StudyMed医師国家試験

痛みより「妊娠」を優先せよ―子宮内膜症を抱える不妊女性への一手

第112回医師国家試験 A問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第43問

 38歳の女性。不妊を主訴に来院した。4年前に結婚し挙児を希望しているが,妊娠はしていない。6か月前に子宮卵管造影検査を受けたが,異常はなかった。5年前から月経痛があり,1年前から月経中に市販の鎮痛薬を服用している。月経周期は38~90日,不整。持続は5日間。過多月経はない。身長164cm,体重54kg。体温36.8℃。脈拍68/分,整。血圧110/56mmHg。腹部は平坦,軟。内診では,子宮は前傾後屈で正常大,可動性不良。Douglas窩に有痛性の硬結を触知する。右卵巣に有痛性の嚢胞を触知する。経腟超音波検査では右卵巣嚢胞の内部エコーは均一である。左卵巣に異常を認めない。右卵巣の経腟超音波像を別に示す。  治療として適切なのはどれか。

第112回 A問題 第43問の問題画像
  1. a.プロゲスチン療法
  2. b.クロミフェン療法
  3. c.GnRH アゴニスト療法
  4. d.腹腔鏡下右卵巣切除術
  5. e.エストロゲン・プロゲスチン療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子宮内膜症がありながら妊娠を望む女性に、何を優先して治療するかを考える問題だ。着眼点は2つ。1つは内診と超音波から読み取れる病態、もう1つは月経周期の乱れが意味するもの。そして何より、この患者さんの「治療のゴール」は何かを意識してほしい。
医学生医学生
月経痛がだんだん強くなっていて、Douglas窩に痛い硬結、卵巣に嚢胞……子宮内膜症ですよね。
ドクタードクター
その通り。子宮の可動性が悪いのは骨盤内の癒着を、Douglas窩の有痛性硬結は深部の病変を示している。卵巣の嚢胞は内部エコーが均一、いわゆるすりガラス状で、古い血液がたまったチョコレート嚢胞に一致する。
医学生医学生
婦人科の講義で、チョコレート嚢胞はMRIのT1強調像で高信号、脂肪抑制でも信号が残ると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。出血成分だから脂肪抑制で消えない、これが奇形腫との区別にもなる。では次に、月経周期が38〜90日と長くばらついている点はどう解釈する?
医学生医学生
正常は25〜38日なので稀発月経で、周期も不整です。排卵がうまく起きていない、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう、排卵障害が疑われる。つまりこの方の不妊には、子宮内膜症と排卵因子の両方がかかわっていると考えられるんだ。子宮卵管造影で異常がないから、卵管の通過性は保たれている点も大事だよ。
医学生医学生
子宮内膜症なら、まずジエノゲストのようなプロゲスチンで病変を小さくするのが定番だと思っていました。
ドクタードクター
挙児希望がなければそれで正解なんだ。でもプロゲスチン、GnRHアゴニスト、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬は、どれも排卵を抑えて病変を縮小させる治療。使っている間は妊娠できないし、やめた後に妊娠率が上がるという根拠も乏しい。38歳という年齢を考えると、時間を使ってしまうのは大きなデメリットだね。
医学生医学生
GnRHアゴニストは手術前に使うイメージがありました。
ドクタードクター
持続投与で下垂体のGnRH受容体がダウンレギュレーションされ、閉経に近い低エストロゲン状態になる。術前の病変縮小や体外受精の前処置で使う場面はあるけれど、骨量減少もあって使用は原則6か月以内。この方にまず行う治療ではないね。では、腹腔鏡下の右卵巣切除はどうだろう。
医学生医学生
嚢胞ごと取ってしまえば痛みも不妊も改善しそうですけど……卵巣を丸ごと取るのはまずいですよね。
ドクタードクター
そこがポイント。卵巣を摘出すれば卵胞が失われ、卵巣予備能が大きく下がる。妊娠を望む人に手術をするなら、正常卵巣を残す嚢胞摘出術などを選ぶ。それでも予備能が下がることがあるので、適応は慎重に判断するんだ。
医学生医学生
そうすると残るのはクロミフェン。排卵障害を治して、通っている卵管で自然な受精を目指す、ということですね。
ドクタードクター
その通り。クロミフェンは抗エストロゲン作用をもつ経口薬で、視床下部のエストロゲン受容体をふさいでネガティブフィードバックを外し、GnRH、FSH、LHの分泌を増やして排卵を促す。排卵障害に最初に使う排卵誘発薬だよ。
医学生医学生
副作用は多胎と卵巣過剰刺激症候群でしたっけ。CBTの問題で見た気がします。
ドクタードクター
そうだね。ゴナドトロピン製剤に比べると卵巣過剰刺激症候群は起こりにくい。抗エストロゲン作用で子宮内膜が薄くなったり頸管粘液が減ったりすることもある。ただ、正直に言うとこの問題は方針が一つに決めにくいテーマなんだ。実臨床では、38歳で子宮内膜症を伴う不妊なら、年齢やAMHなどの卵巣予備能、嚢胞の大きさを踏まえて、早めに体外受精へ進むことや、腹腔鏡で病巣の切除や癒着剥離を行うことも多い。
医学生医学生
選択肢の中では排卵誘発が最も筋が通るけれど、現場ではもっと先の選択肢まで考える、ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。もう一つ、チョコレート嚢胞からはまれに明細胞癌や類内膜癌が発生する。40歳以上や嚢胞が大きい場合は特に、不妊治療中も経過観察を忘れないようにしよう。

