StudyMed医師国家試験

スクリーニング陽性は「まだ診断ではない」―HIV感染を確定する2本の柱

第116回医師国家試験 D問題 第68問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第68問

23歳の男性。咽頭痛,嘔吐および下痢を主訴に来院した。半年前から不特定多数の異性との性交渉を繰り返していた。2週間前から間欠的に39℃台の発熱があり,1週間前から咽頭痛が出現した。2日前から嘔吐と下痢も加わり持続するため受診した。身体所見では明らかな異常を認めなかったが,血液検査においてHIV抗原・抗体同時スクリーニング検査が陽性であった。  HIV感染の確定に必要な検査はどれか。2つ選べ。

  1. a.咽頭培養
  2. b.血液培養
  3. c.血中HIV RNA定量検査
  4. d.CD4陽性Tリンパ球数測定
  5. e.Western blot法による抗HIV抗体測定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、HIVのスクリーニング検査が陽性になったあと、何をもって「感染している」と確定するかを問う問題だ。注目してほしいのは、スクリーニング検査という言葉の意味と、この患者さんが感染からどのくらいの時期にいそうか、という2点だよ。
医学生医学生
スクリーニングで陽性なら、もうHIV感染と考えていいような気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、そこが一番の落とし穴なんだ。スクリーニング検査は見逃しを防ぐために感度を最優先して作られているから、一定の割合で偽陽性が出る。感染者が少ない集団では、陽性者のうち無視できない割合が実は偽陽性ということもある。だから陽性だけで告知してはいけないんだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った、有病率が低いと陽性的中率が下がるという話ですね。
ドクタードクター
まさにそれ。だから次に、特異度の高い確認検査を行う。では、この患者さんの症状はどう解釈する?
医学生医学生
発熱、咽頭痛、下痢で、伝染性単核球症みたいな感じです。でもHIVなら免疫不全で日和見感染が出るイメージがあって、少し違和感がありました。
ドクタードクター
日和見感染が起こるのは、感染から数年から十数年たってCD4が大きく下がったAIDS期の話だね。今回はリスク行動が始まって半年、急に伝染性単核球症様の症状が出ている。感染後2〜6週ごろに起こる急性HIV感染症、いわゆる急性レトロウイルス症候群を考えるのが自然なんだ。
医学生医学生
なるほど、感染して間もない時期なんですね。それが検査の選び方にも関係するんですか。
ドクタードクター
大いに関係する。確認検査は2本立てで、ひとつはHIVの個々の蛋白に対する抗体を確かめる検査、もうひとつはウイルスの遺伝子そのものを検出するHIV RNA定量検査だ。抗体確認検査として本問に挙がっているのがWestern blot法で、gp160やgp120、gp41、p24などの蛋白を電気泳動で分けて、それぞれに対する抗体をバンドとして判定する。
医学生医学生
蛋白ごとに抗体を確認するから、スクリーニングより特異度が高いわけですね。
ドクタードクター
その通り。ただし急性感染期は抗体がまだそろっていないから、Western blot法では陰性や判定保留になりやすい。一方でこの時期は血中のウイルス量が非常に多いので、PCRなどでHIV RNAを測れば感染を証明できる。だから両方を同時に行うのが原則で、特に今回のような急性感染疑いではRNA検査が欠かせないんだ。
医学生医学生
感染後は、RNA、p24抗原、抗体の順に検出できるようになるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから第4世代のスクリーニングはp24抗原も同時に測ってウインドウ期を短くしている。さて、残りの選択肢も見ておこう。咽頭培養と血液培養はどうかな。
医学生医学生
どちらも細菌を探す検査なので、ウイルスのHIVは見つけられないですね。咽頭痛や発熱の鑑別としては意味がありそうですけど。
ドクタードクター
その理解でいい。咽頭培養はA群溶連菌など、血液培養は菌血症の原因菌を調べる検査で、HIV感染の確定とは目的が違う。ではCD4陽性Tリンパ球数は?
医学生医学生
HIVの標的細胞なので、減っていれば感染を示すと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところだね。CD4数は免疫不全の進み具合を示す指標で、病期評価や日和見感染症の予防開始、治療効果の判定に使う。ただ無症候期には長く正常付近に保たれるし、急性期には一過性に下がることもあり、他のウイルス感染でも低下しうる。感染の有無を決める検査ではないんだ。
医学生医学生
CD4は「どのくらい進んでいるか」、RNAと抗体確認検査は「感染しているか」を見る、と分けて覚えます。
ドクタードクター
完璧だ。発展知識として、現在の日本ではWestern blot法はイムノクロマト法によるHIV-1/2抗体確認検査に置き換わっている。でも抗体確認検査とRNA検査で確定するという考え方は同じだ。抗体確認が陰性や保留でもRNAが陽性なら急性感染、両方陰性ならスクリーニングの偽陽性の可能性が高い、と判断する。HIV-2はHIV-1用のRNA検査では拾えないので、抗体確認検査で区別する点も押さえておこう。
医学生医学生
臨床実習の感染症内科で、診断がついた患者さんに梅毒や肝炎の検査も出していたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。感染経路が同じ性感染症の合併は多いから、梅毒、B型・C型肝炎の検査も行う。それに急性感染期はウイルス量が多く感染力も強い時期だから、早期診断はパートナーへの感染予防の面でも大切だ。性感染症のリスクがある人の伝染性単核球症様の症状を見たら、急性HIV感染症を思い浮かべられるようにしておこう。

