StudyMed医師国家試験

「がん」の名がつく法律に惑わされるな―がん検診の根拠法は健康増進法

第115回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第8問

 がん検診を規定している法律はどれか。

  1. a.健康増進法
  2. b.健康保険法
  3. c.がん対策基本法
  4. d.がん登録推進法
  5. e.高齢者医療確保法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の法規の問題で、市町村が住民に行っている「がん検診」がどの法律に基づいているかを問うものだ。選択肢には「がん」と名のつく法律が2つあるけれど、名前ではなく、それぞれの法律が何を定めているかで判断するのがコツだよ。
医学生医学生
正直、名前からするとがん対策基本法が一番それっぽく見えます。
ドクタードクター
そう思わせるのが出題者のねらいだね。がん対策基本法は、がん対策の基本理念や、国・地方公共団体・国民・医師などの責務を定め、がん対策推進基本計画をつくることを決めた法律なんだ。がん検診については受診率や精度管理の向上を施策として掲げているけれど、誰がどんな検診を実施するのかは決めていない。
医学生医学生
理念や枠組みの法律で、実際の検診の中身は別の法律で決まっているということですか。
ドクタードクター
その通り。実際に市町村のがん検診の根拠になっているのは健康増進法だ。この法律で市町村が行う「健康増進事業」の一つとして、がん検診が位置づけられている。市町村の努力義務で、具体的な検診項目や実施方法は施行規則や厚生労働省の指針で示されているよ。
医学生医学生
健康増進法というと、公衆衛生の講義で受動喫煙対策の法律として習った印象が強いです。
ドクタードクター
それも健康増進法の大事な柱だね。ほかにも国民健康・栄養調査や、市町村の健康増進事業として肝炎ウイルス検診、骨粗鬆症検診、歯周疾患検診、健康教育・健康相談なども定めている。幅広く国民の健康づくりを支える法律なんだ。
医学生医学生
がん登録推進法はどうでしょう。がんのデータを集める法律なら、検診にも関係しそうですが。
ドクタードクター
がん登録推進法は全国がん登録を定めた法律で、病院にがん患者の情報の届出を義務づけている。登録情報を検診の質の向上に役立てることには触れているけれど、検診の実施を定めたものではない。
医学生医学生
健康保険法は医療保険の法律ですよね。会社の健診でがん検診を受けている人もいますけど。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。健康保険法は会社員などの被用者とその家族を対象に、病気やけがの医療給付を定めた法律だ。保険者が保健事業に努める規定はあるけれど、がん検診の実施を定めた法律ではない。職場でのがん検診は、法的な実施義務のない任意の取り組みなんだ。
医学生医学生
高齢者医療確保法は特定健診の法律だったと思います。メタボ健診ですよね。
ドクタードクター
正解。医療保険者に40〜74歳の加入者への特定健康診査・特定保健指導を義務づけていて、後期高齢者医療制度もこの法律で定められている。実はがん検診は、もともと老人保健法の保健事業として始まったんだ。2008年に老人保健法が高齢者医療確保法へ全面改正されたとき、がん検診は健康増進法に根拠が移った。
医学生医学生
だから高齢者医療確保法と混同しやすいんですね。歴史を知ると、ひっかけの意味がわかります。
ドクタードクター
この機会に健診・検診の根拠法をまとめて整理しておこう。事業者が行う一般健康診断は労働安全衛生法、1歳6か月児と3歳児の健診は母子保健法、就学時健診や児童生徒の定期健診は学校保健安全法だ。実施主体と対象者をセットにすると覚えやすいよ。
医学生医学生
市町村のがん検診は健康増進法、保険者の特定健診は高齢者医療確保法、事業者の健診は労働安全衛生法、ということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。臨床で知っておきたいのは、国が推奨する対策型検診の中身だね。胃がんは50歳以上で胃部X線か内視鏡を2年に1回、大腸がんは40歳以上で免疫法の便潜血検査を年1回、肺がんは40歳以上で胸部X線を年1回、乳がんは40歳以上でマンモグラフィを2年に1回、子宮頸がんは20歳以上で細胞診を2年に1回が基本だ。
医学生医学生
地域医療の実習で、保健センターの集団検診を見学したのを思い出しました。あれが健康増進事業だったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。外来でも患者さんに検診の受診を勧める場面は多いから、根拠となる制度と推奨の内容を知っておくと、説明に説得力が出るよ。

まとめ

市町村が住民に行うがん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸がん)は、健康増進法に定められた健康増進事業の一つとして実施されており、市町村の努力義務とされています。がん対策基本法はがん対策の理念・責務・基本計画を、がん登録推進法は全国がん登録を定める法律で、いずれも検診の実施そのものを規定してはいません。がん検診はもともと老人保健法に基づく事業でしたが、2008年に同法が高齢者医療確保法へ改正された際に健康増進法へ根拠が移り、高齢者医療確保法は特定健診・特定保健指導や後期高齢者医療制度を担っています。健診・検診ごとに根拠法・実施主体・対象者をセットで整理しておくことは、国家試験対策だけでなく、患者さんへの受診勧奨や地域保健活動を理解するうえでも役に立ちます。

