StudyMed医師国家試験

「自分が自分でない」感覚―離人症から読み解く自我障害の4つの側面

第112回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第15問

自我障害と考えられる症状はどれか。

  1. a.恐怖
  2. b.自閉
  3. c.両価性
  4. d.離人症
  5. e.強迫観念

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神症状の分類を問う問題だ。選択肢はどれも精神科でよく聞く言葉だけれど、それぞれ「どの領域の障害か」を整理できているかが問われている。まずは自我障害とは何か、から確認しよう。
医学生医学生
自我障害というと、統合失調症のさせられ体験のイメージが強いです。
ドクタードクター
それは代表例だね。そもそも私たちは普段、「自分が考えている」「自分は一人だ」といった感覚を意識せずに当たり前に持っている。これを自我意識と呼び、それが損なわれた状態が自我障害なんだ。Jaspersは自我意識を能動性、単一性、同一性、外界・他者との境界の4つの側面に分けた。
医学生医学生
精神医学の講義で聞いた覚えはありますが、4つの具体例までは結びついていませんでした。
ドクタードクター
例と一緒に覚えると定着するよ。能動性の障害がさせられ体験や思考吹入・思考奪取、単一性の障害が二重身、同一性の障害が交代人格、境界の障害が思考伝播、という具合だ。そして能動性の障害には、もう一つ大事な症状が入る。それが離人症だ。
医学生医学生
離人症は「現実感がない」という訴えですよね。感情や知覚の障害だと思っていました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。離人症では「自分が自分でない」「自分が動いている実感がない」「外から自分を眺めているようだ」と訴える。自分の体験が自分のものだという実感、つまり能動性の意識が揺らいでいるから、自我障害の代表とされているんだ。周囲が膜を隔てたように感じられる現実感消失を伴うことも多い。
医学生医学生
なるほど。でも、させられ体験とはどう違うんですか。
ドクタードクター
大事な質問だ。離人症の人は「そう感じる」と自覚していて、実際には自分が自分だとわかっている。現実検討は保たれているんだね。一方、させられ体験では本当に他者に操られていると体験している。離人症はうつ病や統合失調症、強い不安や心的外傷の後、離人感・現実感消失症など幅広い状態でみられるよ。
医学生医学生
では恐怖はどうでしょう。怖さを感じているのは自分なので、自我は保たれている気がします。
ドクタードクター
その通り。恐怖は高所や動物、人前など特定の対象に向けられた強い不快な情動で、感情の障害に分類される。対象のはっきりしない不安と区別され、限局性恐怖症や社交不安症で問題になる。
医学生医学生
自閉と両価性は、Bleulerの「4つのA」に入っていたものですね。統合失調症の症状だから自我障害かと迷いました。
ドクタードクター
統合失調症の症状だからといって、すべてが自我障害なわけではないのがポイントだ。自閉は外界との関わりを避けて内面に閉じこもり、現実との生きた接触を失う状態で、意欲・行動の障害として扱われることが多い。両価性は同じ対象に愛と憎しみのような相反する感情や意志が同時に存在する状態で、感情や意志の障害だ。分類は教科書によって多少幅があるけれど、どちらも自我障害には含まれない。なお、ここでいう自閉は自閉スペクトラム症とは別の概念だよ。
医学生医学生
強迫観念は、勝手に考えが浮かんでくるので、思考吹入に似ている気がします。
ドクタードクター
そこが一番ひっかかりやすいところだね。強迫観念は、不合理だとわかっているのに繰り返し浮かんでくる考えだけれど、本人はあくまで「自分の考え」として体験している。他人の考えが入り込んでくると感じる思考吹入とは、そこが決定的に違う。強迫観念は思考の障害で、強迫症の中核症状だ。
医学生医学生
「自分のもの」という実感が保たれているかどうかで線を引けばいいんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。発展として、Schneiderの一級症状も確認しておこう。考想化声、対話性・批評性の幻聴、身体への被影響体験、思考奪取・思考吹入、考想伝播、妄想知覚、させられ体験などが含まれ、その多くが自我障害に属する。統合失調症の診断を考えるうえで、自我障害の有無はとても重要なんだ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、患者さんが「考えが抜き取られる」と話していたのを思い出しました。あれは思考奪取ですね。
ドクタードクター
いい経験をしたね。臨床では、患者さんの言葉をそのまま記録しつつ、それがどの領域の症状なのかを意識して整理することが大切だ。症状の分類があいまいだと、診断や重症度の判断もぶれてしまうからね。

まとめ

自我障害とは、「自分が自分である」という自我意識が損なわれた状態で、Jaspersは自我意識を能動性・単一性・同一性・外界との境界の4側面に分けました。離人症は自分の体験が自分のものだという実感が失われる能動性の障害であり、させられ体験や思考吹入・奪取・伝播、二重身、交代人格と並ぶ代表的な自我障害です。一方、恐怖と両価性は感情(意志)の障害、自閉は意欲・行動の障害、強迫観念は思考の障害に分類され、特に強迫観念は「自分の考え」と自覚されている点で思考吹入と区別されます。Schneiderの一級症状の多くは自我障害に属するため、精神症状を領域ごとに正しく分類できることは、統合失調症をはじめとする精神疾患の診断の土台となります。

