StudyMed医師国家試験

急に落ちて急に戻る心拍―羊水過少と臍帯が語る変動一過性徐脈

第111回医師国家試験 I問題 第74問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第74問

35歳の初産婦。妊娠33週3日に胎動減少と規則的な下腹部痛とを主訴に来院した。これまでの妊婦健康診査では特に異常を認めなかった。超音波検査で胎児推定体重は1,988g,羊水ポケット1cm,胎盤は子宮前壁に付着し,臍帯は胎盤辺縁に付着している。臍帯頸部巻絡を1回認める。内診所見で子宮口は6cm開大,未破水である。陣痛発来と診断された。このときの胎児心拍数陣痛図を別に示す。  正しいのはどれか。2つ選べ。

第111回 I問題 第74問の問題画像
  1. a.羊水過少症である。
  2. b.胎児頻脈を認める。
  3. c.胎児発育不全である。
  4. d.臍帯血流障害が疑われる。
  5. e.基線細変動は減少している。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、早産期に陣痛が来た妊婦さんについて、超音波所見と胎児心拍数陣痛図(CTG)から胎児の状態を判断する問題だ。着眼点は「羊水量の評価」と「CTG波形の読み方」の2つ。まずは超音波の数字から、正しく言えることを探してみよう。
医学生医学生
羊水ポケット1cmは少ないと思います。羊水過少の基準は2cm未満でしたよね。
ドクタードクター
その通り。羊水過少は、羊水ポケット、つまり羊水腔の最大垂直深度が2cm未満か、子宮を4分割して測った合計値である羊水インデックスが5cm以下で判断する。1cmなら羊水過少症と言っていい。では、胎児推定体重はどう評価する?
医学生医学生
2,000gを切っているので小さめに見えて、胎児発育不全かと思ってしまいました。
ドクタードクター
数字のインパクトに引っ張られやすいところだね。胎児発育不全は、推定体重が在胎週数の基準値の−1.5SD以下を目安に診断する。妊娠33週前後の平均はおよそ2,000gだから、1,988gはほぼ平均どおり。発育不全とは言えないんだ。
医学生医学生
週数ごとの基準と比べないと意味がないんですね。産婦人科の臨床実習で、健診のたびに推定体重を成長曲線にプロットしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが大事。次はCTGだ。CTGは「基線」「基線細変動」「一過性変動」の順に読む。まず基線は、おおむね140〜150bpmあたりに収まっている。正常範囲は覚えているかな。
医学生医学生
110〜160bpmです。なので胎児頻脈ではないですね。
ドクタードクター
正解。頻脈は160bpmを超える状態が10分以上続く場合で、母体発熱、絨毛膜羊膜炎、胎児低酸素の初期、母体へのβ刺激薬投与などで見られる。今回は当てはまらない。次は基線細変動だ。
医学生医学生
細かい揺れがしっかり見えるので、減少はしていないと思います。
ドクタードクター
その通り。細変動は6〜25bpmが正常の中等度で、5bpm以下なら減少、肉眼で見えなければ消失とする。今回のCTGでは揺れが十分に保たれている。これは胎児の自律神経機能が保たれ、現時点では比較的元気であることを示唆する大切なサインだよ。
医学生医学生
では、子宮収縮に合わせて出ている徐脈は何でしょうか。遅発一過性徐脈だと危ないと習いましたが。
ドクタードクター
そこが一番のポイントだ。今回の徐脈は、心拍数が急に落ちて急に戻り、形も収縮ごとにまちまちになっている。低下の開始から最下点まで30秒未満と急峻なのが特徴で、これは変動一過性徐脈だ。遅発一過性徐脈は緩やかに下がり、最下点が収縮のピークより遅れる波形で、子宮胎盤循環不全を示唆する。見た目がかなり違うんだ。
医学生医学生
変動一過性徐脈の原因は臍帯圧迫でしたね。
ドクタードクター
そう。臍帯が圧迫されて一時的に血流が途絶・減少することで起こる。この症例には、羊水過少でクッションが少ないこと、臍帯の辺縁付着、臍帯頸部巻絡と、臍帯が圧迫されやすい条件がそろっている。だから臍帯血流障害が疑われる、というのが正しい判断になる。
医学生医学生
羊水が少ないから臍帯が挟まれやすくて、それがCTGに出ている、とつながるんですね。
ドクタードクター
その通り。超音波とCTGの所見が一つの病態で説明できているわけだ。ついでに一過性徐脈の4分類も整理しておこう。早発一過性徐脈は児頭圧迫による迷走神経反射で、最下点が収縮のピークと一致し、通常は問題にならない。遷延一過性徐脈は15bpm以上の低下が2分以上10分未満続くものだ。
医学生医学生
CBTの勉強では形の違いを丸暗記していましたが、原因とセットにすると覚えやすいです。
ドクタードクター
それがいちばん確実な覚え方だね。臨床では、変動一過性徐脈でも基線細変動が保たれていれば胎児はまだ代償できていることが多い。ただ、徐脈が深く長くなったり、細変動が減ってきたりしたら胎児の低酸素が進んでいるサインなので、体位変換などの対応や急速遂娩を含めた判断が必要になる。今回は早産でもあるから、小児科との連携も欠かせない。
医学生医学生
羊水過少そのものの原因も考えたほうがいいですか。
ドクタードクター
いい質問だ。羊水過少は、胎児側では腎無形成や尿路閉塞などの尿産生低下、胎児発育不全に伴う腎血流低下、母体・付属物側では前期破水、胎盤機能不全、過期妊娠などで起こる。今回は未破水で発育も正常だけれど、原因を考える習慣は持っておこう。

