薬は「何を」だけでなく「どこから」―救急で問われる投与経路の選び方
第115回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
各病態で使用する医薬品と投与経路の組合せで正しいのはどれか。
- a.アナフィラキシーショックにおけるアドレナリン ―― 筋肉注射
- b.下腿挫創における破傷風トキソイド ―― 静脈内注射
- c.高血圧緊急症におけるカルシウム拮抗薬 ―― 舌下投与
- d.糖尿病性ケトアシドーシスにおけるインスリン ―― 皮下注射
- e.熱性けいれんにおけるジアゼパム ―― 皮下注射
対話形式の解説
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ドクターまとめ
救急・急性期の薬物治療では、薬剤名だけでなく投与経路が効果と安全性を大きく左右します。アナフィラキシーではアドレナリン0.01 mg/kg(最大 成人0.5 mg・小児0.3 mg)を大腿前外側部に筋注するのが初期治療の標準で、静注の不整脈リスクと皮下注の吸収遅延を避けられます。破傷風トキソイドなどのワクチンは皮下注または筋注で静注はせず、高血圧緊急症は静注薬の持続投与で段階的に降圧し、Ca拮抗薬の舌下投与は過度の降圧の危険から禁止されています。DKAでは輸液とカリウム補正に加えて速効型インスリンを持続静注し、持続するけいれんにはジアゼパム静注(静脈路がなければミダゾラム口腔粘膜投与など)を用います。「速さ・調節性・安全性・循環状態」という視点で経路を理解しておくと、初めて出会う場面でも適切な投与法を選べるようになります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
救急・急性期の代表的な病態について、使う薬剤そのものではなく「どの経路で投与するか」を問う問題である。投与経路は、効果発現の速さ、効果の予測しやすさ(調節性)、副作用の出方を左右するため、薬剤名とセットで覚えておく必要がある。
投与経路の考え方
・静脈内注射(静注)・持続静注:直ちに血中に入り、効果発現が最も速い。持続静注では投与速度を変えて効果を細かく調節できるため、血圧や血糖を安全な速度で下げたい場面に適する。 ・筋肉注射(筋注):筋肉は血流が豊富で皮下より吸収が速い。静脈路がなくても実施でき、静注ほど血中濃度が急上昇しないため、急性期でも安全性と即効性のバランスがよい。 ・皮下注射(皮下注):吸収が緩やかで、持続的な効果が欲しいときに用いる。ただし循環不全(ショックや高度脱水)では皮下の血流が低下し、吸収が不安定になる。 ・舌下投与:口腔粘膜から速やかに吸収されるが、投与量に対する効果の程度を予測・調節しにくい。 本問の5つの病態に当てはめると、アナフィラキシーショックにおけるアドレナリンの筋注のみが標準的な投与経路であり、他の組合せはいずれも推奨される経路と異なる。
選択肢考察
- ○a. アナフィラキシーショックにおけるアドレナリン ―― 筋肉注射
アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリンであり、大腿前外側部(外側広筋)への筋注が推奨される。用量は0.01 mg/kg(1 mg/mL製剤で0.01 mL/kg)、最大で成人0.5 mg・小児0.3 mgとし、効果が不十分なら5〜15分ごとに反復する。皮下注は皮膚血管の収縮により吸収が遅れ、静注は急激な血中濃度上昇により致死的不整脈や著しい高血圧を起こしやすいため、初期治療としては筋注が最適である。患者自身や家族が使用できるアドレナリン自己注射薬(エピペン)も大腿外側への筋注製剤である。よって正しい。なお、心停止や筋注を反復しても改善しない難治例では、モニター監視下で静注(持続静注)を行うことがある。
- ×b. 下腿挫創における破傷風トキソイド ―― 静脈内注射
破傷風トキソイドは、破傷風菌の毒素を無毒化した不活化ワクチン(能動免疫)であり、皮下注または筋注で接種する。ワクチンは注射部位で抗原を提示させて免疫応答を誘導するものであり、静注は行わない。土などで汚染された挫創では、予防接種歴に応じてトキソイドを接種し、接種歴が不明・不十分な場合には抗破傷風ヒト免疫グロブリン(受動免疫)も併用する。
- ×c. 高血圧緊急症におけるカルシウム拮抗薬 ―― 舌下投与
