線が交差する死亡率グラフ―年齢差の小ささと社会の揺れが示す死因
第114回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
日本人男性の1947年から2016年までのある死因についての年齢群別死亡率(人口10万対)の推移を別に示す。 死因はどれか。

- a.悪性新生物
- b.脳血管疾患
- c.肺炎
- d.不慮の事故
- e.自殺
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
年齢群別死亡率のグラフでは、悪性新生物・脳血管疾患・肺炎・不慮の事故はいずれも高齢ほど死亡率が高く、年齢群の順序が逆転しないのが特徴です。これに対し自殺は年齢差が比較的小さく、日本人男性では1990年代前半まで高齢層が最も高かった一方、1950年代の青年層、1980年代半ばや1998年以降の中高年層など、社会経済状況に応じて特定の年代が急増し、線が交差します。1998年から2011年まで年間3万人台が続きましたが、2006年の自殺対策基本法と自殺総合対策大綱に基づく対策の推進などを背景に2010年以降は減少し、全年齢群が近い値に収束しました。自殺は10〜39歳の死因第1位であり、ゲートキーパーの養成など社会全体での取り組みが進められています。グラフの形から死因の性質を読み解く力は、統計の問題を解くだけでなく、社会の変化が健康に与える影響を理解する基礎になります。
解答・解説
正解はeです
本問は、年齢群別の死亡率の推移を示したグラフから死因を推定する問題である。グラフ全体の「数値の大きさ」「年齢による差の付き方」「時代による変動のしかた」の3点に注目すると判断しやすい。
グラフの読み取り
(1) 死亡率の大きさ:縦軸の最大値は人口10万対120程度で、どの年齢群も多くの期間で20〜80の範囲に収まっている。高齢者ほど死亡率が桁違いに高くなるような死因ではない。 (2) 年齢差:1947年の70〜79歳は約120で、1990年まで(1990年代前半まで)は一貫して70〜79歳が全年齢群の中で最も高い。ただしその値は長期的に低下し続け、1995年には50〜59歳を下回り、2015年には全年齢群がおおむね25〜35程度に収束している。若年の20〜29歳でも中高年群と同程度、あるいはそれを上回る値をとる時期がある。 (3) 時代による変動: ・1955年前後に20〜29歳が約70まで急上昇し、70〜79歳に次ぐ高さとなって、40〜69歳の各群を上回っている。 ・1985年前後に40〜59歳で山がみられる。 ・1998年以降(グラフでは2000年の点)に50〜59歳が約65、60〜69歳・40〜49歳も上昇し、中高年男性で大きな山を作っている。 ・2010年以降、すべての年齢群で低下している。
死因の推定
悪性新生物、脳血管疾患、肺炎といった疾病による死亡は、年齢とともに急激に増加し、70歳代の死亡率は20歳代の数十倍から数百倍に達する。数値も高齢群では人口10万対数百〜千以上になる。不慮の事故も高齢になるほど死亡率が高い。これらでは「20歳代が高齢者と同程度になる」「年齢群間の差がほぼ消える」というパターンはあり得ない。 一方、年齢差が比較的小さく、戦後の社会変動や景気の悪化に連動して特定の年齢層で急増・急減する死因は自殺である。1990年代前半までの高齢層(主に健康問題を背景とする)が最多であった時期、1950年代の青年層の急増、1980年代半ばと1998年以降の中高年男性の急増(景気後退・失業・倒産などの経済問題)、2010年代の全年齢的な減少(自殺対策の推進や雇用情勢の改善)という推移は、日本の男性の自殺死亡率の特徴と一致する。
選択肢考察
- ×a. 悪性新生物
悪性新生物(がん)は1981年以降日本人の死因第1位であり、遺伝子変異の蓄積を背景に年齢とともに死亡率が急上昇する。男性の場合、70歳代の死亡率は人口10万対で千前後に達し、20歳代(10万対数程度)の100倍以上の差がある。このため、グラフの縦軸が最大120程度で、20歳代と70歳代がほぼ同じ値に並ぶ推移とは全く合わない。また、がんの年齢階級別死亡率は高年齢ほど高いという順序が戦後一貫して変わっておらず、20歳代が全年齢群で最も高くなるような時期は存在しない。
- ×b. 脳血管疾患
脳血管疾患は1951年から1980年まで日本人の死因第1位であった。その後、高血圧の管理の普及や食塩摂取量の減少などにより死亡率は大きく低下したが、現在も高齢になるほど死亡率が急増する疾患である。70歳代の死亡率はかつて人口10万対千を超えており、20〜30歳代ではごくわずかであるため、若年群が高齢群と同等の値を示すグラフとは合致しない。50歳代が最も高くなるといった推移もみられない。
- ×c. 肺炎
肺炎は、抗菌薬が普及する前の終戦直後には乳幼児や若年者の死亡も少なくなかったが、その後は免疫機能の低下や嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎(飲食物や唾液が気道に入って起こる肺炎)を背景に、高齢者、とくに80歳以上で死亡率が著しく高い疾患となった。高齢群の死亡率は若年〜中年群の数十倍以上に達し、年齢が上がるほど死亡率が高いという順序は崩れない。2017年からは誤嚥性肺炎が「肺炎」と別に分類されるようになり、肺炎の死因順位は下がったが、高齢者ほど死亡率が高いという特徴は変わらない。肺炎では中年男性で死亡率が急増する時期はなく、各年齢群の死亡率が同程度に収束することもないため、50〜59歳が山を作り、2015年ごろに全年齢群が人口10万対30前後に並ぶ本図の推移とは合わない。
