「自分が自分でない」感覚―離人症から読み解く自我障害の4つの側面
第112回医師国家試験 F問題 第15問
国試問題にチャレンジ
自我障害と考えられる症状はどれか。
- a.恐怖
- b.自閉
- c.両価性
- d.離人症
- e.強迫観念
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
自我障害とは、「自分が自分である」という自我意識が損なわれた状態で、Jaspersは自我意識を能動性・単一性・同一性・外界との境界の4側面に分けました。離人症は自分の体験が自分のものだという実感が失われる能動性の障害であり、させられ体験や思考吹入・奪取・伝播、二重身、交代人格と並ぶ代表的な自我障害です。一方、恐怖と両価性は感情(意志)の障害、自閉は意欲・行動の障害、強迫観念は思考の障害に分類され、特に強迫観念は「自分の考え」と自覚されている点で思考吹入と区別されます。Schneiderの一級症状の多くは自我障害に属するため、精神症状を領域ごとに正しく分類できることは、統合失調症をはじめとする精神疾患の診断の土台となります。
解答・解説
正解はdです
自我障害とは、普段は意識せずに当たり前と感じている「自分が自分である」という感覚(自我意識)が損なわれた状態である。Jaspers(ヤスパース)は自我意識を次の4つの側面に分けた。 (1) 能動性の意識:自分の考えや行動は自分自身が行っているという感覚。 (2) 単一性の意識:自分はこの瞬間に一人であり、二人ではないという感覚。 (3) 同一性の意識:過去の自分と今の自分は同じ人間であるという感覚。 (4) 外界・他者との境界の意識:自分と他人・外の世界とは区別されるという感覚。 これらのいずれかが障害されたものが自我障害であり、具体的には離人症、させられ体験(作為体験)、思考吹入、思考奪取、思考伝播、二重身、交代人格などがある。 精神症状は「意識」「知覚」「思考(形式・内容)」「感情」「意欲・行動」「自我意識」などの領域に分類される。本問は、選択肢の各症状がどの領域の障害にあたるかを判断し、自我意識の障害に属するものを選ぶ問題である。自分の体験や存在に対する「自分のもの」という実感そのものが揺らいでいる症状が自我障害であり、離人症がこれに当たる。
選択肢考察
- ×a. 恐怖
恐怖は、特定の対象や状況(高所、動物、人前など)に向けられた強い不快な情動であり、感情の障害に分類される。対象のはっきりしない漠然とした不安と区別され、限局性恐怖症や社交不安症などで問題となる。恐怖を感じている主体が自分であるという感覚は保たれているので、自我障害ではない。
- ×b. 自閉
自閉は、外界や他者との関わりを避けて自分の内面世界に閉じこもり、現実との生きた接触を失う状態をいう。Bleuler(ブロイラー)が統合失調症の基本症状(連合弛緩・感情障害・両価性・自閉の「4つのA」)の一つとして挙げたもので、意欲・行動(あるいは対人関係・現実との接触)の障害として扱われる。自分と外界の境界意識そのものが失われるわけではないため、自我障害には含まれない。なお、発達障害の「自閉スペクトラム症」とは別の概念である。
- ×c. 両価性
両価性〈アンビバレンス〉は、同じ対象に対して愛と憎しみ、したい気持ちとしたくない気持ちなど、相反する感情や意志が同時に存在する状態である。Bleulerが挙げた統合失調症の基本症状の一つであり、感情(または意志)の障害に分類される。自我意識の障害ではない。
- ○d. 離人症
離人症は、自分の思考・感情・身体や行動から自分が切り離されたように感じ、「自分が自分でない」「自分がしている実感がない」「外から自分を眺めているようだ」と訴える状態である。周囲の世界が現実感を失い、膜を隔てたように感じられる現実感消失を伴うことも多い。自分の体験が自分のものであるという能動性の意識(実感)が損なわれた状態であり、自我障害の代表的な症状である。本人は「そう感じる」ことを自覚しており、現実検討(実際に自分が自分であるとの判断)は保たれている点が、させられ体験などとの違いである。離人感・現実感消失症のほか、うつ病、統合失調症、強い不安や心的外傷の後などでもみられる。
- ×e. 強迫観念
強迫観念は、ばかげている・不合理だと本人がわかっているのに、意思に反して繰り返し頭に浮かび、振り払えない考えやイメージ(汚染への恐れ、確認しなかったのではないかという疑いなど)である。思考の障害(思考内容・思考体験の障害)に分類され、強迫症の中核症状である。強迫観念は自分自身の考えとして体験されている点で、他人の考えが入り込んでくると感じる思考吹入(自我障害)と区別される。
自我意識の4つの側面(Jaspers)と主な自我障害
・能動性の障害:離人症(自分がしている実感がない)、させられ体験・作為体験(他者に操られて考えたり動かされたりする)、思考吹入(他人の考えが吹き込まれる)、思考奪取(考えが抜き取られる) ・単一性の障害:二重身〈ドッペルゲンガー〉(もう一人の自分が見える・いると感じる) ・同一性の障害:交代人格(解離性同一症などで、時間によって別の人格に入れ替わる) ・外界・他者との境界の障害:思考伝播(自分の考えが他人に伝わってしまう)、思考察知など
統合失調症との関係
Schneider(シュナイダー)の一級症状には、考想化声、対話性・批評性の幻聴、身体への被影響体験、思考奪取・思考吹入などの思考への干渉、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域でのさせられ体験が含まれ、多くが自我障害に属する。
精神症状の主な分類と例
・感情の障害:抑うつ気分、躁的気分、不安、恐怖、感情鈍麻、両価性、感情失禁 ・思考の障害:思考形式の障害(連合弛緩、観念奔逸、思考制止、迂遠)、思考内容の障害(妄想、強迫観念、支配観念) ・意欲・行動の障害:意欲低下、自閉、昏迷、緊張病症状、精神運動興奮 ・知覚の障害:幻覚、錯覚 ・自我意識の障害:離人症、させられ体験、思考吹入・奪取・伝播、二重身
Bleulerの4つのA
連合弛緩〈Association〉、感情障害〈Affect〉、両価性〈Ambivalence〉、自閉〈Autism〉。統合失調症の基本症状とされたが、いずれも自我障害には分類されない。
POINT
・自我意識の4側面(Jaspers):能動性、単一性、同一性、外界・他者との境界。 ・自我障害の例:離人症、させられ体験、思考吹入・思考奪取・思考伝播、二重身、交代人格。 ・恐怖・両価性は感情、自閉は意欲・行動、強迫観念は思考の障害に分類される。 ・強迫観念は「自分の考え」と自覚されている点で、思考吹入(他人の考えが入る=自我障害)と区別する。