解答・解説

正解はdです

自我障害とは、普段は意識せずに当たり前と感じている「自分が自分である」という感覚(自我意識)が損なわれた状態である。Jaspers(ヤスパース)は自我意識を次の4つの側面に分けた。 (1) 能動性の意識:自分の考えや行動は自分自身が行っているという感覚。 (2) 単一性の意識:自分はこの瞬間に一人であり、二人ではないという感覚。 (3) 同一性の意識:過去の自分と今の自分は同じ人間であるという感覚。 (4) 外界・他者との境界の意識:自分と他人・外の世界とは区別されるという感覚。 これらのいずれかが障害されたものが自我障害であり、具体的には離人症、させられ体験(作為体験)、思考吹入、思考奪取、思考伝播、二重身、交代人格などがある。 精神症状は「意識」「知覚」「思考(形式・内容)」「感情」「意欲・行動」「自我意識」などの領域に分類される。本問は、選択肢の各症状がどの領域の障害にあたるかを判断し、自我意識の障害に属するものを選ぶ問題である。自分の体験や存在に対する「自分のもの」という実感そのものが揺らいでいる症状が自我障害であり、離人症がこれに当たる。

選択肢考察

  1. ×a.  恐怖

    恐怖は、特定の対象や状況(高所、動物、人前など)に向けられた強い不快な情動であり、感情の障害に分類される。対象のはっきりしない漠然とした不安と区別され、限局性恐怖症や社交不安症などで問題となる。恐怖を感じている主体が自分であるという感覚は保たれているので、自我障害ではない。

  2. ×b.  自閉

    自閉は、外界や他者との関わりを避けて自分の内面世界に閉じこもり、現実との生きた接触を失う状態をいう。Bleuler(ブロイラー)が統合失調症の基本症状(連合弛緩・感情障害・両価性・自閉の「4つのA」)の一つとして挙げたもので、意欲・行動(あるいは対人関係・現実との接触)の障害として扱われる。自分と外界の境界意識そのものが失われるわけではないため、自我障害には含まれない。なお、発達障害の「自閉スペクトラム症」とは別の概念である。

  3. ×c.  両価性

    両価性〈アンビバレンス〉は、同じ対象に対して愛と憎しみ、したい気持ちとしたくない気持ちなど、相反する感情や意志が同時に存在する状態である。Bleulerが挙げた統合失調症の基本症状の一つであり、感情(または意志)の障害に分類される。自我意識の障害ではない。

  4. ○d.  離人症

    離人症は、自分の思考・感情・身体や行動から自分が切り離されたように感じ、「自分が自分でない」「自分がしている実感がない」「外から自分を眺めているようだ」と訴える状態である。周囲の世界が現実感を失い、膜を隔てたように感じられる現実感消失を伴うことも多い。自分の体験が自分のものであるという能動性の意識(実感)が損なわれた状態であり、自我障害の代表的な症状である。本人は「そう感じる」ことを自覚しており、現実検討(実際に自分が自分であるとの判断)は保たれている点が、させられ体験などとの違いである。離人感・現実感消失症のほか、うつ病、統合失調症、強い不安や心的外傷の後などでもみられる。

  5. ×e.  強迫観念

    強迫観念は、ばかげている・不合理だと本人がわかっているのに、意思に反して繰り返し頭に浮かび、振り払えない考えやイメージ(汚染への恐れ、確認しなかったのではないかという疑いなど)である。思考の障害(思考内容・思考体験の障害)に分類され、強迫症の中核症状である。強迫観念は自分自身の考えとして体験されている点で、他人の考えが入り込んでくると感じる思考吹入(自我障害)と区別される。

自我意識の4つの側面(Jaspers)と主な自我障害

・能動性の障害:離人症(自分がしている実感がない)、させられ体験・作為体験(他者に操られて考えたり動かされたりする)、思考吹入(他人の考えが吹き込まれる)、思考奪取(考えが抜き取られる) ・単一性の障害:二重身〈ドッペルゲンガー〉(もう一人の自分が見える・いると感じる) ・同一性の障害:交代人格(解離性同一症などで、時間によって別の人格に入れ替わる) ・外界・他者との境界の障害:思考伝播(自分の考えが他人に伝わってしまう)、思考察知など

統合失調症との関係

Schneider(シュナイダー)の一級症状には、考想化声、対話性・批評性の幻聴、身体への被影響体験、思考奪取・思考吹入などの思考への干渉、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域でのさせられ体験が含まれ、多くが自我障害に属する。

精神症状の主な分類と例

・感情の障害:抑うつ気分、躁的気分、不安、恐怖、感情鈍麻、両価性、感情失禁 ・思考の障害:思考形式の障害(連合弛緩、観念奔逸、思考制止、迂遠)、思考内容の障害(妄想、強迫観念、支配観念) ・意欲・行動の障害:意欲低下、自閉、昏迷、緊張病症状、精神運動興奮 ・知覚の障害:幻覚、錯覚 ・自我意識の障害:離人症、させられ体験、思考吹入・奪取・伝播、二重身

Bleulerの4つのA

連合弛緩〈Association〉、感情障害〈Affect〉、両価性〈Ambivalence〉、自閉〈Autism〉。統合失調症の基本症状とされたが、いずれも自我障害には分類されない。

POINT

・自我意識の4側面(Jaspers):能動性、単一性、同一性、外界・他者との境界。 ・自我障害の例:離人症、させられ体験、思考吹入・思考奪取・思考伝播、二重身、交代人格。 ・恐怖・両価性は感情、自閉は意欲・行動、強迫観念は思考の障害に分類される。 ・強迫観念は「自分の考え」と自覚されている点で、思考吹入(他人の考えが入る=自我障害)と区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。