まとめ

進行する月経痛、子宮の可動性不良、Douglas窩の有痛性硬結、内部エコー均一な卵巣嚢胞は子宮内膜症とチョコレート嚢胞を示し、稀発・不整な月経周期は排卵障害を示唆します。子宮内膜症のホルモン療法(プロゲスチン、GnRHアゴニスト、エストロゲン・プロゲスチン配合薬)はいずれも排卵を抑えるため、妊娠を最優先する患者では妊娠の機会を遅らせてしまい、卵巣摘出は卵巣予備能を大きく損なうため適しません。選択肢の中では、卵管通過性が保たれていることを踏まえ、排卵誘発薬であるクロミフェンで妊娠を目指す方針が最も妥当とされます。ただし実臨床では、年齢や卵巣予備能に応じて生殖補助医療や卵巣機能を温存する手術を早めに検討することも多く、方針は個別に判断されます。「その患者の治療ゴールは何か」から治療を選ぶ姿勢は、婦人科に限らず臨床判断の基本です。

解答・解説

正解はbです

※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。

所見の整理

・38歳女性。結婚して4年、子どもを望んでいるが妊娠しない。1年以上妊娠しないため不妊症に当たる。妊娠歴がなく、原発性不妊である。 ・子宮卵管造影(HSG:子宮内に造影剤を入れて子宮腔と卵管の通過性をみる検査)では異常がない。卵管の閉塞による不妊(卵管因子)は考えにくい。 ・月経周期は38~90日と長く、ばらつきも大きい(正常は25~38日、変動6日以内)。稀発月経・周期不整であり、排卵がない、または排卵が遅れる排卵障害が疑われる。 ・5年前から月経痛があり、悪化して鎮痛薬が必要になっている。月経困難症の進行である。 ・内診では子宮の可動性が悪く、Douglas窩(子宮と直腸の間のくぼみ)に押すと痛い硬結を触れる。骨盤内の癒着と深部病変を示す子宮内膜症の典型的な所見である。 ・右卵巣に押すと痛い嚢胞を触れ、経腟超音波では内部が均一な低エコー(すりガラス状)の嚢胞である。古い血液を含む子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)に一致する。左卵巣は正常である。

診断へのプロセス

月経痛の進行、子宮の可動性不良、Douglas窩の有痛性硬結、右卵巣のチョコレート嚢胞から、子宮内膜症と診断できる。これに稀発・不整な月経周期による排卵障害が加わっている。不妊の原因として、排卵因子と子宮内膜症の両方がかかわっていると考えられる。なお、月経不順と不妊からは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)も考えるが、両側卵巣に多数の小卵胞が並ぶ所見がないため、本例では根拠に乏しい。

設問の考え方

本例で最も優先すべき目標は「妊娠すること」である。子宮内膜症に対するホルモン療法(プロゲスチン、GnRHアゴニスト、エストロゲン・プロゲスチン配合薬)は、いずれも排卵を止めて病変を縮小させる治療である。使用中は妊娠できず、薬をやめても妊娠率が上がるという根拠もない。38歳と年齢的に時間の余裕も少ない。卵巣の摘出は、卵巣予備能(残っている卵子の量)を大きく減らすため、挙児希望者には適さない。したがって、選択肢の中ではまず排卵障害を治療して妊娠を目指す排卵誘発(クロミフェン療法)が最も妥当とされた。

採点除外について

本問は採点対象から除外された。問題としては成立していたが、受験者のレベルでは難しすぎると判断されたためである。実際の診療では、38歳で子宮内膜症を伴う不妊の場合、年齢や卵巣予備能、嚢胞の大きさに応じて、早めに体外受精などの生殖補助医療に進むことや、手術(腹腔鏡下での病巣切除・嚢胞摘出)を選ぶこともある。治療方針を一つに決めにくいテーマであった。

選択肢考察

  1. ×a.  プロゲスチン療法

    不適切。ジエノゲストなどのプロゲスチン(黄体ホルモン製剤)は、子宮内膜症の痛みを和らげ、病変を縮小させる薬物療法の中心である。しかし排卵を抑えるため、使用中は妊娠できない。妊娠を急ぐ本例には向かない。

  2. ○b.  クロミフェン療法

    適切とされた。クロミフェンは抗エストロゲン作用をもつ経口の排卵誘発薬である。視床下部のエストロゲン受容体をふさいでネガティブフィードバックを解除し、GnRH・FSH・LHの分泌を増やして卵胞の発育と排卵を促す。月経周期が不整で排卵障害が疑われる不妊の初期治療として、まず選ばれることが多い。本例は卵管の通過性が保たれているため、排卵を起こせば自然な受精が期待できる。子宮内膜症があっても妊娠を最優先する方針に合う。