高血圧緊急症は、著しい血圧上昇に加えて脳・心臓・腎臓・大血管などの臓器障害が急速に進行する病態であり、入院のうえ、降圧の程度と速度を調節できる静注薬(ニカルジピン、ジルチアゼム、ニトログリセリンなど)の持続静注で治療する。降圧しすぎると臓器の灌流が低下し脳梗塞や心筋虚血を起こすため、初めの1時間は平均血圧の25%以内の低下にとどめるなど段階的に下げる。かつて行われたニフェジピンカプセルの舌下投与は、降圧の程度が予測できず過度の血圧低下や反射性頻脈を招き、脳虚血・心筋虚血を起こした例があるため、現在は禁止されている。
- ×d. 糖尿病性ケトアシドーシスにおけるインスリン ―― 皮下注射
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)では、まず生理食塩水による十分な輸液を行い、血清カリウム値を確認したうえで、速効型インスリンを持続静注する(0.1単位/kg/時程度から開始)。DKAでは高度の脱水により末梢循環が低下しており、皮下注では吸収が不安定で効果を予測できない。持続静注であれば血糖値の推移を見ながら投与速度を細かく調節でき、急激な血糖低下による脳浮腫や低カリウム血症を避けやすい。病態が改善し経口摂取が可能になってから皮下注へ移行する。
- ×e. 熱性けいれんにおけるジアゼパム ―― 皮下注射
けいれんが持続している場合(目安として5分以上)には、発作を速やかに止めるためジアゼパムを静注する。静脈路の確保が難しい場合には、ミダゾラムの口腔粘膜投与(頰粘膜投与)などが選択肢となる。ジアゼパムは皮下注や筋注では吸収が遅く不安定であり、局所の疼痛も強いため、けいれんを止める目的では用いない。一方、熱性けいれんを繰り返す例などでは、発熱時に再発予防としてジアゼパム坐薬(直腸内投与)を使用することがある。
アナフィラキシー治療の流れ
原因物質の除去・中止 → 応援要請 → アドレナリン筋注(大腿前外側部) → 仰臥位で下肢挙上(呼吸苦があれば上体を起こす、妊婦は左側臥位) → 酸素投与・静脈路確保と細胞外液の急速輸液 → 必要に応じ抗ヒスタミン薬・副腎皮質ステロイド(いずれも補助的治療であり、アドレナリンの代わりにはならない)。β遮断薬内服中でアドレナリンの効果が乏しい場合にはグルカゴンを考慮する。
破傷風予防(外傷時)
破傷風トキソイド(能動免疫)は、基礎免疫完了後も10年程度で抗体価が低下するため、汚染創では最終接種からの年数に応じて追加接種する。抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG、受動免疫)は即時に抗毒素を補うもので、接種歴不明の汚染創などで併用する。
高血圧緊急症と切迫症
臓器障害の急速な進行を伴う「緊急症」は静注薬で入院治療、臓器障害の進行を伴わない著明な高血圧(切迫症)は内服薬で数時間〜数日かけて降圧する。
DKAの治療の三本柱
1. 輸液(脱水の補正、最初は生理食塩水) 2. インスリン持続静注 3. 電解質補正(特にカリウム:インスリンでKが細胞内に移行し低K血症になりやすい。血清Kが低い場合はインスリン開始前にKを補充する)
熱性けいれん
生後6か月〜5歳ごろに多く、38℃以上の発熱に伴って起こる、中枢神経感染症や代謝異常などの明らかな原因がない発作である。多くは数分以内に自然に止まり、短時間の発作では抗けいれん薬は必須ではない。5分以上続く場合はけいれん重積状態に準じてベンゾジアゼピン系薬で治療する。
わが国のワクチン接種経路
国際的にはワクチンの筋注が主流で、局所反応が少なく免疫原性も良好とされる。わが国では、1970年代に抗菌薬・解熱鎮痛薬などの頻回の筋注による大腿四頭筋短縮症が社会問題となった経緯から筋注が敬遠され、皮下注が主流となってきたが、近年は筋注で接種するワクチンも増えている。
POINT
・アナフィラキシー:アドレナリン0.01 mg/kg(最大 成人0.5 mg・小児0.3 mg)を大腿前外側部に筋注 ・破傷風トキソイドなどのワクチン:皮下注または筋注(静注しない) ・高血圧緊急症:静注薬の持続投与で段階的に降圧、Ca拮抗薬の舌下投与は禁止 ・DKA:輸液+速効型インスリンの持続静注+カリウム補正 ・持続するけいれん:ジアゼパム静注(静脈路がなければミダゾラム口腔粘膜投与など)、予防はジアゼパム坐薬
