男の子だけに現れて、母を介して伝わる―家系図から読み解くX連鎖劣性遺伝
第114回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
遺伝性疾患(浸透率100%)を持つ家系の家系図を示す。 この疾患の遺伝形式はどれか。

- a.常染色体優性遺伝
- b.常染色体劣性遺伝
- c.X連鎖優性遺伝
- d.X連鎖劣性遺伝
- e.Y連鎖遺伝
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
家系図から遺伝形式を推定するときは、罹患者の性別、罹患者の両親の罹患状況、性別による伝わり方に注目します。浸透率100%の条件下で非罹患の両親から罹患児が生まれていれば優性遺伝は否定され、罹患者が男性のみで非罹患の母親(保因者)を介して伝わっていればX連鎖劣性遺伝が最も合理的です。Y連鎖遺伝なら父から息子へ、X連鎖優性遺伝なら罹患男性の母も罹患しているはずであり、常染色体劣性遺伝は家系外の配偶者まで保因者と仮定する必要があるため考えにくくなります。X連鎖劣性遺伝の代表は血友病A・B、Duchenne型筋ジストロフィーなどで、男児患者では母方の家族歴の聴取と遺伝カウンセリングが重要になります。
解答・解説
正解はdです
家系図の読み取り
第1世代:罹患していない夫婦(父・母)。 第2世代:この夫婦の子は、娘2人(いずれも非罹患)と息子1人(罹患)。娘2人はそれぞれ家系外の非罹患男性と結婚している。 第3世代:長女の子は息子1人(罹患)、娘1人(非罹患)、息子1人(非罹患)。次女の子は息子1人(罹患)、娘1人(非罹患)。
特徴の整理
(1) 罹患者は3人で、すべて男性である。女性の罹患者はいない。 (2) 罹患者の両親はいずれも非罹患である(世代を飛び越えて現れている)。 (3) 第3世代の罹患者2人は、いずれも非罹患の母(第2世代の娘)を介して病気を受け継いでおり、父親は家系外の非罹患男性である。つまり病気は「非罹患の女性」を経由して男性に現れている。
考え方
浸透率100%とは、原因となる遺伝子型をもつ人が必ず発症することを意味する。したがって「病的遺伝子をもつのに発症していない人」は、劣性(潜性)遺伝における保因者(ヘテロ接合体)しかありえない。 両親が非罹患で子が罹患している以上、優性(顕性)遺伝やY連鎖遺伝は否定される。残るのは常染色体劣性遺伝とX連鎖劣性遺伝である。罹患者が男性に限られ、非罹患の母親(保因者)から息子へ伝わっていること、第1世代の母が保因者で、その娘2人も保因者となり、それぞれの息子に伝えていると考えるとすべて説明できることから、X連鎖劣性遺伝が最も合理的である。
選択肢考察
- ×a. 常染色体優性遺伝
誤り。常染色体優性(顕性)遺伝では、病的遺伝子を1つもつだけで発症する。浸透率100%であれば、罹患者の両親の少なくとも一方は必ず罹患しているはずである(新生突然変異を除く)。本家系では3人の罹患者の両親がいずれも非罹患であり、合致しない。また性別に関係なく発症するので、男性ばかりに偏る点も合わない。
- ×b. 常染色体劣性遺伝
最も考えにくい。常染色体劣性(潜性)遺伝なら、非罹患の両親から罹患児が生まれること自体は説明できる。しかしそのためには、第3世代の罹患者2人の父親、すなわち家系外から結婚してきた非罹患男性2人も、そろって保因者でなければならない。まれな劣性遺伝病で、血縁のない配偶者2人が偶然とも保因者である確率は非常に低い。さらに常染色体上の遺伝子であれば男女同じ確率で発症するはずだが、罹患者が男性3人だけに偏っている点も説明しにくい。完全には否定できないが、遺伝形式としては最も考えられるものではない。
- ×c. X連鎖優性遺伝