まとめ

羊水過少は羊水ポケット2cm未満またはAFI 5cm以下で診断し、羊水のクッションが減ることで臍帯圧迫が起こりやすくなります。CTGは基線(正常110〜160bpm)、基線細変動(正常6〜25bpm)、一過性変動の順に読み、急に下がって急に戻る不揃いな一過性徐脈は変動一過性徐脈で、臍帯圧迫による臍帯血流障害を示します。羊水過少のほか、臍帯巻絡や臍帯の辺縁付着・卵膜付着も臍帯圧迫の危険因子です。胎児推定体重は在胎週数の基準と比べて評価する必要があり、妊娠33週の平均は約2,000gです。超音波所見とCTG波形を一つの病態として結びつける力は、分娩管理で胎児の状態を正しく判断するための基本となります。

解答・解説

正解はa, dです

所見の整理

・35歳の初産婦、妊娠33週3日(早産期)。胎動減少と規則的な下腹部痛を訴えて受診した。 ・子宮口6cm開大、未破水で、陣痛発来と診断されている。すなわち早産の分娩が進行している状態である。 ・超音波検査:胎児推定体重1,988g、羊水ポケット(羊水腔の最大垂直深度)1cm、胎盤は前壁付着、臍帯は胎盤辺縁付着(辺縁付着)、臍帯頸部巻絡1回。

胎児心拍数陣痛図(CTG)の読み方

CTGは「基線」「基線細変動」「一過性変動(一過性頻脈・一過性徐脈)」の順に評価する。 ・基線:おおむね140〜150bpm程度で、正常範囲(110〜160bpm)に収まっている。 ・基線細変動:心拍数の細かな揺れが保たれており(6〜25bpmの中等度)、減少・消失はない。 ・一過性徐脈:心拍数が急激に低下し、急速に回復する波形が子宮収縮に伴って繰り返し出現している。低下の開始から最下点までが短く(30秒未満)、形も収縮ごとに一定しない。これは変動一過性徐脈の特徴である。

病態の推論

変動一過性徐脈は、臍帯が圧迫されて臍帯血流が一時的に途絶・減少することで起こる。本症例には、①羊水過少(羊水のクッションが少なく臍帯が圧迫されやすい)、②臍帯の辺縁付着、③臍帯頸部巻絡、という臍帯圧迫を起こしやすい条件が重なっており、CTG所見と矛盾しない。一方、胎児推定体重は妊娠33週として標準的で、胎児発育不全には当たらない。 設問では、超音波所見とCTG所見から確実にいえることを2つ選ぶ。羊水量の評価とCTG波形の判読がポイントになる。

