血液は圧の高いほうから流れる―シャントの向きで読み解く先天性心疾患
第112回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
左→右シャントをきたす先天性心疾患はどれか。
- a.Ebstein奇形
- b.Fallot四徴症
- c.動脈管開存症
- d.左心低形成症候群
- e.完全大血管転位症
対話形式の解説
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医学生まとめ
先天性心疾患のシャントの向きは圧の高低で決まり、左→右シャントでは肺血流が増えて心不全や肺高血圧の原因となる一方、原則としてチアノーゼは生じません。動脈管開存症は出生後の大動脈圧が肺動脈圧を上回るため大動脈から肺動脈への左→右シャントとなり、連続性雑音と大きな脈圧が特徴で、心室中隔欠損症・心房中隔欠損症・房室中隔欠損症と並ぶ代表的な非チアノーゼ性疾患です。Fallot四徴症、Ebstein奇形、左心低形成症候群、完全大血管転位症は、右→左シャントや血液の混合によって全身に静脈血が送られるチアノーゼ性心疾患です。左→右シャントでもEisenmenger化すれば向きが逆転し、動脈管開存症では下半身のみの分離チアノーゼを呈します。シャントの向き、チアノーゼの有無、動脈管依存性とプロスタグランジン製剤の使い分けを結びつけて理解することが、新生児・小児の循環管理を考える土台になります。
解答・解説
正解はcです
シャントの向きの考え方
先天性心疾患でのシャントとは、心臓や大血管の異常な交通路を通って、本来とは別の循環系に血液が流れ込むことをいう。血液は圧の高い側から低い側へ流れる。 ・左→右シャント:酸素化された動脈血(左心系・大動脈側)が静脈血側(右心系・肺動脈側)へ流れる。肺血流が増えて肺うっ血・肺高血圧や心不全の原因になるが、全身へ送られる血液は酸素化されているため、原則としてチアノーゼは生じない(非チアノーゼ性心疾患)。心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)、房室中隔欠損症が代表である。 ・右→左シャント:静脈血が肺を通らずに体循環へ入るため、チアノーゼを生じる(チアノーゼ性心疾患)。右心系の流出路の狭窄・閉鎖、右心系の圧上昇、あるいは体循環を右心室に頼る構造があると起こりやすい。
本問の判断
出生後は体血管抵抗が上がり肺血管抵抗が下がるため、大動脈圧は肺動脈圧を大きく上回る。動脈管が閉じずに残ると、大動脈から肺動脈へ血液が流れる左→右シャントとなる。選択肢の中で、左→右シャントそのものが基本病態であるのは動脈管開存症だけである。他の選択肢はいずれもチアノーゼ性心疾患であり、右→左シャント(または体・肺循環の血液の混合)によってチアノーゼをきたす。 なお、完全大血管転位症では、生存のために心房・心室・動脈管のいずれかで両循環の血液が混ざる必要があり、部位によっては解剖学的に左→右方向の血流も生じる。ただし疾患の本質は静脈血が全身に送られるチアノーゼ性心疾患であり、「左→右シャントをきたす先天性心疾患」として最も適切なのは動脈管開存症である。
選択肢考察
- ×a. Ebstein奇形
Ebstein奇形は、三尖弁の中隔尖と後尖の付着部位が右心室の心尖側へ偏位(下方偏位)する奇形である。偏位した弁より上の右心室は薄い壁となり、右心房と一体化して機能する(右房化右室)。三尖弁逆流と右房化右室のために右心房は著明に拡大して圧が上がり、機能的な右心室は小さくなる。多くは卵円孔開存や心房中隔欠損を合併するため、心房レベルで右→左シャントが生じてチアノーゼをきたす。重症の新生児例では、右心室から肺動脈へ有効な拍出ができない機能的肺動脈閉鎖の血行動態を呈し、肺低形成を伴って呼吸不全に陥ることもある。妊娠中の母体のリチウム服用との関連が知られている。
- ×b. Fallot四徴症
Fallot四徴症は、①心室中隔欠損、②肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、③大動脈騎乗、④右室肥大の4つを特徴とする、最も多いチアノーゼ性先天性心疾患である。右室流出路が狭いため右心室の圧が左心室と同程度まで上がり、静脈血が大きな心室中隔欠損を通って騎乗した大動脈へ流れ込む(右→左シャント)。啼泣や脱水などで流出路の狭窄が強まると、右→左シャントが増えて低酸素発作(無酸素発作)を起こす。狭窄が軽い例(pink Fallot)では左→右シャントが主体となることもあるが、典型的には右→左シャントをきたす疾患である。
- ○c. 動脈管開存症
