StudyMed医師国家試験

薬が薬を呼ぶ―ポリファーマシーの「原因」と「結果」を見分ける

第112回医師国家試験 F問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第44問

ポリファーマシーの要因になるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.残薬の増加
  2. b.処方日数の短期化
  3. c.医療施設間連携の欠如
  4. d.複数医療機関からの処方
  5. e.複数疾患をもつ高齢者の増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はポリファーマシーがなぜ生じるのかを問う問題だ。着眼点は、多剤服用を引き起こす「原因」と、多剤服用の結果として現れる「現象」をきちんと区別できるかどうか。まず、ポリファーマシーとは何か説明できるかな。
医学生医学生
薬がたくさん出ている状態、ですよね。6剤以上とか。
ドクタードクター
半分正解だね。厳密な剤数の定義はなく、6剤以上で有害事象が増えるという国内の報告がよく引用される。でも本質は数そのものではなく、多剤服用に伴って薬物有害事象、相互作用、服薬アドヒアランスの低下、医療費の増大といった問題が生じている状態を指すんだ。
医学生医学生
数が多くても、全部必要で問題がなければポリファーマシーとは言わない、ということですか。
ドクタードクター
そういう考え方だ。では原因から考えよう。複数疾患をもつ高齢者の増加はどうだろう。
医学生医学生
総合診療科の実習で、高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症と並んでいる高齢の患者さんを担当しました。病気ごとに薬があるので、自然と増えますよね。
ドクタードクター
まさにそれ。多疾患併存、マルチモビディティと呼ぶ。疾患ごとのガイドラインに沿って薬を足していくだけで剤数は膨らむ。しかも高齢者は肝・腎機能の低下で薬の代謝・排泄が遅れ、有害事象が出やすい。これは正しい要因だ。
医学生医学生
複数医療機関からの処方も、同じ理屈で増えそうです。
ドクタードクター
その通り。整形外科、循環器内科、眼科、とそれぞれの医師が自分の領域で処方すると、全体では多くなる。患者さんがお薬手帳を持参しなかったり他院の処方を伝えなかったりすると、処方医は全体像がつかめない。これも代表的な要因だね。
医学生医学生
医療施設間連携の欠如もそれとセットのような気がします。
ドクタードクター
いい気づきだ。情報が共有されないと、同じ成分や同じ薬効の薬が別の施設でも出る重複投与や、相互作用の見落としが起こる。さらに怖いのが処方カスケードだ。ある薬の副作用を新しい病気と誤認して、別の薬を追加してしまう連鎖のことだよ。
医学生医学生
薬理学の講義で聞いた、カルシウム拮抗薬のむくみに利尿薬を足してしまう例ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。抗精神病薬などによる薬剤性パーキンソニズムに抗パーキンソン病薬を足す、という例もある。連携の欠如はこうした流れを加速させるので、これも正しい要因だ。では残薬の増加はどうかな。
医学生医学生
残薬が多いと薬が多い印象なので、要因に入れたくなりました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。残薬は、薬の種類が多く飲み方が複雑になった結果として、飲み忘れや自己判断の中断で生じることが多い。つまりポリファーマシーの原因ではなく結果側の問題なんだ。実際には処方どおり飲めていないサインなので、処方見直しのきっかけとして活用される。
医学生医学生
処方日数の短期化はどうでしょう。受診回数が増えるので、薬を足される機会も増えそうに思えますが。
ドクタードクター
面白い視点だけど、一般的には逆と考えられている。短い処方なら期間内に使い切りやすく、余分な薬が手元にたまりにくい。受診のたびに医師や薬剤師が服薬状況を見直す機会も増える。むしろ長期処方のほうが残薬や漫然投与につながりやすいとされるんだ。
医学生医学生
整理すると、要因は複数疾患をもつ高齢者の増加、複数医療機関からの処方、医療施設間連携の欠如の3つで、残薬は結果、短期処方はむしろ抑制側ですね。
ドクタードクター
その通り。最後に対策と臨床での注意点だ。お薬手帳やかかりつけ医・かかりつけ薬局で処方を一元的に把握すること、定期的に処方を見直して不要な薬を減らすdeprescribing、日本老年医学会のガイドラインや米国のBeers基準など高齢者で慎重投与を要する薬のリストの活用、そして医師・薬剤師・看護師の多職種連携が柱になる。
医学生医学生
高齢者が転倒やせん妄で入院してきたら、まず薬を疑う、ということですね。
ドクタードクター
その発想がとても大切だ。ふらつき、転倒、せん妄、食欲低下、便秘、排尿障害など、高齢者の新しい症状を見たら、病気を足す前に薬の副作用ではないかを考える。新しい薬を処方するときも、それが処方カスケードの一歩になっていないか一呼吸置いて確認する習慣をつけよう。

まとめ

ポリファーマシーとは、単に薬の数が多いことではなく、多剤服用に伴って有害事象、相互作用、服薬アドヒアランスの低下などの問題が生じている状態を指します。主な要因は、複数の慢性疾患をもつ高齢者の増加、複数医療機関からの処方、医療機関間の連携不足であり、これらが重なると重複投与や、副作用に薬を重ねる処方カスケードが起こります。残薬はポリファーマシーの結果として生じる現象であり、短期処方はむしろ服薬状況を見直す機会を増やす方向に働きます。対策としては、お薬手帳やかかりつけ薬局による一元管理、定期的な処方見直し、多職種連携が重要です。高齢者の転倒やせん妄などの新たな症状を見たときにまず薬剤を疑う姿勢は、超高齢社会の臨床で欠かせない視点です。