誤り。男性はX染色体を1本しかもたず、それは必ず母親から受け継ぐ。X連鎖優性(顕性)遺伝で浸透率100%なら、罹患男性の母親は病的遺伝子をもつので必ず罹患しているはずである。本家系では罹患男性3人の母親がいずれも非罹患であり、合致しない。また、X連鎖優性遺伝では罹患男性の娘は全員罹患するなど、むしろ女性の罹患者が多くなるのが特徴である。
- ○d. X連鎖劣性遺伝
正しい。X連鎖劣性(潜性)遺伝では、女性はX染色体が2本あるため病的遺伝子を1つもっても発症せず保因者となり、X染色体が1本の男性が病的遺伝子をもつと発症する。第1世代の母を保因者と考えると、その息子は1/2の確率で罹患し(第2世代の罹患男性)、娘は1/2の確率で保因者となる。第2世代の娘2人が保因者であれば、その息子はそれぞれ1/2の確率で罹患する(第3世代の罹患男性2人と非罹患男性1人)。娘は父親から正常なX染色体を受け取るため発症しない。罹患者が男性のみで、非罹患の母親を介して伝わるという本家系の特徴にすべて矛盾なく合致する。
- ×e. Y連鎖遺伝
誤り。Y染色体は父親から息子へのみ伝わるため、Y連鎖遺伝では罹患男性の父親も必ず罹患し、父から息子へ代々受け継がれる。本家系では罹患男性の父親はいずれも非罹患であり、特に第3世代の罹患者の父親は家系外の男性である。罹患男性が男性だけというだけでなく、母方を通じて伝わっている点からも否定される。
各遺伝形式の家系図上の特徴
・常染色体優性(顕性)遺伝:各世代に罹患者がみられる(垂直伝達)。男女同率に発症し、男性から男性への伝達もありうる。罹患者の子は1/2の確率で罹患する。 ・常染色体劣性(潜性)遺伝:両親は通常非罹患(ともに保因者)で、同胞内に罹患者が出る(水平型)。男女同率。保因者同士の子は1/4の確率で罹患する。近親婚で頻度が高まる。 ・X連鎖優性(顕性)遺伝:女性の罹患者が男性のほぼ2倍。罹患男性の娘は全員罹患し、息子は罹患しない(男性から男性への伝達がない)。 ・X連鎖劣性(潜性)遺伝:罹患者はほぼ男性。保因者の母親から息子へ伝わり、息子の1/2が罹患、娘の1/2が保因者となる。罹患男性の娘は全員保因者、息子は罹患しない。母方のおじや母方のいとこ(男性)に罹患者がいることが多い。 ・Y連鎖遺伝:父から息子へのみ伝わる。
代表的な疾患
・X連鎖劣性遺伝:血友病A(第VIII因子欠乏)、血友病B(第IX因子欠乏)、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー、G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)欠乏症、Fabry病、Hunter症候群(ムコ多糖症II型)、副腎白質ジストロフィー、赤緑色覚異常など ・X連鎖優性遺伝:ビタミンD抵抗性くる病(X連鎖性低リン血症性くる病)、Rett症候群など ・常染色体優性遺伝:Huntington病、Marfan症候群、神経線維腫症1型、家族性大腸腺腫症、筋強直性ジストロフィーなど ・常染色体劣性遺伝:Wilson病、フェニルケトン尿症、ガラクトース血症、多くの先天代謝異常症、嚢胞性線維症など
用語
2017年に日本遺伝学会は「優性・劣性」をそれぞれ「顕性・潜性」と言い換えることを提唱しており、近年の教科書・試験ではこちらの表記も用いられる。
POINT
・浸透率100%で非罹患の両親から罹患児が出れば、劣性(潜性)遺伝を考える ・罹患者が男性のみで、非罹患の母親(保因者)を介して伝わる → X連鎖劣性遺伝 ・X連鎖優性遺伝なら罹患男性の母は罹患、Y連鎖遺伝なら罹患男性の父も罹患しているはず ・家系外の配偶者まで保因者と仮定しなければならない常染色体劣性遺伝は確率的に考えにくい ・X連鎖劣性遺伝の代表疾患:血友病A・B、Duchenne型筋ジストロフィー