選択肢考察

  1. ○a.  羊水過少症である。

    羊水過少は、超音波で羊水ポケット(最大垂直深度)が2cm未満、または羊水インデックス(AFI:子宮を4分割して測った最大垂直深度の合計)が5cm以下のときに診断する。本症例は羊水ポケット1cmであり、羊水過少症と判断できる。羊水が少ないと臍帯が子宮壁と胎児の間で圧迫されやすく、変動一過性徐脈の原因になる。

  2. ×b.  胎児頻脈を認める。

    胎児心拍数基線の正常範囲は110〜160bpmで、160bpmを超える状態が10分以上続く場合を頻脈とする。本症例のCTGでは基線はおおむね140〜150bpm程度で正常範囲にあり、頻脈ではない。なお胎児頻脈は母体発熱、絨毛膜羊膜炎、胎児低酸素の初期、母体への β刺激薬(リトドリン塩酸塩など)投与、胎児甲状腺機能亢進症などでみられる。

  3. ×c.  胎児発育不全である。

    胎児発育不全(FGR:fetal growth restriction)は、胎児推定体重が在胎週数の基準値に比べて −1.5SD以下の場合を目安に診断する。妊娠33週前後の胎児推定体重の平均はおよそ2,000gであり、1,988gはほぼ平均的な値である。したがって胎児発育不全とはいえない。

  4. ○d.  臍帯血流障害が疑われる。

    CTGでは子宮収縮に伴って急峻に低下し急速に回復する一過性徐脈が反復しており、変動一過性徐脈と判読できる。変動一過性徐脈の主な機序は臍帯圧迫による臍帯血流の障害である。本症例には羊水過少、臍帯辺縁付着、臍帯頸部巻絡という臍帯が圧迫されやすい要因がそろっており、臍帯血流障害が疑われる。

  5. ×e.  基線細変動は減少している。

    基線細変動の減少とは振幅が5bpm以下(肉眼で認められる範囲)、消失とは肉眼で認められない状態を指す。本症例のCTGでは基線に細かな揺れが十分に保たれており、正常(中等度:6〜25bpm)と判断される。基線細変動が保たれていることは、胎児の自律神経機能が保たれ、現時点では胎児の状態が比較的良好であることを示唆する。

CTGの正常所見(reassuring)

・基線:110〜160bpm ・基線細変動:6〜25bpm(中等度) ・一過性頻脈:あり ・一過性徐脈:なし

一過性徐脈の4分類

・早発一過性徐脈:子宮収縮とほぼ同時に緩やかに始まり(開始から最下点まで30秒以上)、最下点が収縮のピークと一致する。分娩進行に伴う児頭圧迫による迷走神経反射で、通常は問題とならない。 ・遅発一過性徐脈:緩やかに始まり、最下点が収縮のピークより遅れる。子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を示唆する。 ・変動一過性徐脈:急激に始まり(開始から最下点まで30秒未満)、15bpm以上の低下が15秒以上2分未満続く。形や出現時期が収縮ごとに一定しない。臍帯圧迫が原因。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の低下が2分以上10分未満続く。

臍帯圧迫を起こしやすい因子

羊水過少、臍帯巻絡、臍帯の付着異常(辺縁付着・卵膜付着)、臍帯下垂・脱出、破水後など。

羊水過少の主な原因

胎児側:腎無形成(Potter症候群)・尿路閉塞など尿産生の低下、胎児発育不全に伴う腎血流低下。母体・付属物側:前期破水、胎盤機能不全、過期妊娠。

POINT

・羊水過少:羊水ポケット<2cm または AFI≦5cm。 ・胎児心拍数基線の正常は110〜160bpm、基線細変動の正常は6〜25bpm。 ・急に下がって急に戻る、形が不揃いな一過性徐脈は変動一過性徐脈=臍帯圧迫。 ・羊水過少・臍帯巻絡・臍帯付着異常は臍帯圧迫の危険因子。 ・妊娠33週の胎児推定体重の平均は約2,000g。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。