動脈管は胎児期に肺動脈と大動脈をつなぎ、肺を迂回させる血管である。通常は出生後の動脈血酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下によって収縮し、閉鎖する。これが閉じずに残るのが動脈管開存症(PDA:patent ductus arteriosus)である。出生後は大動脈圧が肺動脈圧より高いため、血液は大動脈から肺動脈へ流れる左→右シャントとなる。肺血流が増え、肺静脈を経て戻る左心房・左心室に容量負荷がかかる。聴診では胸骨左縁第2肋間付近に連続性雑音を聴取し、拡張期に大動脈から血液が逃げるため脈圧が大きくなる。未熟児で多く、先天性風疹症候群にも合併する。未熟児ではインドメタシンやイブプロフェンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害薬で閉鎖を促し、それ以外ではカテーテル治療や外科的結紮で閉鎖する。なお、高度の肺高血圧が進行してシャントの向きが逆転する(Eisenmenger化)と、下半身だけにチアノーゼが出る分離チアノーゼを生じる。
- ×d. 左心低形成症候群
左心低形成症候群は、僧帽弁・大動脈弁の閉鎖または高度狭窄と、左心室・上行大動脈の著しい低形成を特徴とする疾患である。左心室は全身に血液を送れないため、体循環は右心室から肺動脈を経て、動脈管を通って大動脈へ流れる血液に依存する(動脈管レベルの右→左シャント)。肺静脈から左心房に戻った血液は左心室へ進めないため、心房中隔欠損・卵円孔を通って右心房へ流れる(心房レベルでは左→右)。結果として全身へ送られる血液は動脈血と静脈血の混合となり、チアノーゼをきたす。生後に動脈管が閉じると体循環を保てなくなり急速にショックに陥る(動脈管依存性体循環)ため、プロスタグランジンE1で動脈管の開存を保ち、Norwood手術などの段階的手術を行う。左→右シャントをきたす疾患として扱うことはできない。
- ×e. 完全大血管転位症
完全大血管転位症は、心房と心室のつながりは正常であるが、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から起始する疾患である。全身から戻った静脈血は右心室から大動脈を経て再び全身へ、肺から戻った動脈血は左心室から肺動脈を経て再び肺へ送られる。体循環と肺循環が並列に分かれるため、卵円孔・心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管のいずれかで両循環の血液が混ざらなければ生存できない。混合部位によっては、卵円孔や動脈管で解剖学的に左→右方向の血流も生じる。しかし全身に送られる血液の大部分は酸素化されていない静脈血であり、新生児期から強いチアノーゼを示す代表的なチアノーゼ性心疾患である。左→右シャントが基本病態の疾患とはいえない。治療は、プロスタグランジンE1による動脈管の維持や、バルーン心房中隔裂開術(BAS)で混合を確保したうえで、動脈スイッチ手術(Jatene手術)を行う。
先天性心疾患の分類(シャントとチアノーゼ)
・左→右シャント(非チアノーゼ性):心室中隔欠損症(最も多い)、心房中隔欠損症、動脈管開存症、房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)。肺血流が増加する。 ・右→左シャント・混合血によるチアノーゼ性:Fallot四徴症(最も多いチアノーゼ性心疾患)、完全大血管転位症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、Ebstein奇形、左心低形成症候群、総動脈幹症など。 ・シャントを伴わない疾患:大動脈縮窄症(単独の場合)、肺動脈弁狭窄症、大動脈弁狭窄症など。
Eisenmenger症候群
左→右シャントが長く続くと肺血管に不可逆的な変化(肺血管閉塞性病変)が生じ、肺高血圧が進む。肺動脈圧が体血圧を上回るとシャントが右→左に逆転し、チアノーゼを生じる。この状態になると欠損孔を閉じる手術は禁忌となる。動脈管開存症では、逆流した静脈血が動脈管より下流の下行大動脈に流れ込むため、下肢にのみチアノーゼやばち指がみられる(分離チアノーゼ)。
動脈管とプロスタグランジン
・プロスタグランジンE1製剤:動脈管を開いたままに保つ。動脈管依存性の疾患(左心低形成症候群、肺動脈閉鎖、重症大動脈縮窄、完全大血管転位症など)で用いる。 ・シクロオキシゲナーゼ阻害薬(インドメタシン、イブプロフェン):プロスタグランジン産生を抑えて動脈管の閉鎖を促す。未熟児の動脈管開存症で用いる。
POINT
・動脈管開存症は大動脈から肺動脈へ流れる左→右シャント疾患であり、連続性雑音と大きな脈圧が特徴である。 ・左→右シャントの代表はVSD・ASD・PDA・房室中隔欠損症であり、原則としてチアノーゼを伴わない。 ・Fallot四徴症、Ebstein奇形、左心低形成症候群、完全大血管転位症はチアノーゼ性心疾患である。 ・左→右シャントでも、Eisenmenger化するとシャントが逆転してチアノーゼが出現する。