まとめ

HIV抗原・抗体同時スクリーニング検査は感度を重視しているため偽陽性があり、陽性だけでは感染と確定できません。確定には、抗HIV抗体確認検査(Western blot法、現在の日本ではイムノクロマト法)とHIV RNA定量検査を同時に行います。性的リスク行動後に伝染性単核球症様の症状を呈する急性HIV感染症では抗体がまだそろわず抗体確認検査が陰性・判定保留になりやすい一方、ウイルス量は多いため、RNA検査の併用が特に重要です。CD4陽性Tリンパ球数は病期や免疫状態の指標であり、咽頭培養や血液培養は細菌を対象とする検査なので、いずれも感染の確定には用いません。スクリーニングと確認検査の役割の違いを理解することは、誤った告知を防ぎ、早期診断と感染拡大の防止につなげるうえで欠かせない知識です。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

・23歳男性で、半年前から不特定多数の相手との性交渉がある → HIV(ヒト免疫不全ウイルス)を含む性感染症のハイリスク者である。 ・2週間前から間欠的な39℃台の発熱、1週間前から咽頭痛、2日前から嘔吐・下痢 → 発熱・咽頭炎・消化器症状がそろう、伝染性単核球症やインフルエンザに似た非特異的なウイルス感染様の症状である。 ・HIV抗原・抗体同時スクリーニング検査(第4世代検査。HIVのp24抗原と抗HIV抗体を同時に検出する)が陽性。

診断へのプロセス

発熱・咽頭痛・消化器症状だけを見れば、ウイルス感染症、細菌感染症、膠原病、悪性腫瘍など鑑別は非常に広い。しかし性感染症のリスク行動が始まってから半年という時間経過と、スクリーニング検査陽性という情報から、HIV感染症、特に感染から数週間以内に起こる急性HIV感染症(急性レトロウイルス症候群)が最も疑われる。急性HIV感染症では感染2〜6週後ごろに、発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、皮疹、筋肉痛、下痢などの消化器症状、無菌性髄膜炎などが一過性にみられる。一方、感染から数年〜十数年を経て免疫不全が進行した時期に日和見感染症などで発症するのがAIDS(後天性免疫不全症候群)期であり、本例の経過とは合わない。

設問の考え方

スクリーニング検査は見逃しを防ぐために感度を最優先して設計されており、一定の割合で偽陽性が生じる(偽陽性率はおおむね0.1〜0.3%程度とされる)。HIV感染の頻度が低い集団では、陽性者のうち少なからぬ割合が偽陽性となるため、スクリーニング陽性だけで「HIV感染」と告知してはならない。必ず特異度の高い確認検査を行って確定する。確認検査は、抗体を確認する検査(抗HIV抗体確認検査:本問ではWestern blot法)と、ウイルスそのものの遺伝子を検出する核酸増幅検査(HIV RNA定量検査)の2本立てであり、両者を同時に行うのが原則である。 特に急性感染期は、抗体がまだ十分に産生されていない(あるいは一部のウイルス蛋白に対する抗体しかできていない)ため、抗体確認検査が陰性や判定保留になりやすい。この時期でもウイルス量は非常に多いことが多く、HIV RNA検査で感染を証明できる。したがって本例のように急性感染が疑われる場合には、RNA検査の併用が特に重要となる。

選択肢考察

  1. ×a.  咽頭培養

    咽頭培養はA群β溶血性レンサ球菌などの細菌(あるいは真菌)を検出するための検査であり、HIV感染の有無は判定できない。HIVのウイルス分離培養は特殊な研究的手法であり、日常診療での診断には用いない。咽頭痛の鑑別として細菌性咽頭炎を調べる意味はありうるが、「HIV感染の確定」という設問の目的には合致しない。

  2. ×b.  血液培養

    血液培養は菌血症(敗血症や感染性心内膜炎など)の原因となる細菌・真菌を検出する検査である。持続する発熱の精査として行われることはあるが、ウイルスであるHIVは通常の血液培養では検出できず、HIV感染の確定には使えない。