- ×d. 不慮の事故
不慮の事故には交通事故、転倒・転落、溺死、窒息(食物の誤嚥など)、火災などが含まれる。若年層では交通事故の占める割合が大きいものの、全体としては高齢になるほど死亡率が高く、高齢者では家庭内での転倒・転落、浴槽での溺死、食物による窒息が多い。また、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)の年には自然災害による死亡で一時的に数値が跳ね上がる。本図では2011年前後に急上昇がみられず、むしろ全年齢で低下しているほか、1998年以降に50歳代が最も高くなる推移も不慮の事故の特徴とは異なる。
- ○e. 自殺
自殺は、病気による死亡と異なり年齢による差が比較的小さく、社会や経済の状況によって特定の年齢層で大きく変動するのが特徴である。図の推移は日本の男性の自殺死亡率の歴史とよく一致する。 ・終戦直後から1990年代前半までは、70〜79歳の自殺率が全年齢群の中で最も高かった。高齢者の自殺の背景としては病苦などの健康問題が多い。ただしその値自体は終戦直後の人口10万対約120から徐々に低下しており、1990年代後半には中高年層の急増によって最多の座を譲り、2015年ごろには他の年齢群と同程度になった。 ・1950年代半ばには20歳代の自殺率が急上昇した。戦後の急速な都市化・産業化と価値観の急転換の中で悩みを抱える若者が多かったことや、戦時体験の影響などが要因として挙げられるが、はっきりした原因は分かっていない。 ・1980年代半ば(円高不況の時期)には40〜50歳代の自殺率が上昇した。 ・バブル崩壊後の長期不況のなか、金融危機が起きた翌年の1998年に自殺者数が急増して初めて年間3万人を超え、2011年まで14年連続で3万人台が続いた。この時期の増加の中心は、失業・倒産・負債など経済・生活問題を抱えた40〜60歳代の働き盛りの男性であり、図の2000年前後の50歳代の大きな山に対応する。 ・2006年の自殺対策基本法の制定とそれに基づく自殺総合対策大綱による対策の推進、雇用情勢の改善などにより、2010年以降は減少に転じ、2012年には15年ぶりに3万人を下回った。2015年ごろには男性のどの年齢群も人口10万対30前後に収束している。 その後も減少して2019年には約2万人となった。2020年には新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあって女性や若年者を中心に一時増加したが、以後はおおむね2万人前後で推移している。
日本の自殺の現状の要点
・自殺者数は男性が女性の約2倍で、男性に多い。 ・原因・動機(遺書などから推定)は「健康問題」が最も多く、次いで「家庭問題」「経済・生活問題」などが続く。 ・年齢階級別の死因順位では、10〜39歳の各年代で自殺が死因の第1位であり、若年層の死因に占める自殺の割合が高いことは先進国の中でも日本の特徴とされる。 ・国際的にみると、日本の自殺死亡率はG7(主要7か国)の中で高い水準にある。
自殺対策の枠組み
2006年に自殺対策基本法が制定され、自殺は個人の問題ではなく社会の問題として、国・地方公共団体・事業主などが総合的に対策に取り組むことが定められた。2016年の改正では、すべての都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務づけられた。政府の指針である自殺総合対策大綱(2007年策定、おおむね5年ごとに見直し)では、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞き、必要な支援につなげ、見守る「ゲートキーパー」の養成などが進められている。
主な死因の推移の整理
・悪性新生物:1981年以降死因第1位。高齢者ほど死亡率が高い。 ・心疾患:1985年以降、多くの年で第2位。 ・脳血管疾患:1951〜1980年は第1位。その後低下。 ・肺炎:抗菌薬の普及で戦後低下したが、高齢化に伴い再び増加。2017年から誤嚥性肺炎が別分類となった。 ・老衰:高齢化に伴い増加し、近年は死因の上位(第3位)を占める。 ・不慮の事故:高齢者ほど多く、大震災の年に急増する。 年齢群別の死亡率グラフでは、疾病による死亡は「高齢ほど高い」という順序が崩れないのに対し、自殺は年齢群の線が交差し、社会経済的な出来事に応じて山と谷を作る点が見分けるポイントになる。
POINT
・がん・脳血管疾患・肺炎・不慮の事故は高齢になるほど死亡率が高く、年齢群の順序が逆転しない。 ・年齢差が小さく、社会経済状況で特定年代が急増するのは自殺。 ・男性の自殺:1990年代前半までは70〜79歳が最も高い(健康問題が中心)、1950年代に青年層で急増、1998年に年間3万人超(2011年まで14年連続)で中高年男性が増加の中心、2012年以降3万人未満となり減少傾向。 ・自殺は10〜39歳の死因第1位。自殺対策基本法(2006年)と自殺総合対策大綱に基づき対策が進められている。