  3. ×c.  GnRH アゴニスト療法

    不適切。GnRHアゴニストを続けて使うと、下垂体のGnRH受容体が減って(ダウンレギュレーション)ゴナドトロピンの分泌が抑えられる。その結果、閉経に近い低エストロゲン状態となり、子宮内膜症の病変が縮小する。ただし排卵が止まるため、使用中は妊娠できない。骨量の減少も起こるため、使用期間は原則6か月以内に限られる。手術前の病変縮小や、体外受精の前処置として使うことはあるが、本例でまず行う治療ではない。

  4. ×d.  腹腔鏡下右卵巣切除術

    不適切。卵巣を丸ごと摘出すると、卵子のもとになる卵胞が失われ、卵巣予備能が大きく低下する。妊娠を希望する女性には避けるべきである。挙児希望者のチョコレート嚢胞に手術をする場合でも、正常な卵巣組織を残す嚢胞摘出術(核出術)や、嚢胞の内容を吸引して壁を焼灼する方法を選ぶ。嚢胞摘出術でも卵巣予備能が下がることがあるため、適応は慎重に判断する。

  5. ×e.  エストロゲン・プロゲスチン療法

    不適切。低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は、子宮内膜症に伴う月経困難症の治療に使われる。ただし避妊薬と同じく排卵を抑えるため、使用中は妊娠できない。不妊治療を優先すべき本例には適さない。

子宮内膜症

子宮内膜に似た組織が子宮の外(卵巣、Douglas窩、仙骨子宮靱帯など)で増え、月経のたびに出血と炎症をくり返す病気である。エストロゲンに依存して進行し、生殖年齢の女性に多い。 ・症状:月経困難症(だんだん悪化する)、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊。 ・内診所見:子宮の可動性不良(後屈で固定されることが多い)、Douglas窩・仙骨子宮靱帯の有痛性硬結、卵巣腫大。 ・画像:卵巣のチョコレート嚢胞は、経腟超音波で内部が均一な低エコー(すりガラス状)を示す。MRIではT1強調像で高信号を示し、脂肪抑制をしても高信号のまま残る(出血成分のため)。 ・血液検査:CA125が上昇することがあるが、子宮内膜症に特有ではない。 ・確定診断:腹腔鏡で病変を直接確認する。 ・注意点:チョコレート嚢胞は、まれに卵巣癌(明細胞癌、類内膜癌)が発生することがある。40歳以上や嚢胞が大きい場合は特に経過観察が必要である。

子宮内膜症の治療の考え方

・挙児希望がない場合:痛みの軽減と再発予防が目標である。鎮痛薬(NSAIDs)、LEP、プロゲスチン(ジエノゲストなど)、GnRHアゴニスト・アンタゴニストを使う。嚢胞が大きいときなどは手術を行う。 ・挙児希望がある場合:妊娠が目標である。ホルモン療法は妊娠を遅らせるだけで、妊娠率は上げないとされる。年齢・卵巣予備能(AMHなど)・卵管の状態・病変の程度をもとに、排卵誘発やタイミング法、人工授精、体外受精、腹腔鏡手術(病巣の焼灼・切除、癒着剥離、嚢胞摘出)を選ぶ。高齢の場合は早めに体外受精に進むことが多い。

不妊症の主な原因

・排卵因子:PCOS、高プロラクチン血症、視床下部性無月経など → 排卵誘発(クロミフェン、レトロゾール、ゴナドトロピン製剤) ・卵管因子:クラミジア感染後や子宮内膜症による癒着・閉塞 → 腹腔鏡手術、体外受精 ・子宮因子:粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮奇形など ・男性因子:精液の異常 → 人工授精、顕微授精 ・原因不明不妊

クロミフェンの特徴

・経口薬で、排卵障害に対して最初に用いる排卵誘発薬である。 ・抗エストロゲン作用のため、子宮内膜が薄くなったり、頸管粘液が減ったりすることがある。 ・副作用:多胎妊娠(主に双胎)、卵巣過剰刺激症候群(ゴナドトロピン製剤より起こりにくい)。

POINT

・子宮内膜症の典型像:進行する月経痛、子宮の可動性不良、Douglas窩の有痛性硬結、卵巣チョコレート嚢胞(超音波で均一な低エコー、MRIのT1強調像で高信号)。 ・子宮内膜症のホルモン療法(プロゲスチン、GnRHアゴニスト、LEP)はどれも排卵を抑えるため、挙児希望者には妊娠率を上げる治療とならない。 ・挙児希望者には、卵巣摘出は行わず、卵巣機能を残す手術や不妊治療(排卵誘発、生殖補助医療)を選ぶ。 ・月経周期の不整(稀発月経)は排卵障害を示し、クロミフェンが最初に使う排卵誘発薬である。 ・本問は難しすぎるとして採点除外となった。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。