  3. ○c.  血中HIV RNA定量検査

    PCR法などの核酸増幅検査により、血漿中のHIV-1 RNA(ウイルス遺伝子)を直接検出・定量する検査である。ウイルスそのものの存在を示すため特異度が高く、スクリーニング陽性後の確認検査として用いられる。抗体が十分に産生される前の急性感染期(ウインドウ期)でも陽性となり、本例のように急性HIV感染症が疑われる場合には特に有用である。また定量値(ウイルス量)は、診断後の病勢評価や抗HIV療法の効果判定にも用いられる。

  4. ×d.  CD4陽性Tリンパ球数測定

    CD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)はHIVの主な標的細胞であり、その数は免疫不全の進行度を示す指標として、病期の評価、日和見感染症の予防開始の判断、治療効果の判定などに用いられる。しかしCD4数は感染者でも無症候期には長く正常付近に保たれることが多く、逆に急性感染期には一過性に低下することもあり、他のウイルス感染症などでも低下しうる。したがって感染の有無を確定する検査ではない。

  5. ○e.  Western blot法による抗HIV抗体測定

    Western blot法は、HIVを構成する個々の蛋白(エンベロープのgp160・gp120・gp41、コアのp24など)を電気泳動で分離して膜に転写し、それぞれに対する患者血清中の抗体の有無をバンドとして判定する方法である。複数のウイルス蛋白に対する抗体を個別に確認できるためスクリーニング検査より特異度が高く、HIV RNA検査とともに確認検査として用いられてきた。ただし急性感染期には抗体がそろっておらず陰性や判定保留となることがあるため、RNA検査との併用が重要である。なお現在の日本では、抗体確認検査はWestern blot法からイムノクロマト法によるHIV-1/2抗体確認検査に置き換わっているが、抗体確認検査とRNA検査で確定するという考え方は同じである。

HIV感染症の診断の流れ

1. スクリーニング検査:HIV抗原・抗体同時検査(第4世代)が主流である。抗体だけでなくp24抗原も検出するため、抗体のみの検査よりウインドウ期(感染しても検査で検出できない期間)が短い。感度を重視しているため偽陽性がある。 2. 確認検査:抗HIV抗体確認検査(従来はWestern blot法、現在はイムノクロマト法のHIV-1/2抗体確認検査)とHIV-1 RNA検査(核酸増幅検査)を同時に行う。 3. 判定の考え方: ・抗体確認検査陽性 → HIV感染と診断する。 ・抗体確認検査が陰性または判定保留でも、HIV-1 RNA陽性 → 急性HIV感染(抗体産生前の早期感染)と考える。 ・抗体確認検査・RNA検査ともに陰性 → スクリーニング検査の偽陽性の可能性が高い(ごく早期の感染を否定しきれない場合は期間をおいて再検査する)。 ・HIV-2感染はRNA検査(HIV-1用)では検出されないため、抗体確認検査で区別する。

検出可能になる時期の目安

感染後、まずHIV RNAが陽性化し、次いでp24抗原、最後に抗体の順に検出可能となる。急性感染期は抗体が未成熟でも血中ウイルス量が非常に多く、感染力も強い時期である。

HIV感染症の自然経過

急性感染期(感染2〜6週後に発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、皮疹、下痢、無菌性髄膜炎など伝染性単核球症様の症状)→ 無症候期(数年〜10年程度。CD4数は徐々に低下)→ AIDS期(CD4数が200/μL未満程度まで低下し、ニューモシスチス肺炎、カンジダ食道炎、サイトメガロウイルス感染症などのAIDS指標疾患を発症)。

診断後に行う主な検査

CD4陽性Tリンパ球数(免疫状態・病期の評価)、HIV RNA量(病勢・治療効果の評価)、薬剤耐性検査、梅毒・B型肝炎・C型肝炎など他の性感染症の検査。これらは「感染の確定」ではなく、診断後の評価と治療方針決定のための検査である。

POINT

・HIVスクリーニング検査(抗原・抗体同時検査)は偽陽性があるため、陽性だけで感染と確定しない。 ・確定診断は「抗HIV抗体確認検査(Western blot法、現在の日本ではイムノクロマト法)」と「HIV RNA検査(核酸増幅検査)」で行う。 ・急性感染期は抗体確認検査が陰性・判定保留になりうるので、RNA検査の併用が重要である。 ・CD4数は病期・免疫状態の指標であり、感染の有無の確定には使わない。 ・性感染症のハイリスク者に伝染性単核球症様の症状(発熱・咽頭痛・下痢など)をみたら急性HIV感染症を想起する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。