StudyMed医師国家試験

つまずき一つで始まる悪循環―椎体骨折後の高齢者に本当に必要な生活指導

第112回医師国家試験 C問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第112回 C問題 第28問

70歳の女性。腰痛を主訴に来院した。2日前に屋内で段差につまずいて転倒した後から腰痛が出現した。歩行は可能である。下位腰椎に強い叩打痛がある。腰椎エックス線写真で第3腰椎の圧迫骨折を認める。  この患者の今後の生活に対する指導をする際に考慮する必要性が低いのはどれか。

  1. a.ロコモティブシンドローム
  2. b.むずむず脚症候群
  3. c.サルコペニア
  4. d.廃用症候群
  5. e.フレイル

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、転倒による腰椎圧迫骨折を起こした高齢女性に、今後どんな生活指導をするかを考える問題だ。問われているのは「考慮する必要性が低いもの」。骨折そのものの治療よりも、その先にある「生活機能の低下」に目を向けられるかがポイントだよ。まず、この骨折がどんな性質のものか考えてみよう。
医学生医学生
屋内の段差でつまずいた程度で椎体が潰れているので、骨粗鬆症を背景にした脆弱性骨折でしょうか。
ドクタードクター
その通り。軽微な外力で起きた骨折は、骨の脆さを示すサインなんだ。そしてもう一つ、「段差につまずいた」こと自体にも意味がある。何を示唆していると思う?
医学生医学生
足がうまく上がっていない……下肢の筋力やバランスが落ちているということですか。
ドクタードクター
いい読みだね。高齢者の椎体骨折は、痛みで動かなくなる、筋力が落ちる、歩きにくくなる、また転ぶ、また折れる、そして要介護や寝たきりへ、という悪循環に入りやすい。生活指導の目的は、この流れをどこかで断ち切ることにあるんだ。
医学生医学生
整形外科の臨床実習で、圧迫骨折の患者さんにコルセットを着けてもらって早めに歩いてもらっていたのを思い出しました。昔は安静が基本だと思っていたので意外でした。
ドクタードクター
今は鎮痛と体幹装具を使いながら、痛みに応じて早期に離床するのが原則だよ。長く寝かせておくと、それ自体が別の問題を生む。それが廃用症候群だ。安静や活動低下が続くことで、筋萎縮、関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡、抑うつ、認知機能低下まで起こりうる。高齢者だと短期間の臥床でも急速に進むんだ。
医学生医学生
骨萎縮も含まれるなら、寝ていると骨粗鬆症まで悪化してしまうんですね。
ドクタードクター
そう、まさに悪循環の燃料になる。次にロコモティブシンドロームはどうかな。
医学生医学生
日本整形外科学会が提唱した概念で、運動器の障害で立つ・歩くといった移動機能が落ちた状態でしたよね。
ドクタードクター
正解。骨粗鬆症と骨折はロコモの代表的な原因で、放置すれば要介護リスクが高まる。片脚立ちで靴下がはけない、青信号のうちに横断歩道を渡りきれない、といったロコチェックや、立ち上がりテストなどのロコモ度テストで評価して、運動指導につなげるんだ。
医学生医学生
サルコペニアはロコモと似ていて、区別がちょっと曖昧です。
ドクタードクター
混乱しやすいところだね。サルコペニアは骨格筋そのものに注目した概念で、筋肉量の減少に加えて、握力などの筋力か歩行速度などの身体機能が低下した状態をいう。筋力低下は転倒の大きな危険因子だから、レジスタンス運動や十分なたんぱく質摂取の指導が大切になる。ロコモは骨・関節・神経も含む運動器全体の話で、サルコペニアはその原因の一つと整理するといい。
医学生医学生
フレイルは老年医学の講義で「健康と要介護の中間」と習いました。
ドクタードクター
そのイメージで合っている。加齢で心身の予備能が落ちて、感染、転倒、入院といった軽いストレスでも要介護や死亡に至りやすくなった状態だ。身体面だけでなく、精神・心理面や社会面も含むのが特徴で、適切な介入で健常に戻りうる可逆性があるのも大事な点。転倒・骨折はフレイルの結果でもあり、さらに悪化させる要因でもある。
医学生医学生
ということは、ロコモ、サルコペニア、廃用症候群、フレイルはどれも転倒から要介護へつながる流れに関わる概念で、残るむずむず脚症候群だけが毛色が違いますね。
ドクタードクター
その通り、正解はむずむず脚症候群だ。これは主に夕方から夜の安静時に、脚の不快な異常感覚と動かしたい強い衝動が出て、動かすと楽になる睡眠関連の疾患。不眠の原因にはなるけれど、今回の骨折後の機能低下や要介護化の予防とは直接の関係がない。
医学生医学生
鉄欠乏や透析患者さんで起こりやすいと神経内科で聞いた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。鉄欠乏、慢性腎臓病、妊娠、末梢神経障害などに伴う二次性があって、フェリチンが低ければ鉄補充、ほかにドパミン作動薬やα2δリガンドで治療する。最後に臨床の注意点をまとめよう。椎体骨折を一度起こすと次の骨折リスクは大きく高まるから、骨密度を評価してビスホスホネート薬などの骨粗鬆症治療を始めること、住環境の段差対策を含めた転倒予防、そして早期離床と運動の継続。骨折を「治して終わり」にせず、その人の生活全体を守る視点を持ってほしい。
医学生医学生
骨折は悪循環の入口にすぎないので、骨・筋肉・活動量・全身の予備能をまとめて見る、ということですね。

