StudyMed医師国家試験

「誰のための設備か」で見抜く―ユニバーサルデザインとバリアフリーの境界線

第114回医師国家試験 C問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第114回 C問題 第9問

公共施設・建物におけるユニバーサルデザインの発想に基づく設備はどれか。

  1. a.市民会館の授乳室
  2. b.国道交差点の歩道橋
  3. c.市役所入口の自動ドア
  4. d.美術館のオストメイト対応トイレ
  5. e.駅のプラットホームの点字ブロック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生分野から、ユニバーサルデザインの考え方を問う問題だ。似た言葉にバリアフリーがあるけれど、この2つの違いを説明できるかどうかがカギになる。まず、両者の違いをどう理解しているかな。
医学生医学生
どちらも障害のある人が使いやすくするための工夫、という程度の理解で、正直あまり区別していませんでした。
ドクタードクター
多くの人がそう感じるところだね。バリアフリーは、高齢者や障害者など特定の人にとって障壁(バリア)になっているものを取り除く、あるいはその人たちのための設備を用意するという発想。一方のユニバーサルデザインは、障害の有無や年齢、性別、体格、国籍などにかかわらず、最初から「できるだけ多くの人がそのまま使える」ように設計する考え方なんだ。
医学生医学生
出発点が「特定の誰か」なのか「最初から全員」なのか、という違いですか。
ドクタードクター
その通り。だから各選択肢は「この設備を使うのは特定の人か、それとも誰でもか」という一つの物差しで判定できる。では、駅のホームの点字ブロックはどうだろう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、バリアフリーの代表例として紹介されていた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。点字ブロックは視覚障害者が足裏や白杖の感触で進む方向や危険箇所を知るための設備で、ホームからの転落防止にとても重要だ。ただ対象は視覚障害者に限られるし、凹凸が車椅子の人や足元の不安定な人には移動の妨げになることもある。だからバリアフリーの設備だね。
医学生医学生
オストメイト対応トイレも、特定の人のための設備になりますよね。
ドクタードクター
そう。オストメイトとは人工肛門や人工膀胱などのストーマをもつ人のこと。汚物流しや装具交換台、腹部を洗う温水シャワーなどを備えて、ストーマ保有者が安心して外出できるようにしている。実際には多機能トイレの一部として設置されることが多いけれど、設備そのものはストーマ保有者のためのものだから、バリアフリーの発想に基づくと考えるのが妥当だ。
医学生医学生
消化器外科の実習でストーマ造設後の患者さんを担当したとき、外出先のトイレが一番の不安だとおっしゃっていました。
ドクタードクター
大切な経験だね。そういう不安を取り除くのがバリアフリーの役割だ。市民会館の授乳室はどうかな。
医学生医学生
子育て中の人の社会参加には大事ですが、使うのは乳児連れの保護者に限られるので、ユニバーサルデザインとは言えなさそうです。
ドクタードクター
正しい判断だ。意義は大きいけれど、利用者が限られる設備だね。では国道交差点の歩道橋は?
医学生医学生
車と歩行者を分けて事故を防ぐ設備なので、誰にとっても安全という意味でユニバーサルデザインかと思ったんですが…。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。歩道橋は階段の昇り降りが前提だから、車椅子の人、高齢者、ベビーカーを押す人、下肢に障害のある人には使いにくい。むしろそれ自体がバリアになってしまう、ユニバーサルデザインとは逆の例なんだ。
医学生医学生
そうなると、残る市役所入口の自動ドアが正解ですね。車椅子の人も、杖をつく高齢者も、荷物で両手がふさがった人も、何も操作せずに通れます。
ドクタードクター
正解。扉を押す力も特別な操作も要らず、説明しなくても誰でも使える。まさにユニバーサルデザインの代表例だ。ここで発展知識として、ユニバーサルデザインの7原則も押さえておこう。米国のロナルド・メイスらが提唱したもので、公平な利用、利用における柔軟性、単純で直感的な利用、認知できる情報、失敗に対する寛大さ、少ない身体的努力、接近や利用のための大きさと空間の7つだ。自動ドアは公平性や直感的な利用、少ない身体的努力などを満たしているね。
医学生医学生
身近なものだと、ノンステップバスやピクトグラム、レバー式の水栓などもユニバーサルデザインですか。
ドクタードクター
そうだね。シャンプー容器の側面の刻みも有名な例だ。目を閉じたままリンスと区別できるから、視覚障害の有無に関係なく誰にでも便利なんだ。なお日本では、高齢者や障害者などの移動や施設利用を円滑にするための通称バリアフリー法があり、公共交通機関や建築物に一定の整備基準を求めている。
医学生医学生
病院の外来も、案内表示や出入口の設計次第で患者さんの負担がずいぶん変わりそうですね。
ドクタードクター
まさにその視点が大事だ。医療機関は高齢者や障害のある人、小さな子ども連れ、外国人など多様な人が訪れる場所。医師として、診療の内容だけでなく「誰もが利用しやすい環境か」にも目を向けられるといいね。