解答・解説

正解はaです

問われていること

わが国で住民を対象に行われている「がん検診」が、どの法律に実施根拠をもつかを問う問題である。がんに関する法律は複数あるため、法律名に「がん」が入っているかどうかではなく、それぞれの法律が何を定めているかで判断する必要がある。

考え方

市町村が住民に対して行うがん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸がん)は、健康増進法第19条の2に定められた「健康増進事業」の一つとして位置づけられており、市町村の努力義務である。具体的な検診項目は同法の施行規則で定められ、実施方法は厚生労働省の指針(がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針)に示されている。 歴史的には、がん検診はもともと老人保健法に基づく保健事業として始まり、1998年度に国の補助から市町村の一般財源による事業へ移行した。その後2008年に老人保健法が高齢者医療確保法に全面改正された際、がん検診は健康増進法に根拠を移した。一方、がん対策基本法やがん登録推進法は、がん検診の推進や質の向上を理念・責務として掲げるにとどまり、検診の実施そのものを規定してはいない。 したがって、がん検診を規定している法律は健康増進法である。

選択肢考察

  1. ○a.  健康増進法

    健康増進法(2002年制定、2003年施行)は国民の健康増進を総合的に推進するための法律で、市町村が行う健康増進事業として、がん検診のほか、肝炎ウイルス検診、骨粗鬆症検診、歯周疾患検診、健康教育・健康相談などを定めている。市町村のがん検診はこの健康増進事業として実施されているため、正解である。

  2. ×b.  健康保険法

    健康保険法は、主に被用者(会社員など)とその被扶養者を対象とし、業務外の病気・けが・出産・死亡に対する医療保険給付を定めた法律である。保険者が保健事業として健診等を行う努力についての規定はあるが、がん検診の実施を定めた法律ではない。なお、職場で行われるがん検診は法的な実施義務のない任意の取り組みである。

  3. ×c.  がん対策基本法

    がん対策基本法(2006年成立、2007年施行)は、がん対策の基本理念と、国・地方公共団体・医療保険者・国民・医師等の責務を明らかにし、がん対策推進基本計画の策定などを定めた法律である。がん検診については、受診率向上や質の向上(精度管理)を施策として掲げ、国民には検診を受けるよう努める責務を定めているが、検診の実施主体や内容を規定しているわけではない。

  4. ×d.  がん登録推進法

    がん登録等の推進に関する法律(2013年成立、2016年施行)は、全国がん登録の実施と、登録情報の利用・提供・保護について定めた法律である。病院に対してがん患者の情報届出を義務づけている。登録情報をがん検診の質の向上に役立てることには触れているが、がん検診の実施を規定した法律ではない。

  5. ×e.  高齢者医療確保法

    高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)は、老人保健法を全面改正して2008年4月に施行された法律である。医療費適正化計画、後期高齢者医療制度(75歳以上)のほか、医療保険者に40〜74歳の加入者を対象とした特定健康診査・特定保健指導(メタボリックシンドロームに着目した健診)の実施を義務づけている。がん検診はこの法律の対象ではない。

健診・検診と根拠法の整理

・がん検診、肝炎ウイルス検診、骨粗鬆症検診、歯周疾患検診(市町村):健康増進法 ・特定健康診査・特定保健指導(医療保険者、40〜74歳):高齢者医療確保法 ・後期高齢者の健康診査(後期高齢者医療広域連合、努力義務):高齢者医療確保法 ・一般健康診断・特殊健康診断(事業者):労働安全衛生法 ・乳幼児健康診査(1歳6か月児・3歳児):母子保健法 ・就学時健康診断・児童生徒等の定期健康診断:学校保健安全法

国が推奨する対策型がん検診(指針)

・胃がん:50歳以上、胃部X線検査または胃内視鏡検査、2年に1回(胃部X線検査は40歳以上に年1回実施してもよい) ・大腸がん:40歳以上、便潜血検査(免疫法)、年1回 ・肺がん:40歳以上、胸部X線検査(重喫煙者には喀痰細胞診を併用)、年1回 ・乳がん:40歳以上、マンモグラフィ、2年に1回 ・子宮頸がん:20歳以上、子宮頸部細胞診、2年に1回(近年はHPV検査単独法も選択肢として導入された)

がん関連の法律

・がん対策基本法:がん対策の理念・責務・基本計画(がん対策推進基本計画、都道府県がん対策推進計画) ・がん登録推進法:全国がん登録(病院の届出義務)

POINT

・市町村のがん検診の根拠法は健康増進法(健康増進事業) ・特定健診・特定保健指導は高齢者医療確保法(保険者の義務、40〜74歳) ・がん対策基本法は理念・責務・基本計画、がん登録推進法は全国がん登録を定める ・がん検診は老人保健法 → 健康増進法(2008年)へ根拠が移った

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。