健診のデルタ波が予告していた発作―突然のnarrow QRS頻拍の正体
第114回医師国家試験 A問題 第31問
国試問題にチャレンジ
A 26-year-old woman presented to the emergency room with palpitations and shortness of breath that started suddenly while she was eating breakfast. Although the health-screening examination performed three weeks ago showed delta waves in her ECG, echocardiography taken at a nearby hospital showed no abnormal findings. At presentation, she was slightly hypotensive with a blood pressure of 96/68mmHg. Her ECG on admission showed a narrow QRS-complex tachycardia at a rate of 180/min. Neither ST elevation nor T wave abnormality was present. What is the most probable diagnosis of the arrhythmia?
- a.Sinus tachycardia
- b.Sick sinus syndrome
- c.Ventricular tachycardia
- d.Supraventricular tachycardia
- e.Complete atrioventricular block
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
健診でデルタ波を指摘されていた若年者に、安静時に突然始まる規則的なnarrow QRS頻拍がみられれば、WPW症候群に伴う房室回帰性頻拍、すなわち上室頻拍を考えます。正方向性の房室回帰性頻拍では房室結節を順行しKent束を逆行するため、発作中はデルタ波が消えてQRS幅が狭くなります。洞性頻脈は徐々に始まり、心室頻拍はwide QRS、洞不全症候群と完全房室ブロックは徐脈性不整脈であり、いずれも合いません。治療は迷走神経刺激手技やATP急速静注、不安定なら同期下カルディオバージョンで、根治はカテーテルアブレーションですが、WPW症候群に合併した心房細動ではジギタリス・ベラパミル・ATPが禁忌となる点が臨床上きわめて重要です。QRS幅と規則性から頻拍を整理する考え方は、救急外来での不整脈対応の基本になります。
解答・解説
正解はdです
問題文の和訳
26歳の女性。朝食中に突然始まった動悸と息切れのため救急外来を受診した。3週前の健康診断の心電図ではデルタ波を指摘されていたが、近くの病院で受けた心エコー検査では異常を認めなかった。来院時、血圧は96/68mmHgでやや低かった。来院時の心電図では、心拍数180/分のQRS幅の狭い頻拍(narrow QRS tachycardia)を認めた。ST上昇やT波の異常はなかった。 この不整脈として最も考えられる診断はどれか。
所見の整理
・若年女性に、安静時(食事中)に突然始まる動悸と息切れ:突然始まり突然止まる発作性の頻拍性不整脈を考える経過である。 ・健康診断の心電図でデルタ波がある:デルタ波はQRS波の立ち上がりがなだらかになる所見で、心房と心室を結ぶ副伝導路(Kent束)を通って心室の一部が早く興奮すること(心室早期興奮)を示す。PR短縮・デルタ波・QRS幅の拡大の三つの所見を示し、頻拍発作を伴うものをWPW(Wolff-Parkinson-White)症候群という。 ・心エコーは正常:器質的心疾患はない。なお、WPW症候群にはEbstein奇形などの先天性心疾患を合併することがあるが、本例にはそれもない。 ・発作時の心電図は心拍数180/分の規則的なnarrow QRS頻拍で、デルタ波は消えている。
診断へのプロセス
QRS幅が狭い(通常0.12秒未満)頻拍は、心室が正常な刺激伝導系(房室結節→His束→脚)を通って興奮していることを意味し、上室性(心房または房室接合部が関与する)の頻拍を示す。そのうえで、安静時に突然始まる150〜250/分程度の規則的な頻拍は発作性上室頻拍(PSVT)に典型的である。 WPW症候群に起こる頻拍で最も多いのは房室回帰性頻拍(AVRT)である。興奮が心房から房室結節を通って心室に降り(順行性)、Kent束を通って心房へ戻る(逆行性)回路を旋回し続ける。この型(正方向性AVRT、orthodromic AVRT)では、心室は正常の刺激伝導系だけで興奮するため、デルタ波は消えてQRS幅は狭くなる。本例の所見はこれによく一致し、上室頻拍と診断できる。 来院時の血圧はやや低いものの意識障害やショックではなく、治療はまず迷走神経刺激手技(Valsalva手技など)を行い、無効であればアデノシン三リン酸(ATP)の急速静注などで房室結節の伝導を一時的に遮断し、回路を断ち切る。循環動態が不安定な場合は、同期下電気ショック(カルディオバージョン)を行う。根治療法はカテーテルアブレーションによるKent束の焼灼である。