まとめ

高齢者が段差でのつまずきのような軽微な外力で椎体骨折を起こした場合は、骨粗鬆症による脆弱性骨折と考え、背景にある筋力やバランス能力の低下にも注目します。ロコモティブシンドローム、サルコペニア、廃用症候群、フレイルは互いに重なり合いながら、転倒・骨折から要介護・寝たきりへ至る経路に関わるため、骨折後の生活指導で必ず考慮すべき概念です。一方、むずむず脚症候群は安静時の下肢異常感覚と運動衝動を特徴とする睡眠関連疾患で、本例との関連は乏しいといえます。椎体骨折の急性期でも長期臥床は避けて鎮痛と装具で早期離床を図り、骨粗鬆症治療と転倒予防で再骨折を防ぐことが重要です。各概念の違いと共通点を整理しておくことは、高齢者診療で生活機能を守るための基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・70歳の女性。屋内の段差につまずいて転倒し、その後から腰痛が出現した。 ・歩行は可能で、下位腰椎に強い叩打痛がある。 ・腰椎エックス線写真で第3腰椎の圧迫骨折を認める。

病態の考え方

屋内の段差でのつまずきという軽微な外力で椎体骨折を起こしていることから、骨粗鬆症を背景とした脆弱性骨折と考えられる。また、段差でつまずくこと自体が、下肢筋力やバランス能力の低下を示唆している。高齢者の椎体骨折は、痛みによる活動量の低下や安静臥床をきっかけに、筋力低下→歩行能力低下→さらなる転倒・骨折→要介護・寝たきり、という悪循環に陥りやすい。

設問の考え方

本問は「今後の生活指導で考慮する必要性が低いもの」を選ぶ問題である。生活指導の目的は、骨折後の活動低下を防ぎ、再転倒・再骨折を予防して要介護状態への移行を食い止めることにある。そのため、高齢者の運動機能・身体機能の低下を表す概念であるロコモティブシンドローム、サルコペニア、廃用症候群、フレイルはいずれも考慮すべき事項となる。一方、むずむず脚症候群は安静時に脚の不快な異常感覚と動かしたい衝動が生じる睡眠関連の疾患であり、本例の転倒・骨折後の機能低下とは直接の関係がない。

選択肢考察

  1. ×a.  ロコモティブシンドローム

    ロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称ロコモ)は、骨・関節・筋肉・神経などの運動器の障害によって立つ・歩くといった移動機能が低下した状態を指す、日本整形外科学会が提唱した概念である。骨粗鬆症とそれに伴う骨折はロコモの代表的な原因であり、進行すれば要介護となるリスクが高まる。転倒・骨折を起こした本例では、ロコモの評価と運動指導が重要で、考慮すべき事項である。

  2. ○b.  むずむず脚症候群

    むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、下肢静止不能症候群)は、主に夕方〜夜間の安静時に下肢の不快な異常感覚と脚を動かしたい強い衝動が生じ、脚を動かすと軽減する疾患である。入眠障害などの不眠の原因となる。鉄欠乏、腎不全(透析)、妊娠などが二次性の原因となり、ドパミン作動薬などで治療する。転倒による椎体骨折後の運動機能低下や要介護化の予防とは直接の関係がなく、本例の生活指導で考慮する必要性は低い。