解答・解説

正解はc, d, eです

ポリファーマシー(polypharmacy)とは、単に服用している薬の数が多い状態を指すのではなく、多剤服用に伴って薬物有害事象、服薬アドヒアランス(患者が指示どおりに服薬すること)の低下、薬物相互作用、医療費の増大などの問題が生じている状態をいう。何剤以上をポリファーマシーとするかに厳密な定義はないが、6剤以上で有害事象の頻度が増えるとする国内の報告がよく引用される。 本問では「ポリファーマシーを生み出す原因」と「ポリファーマシーの結果として現れる現象」を区別できるかが問われている。 原因として重要なのは、(1) 患者側の要因:高齢化により一人が複数の慢性疾患をもつこと(多疾患併存、マルチモビディティ)、(2) 医療提供側の要因:複数の診療科・医療機関がそれぞれ独立に処方し、互いの処方内容を把握・調整する仕組みが不十分であること、である。これらが重なると、同じ薬効の薬が重複したり、副作用に対して新たな薬が追加される「処方カスケード」が起こったりして、薬剤数が雪だるま式に増える。 一方、飲み残しの薬(残薬)は、多剤服用によって服薬管理が複雑になった結果として生じることが多い現象であり、多剤服用を引き起こす原因とは位置づけられない。また処方日数を短くすると、受診・処方の見直しの機会が増え、薬が手元に過剰にたまることも防げるため、多剤化を促す方向には働かない。

選択肢考察

  1. ×a.  残薬の増加

    残薬は、薬の種類が多く服用方法が複雑になった結果、飲み忘れや自己判断での中断が起こって生じることが多い。つまりポリファーマシーの「結果」あるいは関連して現れる問題であり、薬剤数を増やす「要因」ではない。残薬の存在は、患者が実際には処方どおり服薬していないことを意味し、処方見直し(減薬)を検討するきっかけとして活用される。

  2. ×b.  処方日数の短期化

    処方日数が短いと、処方された薬を期間内に使い切りやすく、余分な薬が手元にたまりにくい。また受診や処方の頻度が増えることで、医師・薬剤師が服薬状況や必要性を見直す機会も増える。したがって多剤化を促す要因にはならない。むしろ長期処方のほうが残薬や漫然投与につながりやすいとされる。

  3. ○c.  医療施設間連携の欠如

    医療機関同士で処方情報が共有されないと、ある施設で処方された薬と同じ成分や同じ薬効の薬(同種同効薬)が別の施設でも処方される重複投与や、併用すべきでない組み合わせ(相互作用)の見落としが起こる。また他院で処方された薬の副作用を新たな病気と誤認して別の薬を追加する処方カスケードも生じやすい。このように連携の欠如は薬剤数を不必要に増やす要因となる。

  4. ○d.  複数医療機関からの処方

    複数の医療機関を受診していると、各医師が自分の専門領域の問題に対してそれぞれ処方するため、全体として薬剤数が増えやすい。患者が他院の処方を申告しなかったり、お薬手帳を持参しなかったりすると、処方医は全体像を把握できず、重複や相互作用のチェックも困難になる。このため複数医療機関からの処方はポリファーマシーの代表的な要因である。お薬手帳やかかりつけ薬局による一元的管理が対策として推奨される。

  5. ○e.  複数疾患をもつ高齢者の増加

    高齢者は高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、心疾患など複数の慢性疾患を併せもつことが多く、疾患ごとに診療ガイドラインに沿って治療薬を加えていくと、それだけで薬剤数が多くなる。さらに高齢者は肝・腎機能の低下などにより薬物の代謝・排泄が遅れ、有害事象が起こりやすい。有害事象が新たな症状として現れれば、さらに薬が追加されることにもなる。したがって複数疾患をもつ高齢者の増加は、ポリファーマシーの重要な要因である。

ポリファーマシーの主な要因

・患者側:高齢化と多疾患併存、複数の診療科・医療機関の受診、市販薬やサプリメントの併用、症状ごとに薬を求める傾向 ・医療者側:疾患別の診療ガイドラインの単純な積み重ね、処方の定期的な見直し不足(漫然投与)、処方カスケード、医療機関間・医師-薬剤師間の情報共有不足

ポリファーマシーがもたらす問題

・薬物有害事象の増加(ふらつき・転倒、せん妄・認知機能低下、低血糖、食欲低下、便秘、排尿障害など) ・薬物相互作用 ・服薬アドヒアランスの低下と残薬の発生 ・医療費の増大

処方カスケード

ある薬の副作用を新しい病気の症状と誤認し、それに対して別の薬を処方してしまう連鎖。例として、カルシウム拮抗薬による下腿浮腫に利尿薬を追加する、抗精神病薬などによる薬剤性パーキンソニズムに抗パーキンソン病薬を追加する、などがある。

対策

・お薬手帳、かかりつけ医・かかりつけ薬局による処方の一元的把握 ・定期的な処方見直し(減薬、deprescribing) ・高齢者で特に慎重な投与を要する薬剤のリストの活用(日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」、米国のBeers基準など) ・多職種(医師、薬剤師、看護師など)による服薬管理

POINT

・ポリファーマシー=多剤服用に伴って有害事象やアドヒアランス低下などの問題が生じている状態 ・要因:多疾患併存の高齢者の増加、複数医療機関・複数診療科からの処方、医療機関間の連携不足、処方カスケード ・残薬はポリファーマシーの「結果」であり要因ではない ・対策:お薬手帳・かかりつけ薬局による一元管理と定期的な処方見直し

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。