていく曲線が35〜44歳だ。両者が2016〜2017年ごろに交差するのは、まさに世代の移動を反映しているんだ。
医学生医学生
人口の山がグラフの中を移動していくイメージですね。CBTの勉強で人口ピラミッドの形を覚えたのが、ここでつながりました。
ドクタードクター
そういうこと。55〜64歳の曲線は、団塊の世代が65歳以上へ抜けていったため2016年ごろまで減り、その後は60歳代前半の就業率上昇などでやや持ち直している。25〜34歳の曲線は、少子化で人口そのものが減っているため緩やかに減り続けている。15〜24歳は進学率が高いこともあって最も少なく、約500万人前後で推移している。
医学生医学生
各曲線の動きは「どの世代がその年齢層を通過しているか」と「就業率の変化」で説明できるわけですね。
ドクタードクター
その通り。最後に周辺知識もまとめておこう。就業者数のデータは、総務省統計局が毎月実施する「労働力調査」から得られる。完全失業率もこの調査から算出されるよ。労働力人口は15歳以上人口のうち就業者と完全失業者を合わせたもので、完全失業者は「仕事がなく、すぐ就くことができ、求職活動をしていた人」と定義される。
医学生医学生
高年齢者雇用安定法は、具体的にどんな内容でしたか。
ドクタードクター
事業主には65歳までの雇用確保措置、つまり定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止のいずれかが義務付けられている。さらに2021年施行の改正で、70歳までの就業機会の確保が努力義務になった。今では就業者の7〜8人に1人程度が65歳以上とされているんだ。
医学生医学生
臨床実習の外来でも、70歳代で現役で働いている患者さんがたくさんいました。働き続けられる健康を支えることも、医療の役割なんですね。
ドクタードクター
いい視点だね。高齢者の就業は本人の健康維持や社会参加につながるし、社会保障の支え手の確保という意味でも重要だ。産業保健の場面では、高齢労働者の転倒・腰痛予防や持病の管理が大きなテーマになる。グラフ問題は数字を覚えるより、こうした社会の流れを理解しておくことが一番の武器になるよ。

まとめ

年齢階級別就業者数は「人口×就業率」で決まるため、グラフの曲線は人口構造と就業動向から推定できます。65歳以上は就業率が低いため絶対数は中位以下ですが、団塊の世代の65歳到達と、高年齢者雇用安定法による継続雇用の推進や健康寿命の延伸による就業率上昇によって、2012年の約600万人から一貫して増加しました。一方、45〜54歳の増加と35〜44歳の減少は団塊ジュニア世代の加齢を、25〜34歳の減少は少子化を反映しています。就業者数は総務省の「労働力調査」で把握され、労働力人口や完全失業者の定義もあわせて押さえておきたいところです。統計グラフは細かな数値の暗記ではなく、人口の山の移動と社会制度の変化という大きな流れで読み解く姿勢が、公衆衛生全般の理解につながります。

解答・解説

正解はeです

本問は、総務省「労働力調査」に基づく年齢階級別就業者数(2012〜2021年)の推移グラフから、65歳以上の就業者数に当たる曲線を選ぶ問題である。数値を暗記していなくても、人口構造(各年齢層の人口の大きさ)と高齢者の就業の動向を考えれば推定できる。

グラフの読み取り

・①:約1,300万人から右肩上がりに増え、2021年には約1,600万人と最も多くなる。 ・②:約1,500万人から緩やかに減り、2021年には約1,300万人となる。①と2016〜2017年ごろに交差する。 ・③:約1,200万人からいったん減少し、2016年ごろを底にやや増加して約1,170万人となる。 ・④:約1,200万人から緩やかに減少し続け、約1,090万人となる。 ・⑤:約600万人から一貫して増加し、2019年ごろに約900万人に達した後、2020〜2021年はほぼ横ばいとなる。 ・15〜24歳は最も少ない約500万人前後で推移する(図中に明示)。