まとめ

ユニバーサルデザインは、障害の有無や年齢、体格、国籍などにかかわらず、最初から誰もが使えるように設計する考え方で、特定の人の障壁を取り除くバリアフリーとは出発点が異なります。判定の物差しは「その設備の利用者が特定の人に限られるかどうか」であり、自動ドアは誰もが力や操作を要さずに通れるためユニバーサルデザインの代表例です。一方、点字ブロックやオストメイト対応トイレ、授乳室は特定の人のための設備であり、階段を伴う歩道橋はむしろバリアとなり得ます。ロナルド・メイスによる7原則(公平性、柔軟性、直感性、認知しやすさ、失敗への寛大さ、少ない身体的努力、空間の確保)も併せて押さえておきましょう。多様な患者が訪れる医療機関の環境づくりを考えるうえでも、この視点は欠かせません。

解答・解説

正解はcです

問われていること

ユニバーサルデザイン(universal design)とバリアフリー(barrier-free)の違いを理解しているかを問う問題である。

ユニバーサルデザインとは

ユニバーサルデザインは、障害の有無、年齢、性別、体格、国籍・言語などにかかわらず、最初から「できるだけ多くの人がそのまま使える」ように設計するという考え方である。特定の人を想定した特別な設備を後から付け加えるのではなく、はじめから全員を利用者として想定する点に特徴がある。

バリアフリーとの違い

バリアフリーは、高齢者や障害者など特定の人が生活するうえで障壁(バリア)となっているものを取り除く、あるいはその人たちのための設備を用意するという発想である。対象が特定の集団に向けられている点で、ユニバーサルデザインとは出発点が異なる。

考え方

各選択肢について「その設備は誰にとっても使いやすいか、それとも特定の人(乳児連れ、ストーマ保有者、視覚障害者など)のためのものか」を判定すればよい。自動ドアは、車椅子使用者、杖を使う高齢者、ベビーカーを押す人、両手がふさがった人、力の弱い子どもなど、利用者を選ばず楽に通行できる。特別な操作も不要で、ユニバーサルデザインの代表例といえる。

選択肢考察

  1. ×a.  市民会館の授乳室

    授乳室は乳児を連れた保護者のための設備である。子育て中の人が外出・社会参加しやすくなるという意義は大きいが、利用者が限られる特定の人のための設備であり、誰もが使うことを前提としたユニバーサルデザインには当たらない。

  2. ×b.  国道交差点の歩道橋

    歩道橋は歩行者と車両を立体的に分けて交通事故を防ぐための構造物だが、階段の昇り降りが必要である。車椅子使用者、高齢者、ベビーカー利用者、下肢に障害のある人などにとっては使いにくく、むしろバリアそのものとなる。万人が使える設計とはいえず、ユニバーサルデザインとは逆の例である。