選択肢考察
- ×a. Sinus tachycardia
洞性頻脈。洞結節からの正常な興奮が速くなった状態で、発熱、脱水、貧血、甲状腺機能亢進症、疼痛、運動などに反応して生じる。心拍数は徐々に上がり徐々に下がるため、安静時に突然始まることはない。心拍数の上限はおおよそ(220−年齢)で、若年者でも安静時に180/分に達することはまれである。基礎に頻脈を起こす原因も示されておらず、合わない。
- ×b. Sick sinus syndrome
洞不全症候群。洞結節の機能低下により、高度の洞徐脈、洞停止、洞房ブロックなどの徐脈を起こす疾患で、高齢者に多い。めまいや失神(Adams-Stokes発作)の原因となる。徐脈と心房細動などの頻脈を繰り返す徐脈頻脈症候群という病型もあるが、心拍数180/分の規則的なnarrow QRS頻拍を示し、デルタ波のある若年女性の病像には当てはまらない。
- ×c. Ventricular tachycardia
心室頻拍。心室内に起源をもつ頻拍で、心室が正常な刺激伝導系を通らずに興奮するため、幅の広い(0.12秒以上)変形したQRS波が連続する(wide QRS tachycardia)。陳旧性心筋梗塞や心筋症などの器質的心疾患を基礎とすることが多い。本例は幅の狭いQRS波で、心エコーも正常であるため否定的である。
- ○d. Supraventricular tachycardia
上室頻拍。心房または房室接合部が関与する頻拍で、心室は正常な刺激伝導系を通って興奮するため、QRS幅は狭い。WPW症候群では、房室結節を順行し、Kent束を逆行する房室回帰性頻拍が最も多い。この型では発作中にデルタ波が消えてnarrow QRS頻拍となる。健診でデルタ波を指摘されていた若年女性に、安静時突然発症した心拍数180/分の規則的なnarrow QRS頻拍という本例の所見に最もよく合う。
- ×e. Complete atrioventricular block
完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)。心房からの興奮がまったく心室に伝わらず、心房と心室が無関係に拍動する状態(房室解離)で、心室は下位の補充調律により通常40/分前後の高度な徐脈となる。めまい、失神、心不全の原因となる。本例は頻拍であり、まったく合わない。
WPW症候群の心電図
・非発作時:興奮が房室結節とKent束の両方を通って心室に伝わる。Kent束は房室結節のような伝導の遅れがないので、心室の一部が早く興奮し、PR間隔の短縮(0.12秒未満)、デルタ波、QRS幅の拡大、二次性のST-T変化がみられる。 ・副伝導路の位置による分類:A型(左側:V1で高いR波)、B型(右側:V1でrS型)、C型(中隔)。
WPW症候群に合併する主な頻拍
(1) 正方向性房室回帰性頻拍(orthodromic AVRT):房室結節を順行し、Kent束を逆行する。narrow QRS頻拍で、デルタ波は消える。頻度が最も高い。 (2) 逆方向性房室回帰性頻拍(antidromic AVRT):Kent束を順行し、房室結節を逆行する。最大のデルタ波を伴うwide QRS頻拍となる。まれである。 (3) 心房細動(偽性心室頻拍):心房の高頻度の興奮が、不応期の短いKent束を通って心室に伝わり、幅が広く形の異なるQRS波が不規則に高頻度で出現する。心室細動に移行して突然死を招くことがあり危険である。
治療上の注意
・正方向性AVRT:迷走神経刺激手技、ATP急速静注、ベラパミル静注などで房室結節の伝導を抑えると停止する。 ・WPW症候群に合併した心房細動:ジギタリス、ベラパミル、ATPなど房室結節の伝導を抑える薬は禁忌である。房室結節が抑えられると興奮がKent束にさらに流れ込み、心室レートが上昇して心室細動を誘発しうるためである。血行動態が不安定なら電気的除細動を行い、安定していればKent束の伝導も抑えるⅠ群抗不整脈薬(プロカインアミド、ピルシカイニドなど)を用いる。 ・根治療法:カテーテルアブレーション(高周波通電によるKent束の焼灼)。
発作性上室頻拍のもう一つの代表:房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)
房室結節の中にある速い経路と遅い経路の間で興奮が旋回する頻拍で、中年女性に多い。デルタ波のない人に起こり、narrow QRS頻拍を示す。治療はAVRTと同様である。
POINT
・デルタ波+突然発症のnarrow QRS頻拍は、WPW症候群の房室回帰性頻拍(上室頻拍)である。 ・正方向性AVRTでは房室結節を順行し、Kent束を逆行するため、発作中はデルタ波が消えてQRS幅が狭くなる。 ・narrow QRS頻拍は上室性、wide QRS頻拍は心室頻拍のほか、WPW症候群の心房細動(偽性心室頻拍)、変行伝導などを考える。 ・WPW症候群に合併した心房細動では、ジギタリス・ベラパミル・ATPは禁忌である。 ・洞不全症候群と完全房室ブロックは徐脈性不整脈である。