考え方

65歳以上の就業者数は、①高齢者人口そのものの増加(団塊の世代が2012〜2014年に65歳に到達)、②高年齢者雇用安定法による継続雇用の推進や健康寿命の延伸に伴う就業率の上昇、の二つの要因で一貫して増え続けてきた。ただし、65歳以上は他の年齢層と比べて就業率が低いため、就業者数の絶対値は15〜24歳を除く他の階級より少ない。したがって「最も急な増加を示しつつも、絶対数は中位以下」の曲線⑤が65歳以上である。 残りの①〜④は、人口の多い団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)がどの年齢層を通過しているかで説明できる。団塊ジュニアは2012年ごろには30歳代後半〜40歳代前半(35〜44歳)、2016年以降は45〜54歳に移っていくため、②(35〜44歳)が減少し①(45〜54歳)が増加する。 なお、本問は特定年次の統計グラフに依存する設問であり、細かい数値の暗記よりも、人口構造と就業動向の大きな流れを理解しておくことが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は45〜54歳の就業者数である。この期間に人口の多い団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)がこの年齢階級に入ってきたため、就業者数が増加し、2021年には全年齢階級で最多となっている。この年齢層は就業率も高いため絶対数が大きく、65歳以上を示す曲線ではない。

  2. ×b.  ②

    ②は35〜44歳の就業者数である。2012年ごろはこの年齢層に団塊ジュニア世代が含まれていたため最多であったが、同世代が45歳以上へ移行するにつれ、また後続世代の人口が少ないことから減少している。①(45〜54歳)との交差は、団塊ジュニア世代の移行を反映している。

  3. ×c.  ③

    ③は55〜64歳の就業者数である。2012年以降、人口の多い団塊の世代(1947〜1949年生まれ)が65歳以上へ抜けていったため2016年ごろまで減少したが、その後は60歳代前半の就業率上昇(定年後の継続雇用の普及)や、次第に人口の多い世代が流入してきたことなどにより、やや増加に転じている。

  4. ×d.  ④

    ④は25〜34歳の就業者数である。少子化の影響でこの年齢層の人口そのものが減少しているため、就業者数も緩やかに減り続けている。女性の就業率上昇などのプラス要因はあるものの、人口減少の影響が上回っている。

  5. ○e.  ⑤

    ⑤は65歳以上の就業者数である。2012年の約600万人から一貫して増加し、2019年ごろには約900万人に達した。増加の背景には、団塊の世代が65歳以上に到達したことによる高齢者人口の増加と、高年齢者雇用安定法の改正(65歳までの雇用確保措置の義務化、70歳までの就業機会確保の努力義務化)や健康寿命の延伸による就業率の上昇がある。2020〜2021年に伸びが鈍化しほぼ横ばいとなっているのは、新型コロナウイルス感染症流行の影響や、団塊の世代が70歳代に入り引退が進んだことなどが考えられる。就業率が若・中年層より低いため、絶対数は15〜24歳を除く他の階級を下回る。

労働力調査

就業者数は、統計法に基づき総務省統計局が毎月実施する「労働力調査」から得られる。国民の就業・不就業の状態を明らかにするための基礎資料を得ることを目的とする標本調査であり、完全失業率などもこの調査から算出される。

主な用語

・労働力人口:15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたもの。 ・就業者:調査期間中に収入を伴う仕事を少しでもした者(従業者)と、仕事を持ちながら休んでいた者(休業者)を合わせたもの。 ・完全失業者:仕事がなく、仕事があればすぐ就くことができ、求職活動をしていた者。

高齢者就業の動向と背景

・65歳以上の就業者数は長期にわたり増加を続け、就業者全体に占める割合も上昇している(就業者の7〜8人に1人程度)。 ・高年齢者雇用安定法:65歳までの雇用確保措置(定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止のいずれか)が事業主に義務付けられ、2013年施行の改正では希望者全員を継続雇用の対象とすることになった。2021年施行の改正では、70歳までの就業機会の確保が事業主の努力義務とされた。 ・高齢者の就業は、本人の健康維持や社会参加、社会保障制度の支え手の確保という観点からも重視されている。

人口構造とグラフの読み方

就業者数は「人口×就業率」で決まる。日本では団塊の世代(1947〜1949年生まれ)と団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)の二つの人口の山があり、これらの世代が各年齢階級を通過するのに合わせて、年齢階級別の就業者数が増減する。

POINT

・65歳以上の就業者数は一貫して増加(2012年約600万人 → 2019年以降約900万人)。 ・増加の要因:団塊の世代の65歳到達による高齢者人口の増加と、継続雇用制度の普及などによる就業率の上昇。 ・45〜54歳の増加と35〜44歳の減少は団塊ジュニア世代の加齢を反映する。 ・25〜34歳は少子化により減少傾向。 ・就業者数の出典は総務省「労働力調査」。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。