  3. ○c.  市役所入口の自動ドア

    自動ドアは扉を押したり引いたりする力や動作を必要としないため、車椅子・杖の使用者、高齢者、子ども、荷物で両手がふさがった人、子どもを抱いた人など、年齢や身体能力を問わず誰もが同じように通行できる。使い方を説明する必要もない。ユニバーサルデザインの原則のうち「公平な利用」「簡単で直感的な利用」「少ない身体的負担」などを満たしており、ユニバーサルデザインの発想に基づく代表的な設備である。

  4. ×d.  美術館のオストメイト対応トイレ

    オストメイトとは、人工肛門や人工膀胱などのストーマ(排泄のために腹部に造設した開口部)をもつ人のことである。オストメイト対応トイレには、排泄物を流す汚物流し、ストーマ装具を交換するための台、腹部を洗う温水シャワーなどが備えられている。ストーマ保有者が外出しやすくするための設備で、特定の人の障壁を取り除くバリアフリーの発想に基づく。なお実際には、車椅子対応などと合わせた多機能トイレの一部として設けられることが多く、多機能化という点ではユニバーサルデザインに近づけた工夫もみられる。しかし、オストメイト対応設備そのものはストーマ保有者のための設備であり、本問の正解にはならない。

  5. ×e.  駅のプラットホームの点字ブロック

    点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)は、視覚障害者が足裏や白杖の感触で進行方向や危険箇所を知るための設備である。線状の誘導ブロックと点状の警告ブロックがあり、ホームでは転落防止に重要な役割を果たす。ただし対象は視覚障害者であり、特定の人の障壁を取り除くバリアフリーの設備である。凹凸が車椅子使用者や歩行が不安定な人の移動の妨げとなる場合もあり、誰にとっても使いやすい設計とはいえない。

ユニバーサルデザインの7原則

米国ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald L. Mace)らが提唱したもので、次の7つにまとめられている。 1. 公平な利用:誰でも同じように使える 2. 利用における柔軟性:使う人の好みや能力に合わせて使い方を選べる 3. 単純で直感的な利用:経験や知識、言語能力に関係なく使い方がわかる 4. 認知できる情報:必要な情報が、視覚・聴覚・触覚などさまざまな手段ですぐに伝わる 5. 失敗に対する寛大さ:誤った操作をしても危険や不都合につながりにくい 6. 少ない身体的努力:無理な姿勢や強い力を必要とせず、疲れにくい 7. 接近や利用のための大きさと空間:体格や姿勢、移動手段(車椅子など)にかかわらず使える広さがある

身近なユニバーサルデザインの例

自動ドア、段差のない出入口やスロープ、ノンステップバス、多目的(多機能)トイレ、ピクトグラム(絵文字による案内表示)、レバー式の水栓やドアノブ、シャンプー容器の側面にある刻み(目を閉じたままリンスと区別できる)など。

バリアフリーの例

点字ブロック、点字表示、車椅子専用の昇降機、オストメイト対応設備など、特定の障害をもつ人の障壁を取り除くための設備。

関連する法律

日本では、高齢者や障害者などが移動・施設利用を円滑に行えるようにする「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称バリアフリー法、2006年施行)がある。公共交通機関や建築物などに一定の基準を満たす整備を求めている。

POINT

・ユニバーサルデザイン:障害・年齢・性別・国籍などを問わず、はじめから誰もが使えるように設計する考え方(例:自動ドア、段差のない出入口、ピクトグラム) ・バリアフリー:高齢者や障害者など特定の人にとっての障壁を取り除く考え方(例:点字ブロック、オストメイト対応トイレ) ・判定の基準は「その設備の利用者が特定の人に限られるかどうか」 ・提唱者はロナルド・メイスで、7原則(公平性、柔軟性、単純性、認知しやすさ、失敗への寛大さ、少ない身体的努力、空間の確保)がある

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。