寝返りがやっとの赤ちゃんに、なぜ新旧のあざが?―発達の物差しで見抜く身体的虐待
第114回医師国家試験 F問題 第57問
国試問題にチャレンジ
6か月の乳児。6か月児健康診査で成長障害,発達遅滞が疑われ,母親とともに受診した。意識は清明。身長66.2cm(-0.7 SD),体重6.0kg(-2.0 SD)。体温36.9℃。心拍数118/分,整。血圧90/58mmHg。①定頸を認める。②寝返りはかろうじてできるが,③お座りはできない。④顔面,頭部および下腿に新旧混在した皮下出血が散在し,⑤両足底に多数の円形の熱傷痕を認める。 下線部のうち虐待を疑う所見はどれか。2つ選べ。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生後6か月で定頸があり、寝返りがかろうじてでき、お座りがまだできないのは月齢相応の発達であり、虐待を疑う所見ではありません(定頸3〜4か月、寝返り5〜6か月、お座り6〜8か月が目安)。一方、自分で移動できない乳児の顔面・頭部にみられる新旧混在の皮下出血は、繰り返し外力が加わったことを示し、足底など事故では受傷しにくい部位の多数の円形熱傷痕はタバコ熱傷を示唆するため、いずれも身体的虐待を強く疑う所見です。体重増加不良はネグレクトの手がかりにもなり、疑った時点で頭部CT・眼底検査・全身骨撮影などで評価するとともに、児童虐待防止法に基づき確証がなくても児童相談所などへ通告する義務があります。正常発達の物差しを持つことが、「発達段階と矛盾する外傷」を見抜き、子どもを守る第一歩になります。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・6か月の乳児。6か月児健診で成長障害と発達の遅れを疑われて受診した。 ・身長66.2cm(-0.7 SD)はほぼ正常範囲だが、体重6.0kg(-2.0 SD)は明らかに少ない。身長に比べて体重の増え方が悪く、栄養が足りていない可能性がある。このような体重増加不良は、ネグレクト(育児放棄)を含む虐待の手がかりになりうる。 ・バイタルサインに大きな異常はなく、意識も清明である。 ・運動発達:首がすわっている(定頸)、寝返りはどうにかできる、お座りはまだできない。 ・皮膚:顔面・頭部・下腿に、新しいものと古いものが混じった皮下出血が散らばっている。両足の裏には、円形のやけどの痕が多数ある。
考え方
設問は、下線部の所見の中から虐待を疑わせるものを選ばせている。まず、運動発達の各項目が月齢に合っているかを確認する。定頸は生後3〜4か月、寝返りは5〜6か月、お座りは6〜8か月(多くは7か月前後)でできるようになる。生後6か月で首がすわり、寝返りがかろうじてでき、お座りがまだできないのは、正常範囲内である。 一方、皮膚所見は典型的な身体的虐待のサインである。寝返りがやっとの乳児は自分で動き回れないため、事故で何度も打撲することは考えにくい。新旧の皮下出血が混在していることは、時期を変えて繰り返し外力が加わったことを示す。また、足の裏という通常の生活ではやけどしにくい部位に、多数の円形の熱傷痕がある。これはタバコの火を押しつけられた痕を強く疑わせる。 したがって、虐待を疑う所見は④と⑤である。なお、体重増加不良もネグレクトを含む虐待を考えるきっかけとなる所見だが、本問では下線が引かれていない。
選択肢考察
- ×a. ①
①は「定頸を認める」である。首のすわり(定頸)は生後3〜4か月ごろに完成し、遅くとも4〜5か月までにはほとんどの児で確認できる。生後6か月で定頸があるのは正常な発達であり、虐待を疑う所見ではない。
- ×b. ②
②は「寝返りはかろうじてできる」である。寝返りは生後5〜6か月ごろにできるようになる。生後6か月で、まだぎこちなくても寝返りができていれば、月齢相応の発達と判断してよい。虐待を疑う根拠にはならない。
- ×c. ③
③は「お座りはできない」である。支えなしのお座り(独座)は生後6〜8か月ごろ、多くは7か月前後で獲得される。生後6か月でまだお座りができなくても遅れとはいえない。虐待を疑う所見ではない。
- ○d. ④
④は「顔面、頭部および下腿に新旧混在した皮下出血が散在」である。乳児は自分で移動できないため、日常の事故で皮下出血ができることはまれである。とくに顔面や頭部は、乳児の事故では傷がつきにくい部位である。さらに、皮下出血の色調から受傷時期の異なるものが混在していると読み取れる。これは、時期を変えて繰り返し外力を受けていたことを示し、身体的虐待を強く疑わせる。頭部に外力が加わっている可能性もあるので、頭部CTや眼底検査、全身の骨のX線検査(全身骨撮影)で、頭蓋内出血や骨折がないか調べる必要がある。
- ○e. ⑤
⑤は「両足底に多数の円形の熱傷痕」である。直径が一定の小さな円形の熱傷が多数あれば、タバコの火を押しつけられた痕(タバコ熱傷)が強く疑われる。足の裏は、日常生活の事故ではやけどしにくい部位である。それが両側にしかも多数あることは、事故では説明できない。故意に加えられた外傷であり、身体的虐待を疑う典型的な所見である。
乳児の主な粗大運動発達の目安
・定頸(首のすわり):3〜4か月 ・寝返り:5〜6か月 ・お座り(独座):6〜8か月(7か月前後) ・はいはい:8〜9か月 ・つかまり立ち:9〜10か月 ・伝い歩き:10〜11か月 ・ひとり歩き:12〜15か月
身体的虐待を疑う皮膚・外傷所見
・受傷時期の異なる(新旧混在の)皮下出血や挫傷 ・乳児、とくに自分で移動できない時期の児にみられる皮下出血 ・事故では傷がつきにくい部位の外傷:耳介、頬、頸部、上腕内側、体幹、殿部、大腿内側など。転倒では、額・膝・すねなど骨が出っ張った部位に傷ができやすい。 ・物の形がわかる皮下出血(手形、ベルト、コードの痕など)や噛み痕 ・タバコによる円形の小さな熱傷、熱湯に浸けられたことによる熱傷(手袋状・靴下状で境界がはっきりしたもの) ・説明された受傷の仕方と、傷の程度や児の発達段階が合わない。受診が遅れている。 ・その他:乳幼児揺さぶられ症候群(硬膜下血腫、網膜出血)、多発骨折や新旧の骨折(肋骨骨折、骨幹端骨折など)
虐待の4つの類型(児童虐待防止法)
身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待。体重増加不良や不衛生、予防接種や健診を受けていないことは、ネグレクトを疑う手がかりとなる。
対応
・児童虐待防止法により、虐待を受けたと「思われる」児童を見つけた者は、速やかに市町村、福祉事務所、児童相談所に通告しなければならない。虐待が確実でなくても通告義務がある。通告は守秘義務違反にはならない。 ・医療機関では、児の安全確保を最優先に考えて入院させることも多い。全身骨撮影、頭部画像検査、眼底検査、血液検査(出血しやすい病気がないかの確認)を行い、所見を写真などで記録しておく。
POINT
・生後6か月で定頸あり、寝返りがかろうじてでき、お座りはできない、というのは正常範囲の発達である(定頸3〜4か月、寝返り5〜6か月、お座り6〜8か月)。 ・新旧混在した皮下出血、とくに自分で動けない乳児や顔面・頭部の皮下出血は、身体的虐待を疑う。 ・足底などに多数ある円形の熱傷痕はタバコ熱傷を示唆し、故意の外傷と考える。 ・虐待が疑われる段階で、児童相談所などへの通告義務がある。