  3. ×c.  サルコペニア

    サルコペニアは加齢などに伴い骨格筋量が減少し、筋力または身体機能(歩行速度など)が低下した状態である。筋力やバランス能力の低下は転倒の大きな危険因子であり、転倒は骨折につながる。段差につまずいて転倒した本例では筋力低下が背景にある可能性が高く、レジスタンス運動や十分なたんぱく質摂取などの指導を含めて考慮すべきである。

  4. ×d.  廃用症候群

    廃用症候群は、安静臥床や活動性の低下が続くことで生じる心身の機能低下の総称で、筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨萎縮(骨粗鬆症の悪化)、起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡、抑うつ、認知機能低下などを含む。高齢者では短期間の臥床でも急速に進む。腰痛のために活動量が落ちたり安静が長引いたりすると本症を起こしやすいため、本例は歩行可能であることも踏まえ、疼痛管理と装具の併用などで早期から離床・歩行を促すよう指導する必要がある。

  5. ×e.  フレイル

    フレイルは加齢に伴い心身の予備能が低下し、軽いストレス(感染症、転倒、入院など)でも要介護状態や死亡に至りやすくなった状態で、健康と要介護の中間に位置づけられる。適切な介入で健常な状態へ戻りうる(可逆性がある)点が特徴である。身体的側面だけでなく、精神・心理的側面や社会的側面も含む。転倒・骨折はフレイルの結果でもあり、さらに悪化させる要因でもあるため、本例の生活指導で考慮すべきである。

骨粗鬆症性椎体骨折(脊椎圧迫骨折)

高齢女性に多く、尻もちや軽い転倒、場合によっては明らかな外傷なしに起こる。好発部位は胸腰椎移行部(第11胸椎〜第2腰椎付近)である。症状は体動時の腰背部痛、骨折部の叩打痛で、多発すると円背や身長低下を来す。急性期は鎮痛薬と体幹装具(コルセット)を用いた保存療法が基本で、長期臥床は廃用を招くため、疼痛に応じて早期から離床を進めるのが原則である。一度椎体骨折を起こすと次の骨折リスクが大きく高まるため、骨密度評価と骨粗鬆症治療(ビスホスホネート薬など)、転倒予防が重要となる。

高齢者の機能低下に関する概念の整理

・ロコモティブシンドローム: 運動器の障害による移動機能の低下。原因疾患は骨粗鬆症・骨折、変形性関節症、脊柱管狭窄症、サルコペニアなど。「片脚立ちで靴下がはけない」「横断歩道を青信号で渡りきれない」などのロコチェックや、立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25からなるロコモ度テストで評価する。 ・サルコペニア: 骨格筋量の減少に加え、筋力(握力)または身体機能(歩行速度など)の低下を伴う状態。加齢による一次性と、活動低下・低栄養・疾患による二次性がある。 ・フレイル: 予備能の低下によりストレスへの脆弱性が高まった状態。身体的フレイルの代表的な評価としてFriedの基準(体重減少、疲労感、身体活動量の低下、歩行速度の低下、握力の低下のうち3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル)があり、わが国ではこれを改変したJ-CHS基準が用いられる。身体的フレイルの中核にはサルコペニアがある。 ・廃用症候群: 不動・安静による全身の機能低下。筋力は安静臥床で1日あたり数%ずつ低下するとされ、高齢者ほど回復に時間がかかる。 これらの概念は互いに重なり合い、いずれも転倒・骨折から要介護・寝たきりへ至る経路に関わる。

むずむず脚症候群

安静時、特に夕方から夜に増悪する下肢の異常感覚と運動衝動が特徴で、動かすと改善する。睡眠中の周期性四肢運動を伴うことが多い。一次性(特発性)のほか、鉄欠乏性貧血、慢性腎臓病(透析)、妊娠、末梢神経障害などに伴う二次性がある。治療は誘因の除去、鉄の補充(血清フェリチン低値の場合)、ドパミン作動薬、α2δリガンドなどである。

POINT

・高齢者の軽微な外傷による椎体骨折は骨粗鬆症による脆弱性骨折であり、再骨折予防・転倒予防・活動性維持が生活指導の柱となる。 ・ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイル、廃用症候群はいずれも転倒・骨折・要介護化に関わる概念で、骨折後の高齢者の指導で考慮する。 ・むずむず脚症候群は安静時の下肢異常感覚と運動衝動を特徴とする睡眠関連疾患で、本例とは関連が乏しい。 ・椎体骨折の急性期でも長期臥床は避け、装具と鎮痛を用いて早期離床を図る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。