「延長」なのか「低下」なのか―ビタミンK欠乏で数値が下がる検査を見抜く
第111回医師国家試験 I問題 第8問
国試問題にチャレンジ
ビタミンK欠乏症の患者において血液検査で低値となるのはどれか。
- a.FDP
- b.PT-INR
- c.PIVKA-Ⅱ
- d.ヘパプラスチンテスト
- e.APTT〈活性化トロンボプラスチン時間〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ビタミンK欠乏では、Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子のγ-カルボキシル化が行われず、機能をもたない前駆体(PIVKA)が血中に増える一方で、凝固因子としての活性は低下します。その結果、秒で表すPTとAPTTは延長し(PT-INRは上昇)、活性を%で表すヘパプラスチンテストは低下、PIVKA-Ⅱは上昇し、線溶の指標であるFDPは基本的に変化しません。半減期の短い第Ⅶ因子が早く減るため、PTはAPTTより鋭敏に延長するのが特徴です。新生児では予防的なビタミンK2投与が行われ、成人では長期の抗菌薬使用、閉塞性黄疸、絶食などが原因として重要です。検査値を「何を、どの単位で測っているか」から読み解く姿勢は、凝固検査に限らずあらゆる検査の解釈の基本になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
ビタミンK欠乏時に凝固系の検査値がどのように動くか、特に「低値」となる検査を選ぶ問題である。検査値が時間(秒)で表されるか、活性(%)で表されるか、あるいは物質の量で表されるかを区別することがポイントになる。
ビタミンKと凝固因子
肝臓で合成される凝固因子のうち、第Ⅱ因子(プロトロンビン)、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子はビタミンK依存性凝固因子と呼ばれる(抗凝固因子のプロテインC・プロテインSもビタミンK依存性である)。これらの因子は、ビタミンKを補酵素とするγ-カルボキシラーゼによってグルタミン酸残基がγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)に変換されて初めて、カルシウムイオンを介してリン脂質膜に結合でき、凝固因子として働けるようになる。 ビタミンKが不足するとこの修飾が行われず、機能をもたない前駆体(PIVKA)が血中に放出される。その結果、 ・ビタミンK依存性凝固因子の活性が低下する → 凝固時間(PT、APTT)は延長し、凝固因子活性を%で示す検査(ヘパプラスチンテスト)は低下する ・機能のない前駆体(PIVKA-Ⅱ)が増加する という変化が起こる。
考え方
「延長」と「低値」は同じ異常でも表現が逆になる。PTやAPTTは秒数が増えるので延長(高値)、PT-INRも上昇する。一方、ヘパプラスチンテストは凝固活性を正常血漿に対する百分率で表すため、凝固因子が減れば数値が下がる。
選択肢考察
- ×a. FDP
FDP(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)は、プラスミンによってフィブリンやフィブリノゲンが分解されたときに生じる断片で、線溶(血栓を溶かす反応)の亢進を反映する。播種性血管内凝固(DIC)、深部静脈血栓症や肺塞栓症などで上昇する。基準値は上限のみが定められており(おおむね5μg/mL未満)、低値であることに臨床的な意味はない。ビタミンK欠乏症で低下する検査ではない。
- ×b. PT-INR
PT(プロトロンビン時間)は外因系と共通系(第Ⅶ、Ⅹ、Ⅴ、Ⅱ因子とフィブリノゲン)の凝固能を反映する。ビタミンK欠乏では、半減期が最も短い第Ⅶ因子(約4〜6時間)が早期に低下するため、PTは鋭敏に延長する。PT-INR(国際標準比)は、患者のPTを正常対照のPTで割り、試薬の感度補正(ISI)を乗じた値で、凝固能が低下するほど大きくなる。したがってビタミンK欠乏症では上昇し、低値にはならない。
- ×c. PIVKA-Ⅱ
PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ)は、ビタミンK不足(またはワルファリンなどのビタミンK拮抗薬の作用)のためにγ-カルボキシル化を受けられなかった、凝固活性をもたない異常プロトロンビンである。名称のとおりビタミンK欠乏時に血中で増加するため、低値ではなく高値となる。なお、肝細胞癌でも癌細胞が産生して上昇するため、AFPと並ぶ肝細胞癌の腫瘍マーカーとしても用いられる。
- ○d. ヘパプラスチンテスト
ヘパプラスチンテスト(HPT)はPTを改良した検査で、PTと同じく組織因子を用いて外因系から凝固を開始させるが、試薬中に第Ⅴ因子とフィブリノゲンが十分量含まれている。そのため測定値はこれらの影響を受けず、ビタミンK依存性凝固因子である第Ⅱ、Ⅶ、Ⅹ因子の総合的な活性のみを反映する。結果は正常血漿を100%とした活性(%)で表されるので、ビタミンK欠乏症ではこれらの因子が低下して数値が低くなる。新生児のビタミンK欠乏性出血症のスクリーニングや、肝臓の蛋白合成能の評価にも用いられる。
- ×e. APTT〈活性化トロンボプラスチン時間〉
APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間。選択肢の表記は「部分」が抜けている)は内因系と共通系(第Ⅻ、Ⅺ、Ⅸ、Ⅷ、Ⅹ、Ⅴ、Ⅱ因子とフィブリノゲン)の凝固能を反映する。ビタミンK欠乏では第Ⅸ、Ⅹ、Ⅱ因子が低下するためAPTTも延長する。ただし内因系には第Ⅶ因子が関与しないため、早期に低下する第Ⅶ因子の影響を受けるPTに比べると、延長の程度は軽いことが多い。いずれにしても秒数は増加し、低値にはならない。
ビタミンK欠乏症の原因
・新生児・乳児:胎盤移行が少ない、母乳中のビタミンK含有量が少ない、腸内細菌叢が未発達、などの理由で欠乏しやすい。新生児メレナや、生後1〜2か月ごろの乳児ビタミンK欠乏性出血症(頭蓋内出血を起こしうる)の原因となるため、ビタミンK2シロップの予防投与が行われる。 ・成人:長期の抗菌薬投与(腸内細菌によるビタミンK2産生の低下)、閉塞性黄疸や胆汁うっ滞(脂溶性ビタミンの吸収障害)、吸収不良症候群、長期の絶食・経静脈栄養など。 ・薬剤:ワルファリンはビタミンKエポキシド還元酵素を阻害し、ビタミンKの再利用を妨げることで抗凝固作用を発揮する。
検査値の変化のまとめ(ビタミンK欠乏時)
・PT:延長(PT-INR上昇) ・APTT:延長(PTより軽度のことが多い) ・ヘパプラスチンテスト、トロンボテスト:低下(%表示) ・PIVKA-Ⅱ:上昇 ・血小板数、出血時間、フィブリノゲン、FDP:基本的に正常
トロンボテストとの違い
トロンボテストも第Ⅱ、Ⅶ、Ⅹ因子の活性を反映する検査で、PIVKAによる阻害の影響を受けやすいため、ワルファリン投与時のモニタリングに用いられてきた。ヘパプラスチンテストはPIVKAの影響を受けにくく、肝臓の合成能の評価にも適している。
治療
ビタミンK製剤の投与で数時間〜1日程度で凝固能が改善する。重篤な出血時には新鮮凍結血漿やプロトロンビン複合体製剤を併用する。
POINT
・ビタミンK依存性凝固因子はⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ(覚え方「肉納豆」)、および抗凝固因子のプロテインC・S。 ・ビタミンK欠乏ではPT延長(INR上昇)、APTT延長、ヘパプラスチンテスト低下、PIVKA-Ⅱ上昇。 ・秒数で表す検査は「延長」、活性(%)で表す検査は「低下」と、表現の向きに注意する。 ・FDPは線溶亢進の指標で、低値に意味はない。 ・PIVKA-Ⅱは肝細胞癌の腫瘍マーカーとしても重要。
